カチャリ、と次第に重く感じる様になってきた杖を構え直す。
遺跡に突入してからここまで、どれだけの敵を倒したかしら?
アキラ達を先へと送り出してから、どれだけの敵をかき消したかしら?
倒しても倒しても沸いて出てくる亡霊達。
キリが無いのは当然。
倒した傍からまた召喚されているのだから。
けれど『向こう』にも余裕が無くなってきたのか、
亡霊達の姿形はかなりぼやけた物になってきている。
これは、輪郭の形成にまで力を割けなくなっている証拠。
そこから導き出される答えは、アキラ達が目的の場所まで辿り着いたという事。
遺跡そのものと戦っているという事に他ならない。
「―――大丈夫かしら?」
思わず口をついて出たセリフに、我が事ながら赤面してしまう。
今まさに苦戦しているのは自分達だというのに、自分達より強い者の心配など余計な御世話だ。
周りの奴らに聞かれていなければいいけど―――。
「大丈夫に決まっているじゃないですか。」
「あいつ等の力は、お前さんもよく識ってるだろう?」
「……三人ヲ、信ジロ。」
―――しっかりと聞かれていたみたいね。
それも三人全員に。
「分かってるわよ。
でも心配くらいしても良いじゃない。」
「はは、まさかお前さんの口からそんな台詞が出てくるとわな。」
「ヤッファ!!」
「そう怒るなよ。褒めてるんだぜ?」
「どこが褒めてるのよ!?」
言いながら手にしていた杖を不埒者目掛けてブンブンと振り回す。
……まぁ、ケダモノに当たる訳は無いんだけど。
けど一発くらいは!
そう思って振り回していた杖が、ぽんっと軽く止められてしまう。
止められた途端、ピクリとも動かなせなくなるなんて、相変わらず並はずれた技量ね。
「キュウマ。貴方、ヤッファの味方をするつもり?」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。アルディラ殿。
ヤッファ殿とて悪気があってやっているのではないでしょうし。」
どうかしら?
「……仲間ノ心配ヲスルノハ良イ事ダ。」
「そして人間を仲間だと思えるようになった事もね。」
……ファルゼン、キュウマ。
そうね。確かに変わったわね、私達。
ヤッファも、それを言いたかったのかしら?
ちらり、と視線を動かしてみる。
「―――おほん!
そ、それよりだな、俺達のするのは心配じゃないだろう?」
ふふ、照れるなんて珍しい。
その顔に免じて、今回の事は帳消しにしてあげるわ。
「あら、じゃあ私達は何をすれば良いの?」
「決まってる。」
ニヤリと笑って爪を構えたヤッファが向く先に、再び亡霊達が現れる。
「あの者達を倒し、アキラ殿達の退路を―――。」
「確保スル。」
キュウマが刀を構え、ファルゼンがその巨体で皆の前に立つ。
まったく……みんないつからこんな熱血になったのかしら?
でも、まぁ、偶には良いかしらね。
「行くわよ!」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
何なんだろうな?
この目の前に居る
アルディラ達に後を任せて先へと進んだ俺達の前に現れたのは、
手も足も無い土偶の成り損ないの様な、巨大な木偶。
そいつは自分の事を「島の意思」だ「狂ったエルゴ」だ何だと言い、
世界の為に人間を滅ぼす、己が世界を管理する、と宣言した。
……改めて、何なんだろうなコイツは?
あの形が癇に障る。
あのひび割れた声が癇に障る。
奴の名乗りが癇に障る。
奴の主張が癇に障る。
奴の何もかもが気ニ入ラナイ。
――そんなに気に入らないのならば考えるまでも無い
そうだ。考える必要など無い。
アイツを――
「アキラさん。」
「っ!!
……どうした、アティ。」
物騒な考えに浸りそうだった俺を、アティの声が引き戻す。
その蒼い瞳には静かな決意が光っていた。
「無茶なお願いがあるんです。」
「お願い?」
「はい。―――私をあの核識の奥に行かせてください。」
「分かった。」
「無謀だって分かってます。でも―――って、え?」
キョトンと可愛らしい表情を浮かべるアティに、つい笑い声が漏れる。
「くく、『分かった』って言ったんだけど、聞こえなかったのかな?」
「い、いえ!聞こえてました!
でも、てっきり反対されると……。」
しどろもどろに慌てるアティを見て、もう一度だけクスリと笑いアティの手を握る。
「ハイネルを助けに行きたいんだろう?」
「っ!?ど、どうして……?」
「俺だって一応魔剣持ちだし。
その辺の裏事情にはアティより詳しいかもよ?」
「……アキラさんには敵いませんね。」
苦笑の様な、でもどこか嬉しそうな表情でアティが溜息を吐く。
そして次の瞬間にはもう、アティは『戦う者』の表情で告げた。
「行ってきます!」
「ああ、行ってこい!」
背中を軽く押してアティを送り出す。
アティは脇目も振らず、振り返る事も無く、ただ真っ直ぐに前だけを見つめて駆けて行く。
当然向かってくるアティに対して攻撃が飛んでくるが、ミユと共に召喚術や居合いでかき消す。
それでもアティに届きそうな物は、アティがウィスタリアスを喚んで突破して行く。
その眩しい背中を見つめながら、俺は俺の中の闇に声をかける。
「よお、ヴィサイアス。
魔剣が在るのに『壊せ』って言わないのか?」
――ふん。
アレがシャルトスならば、そうしよう。
アレがキルスレスならば、そうしよう。
アレが封印の魔剣ならば、そうしよう。
恨み、辛み、憎み、復元も適わぬ程に粉々にし、完膚なきまでに破壊し、消し去ってやろう。
だが、アレはシャルトスではない。
キルスレスではない。
封印の魔剣ではない。
ならば、どうでもいい。
あれほど魔剣を、遺跡を、ヒトを憎み、世界を恨み、全てを壊そうとしているくせに、
アティの持つ魔剣を前にして、どうでもいい、と言い切る。
伝わってくる感覚は、無関心そのものだ。
あの灼熱の様な憎悪と、この絶対零度の無関心こそがコイツの狂気、なのか。
いや、今はそんな事は『どうでもいい』。
そう、今大事なのは目の前の木偶の坊をどうするか、だ。
過去の妄執。
俺の仲間を傷つける元凶。
未だに喚き散らしている目障りなコイツ――。
くく、くくく……。
いいね。
俄然楽しくなってきた。
今なら『お前』と気が合いそうだ。
だから―――
「―――来い、ヴィサイアス。
お前の望みを叶えよう。
俺の望みを叶えよう。
アイツを『―――壊す。』」
(-ω-)/ やあ!次回、最終回だよ!!