黒の魔剣   作:暁 煌

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錯綜する想い

 

 

 

 

 

初めて護人たちに会った夜。

アティたちは海賊船で夕食を食べながら、今日の出来事について談笑していた。

 

「しっかし、先生には驚かされてばっかりだな!」

 

酒を片手に豪快に笑っているのは、この船の船長、カイル。

 

「ホントだよね~。はぐれたちをあっと言う間におっ払ったり……」

「護人サンたちに話を付けてきたり、ね。」

 

カイルの後を砲手にして、ムードメイカーであるソノラが続け、

女言葉を使う派手な男、この船の相談役であるスカーレルが引き取る。

 

「そんな。私は大した事はしてませんよ。」

「そんな事はありませんよ。貴女がした事は、我々にはとても出来ない事です。

 感謝しています、アティさん。」

 

頬を赤らめ謙遜するアティに、柔らかな物腰の召喚士、ヤードが感謝の言葉を述べた。

しかし、皆が笑顔を浮かべ食事をしている中、一人だけ不機嫌そうにしている少年が居た。

 

いつも被っている緑の帽子を横に置き、彼は出された食事を黙々と食べていた。

元より海賊たちの会話になど一切加わる気はなかったが、

彼らと賑やかに談笑している己の家庭教師が気に食わなかった。

だから、いつも以上に眉をしかめ、心持ち速めに食事を口に運んでいた。

 

そんな彼の耳に飛び込んできた言葉が一つ。

 

 

『人に会った』

 

 

そこで彼は食事を口に運ぶ手を止めると、

少し会話に注意を向け、自分の家庭教師の話に耳を澄ませた。

 

「……で、アルディラさんに話をした後、その人に会ったんですよ。」

 

どうやら彼の家庭教師は機界の集落付近で人に出会ったらしい。

それだけ聞ければ十分だった。

 

彼は置いてあった帽子を被り、小さく「ごちそうさま」と呟いて部屋を出た。

中ではまだ、家庭教師と海賊たちが「その人はとても綺麗だった」とか

「年はいくつ位だった?」などと話をしていたが、彼にはそんな事はどうでもいい事だった。

 

肝心なのは、この島に他に人が居るという事だった。

もし、この島に人の町なり村があるのならば、彼はすぐにでもソコに行きたかった。

少なくとも、この船に居るよりはマシな筈だ。

 

自分たちの船を襲った海賊船などよりは。

 

どうやってその人の所まで行こうか考えながら、

彼は割り当てられた部屋まで歩き、扉を開け中に入る。

そのままベッドに倒れ込み、毛布をかき寄せると、彼のこの島でのたった一匹の友達、

眼鏡を掛けたメイトルパの召喚獣、テコがすり寄って来た。

彼はその小さな体を抱きしめると、か細い声で呟いた。

 

「どうして……どうして、あの人は海賊なんかを信用できるんだろう?」

「ミャー?」

「僕には解らない……解らないよっ。」

「ミャー……。」

 

そして彼は小さな友人を抱きしめるたまま、ゆっくりと眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

幾人かが紅き女性(ひと)に出会った翌日。

緑の少年が小さな友人を抱きしめ、眠りに就いた次の日の朝。

 

陽が高くなり始めた頃、機械たちの集落では目を覚ましたアキラがクノンを探し、

リペアセンター内を歩き廻っていた。

 

「……クノンさん、どこに居るんだろ?

 聞きたい事もあるし、何より腹が減ったんだけどな~。」

 

アキラはリィンバウムに喚ばれて以来、食事はいつも誰かの世話になっている。

簡単な物なら作れるのだが、何しろ起きていられる時間が短い。

今でこそ二時間程起きていられるようになったが、喚ばれた当初は30分も保たなかったのだ。

とても料理をしている余裕は無かった。

その結果、今ではすっかり人に頼りきりになっている。

 

「居ないな~。アルディラの所かな?」

 

リペアセンターを粗方探し終えたアキラは、クノンを探して中央管制施設へと足を向けた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

中央管制施設ではアルディラとクノンが夕べの事件について話しあっていた。

帝国軍が行った破壊活動、それによって出た被害、これからの対応。

そして、アティたちの行動。

 

「……では、あの方たちを新たな仲間としてお迎えになるのですか?」

「まだ、そう判断するのは早いわ。

 帝国軍とは通じていないようだけど、

 少し前から鬼妖界と幻獣界で出だした野盗との関係も分からないし……。」

 

帝国軍に向かって行ったアティたちの行動は、信ずるに足るものだとアルディラは感じたが、

それだけで全面的に信用できると判断する事はできない。

 

何よりアキラが喚ばれた少し後ぐらいから、

ユクレスと風雷の里で作物の盗難が発生しているのだ。

何も関係ないと分かるまでは、用心するに越した事はない。

そこまで話した時に、部屋の呼び出し音が鳴り響いた。

 

「はい?」

 

アルディラが通話ボタンを押し、返事をする。

返ってきたのはアキラの力の無い声だった。

 

「アルディラ~、クノンさんがどこに居るか知らない?」

「クノンならここに居るわよ?」

「ほんと!?やっと見つけた~。入ってもいいかな?」

「ええ、どうぞ。」

 

アルディラ返事と共に部屋のロックを外すと、

小さく空気の抜ける音がしてドアが開き、アキラがふらふらと中に入って来た。

 

「おはよ~、アルディラ。おはようございます、クノンさん。」

 

二人から同じように挨拶を返してもらったアキラは、

へなへなと力無くしゃがみ込むと、情けない声でクノンに泣きついた。

 

「クノンさ~ん、お腹が空いて死にそうです~。」

 

その姿は部屋に立ち込めていた重い空気を吹き飛ばし、

アルディラを苦笑させ、クノンにすら淡い笑みを浮かばせた。

 

「すぐに食事を用意いたします。アルディラ様は、如何いたしますか?」

「ああ、もうお昼なのね。じゃあ私も一緒に食べようかしら?」

 

言いつつアキラの方に問うように目を向けると、軽い承諾と共に笑顔が返ってくる。

そしてクノンを先頭に三人は場を食堂へと移した。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

食堂ではアキラがクノンに作ってもらった料理を頬張りながら、

昨日の夜起きた事件について聞いていた。

勿論、その過程でアティたち漂流者の事も聞いた。

 

アキラは話を全て聞き終えると同時に料理を平らげ、それからゆっくりと紅茶を飲み、

心底残念そうに呟いた。

 

「……なんだ、人間の集落がある訳じゃないのか。」

「……は?」

 

絶句。

 

正にアルディラは、この言葉の示すような状態に陥った。

何を言われたのか解らない、そんな状態で彼女が口に出来たのは先の一言だけだった。

その一言を問い直す物だと判断したアキラが、もう一度言い直そうとするが、

それより早くクノンの声が発せられた。

 

「この島には人間たちの集落に該当するモノは存在しません。」

 

律儀にアキラの呟きを肯定するクノンに、更なる脱力を感じつつアルディラは二人に突っ込んだ。

 

「そう言う問題じゃ無いでしょう!?どうして今の話を聞いてさっきの発言になるのよ!

 普通、敵の事とか対策とか考えるでしょう!?」

 

アキラを睨みながらここまで一息で言い切り、クノンに視線を移して更に言い募る。

 

「貴女もよ、クノン!アキラの非常識に一々付き合わなくていいの!」

 

言い切ってから肩を大きく上下させ息を整えるアルディラに、アキラが恐る恐る声をかける。

 

「あ~、アルディラ?いくら何でも“付き合わなくていい”てのは酷いんじゃ……。」

「だったら馬鹿な事を言うのを止めなさい!」

「……はい。」

 

問いかけに返ってきた再度の怒声に、アキラは小さく返事をすると体を縮こませ沈黙した。

そこにタイミング良く来客を知らせる呼び出し音が鳴り、クノンが応対に出たが、

すぐにアルディラに伺いを立てに戻ってきた。

 

「アルディラ様、アティ様がいらっしゃいました。」

「ああ、そう言えば集落を廻るって言っていたわね。

 ……いいわ、中に入れてあげて。」

 

来客についてアルディラは少し考える仕草をしたが、すぐに入室を許可すると伝える。

そして、小さく空気の抜ける音と共にドアが開き、

紅い髪を揺らしながら全ての鍵を握る人物が入って来た。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

昨日の彼女、アティが来たと聞いて、俺はドアの方をじっと見つめていた。

夕陽の中で見た彼女の紅が、まだ目に焼き付いてる。

もう一度見たいと思ったソレが今、ドアの向こうにある。

 

小さく空気の抜ける音と共にドアが開く。

 

昨日見た時と、まったく変わらない綺麗な紅が目に映る。

彼女はその紅い髪を揺らしながら、俺たちの方にゆっくりと歩いて来た。

そして軽く頭を下げ、笑顔で挨拶してくる。

 

「こんにちはアルディラさん。

 ……あれ?ひょっとしてお食事中でした?」

 

俺たちの前に食器が置いてあるのを見て、彼女は申し訳なさそうにする。

アルディラが軽く構わないと答えると、

彼女はもう一度頭を下げて俺とクノンさんの方に向き直る。

 

「そちらのお二人に挨拶するのは初めてですよね?

 初めまして、アティと言います。」

 

その時、初めてアティの顔をよく見たと思う。

昨日は遠目に見ただけだし、さっきまでは髪に目が行ってた。

 

近くで見る彼女は綺麗と言うより、可愛い人だった。

そんな事を考えながら、俺は椅子から立ち上がり挨拶を返した。

丁寧な挨拶には丁寧な挨拶を、だ。

 

余談だが最近は名字を名乗ってない。

こっちの世界では、家名を持っているのは貴族だけだと聞いたからだ。

俺は貴族なんて立派なものじゃないし、別に名字を名乗らなくても困る事も無かった。

 

お互い相手の名前が分かり、雑談でも始めようかという時、急に目の前が暗くなるのを感じた。

どうやら時間切れみたいだ。

 

もう少し話をしていたかったな、とか、またクノンさんに迷惑掛けちゃうな、

なんて考えつつ俺の意識は深い闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

私はドアを前にしてちょっと緊張していました。

ひょっとしたら昨日の人も、この向こうに居るかもしれません。

あの夕日に輝く銀髪の彼が。

 

小さく空気の抜ける音と共にドアが開きます。

 

心臓が飛び出るかと思いました。

ドアが開いた瞬間、私の目に飛び込んできたのは深くて蒼い二つの瞳。

昨日のあの人が、私をじっと見ていました。

 

緊張で手と足が同時に出そうになるのを何とか抑えながら、

出来るだけ自然に見えるようにゆっくり歩きました。

それからアルディラさんに挨拶して、机に食器があるのに気が付きました。

 

食事の邪魔をしてしまったのかもしれません。

 

ちょっと落ち込んで頭を下げると、アルディラさんが構わないと言ってくれました。

そこでやっとあの人の方に向き直りました。

 

綺麗な銀の髪と深い蒼の瞳。

 

間近で見ても綺麗な人でした。

何故かその蒼い瞳がじっと私を見つめていて、少し焦りながら挨拶をしました。

すると、彼は柔らかな笑顔で挨拶を返してくれたんです。

 

「初めまして、アティさん。

 私はアキラと言います。どうぞよろしく。」

 

……アキラ、さん。

やっと名前が判りました。

 

もっとアキラさんの事が知りたくて、何から聞こうか考えていると、

突然アキラさんが椅子から崩れ落ちるように倒れました。

 

「アキラさん!!!」

 

叫んで手を伸ばしましたが、私の手より早く、

側にいた女の子がアキラさんを床にぶつかる前に抱き止めました。

ほっとして側に近寄ると、女の子が話しかけてきました。

 

「ご心配いりません。お眠りになっただけです。」

 

いつも突然、気を失うように寝てしまうのだと聞かされ、

とりあえず安心した私は、彼女の名前を聞いていない事に気付きました。

 

「そうですか……えと、貴女は?」

「私は従軍看護用フラーゼン型式番号AMN-7H、クノンと申します。以後お見知りおきを。

 ……失礼します。」

 

そう言うと彼女、クノンさんはアキラさんを抱きかかえて部屋から出ていきました。

その時にちらりと見えた彼女の表情は、どこか嬉しそうでした。

 

クノンさんも、アキラさんが好きなのでしょうか……。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

「アルディラ様、アティ様がいらっしゃいました。」

 

戻ってきたクノンに伝えられた内容を少し考える。

 

さて、どうしようかしら?

 

あの女を部屋に入れずに追い返すか、それとも入れて何か手を打つか……。

中に入れてあの女をやっつければ、クノンの私に対する評価がUPするかしら?

そうなれば……うふふ。

 

「いいわ、入れてあげて。」

 

さて、どうやってやっつけようかしら……あら?まずいわね。

アキラがドアの方を熱心に見てる。

もしかしてアティに興味でもあるのかしら?

だとしたら入れたのは失敗ね……。

何とかしないと。

 

小さく空気の抜ける音と共にドアが開いてしまう。

 

来たわね……。

とりあえずは二人がいい雰囲気になったら邪魔をして、

私かクノンがアキラの恋人だと思わせるのがいいわね。

そんな事を考えながらアティに生返事を返していたら、

いつの間にか二人はにこにこ笑い合っていたわ。

 

まずいわ!このままじゃ私の可愛くて優しくて―――以下略―――クノンが!

 

そう思って二人の間に割り込もうとしたら、突然アキラが椅子から崩れ落ちてしまった。

そういえばアキラが起きてからそろそろ四時間ね。

 

とっさにアキラを抱きとめたクノンの健気さに感動しながら、

私は頭の隅でそんな事を考えていたわ。

その後クノンは正々堂々と名乗りを上げて宣戦布告したの。

 

「私は従軍看護用フラーゼン型式番号AMN-7H、クノンと申します。以後お見知りおきを。

 ……失礼します。」

 

立派よ、クノン!

 

それからクノンはアキラを抱いて二人の仲を見せつけたの。

アティは圧倒されたように呆然としていたわ。

 

ふふ、どうやらあの二人の間には入れないと気付いたようね。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

部屋の呼び出し音を聞いて応対に出てみると、そこには一人の人間がいました。

 

長く紅い髪。

 

昨日ラトリクスに侵入し、また護ってくれた人。

アティ様。

 

彼女にアルディラ様に会いたいと言われ、私は許可を頂きに戻りました。

アルディラ様は少しお考えになった後、許可をお出しになったので、

私はドアのロックを外してアティ様を迎え入れました。

 

小さく空気の抜ける音と共にドアが開きます。

 

ドアの向こうにいたアティ様は、何故か体を強ばらせ、驚いておられるようでした。

顔を赤くして何かを凝視していらっしゃったので確認してみると、そこにはアキラ様がいました。

 

……アキラ様も、アティ様を、見て、いました。

 

………………。

 

アティ様がこちらに近付き、軽く頭を下げアキラ様に挨拶をなさいました。

そしてアキラ様も。

 

本来なら私もアティ様にご挨拶をしなくてはならないのに、

微笑み合うお二人を見ていると何故か声をかけられなくて、ただじっとしていました。

 

そうするうちに、アキラ様に若干の体温上昇と呼吸数の低下を感知しました。

いつもの昏睡だと判断して側に寄った途端、アキラ様は椅子から崩れ落ちそうになり、

とっさに抱きとめました。

 

アキラ様が今、私の腕の中にいます。

 

私の、腕の、中に。

 

その後、アティ様に挨拶をしてアキラ様を部屋まで運びました。

アキラ様が初めて島に来た時のように……いつものように。

 

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!……やあ!

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