時刻は昼過ぎ、一日の内で最も気温が上がる時間。
今日も天気は快晴で、木陰で涼しい風を感じながら昼寝でもしたいぐらい。
そんな中、木漏れ日が踊る森の中を歩く一団がいた。
「ふーん、カイルたちも野盗を捕まえに行くんだ?」
「おうよ!同じ人間として、そんなみっともない真似は放っとけねぇからな!」
にこやかに話し合っているのは、出会ってすぐ意気投合したアキラとカイル。
ほんの数十分前、いつものように何事も無く目の覚めたアキラは、
偶然出掛けようとするアルディラを見つけたため話を聞くと、
昨夜、自分が倒れてからアティに頼んだ野盗退治に行くと知り、付いて来たのだ。
「お~、カイルってば、おっとこ前~。」
「ははははは!まあな!」
アキラはカイルが気に入ったらしく、先程から褒めちぎっていた。
しかし、そんな二人のやり取りが面白く無かったのか、
単に会話に加われなくて悔しかったのか、ソノラが頬を膨らませる。
「もう、アキラ!そんなに褒めたらダメだってば!
兄貴、調子に乗っちゃうじゃん!」
「え~?でもさ、こんな格好いい兄貴がいたら自慢だぜ?
ソノラだって、そう思うだろ?」
「そ、そんな訳ないじゃん!こんなバカ兄貴!」
「なんだと!?」
途端に喧しく口喧嘩を始めた兄妹から少し距離を置き、
アキラは微笑ましそうにその光景を眺めていた。
「仲が良いな~。」
「ふふ、よく解るわね?」
そんなアキラの独り言に突然話しかけてきたのは、
いつも掴み所のない笑みを浮かべているスカーレル。
音も無く近寄ってきたスカーレルに、アキラは大して驚くことも無く、朗らかに笑って返す。
「まあね、俺にも弟妹がいるから。」
そう言ってから、不意に目を逸らして悲しげな瞳をするアキラに、
スカーレルは優しく、静かに尋ねる。
「……家族に、会いたい?」
「―――会いたい。……会いたいなぁ。」
何処か遠くを見つめて呟くその声は、遥か昔を懐かしむようで、
年若いアキラには似つかわしく無かったが、何故かこの上も無く似合っているような気もして、
スカーレルは「そう。」とだけ呟きアキラの隣を歩き続けた。
そんな二人を見つめる一対の瞳。
紅い髪に、蒼い瞳。アティだ。
アティはアキラを見ていた。一つの疑問を持って。
「(どうして、アキラさんは私には敬語で、カイルさんたちには砕けた話し方なんでしょう?)」
道すがら、ずっとその考えに捕らわれていたアティが、
思い切ってアキラに尋ねようとしたその時。
「ソロソロダナ。」
ファルゼンのくぐもった声に出鼻を挫かれてしまう。
どうやら件の泥棒たちのアジトに着いてしまったらしく、
アティはアキラに話しかける機会を逃してしまう。
「おい、見ろ!?」
次いで、カイルが声を上げ、指差した先には一隻の難破船。
それは野盗が人間であるという事の確証で、アティが悲しげに顔を歪める。
しかし、その事に気付かなかったカイル一家が、難破船に翻っている旗を見て騒ぎ出す。
難破船のマストで風に揺られているのは、ヒゲのついたドクロが描かれてた旗。
それを見たアキラとアルディラの声が重なる。
「うっわ、カッコ悪~。」
「センスが無いわね。」
そして、アキラたちは浜辺でたむろして、好き勝手言っているジャキーニ一家を発見する。
アティは話し合いに来たのだと訴えるが、
全く聞く耳を持たないジャキーニの掛け声で戦闘が始まった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
今、俺の目の前にはナイフをちらつかせた海賊が一人いる。
まあ、仲間内で一番弱そうなのは俺だし?丸腰なのも俺だけだけど?
……何でこんな事になったんだろう?
アルディラに頼み込んで付いて来た時は、どうせ足手纏いにしかならないって解ってたから、
戦う事になったら後ろの方でじっとしてる手筈だったんだけど。
まさか後ろからも敵が来るなんて……。
ちらりと周りに視線を向けると、みんな忙しそうに立ち回ってる。
はあ……やっぱ俺がやるしかないのか。
喧嘩もまともにした事無いんだけどなぁ……。
周りから相手に視線を戻すと、やたらと余裕ぶったムカつく顔が目に入る。
にやついた顔のまま、そいつはナイフで突いて来る。
……あれ?何だかやけにゆっくりだな。
余裕でも見せてるのかな?
まあ、チャンスには違いないよな。
え~と、確か前、合気道やってる奴から聞いた技は……。
正面から斬りかかって来る相手は、体を相手の軸線からずらした後、
刃物を持ってる方の手首を掴んで、その勢いを殺さないように引っ張って足を払う、と。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
その場に居た全員が目を見開き、呆然としていた。
誰かが大きな声でアキラの名前を呼んだ。
みんながその声に不吉な物を感じ、目の前の敵を吹き飛ばしアキラの方へ目を向けた。
その時には既に手遅れだった。
海賊の一人がいつの間にか自分たちの背後に廻り、アキラに向かってナイフを突き出していた。
みんなの頭に戦闘前のアキラの声が蘇る。
「俺、戦闘力皆無だから後ろで見学してるよ。
みんな怪我しない程度に頑張れよ。」
そう言って楽しそうに笑っていた。
助けなければ、と思う。
しかし、その場所は遠すぎて、剣も拳もナイフも届かない。
召還術を詠唱する時間もない。
誰もが息を飲んだ瞬間。
アキラが水が流れるように、ゆらりと動く。
突きかかって来るナイフをかわし、海賊の手首を取り、足を払う。
たったそれだけで海賊は投げ飛ばされ、投げられた先にあった岩にぶつかり、
気を失ってしまった。
仲間も海賊たちも呆然とアキラを見ていた。
戦闘に関しては全くの素人のアキラが、雑魚とはいえ戦い慣れた海賊を投げ飛ばす。
その事実が理解できず、ただアキラを凝視していた。
一方、その場に居る全員に凝視されているアキラは、少し居心地が悪そうに体を動かした後、
頭を掻いて戸惑う様に謝った。
「えっと……ごめんなさい?」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
うっわ、結構飛んでったな~。
しかも岩にぶつかったし。
……生きてる、よな?
念のため確かめとこう。
……あっ、生きてる生きてる。
よかった~、こんなんで殺人犯になりたくないしな。
ん?何かみんなコッチ見てるな。
……もしかして、こいつ投げ飛ばしちゃ駄目だった……とか?
と、とりあえず謝っておいた方がいいかな?
ごめんなさい。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
何故か疑問形で謝るアイツの声で、俺たちはようやく動き出した。
残ってた雑魚を俺たち近接戦闘組が倒し、ジャキーニの野郎は先生たちが召還術でぶっ飛ばした。
野郎は何だか叫んでたが、やっと一段落つけた俺たちはアイツの周りに集まった。
「おいおい、スゲェじゃねぇか!」
「ホント、凄いよ!」
「人は見かけに因らないってホントね~。」
「スカーレル、それは褒め言葉になっていませんよ。」
俺とソノラ、スカーレル、ヤードが褒めてやると、アイツは間抜け面して言いやがった。
「あれ?みんな、俺がアイツ投げ飛ばしたのを怒ってんじゃないの?」
「はあ~?何で俺たちがお前を怒るんだよ?」
「いや、だってみんなコッチ見てたし……。」
何だか悪戯の見つかったガキみてぇにそわそわしてるアイツを見て、
俺たちは顔を見合わせ深くため息を吐いた後、苦笑を浮かべて誤解を解いてやった。
「俺たちがお前を見てたのは、
戦えないっつってたくせに、あっさり敵をやっつけたからだよ。」
「そーそー、敵なんだからやっつけてイイに決まってるじゃん!」
アイツはやっと納得いったのか、そわそわしなくなったが、
今度は顔を赤くして照れ始めやがった。
見てて飽きない奴だぜ、まったく。
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危なかったわ……。
もしアキラに怪我でもされたらクノンに叱られるじゃない!
その他大勢と一緒にアキラに駆け寄った私は、
そう文句を言いたいのを我慢して、アキラを上から下まで見回してみる。
ふぅ、どうやら掠り傷一つ無いようね。
……それにしても、どういう事かしら?
アキラは戦闘経験は無いと言った筈なのに、今の動きはどう見ても素人の動きじゃないわ。
……ひょっとしたら、例の昏睡と何か関係があるのかしら?
確かめる必要があるわね。
「アキラ、ちょっといいかしら?」
「ん、アルディラ?何?」
話しかけると、笑顔を浮かべながら問い返してきたアキラに、先程の事を尋ねてみる。
「貴方、戦えないと言わなかったかしら?」
「言ったけど?」
さらっと答えるって事は、隠し事をしている訳じゃなさそうね。
「じゃあ、何故あの海賊を投げ飛ばせたの?」
「ん~、何故って言われても……。
投げ方は昔、友達に聞いた事があったからで、後はあの海賊が油断してたから、かな?」
辻褄は合ってるわね。
でも、あの動きは絶対に素人には無理。
更にアキラは嘘を吐いてないとなると、やっぱり例の昏睡かしら?
……帰って調べるしかないわね。
「アキラ、調べたい事が出来たからラトリクスまで戻りま……アキラ!」
言葉の途中で、アキラが糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
しまった!もう時間なの!?
とっさに手を伸ばしてアキラの体を掴んだけど、今考えると馬鹿な事をしたわ。
私の力で男の体重を支えられる筈ないもの。
だからアキラと一緒に倒れる事を覚悟して、衝撃に備えたんだけど……。
いつまで経ってもそんな物は来なかったわ。
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は~、何とか間に合いました。
ずっと声をかけるタイミングが掴めなくて、アキラさんの周りをうろうろしてましたけど、
そのおかげでアキラさんが倒れるのを防げました。
アルディラさんと一緒に、ですけど。
男の人ってこんなに重たいんだな~、なんて考えてると、
カイルさんがアキラさんを背負ってくれました。
そのままラトリクスまで送ると言うカイルさんに、アルディラさんはお礼を言った後、
どこか照れたように私の方を見て言いました。
「……ありがとう。その、助かったわ。」
「いえ、アキラさんもアルディラさんも無事で良かったです。」
そう言って笑いかけると、アルディラさんは何だか驚いた表情をした後、
まるで何かを懐かしむように微笑みました。
「アルディラ。私の事はアルディラでいいわ、“アティ”。」
「……っ! ありがとう、アルディラ。」
そうしてアルディラは綺麗な笑顔を残して、
アキラさんを背負ったカイルさんと帰って行きました。
何だか島の一員として認められたみたいです。
これからは、もっと島の人たちと仲良くなれるでしょうか?
(-ω-)/ やあ!まだまだ続くよ!