黒の魔剣   作:暁 煌

7 / 45
夜会話~アティ~

 

 

 

 

 

空には円い月が昇り、浜辺には波の打ち寄せる音だけが聞こえる。

 

その静かな空間に、一つの白い人影が在った。

 

彼女は特に何かをする訳でも無く、ただ砂浜に腰を降ろし、

月の光で朧気に見える水平線を眺めていた。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

目が覚めた。

時計を見るとまだ真夜中だったが、これはそう珍しい事じゃない。

俺の起きていられる時間はとても不定期で、昼だけじゃなく早朝や深夜の時もある。

今みたいに夜の場合は、狭間の領域に遊びに行くのがいつものパターンだ。

 

……でも、何か変だ。

 

いつもみたいに、ぐっすり寝たって感じがしない。

まるでさっき目を閉じたばかりみたいだ。

 

確認のために枕元の時計付きカレンダー(クノンさんお手製)を見ると、

昼間起きた日から次の日に変わろうとする時間だと判った。

一日の内に二回も目が覚めるなんて初めての事だ。

 

……ま、いっか。今日は月でも見に行こう。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

静かな月の光の下、物も言わず浜に座り、波の音を聞きながら、ただ遠くを見つめる白い人影。

いつからそうしているのか、いつまでそうしているのか、白い人影は動かない。

しかしその静寂は、森から現れた黒い人影が現れた事で破られた。

 

「……アティ?」

「!!?」

 

驚き振り返る白い人影、アティは、森と浜との境目に黒い人影、アキラを見つける。

声をかけてきたのがアキラだと知り、アティは強ばった体から力を抜き、

いつものように笑顔を浮かべ、尋ねる。

 

「どうしたんですか、こんな時間に?」

「目が覚めてしまったので、お月見でもしようかと。

 そう言うアティさんはどうして?」

 

ゆっくりと近付きながら答え、問い返すアキラ。

アティは少し戸惑うように視線を逸らした後、力の無い笑みで答えた。

 

「私……も、月を見に来たんです。」

「……そうですか。隣、宜しいですか?」

 

アキラはアティの態度については触れず、隣に座っても良いかだけを聞いた。

その対応にアティは更に戸惑いを深くしながらも、首を小さく縦に振った。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

あれからアキラさんは砂浜に転がって、ずっと月を眺めてます。

 

……どうして、何も聞いてこないんでしょう?

自分でもさっきの態度は変だと思うのに……。

私の事なんかどうでもいいと、思われてるんでしょうか?

 

何だか落ち込みだした私の耳に、アキラさんの静かな声が聞こえてきました。

 

「ここの……リィンバウムの月は、随分大きいですね。」

「そうですか?」

 

やっと話しかけてくれた事にほっとしながら、

そっとアキラさんの表情を窺って問い返してみました。

 

「ええ、月明かりが眩しい位です。

 私の世界の月はもっと小さくて、こんなに明るくはなかったんですよ。」

「そうなんですか……。」

 

何だかこうして世間話をしていると、昼間の事が思い起こされます。

今なら……聞けるかもしれません。

 

「あ・あの!アキラさんはどうして私に敬語を使うんですか!?」

 

アキラさんは驚いた顔をした後、体を起こして私に向き直り、にっこり笑って言いました。

 

「アティさんが私に敬語を使うからですよ。」

「え?……私、ですか??」

 

私が訳が解らず首を捻っていると、アキラさんは楽しそうに続けてくれました。

 

「あはは、まあ単なる私の主義ですよ。

 礼儀には礼儀を返し、恩には恩で報いる、と決めているんです。」

「そうなんですか。……立派ですね。」

 

アキラさんは軽く言ってましたけど、

何だかその決意はとても強いように感じて、私の決意なんか霞んでしまいそうです。

 

そこで会話が途切れたまま、しばらく時間が流れました。

何だか間が保たなくて、不意にアキラさんの様子を窺うと、

何故かその蒼い瞳に悲しい光が灯っていました。

 

「どうしたんですか?」

「……あ~、実はですね、両親の事を思いだしてたんです。」

 

アキラさんは、どこかバツが悪そうに頭を掻きながら教えてくれました。

 

「さっき言った私の主義なんですが、元々は両親から教わったんですよ。」

 

どこかアキラさんが嬉しそうな、楽しそうな様子だったので、

ご両親を誇りに思っている事が伝わって来ました。

 

「良いご両親ですね。」

「……ええ。」

 

思わず見惚れてしまいました。

 

月の光に輝く銀糸の髪、優しく暖かな蒼い瞳。

どこか照れたように微笑むアキラさんは、女の私から見ても、とても綺麗でした。

 

そのまま、ぼ~っとしていると、「アティさん?」と声をかけられました。

慌てて「何でもありません。」と答えると同時に、一つの疑問が沸き上がります。

 

最初にここに来た時は、呼び捨て……でしたよね?

 

「アキラさん、私の事は呼び捨てで構いませんよ?」

 

私がそう言うと、アキラさんはとても楽しそうに、にやりと笑って言いました。

 

「私の事も、呼び捨てで構いませんよ?」

 

こ、これはカイルさんの時と同じ状況です!

ひょっとしてカイルさんに聞いたんでしょうか?

……今度は舌を噛まないようにしないと。

 

「ア・ア・ア・アキアキキキキキラキラ ……ひだっ!」

 

うぅ、またやっちゃいました。どうして私ってこうなんでしょう。

私が恥ずかしくて俯いていると、アキラさんが突然笑い始めました。

 

「ぶっ!くくく、あっははは!

 アティってば、ホントに男の名前は言えないんだ?」

 

ううぅ、酷いです。

確かに格好悪かったですけど、そんなに笑う事ないのに。

 

「……あれ?今、私の名前。」

「うん、アティって呼んだよ。

 アティの俺と気軽に付き合いたいって気持ちは伝わったから。」

 

そう言って見せてくれた笑顔は、今までの中で一番近くに感じられて、心臓が大きく跳ねました。

突然早くなった鼓動を何とか押さえようとしていると、

不意にアキラさんが笑顔を消して、瞳に真摯な光を宿して話しかけてきました。

 

「だから、さ……アティが何か悩んでる時は、いつでも相談に乗るよ?」

「アキラさん……。」

 

気にしてくれてた……私の事を気にかけてくれてた。

 

さっきまでの事が嘘のように、胸は静まりました。

でも、今度は……涙が、出そうです。

 

涙を堪えて膝を強く抱いていると、アキラさんが背中を優しく叩いて言ってくれました。

 

「俺じゃ、愚痴を聞いてあげる位しか出来ないかもしれないけど、

 それで良ければいつでも聞いてあげるから……。

 だから、一人で抱え込まずに話してよ。

 アティは一人じゃないんだ。少なくとも、俺がいるよ。」

「……はい。」

 

私が震える声で小さく返事を返すと、アキラさんは再び笑顔を浮かべ、

私の背中を一叩きして静かに立ち上がり、森の中に戻って行きました。

 

私も船に戻る事にします。

……今夜は良く眠れそうです。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

後日、アティからこの話しを聞いたマルルゥが島中に言い触らし、

アキラは青空相談室を開く羽目になったとか。

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

 

 

 






(-ω-)/ やあ!短いね!そうだね!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。