「母上ー!はーはーうーえー!?」
今日も今日とて、鬼姫の御殿に元気な子供の声が木霊する。
「何じゃ、スバル?騒々しい。」
我が子の声に、未だ若く美しい母が表に出てくる。
すると、そこには全身ずぶ濡れの子供二人と、青年が一人。
「はは、こんにちはミスミ。」
ずぶ濡れのまま青年の挨拶は、何処か間が抜けていた。
この島ではミスミを呼び捨てにする者は少なく、
当然キュウマとしては、新参者のアキラがミスミを呼び捨てるのを快く思っていないが、
ミスミの一声により不問とされている。
青年の間の抜けた様子に呆れ、しかしどこか喜びの色を混ぜてミスミが問いかける。
「アキラ!?お主までどうしたのじゃ?」
「あ~、それが……。」
「アキラってば蓮渡りの途中で寝ちゃったんだぜ!?」
アキラの言葉を途中で遮り、スバルがどこか楽しそうにミスミに伝える。
ミスミが目でアキラに問いかけると、「あは、あははは。」とバツの悪そうな笑いが返ってきた。
「そのままアキラが沈んでっちゃうから、オイラとパナシェで助けてやったんだ。なー?」
「う、うん。」
スバルの同意を求める声に、パナシェと呼ばれた犬の亜人がどこか脅えたように肯定する。
「それは難儀じゃったな。
何はともあれ、そのままでは風邪を引いてしまうぞ、お主たち。
まずは風呂に入って来るが良い。」
いつも泥だらけで帰って来るスバルの為に、鬼姫の御殿では早くから風呂の用意がされている。
ミスミに軽く背を押され、三人は風呂場へと向かう。
アキラはスバルに手を引かれ、「早く早く!」と急かされながら、
それを「はいはい。」と軽く流す。
逆の手でパナシェの手を引くアキラには、既に何度も寝泊まりさせて貰ったからか、
特に遠慮した雰囲気は無い。
その様子にミスミは満足そうに微笑むと、
女中に着替えと食事の用意をするように伝えに向かった。
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脱衣所
「パナシェは風呂に入っても平気なのか?」
「うん、大丈夫だよ。お湯から出る時は体が重いけど。」
「(やっぱりただの犬とは違うんだな~。)」
風呂場
「やったー!一番乗りー!」
「こら、スバル!飛び込むんじゃない!それと、体を流してから入れ!」
「ちぇーー。」
「二人とも、ちゃんと肩まで湯に浸かるんだぞ。」
「「はーい。」」
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三人が風呂で騒いでいる間に、居間では幾分か早い夕餉の支度が進められた。
そして準備が整ってすぐ、スバルが二人を引き連れ駆け込んで来た。
「母上、お腹空いた!」
スバルとパナシェは作務衣(さむえ)に良く似た寝間着、アキラは紺色の着物だ。
「これ、慌てるでない!夕餉の支度ならば出来ておる。」
ミスミは慌ただしく座に着くスバルを諫めると、アキラの方に視線を移し、
感心したように見つめる。
「それにしても、お主は着物がよう似合うておるな。」
「ま~、こんな髪と瞳になってるけど、俺は日本人だからね。」
アキラの照れを含んだ返答に、ミスミは「そうであったな。」と頷く。
そこへスバルの食事を催促する声が入り、四人での夕餉が始まった。
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辺りが夕日で赤く染まる頃には四人の夕餉も終わり、パナシェは親の待つ家へと帰って行った。
そしてパナシェの居なくなった鬼姫の御殿では、
夕日の降り注ぐ縁側で三人の影が重なりあっている。
夕餉の直後あたりから眠気を訴えていたアキラが縁側で眠ってしまい、
「そのままでは痛かろう」と、その頭をミスミが自分の膝に乗せてやったところ、
それを見たスバルが自分も混ざると言ってアキラの上に乗った為だ。
スバルはアキラに乗ったまま、楽しそうにその日有った事を母に話していたが、
そのうちに眠ってしまったらしい。
我が子の安らかな寝顔を見、母は呟きを漏らす。
「やはり、子供には父親が必要なのじゃな。」
そして視線を自分の膝の上で眠る青年に移し、額に掛かる銀の髪を分けてやりながら語りかける。
「お主はどう思う、アキラ?」
当然、眠っている青年から返事は無かったが、母はその場に流れる穏やかな空気に頬を緩めた。
(-ω-)/ やあ!閑話とは短いものなんだね!