戦場のヴァルキュリア ✖️ おひげのホワイトドール ロランとガリアと月の蝶のおとぎ話 作:溶けない氷
「アリシアお嬢さん、オーブンの修理終わりましたよ。」
「あら、ロラン。さすがに早いわね、丁度お茶も入ったところだから休んでいったら?」
「それじゃ、お言葉に甘えさせていただいきます。」
「ロランさん、これ今度私の設計した飛行機械の図面なんですけど見てくれませんか?」
「いいですよ、イサラお嬢さん。へぇ、初めての飛行機にしてはよくできてますよ。
ここの翼端角を変えてみれば・・・」
アリシアのパン屋、まるで昔からの馴染みのようなアリシア・イサラ・ロラン。
時系列は1ヶ月程度遡る・・・・
かの女王が長い旅路を終え、地球で永遠の眠りに就いた頃・・・
今や一人となったロランは思い出すように忘れがたい相棒、
ホワイトドールのマニュアルを
取り出して見ていた。
何となく今までの不思議な旅路を振り返ってみたくなったのだ。
「本当に信じられないようなことばっかだったよなぁ。」
「ターンエーでも新しい時代を拓ける、か。」
納得したようにサイドクローゼットへマニュアルをしまい込み床に就く。
「おやすみなさい、ディアナ様・・・・」
ロランは気づいていなかった。
クローゼットの中のマニュアルの表面に突然表示された文字列に・・
[ALARM ALARM EMERGENCY SITUATION]
[EMERGENCY TRANSFERING MAIN PILOT]
突然、ベッドの中のロランを緑色の蛍火のような光が包み・・・
なぜ、人間のロランからサイコフレームの光があふれ出したのか?
ターンシリーズのパイロットは本人も気づかないうちに
ナノマシンで強化人間にでもされてたんじゃないんだろうか?
光が消えたときにはロランも消えていた。
そうやってロランは・・・アメリア大陸より消えた・・・
かなり強引な呼び出しだが、黒歴史時代のパイロットの労働環境は
休暇中でも突然前触れもなく戦場に放り込まれる程酷かったのかと心配になる呼び出し方だ。
「う・・・・」
ロランがまるで二日酔いの後のような気分で目を覚ますと、
自分がホワイトドールのコックピットに座っていることに気づいて仰天する
「えぇぇぇぇ!」
ほっぺをつねってみるが・・・・
「夢じゃないんだ・・・・それにしてもここは」
それにしてもこの主人公、反応がべたである。
周りを見渡してみても真っ暗で何も見えないと思うと
ホワイトドールの暗視装置が作動する。
「ここは?ヴィシニティの地下?でもちょっと違う?」
周りには恐らく黒歴史時代の武器が並べられ、
ホワイトドールは丁度格納庫のような場所に立っている・・・
格納庫のようなという表現を使うには理由がある。
数千年、あるいは数万年もの時を経たDOCベースはとうの昔にエネルギー供給がつき
モスボールに必要なナノマシンを保持できなかったのであろう。
施設のほとんどは土に埋もれ天井からは鍾乳管が垂れ下がり武器はことごとく
武器の形を辛うじて保つだけの埃の塊となっている。
「一体なんでこんなとこに・・・とにかく出よう。」
ロランは機体を出口を探す、
こういうときにはホワイトドールの高性能な光増幅装置が役に立つ。
たちまちのうちに外から漏れ出てくるかすかな光を検出し、
そこがDOCベースの出口・・・今はもうほとんど土に覆われた洞窟の入り口といったほうが良いだろうが
・・・を見つけ出す。
「よかった、完全に土の中ってわけじゃないんだな・・・ん?これは・・・」
センサーが格納庫の前、MSデッキの配置が黒歴史時代も
UCと基本的に変わらないと仮定すると
整備用端末の位置にあるトランクケース程の大きさの『ある物体』を検出する・・・
「なんだろう・・・蛍みたいな光りかたをするなんて。コンピューター・・・にしては」
ロランがそう呟くとホワイトドールはオートでその『金属塊』を手に取り、胸の中に収容した。
「えぇぇ!な、なにをしてんだよホワイトドール!拾ったものを簡単にポケットに入れるなよ!」
ところでロラン、金属塊どころか核弾頭を収納してた君はあんまり人のことを言えないぞ。
ロランが知るはずもない・・その金属塊が遥か昔、
魂を表現する金属サイコフレームと呼ばれていたことなど・・・
キロ単価が一時は黄金の20倍にも達した恐ろしく貴重な品だということも。
「とにかくまずは早くここから出ないと。ここ、なんだか息苦しいや。」
ロラン、そういう台詞はなぜかわからないが不吉だからやめようね。
・・・・・・・
その後、DOCベース(の残骸)から土を掘り進んで無理やり出たロランは辺りを見渡して困惑する。
「ここ・・・どこだろう。」
森の中・・・人の気配もない・・初めての土地は人里遠い・・これがムーンレィスの宿命か。
「時間もわかんないし・・・とりあえず近くの人里まで行ってみるか。」
不安にかられながらもロランはどこかまるで初めて地球に降り立った時
人里を探して自分の足で緑なす地球の大地を歩き始めた時のことを思い出してワクワクしていた。
・・・・まぁその後は狼に襲われたり御曹司に見初められたり、
川で溺れたりでもキエルお嬢さんとソシエお嬢さんの御神体を拝ませてもらう
ラッキーすけべっぷりを発揮したわけだから、
この胸の高まりもあながち間違ってもいない。
そしてロランは歩き出した、ホワイトドールの足で
モビルスーツなんてもう珍しくない、そういう判断からくる横着ぶりである。
まぁ実際、着替えなし・道具無しのこの状態ではホワイトドールを使うしかないんだが。
・・・・・
「はぁ・・・」
道の端で立ち往生するトラックを前にして油まみれ泥まみれの少女、
イサラ・ギュンターは盛大に溜息をつく。
トラックは致命的な故障でもしたのかピクリともしない。
「クランクシャフトが折れるなんて・・・」
そればっかりはいくら優秀な整備士でもパーツがないことにはどうしようもない・・・
が、最近は帝国と連邦の東西緊張の影響か質のいい自動車部品は市場から消えつつある
少女は大きな町からブルールに必要な様々な機械部品を調達して戻ってくるところだったのだが
この通り人里離れた田舎道で立ち往生してしまったのだ。
「やっぱり・・歩いて助けを呼びに行くしかないのかなぁ・・」
助けを呼びたくない理由は彼女の髪と瞳の色・・・ヨーロッパの被差別民族ダルクスだということにある。
都会や連邦に近い街ならいざ知らずガリアでは差別がいまだに根強い。
助けを呼びに行っても無視されるならまだ良し、悪ければ石もて追い返されることすらよくある
決心がつかず道端の岩の上にぽつんと小動物のように座っている彼女の元に
まるで神話を再現でもしようという神の計らいか・・・大地を響かせる足音をたてて
なんだろうかとキョロキョロと周りを
首をハムスターでも連想させるようにせわしくふっている彼女の元へ
ホワイトドールが現れたのは
「あのーお手伝いしましょうか」
神話の再現にしてはやたら腰の低い話し方だが。
僕は思っていた
イサラお嬢さんとの生活がこれからも平穏に続いていくと
でも僕たちに全く無関係なところで戦争はどんどんひろがって
やがて僕たちのところにも身勝手にやってきた
次回 おひげと戦争
むせかえる炎の風が吹いた