温厚な龍が異世界からやって来るそうですよ?   作:イェス

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プロローグ

常春。

草原にはありとあらゆる草花が生息しており、ほんわかな雰囲気が辺りを覆っていた。

小鳥は無事、水辺で水浴びをし蛇は気持ち良さそうに休んでいた。

 

「ほうじょうさま!」

 

“龍神”氷草(ひそう)は少女の声に反応して後ろを振り返った。

 

「ん?どうしたの?」

 

ほうじょうさま、北条氏ではなく“豊穣”に関してのことだ。

彼は本来、調和を得意としているが、趣味の家庭菜園から豊穣様といわれるようになってしまった。

彼は彼の知る限りの龍のなかでも(龍的に)博愛者で、血気盛んなきょうだいとうってかわって温厚だ。

その姿は龍といっても人型をとっていて、いわゆる化身というものだ。

 

そんな彼は当然、小動物に好かれた。

少女はシマリスの霊で、名前をマルクという。

マルクは彼に一枚の封書を差し出した。

 

「ほうじょうさま宛です。」

「あ。ありがとうマルクちゃん。」

「へへ、どういたいまして。」

 

マルクが歩いていったあとで彼が封書を開けようとしたとき、遠くから1羽の兎が跳ねてきた。

二メートルほどあるのでかなり迫力がある。

 

「お待ちくださーい。」

 

月亭という玉兎で、今年で500才を迎えた兎だ。彼の弟に隷属していて、かつて玉兎を従えていたボスだ。今は隷属を機に引退して相談役になった。

 

「月亭さん?どうかなさいましたか?」

「いやいや、あなた様に付き添えとの命が下りましてね。それより、お手紙の方はどうです?」

 

封書を切り、目だけを動かして彼は、文章を読んだ。

月亭は立ち上がり、前足を肩にのせて手紙を覗き込んだ。

 

「悩み多し異才を、持つ少年少女に告げる。

その才能(ギフト )を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの“箱庭”に来られたし。

なにこれ?

ッ!?」

 

彼の視界が真っ青になる。

地面が急になくなり、身が落下していく。およそ4000メートル程の高さだ。

落下に伴う圧力は感じないが、彼の周りの三人の人間は

もがき苦しんでいた。

 

「「「ど……何処だここ!?」」」

 

目の前には広大な世界が広がっていた。

世界の果てを思わせる断崖絶壁に、巨大な天幕に覆われた未知の都市。

そこは完全無欠に異世界だった。

 

 

 

・・

 

『ぎにゃあああああああ!!お、お嬢おおおおあお‼』

 

三毛猫の叫び声を耳にして、氷草がはっとし、彼ら三人よりしたにいくため急降下する。

元が龍なので空を飛べるが、彼らはそうでない。

少女二人を片腕でそれぞれの支えて頭に三毛猫を着地させる。

 

「月亭!」

「わかりました!」

 

月亭は月の兎だ。

空を跳び跳ねることをできるので、跳び跳ねてふわふわな毛で少年を受け止める。

ゆっくりと降下して少女二人を下ろしたところで、月亭が降り立った。

 

「ありがとう。それにしても信じられないわよね!」

「そうだね。行きなり投げ出すなんて。」

「ありがとう。」

「いや、大したことはないから。」

 

そこに少年が月亭に乗ったままやってくる。

この場合、月亭が少年を乗せたままやってくる。方が正しいだろう。

 

「これ、お前のか?」

 

これ、そういって月亭をポンポンと叩く。

 

「いや、弟のだよ。」

 

少年が月亭から降りて手を差し出す。

握手。

それをみた氷草は手を握った。

 

「俺は、逆廻十六夜。」

「僕は、竜使氷草だ。君たちは?」

 

三毛猫が氷草の頭からタンクトップの少女に飛び乗る。

タンクトップの少女が口を開いた。

 

「春日部耀。」

 

そのとなりの長髪の少女が続く。

 

「久遠飛鳥よ。その兎はつき―?」

「月亭にございます。氷草様についていけとの命を受け、同行いたしました。」

 

もそもそと草を食べながらそう自己紹介をする。

そこて、氷草はあることに気がついた。

 

「月亭、あいつは知ってたのか?」

「おそらく。」

「もぅ、どうしてこんなこと。」

 

大きなため息をついて氷草は月亭によりかかった。

隣に居た十六夜が苛立ち始める。

 

「で、呼び出した張本人は何で出てこないんだ?」

「そうよ。なんの説明もないままでは動きようがないじゃない。」

「この状態で落ち着きすぎてるのもどうかと思うけど。」

「あの子が居ないなら意味がわからないじゃないか。」

 

そんな四人にたいして月亭はモソモソとしながらある提案をした。

 

「ならば、そこに隠れている曲者に尋ねてみてはどうです?皆様、もうお気づきでしょうに。」

 

氷草以外の視線が茂みに向けられる。

 

「や、やだなぁ。皆様方。そんな狼みたいな怖い顔しないでくださいよ。古来より孤独と狼は兎の天敵。脆弱な心臓に免じて穏便に。」

「氷草様、兎は基本単独行動です。古来というのは嘘にございますよ。それに人型をとれるものや、私のようなものの精神は人間同様の強度を持ちます故。」

 

「あっは、駄目ですか。」

 

降参のポーズをとるうさみみ人間。

それでもその瞳で四人を値踏みしていた。

 

「要件を話してくれるかい?」

「よ、要件でございますね!」

 

一つ咳払いをして、両手を広げる。

 

「それでは皆様方。わたくしの名前は黒ウサギと申します。

ようこそ皆様、箱庭の世界へ!我々は皆様方のギフトを与えられた者達だけが参加できる【ギフトゲーム】への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召喚いたしました!」

「ギフトゲーム?」

「ええ!特殊な能力を用いて競い合うためのゲームでございます。その特殊な能力をここでは、ギフトといいます。」

 

そこで質問をするために飛鳥が手を挙げた。

 

「我々って?」

「コミュニティにございます。ギフト所持者は生活をするにあたって数多のコミュニティに属さなければなりません。」

 

それからギフトゲームのなんたるかや、を説明され、十六夜が『この世界は面白いか?』と質問をした。

氷草は耀と飛鳥を見習い無言で答えを待つ。

全てを捨ててまで来たこの世界で、それに見合う物かを見極めるようだ。

 

(あの子が月亭を同伴させたのには、なにか意味があるんだろう。三人か望めばもとの世界に返してあげよう。僕は意味を探さないと。)

 

龍神にとって異世界から異世界に渡ることは雑作もないことだ。温厚な性格な彼は無償でそれをしようと思っていた。

 

「YES。“ギフトゲーム”は人を越えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと黒ウサギは保証致します♪」

 

それを聞いた三人の顔が満足したようになったのを見て、氷草は微笑んだ。

 

・・

――箱庭2105380外門、ペリドット通り・噴水前。

 

「ジンぼっちゃーん新しい方を連れてきましたよ!」

 

人と呼ばれた少年が、ダボダボローブのはねっ毛少年がパッと顔を上げた。

 

「お帰り、そちらの女性二人と大きな兎?」

「はいな、こちらの四名様がた――あれ?もう二人居ませんでしたか?目付きが悪くてかなり口の悪く、全身から問題児オーラ満載のかたと、真逆で兎を従えていたかたが。」

「ああ、十六夜君と氷草君のこと?十六夜君が氷草君を連れて、『ちょっと世界の果てを見てくるぜ。』っていって駆け出したわよ。氷草君は月亭の上であわてふためいていたけど、追っていってしまったわ。」

「こちらを任されました故、同行は致しませんでした。」

 

断崖絶壁を飛鳥が指を指し、それをみた黒ウサギはウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

 

「な、何で止めなかったんですか?」

「『止めてくれるなよ。』といわれたもの。」

「どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!」

「“黒ウサギは言うなよ”と言われたから。」

「あぁ、もう!」

 

がくりと前のめりに倒れ、黒ウサギは落胆している。

 

「はぁ、ジン坊っちゃん。お二方の案内を頼みます。」

「わかった。黒ウサギはどうするんだい?」

「問題児様がたを捕まえます!“箱庭の貴族”を馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります!」

 

黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶やかな黒い髪を淡い緋色に染め、高く飛び上がった。

この時点で、氷草と月亭以外の誰もが氷草自身を“人間”だと思い込んでいて、氷草も月亭も、“氷草が人間じゃないこと”を告げていないことを忘れていた。

それに気づき、知ることになるのは少し先のお話。

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