温厚な龍が異世界からやって来るそうですよ?   作:イェス

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№9 アンダーウッド

“ノーネーム”農園跡地

 

なんやかんや一ヶ月がたち、新たな同士、メルンを加えた“ノーネーム”。

氷草はメルンと黒ウサギを連れて農業地に来ていた。

そして黒ウサギは呆然と跡地を見ていた。

そんな中ハッとした黒ウサギが叫びだす。

 

「な、なんなんでございますか!いったいこれは!」

 

よくわからない蛇と砂や砂利を噛み砕く謎の生物。

犯人は氷草だ。

が、反省の素振りを見せない氷草は、よくわからない蛇に対して号令をかける。

蛇はぞろぞろと氷草の前に集まりお辞儀をした。

そのなかで一際大きな蛇が集団から一歩前に出てきた。

その蛇、出発前黒い卵を埋めておいたものから生まれてきたものだ。

 

「紹介するよ。僕の眷属達。

ねぇ、メルン開拓できそうかい?」

 

メルンはハーメルンの130人の犠牲となった御霊の長い旅路のなかで生まれた131人目。ハーメルンの130(かれら)は箱庭に呼び出したハーメルンの魔術書が消えたことにより、自由の身となった。

そしてもといた場所に、これからを繋ぐために箱庭から去っていった。

メルンはハーメルンの130(かれら)が箱庭に残した最後の生きた証。

そして彼らが残したのはメルンだけじゃなかった。

 

飛鳥の手駒とさて赤い鋼の巨兵“ディーン”がいる。

 

「できる!」

 

氷草は豊穣であって開拓出来るかどうかはわからない。

だからこそメルンに出来るか?と聞くのだ。

 

「よかった。豊かにしてできなかったらどうしようかと思った。ちゃんと生き返ったし。」

 

そして氷草以外は農地の特区と呼ばれる特別な苗や牧畜を手にいれるために参加する“龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)”連盟の収穫祭に行くメンバーを決めるゲームをしている真っ最中だ。

収穫祭なので、豊穣と調和の神である氷草は“鮮血の瞳”のマスターを兼ねて呼ばれたので、ジンから絶対参加してくださいと土下座された。

理由をあげるなら七桁のコミュニティが身内の事情のみで四桁のマスターを留めさせれば、上のコミュニティから反感を買うからだ。

氷草は内心、眷族と玉兎の月亭、そしてレティシアが残るといっているので防御性は問題ないと思ったのだが、そうはいかないらしい。

 

「そうそう、氷草様。今日は宴を設けようと思うのでございます。なにか食べたいものあります?」

「特にないかな。でもどうして?」

「魔王討伐の一件で我々が地域支配者になったのでございますよ。」

「お?」

「地域支配者なのです!」

「おお!支配者!」

 

ゲームの結果、一位が十六夜。二位が飛鳥となったらしい。

氷草な何気なく廊下を歩いていると耀と三毛猫の話し声が聞こえた。

 

「三毛猫。私は収穫祭が始まってからの参加になったよ。残念だけど前夜祭は御預けだね。」

「…………そうか。残念やったなお嬢。」

「うん。でも仕方ない。だって十六夜は本当にすごいもの。

でもすごいのは十六夜だけじゃない。飛鳥や氷草だって。あんなにひどかった土地を生き返らせてほぼすべて使えるようにしちゃったもん。」

「ふん。そんなもん、ワシらがおったところじゃ全然すごくもなかったやないか。」

「それは技術が発達して、機材があったからだよ。」

 

氷草は今まで生きてきたなかで一番、息を殺した。

静かに心臓さえ止めて。

盗み聞きは行けないと分かってても、“好奇心”が邪魔をした。

 

「お嬢…………なんかあったんか?」

「……何も。ただ、十六夜が水路を整えて、氷草が大地を甦らせ、飛鳥か耕して、そして私が苗を用意できたら“この農園は四人で作ったんだ!”って胸を張って言えるかなって。

一日でも多く参加したいと思って頑張ったんだ。」

 

(耀がそんなこと考えてるなんて知りもしなかった。)

 

耀は“ウィル・オ・ウィスプ”のアーシャにギフトゲームの招待を受けて、炎を蓄積できる巨大キャンドルホルダーを手に入れ、恒久的にウィル・オ・ウィスプ製品のみ熱と火を自由に扱えるようになっていた。

それでも、十六夜の力を前に敗北した。

 

「……三毛猫。」

「うん?」

「三人ともすごいね。」

「……せやな。」

「でも私は…………あまりすごくない。

やっぱり投げやりな気持ちが駄目だったんだ。偶然素敵な友達ができただけ。」

 

(うう、心が痛い。)

 

「……お嬢……。」

 

・・

 

耀の話から投げやりのままだった氷草は追わなくてもいいダメージを受けていた。

わりと久しぶりに月亭とあった際、少々愚痴ってしまうほどに。

 

「ですが、“自然と厚待遇を受ける性質”を受け入れたのではなかったのですか?持ってるものの悩みを受け入れることによって解決したはずでは?」

 

持ってるからこそ生まれる豪華な悩みを氷草は乗り越えていたはずだった。

が、ここに来てまた悩みだそうとしている氷草に呆れたような感じの物言いで月亭は答えるだけだ。

 

「でもさ、僕は何にもしてないのに、行けちゃって、あんなに頑張っている耀は行けないんだよ?」

「“持たないものの気持ちなどわからない”と助言されていたではありませんか。」

 

氷草だって分かっている。持つものだから“耀がかわいそう”と思うのだ。

 

「氷草サマ、月亭ご飯が出来上がりました!」

 

・・

 

「?それ、何?」

「あぁ、これ?魔術書……っていったらいいかな?僕が初めて作った魔術書の原典さ。まぁ、最初で最後だと思うけどね。

今は魔力調整で持ってるのさ。中見たらダメだよ。」

 

食後の休憩で共同スペースで寛いでいた氷草に耀が話しかけた。

氷草は盗み聞きした内容を少し思い浮かべたが、なにもなかったように耀の心うちを知らないように接する。

 

「残念だったね。祭り。」

「うん。」

「でも、すごいよ。耀はウィル・オ・ウィスプのメンバーに勝っちゃうんだから。」

「でも、それは氷草も同じでしょ?」

「僕は人間じゃないし、使ったギフトも神造さ。」

「……ありがとう。」

 

それいって耀はその場を立ち去ってしまった。

 

「…………人間を慰めるのは難しいな。」

「氷草様ー風呂。」

「ん。」

 

風呂は、かなり広かった。

そう、羽を広げても狭く感じない。

流石に魔術書は持ち込めないので、衣服と一緒に置いてある。

盗られないように術をかけてあるし、読めないように鍵をかけてある。

そして魔術書には自衛機能を付けてあり、氷草以外の物が、ある意思を除いて触れるとミミック的なことになるように設定している。

 

「一緒にいいか?」

「ん?十六夜か。良いよ。」

 

すでに体を洗っている氷草はのんびりに浸かっていた。

 

「そういや、周りの奴らに水源の無償提供するってね。やるじゃん。」

「提案は白夜叉だぜ。それにもう使えるようになったんだろ?農地。」

「飛鳥とメルンが耕したからね。」

「いや、あんな死んだ土地をもとに戻すのもすごいと思うぜ?砂漠を草原に変えるもんだ。……いや、それよりすごいだろ?」

 

そして十六夜も湯の中に入ってくる。

いつものヘッドホンはしておらず、新たらしいな。と氷草は思っていた。

 

「お前って龍だったろ?」

「うん。形容するなら龍だ。」

「最強種に変わりはないと?」

「まあね。」

「レティシアにきいたが、純血は誕生でなく発生と聞いたが?」

「そだね。ヒイヒイお祖父様が発生したらしいよ。そしてお婆様まで、死んでは生き返りを繰り返した。」

「まてまて、死んで生き返るんだろ?お前の母さんはヒイヒイお祖父様だろ。」

「違うよ。……サナギが蝶になるようなかんじじゃなくて、どちらかと言えばスワンプマンの自覚したかんじ?」

「ふーん。」

「僕達は自然発生で、ルーツから兄弟なんだ。ちなみに僕は双子と兄の方。」

「なんか、ふんわりしてんな。」

 

そして二人が風呂から上がり、着替えてるときに事件は起きた。

 

「な、ない!」

「どうした?」

「げ、原典が……ない。確かに置いといたはずなのに!」

 

・・

 

翌日、出発直前になっても原典は見つからなかった。

 

「氷草、そんなに落ち込んでいたって仕方ないじゃない。」

「……一応ロックはしてるけど、あれを読んだら廃人確定さ。ただ、はじめてとった獲物で作ったものだからね。当時の持てる知識を詰め込んだから発狂すらできずに死ぬかも。」

「ロックしてあるんでしょ?なら平気よ。」

「見る意思のないものはロックがかかるんだよ。」

「……。」

 

飛鳥は励ますが、氷草は子供たちが見てしまわないかと心配していた。

邪本は勝手にどこかに行かないものの、やっぱり危険なのだ。

そして点検はまだ終わっておらず、暴走するかもしれないと心配している。

 

「……僕のものを奪ってしまうなんてね。犯人は食べてやる。」

 

氷草が頬を膨らませる。

それを見た十六夜は、威嚇行動みたいだな。と考えていた。

 

その場には黒ウサギ、ジン、飛鳥、十六夜、氷草がいて、ナンバープレートをそれぞれ持っていた。

境界門(アストラルゲート)

 

「皆様、ナンバープレートをお持ちですか?」

「ええ。」

「我々はこれから7759175外門。龍角を持つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)の主催する収穫祭に向かいます。それに加え舞台主、巨躯の御神木“アンダーウッド”の精霊たちからも招待状がきております。

ですので、前夜祭に両コミュニティに挨拶をするので気に留めておいてください。」

 

一行はゲートをくぐった。

 

「お。」

「きゃ!」

「ひゃ!」

 

吹き込んできた冷たい風に悲鳴をあげる飛鳥と氷草。

急激な気温の変化に、氷草は立派な角を振り回し、その場になれる。

氷草は眼下を覗き込んだ。

 

「す、すごい!」

 

元々氷草は天界の緑の多い地域に住んでいた。

その中に水樹も当然あったが、雰囲気が違っている。

氷草の住んでいた所は常春のようなもの。

これぞ天国!という感じだが、目の前に広がる土地は、初夏の森の中を思わせる。

巨大な水樹から溢れ出した水が飛沫を作り出して清涼感を出していた。

氷草はその景色をしっかりと焼き付ける。

 

「待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ。」

 

旋風と共にグリフォンが下り立った。

氷草は一瞬戸惑ったが、すぐ知り合いとわかる。

 

「“サウザンドアイズ”のグリフォン、たしか――」

「グリーだ。」

「グリー、だね。僕は氷草。あっちが十六夜と飛鳥だね。」

「そうか。氷草か。それに十六夜、そして飛鳥。皆、久しいな。」

「YES!お久しぶりなのです!」

 

グリーは嘴を背の方に向け、乗るように合図する。

見てみれば、立派な鋼の鞍と手綱を装備していた。

 

「ここからは距離がある。良ければ送ろう。」

「本当でございますか!?」

「あぁ。一度、竜と飛んでみたいと思っていたしな。」

 

氷草以外乗せてもらい、氷草はグリーと共に飛翔する。

 

「こっちにはペリュドンもいるんだね。美味しそう。」

「何?……彼奴らめ近づくなと。」

「ペリュドン?なにそれ?」

「僕と違って捕食目的以外で人を殺す種さ。」

 

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