旧宿舎はボロっボロだった。
氷草が荷物置きとして一時的に使っていたベッド以外。
これを見て十六夜は苦笑するしかなかった。
“どれだけ幸運なのだろうか?”と。
宿舎は巨大樹の根に支えられていたが、床が抜ければ落ち、柱が倒れれば崩れる。
特殊なギフトが掛けられていなかったにも関わらず、氷草が使用したほんの一角のみ、不自然に巨大な根の上に意図的に切断したかとのように佇んでいた。
そこの場面だけを想定したような、モデルハウスにも見えなくはない。
「めちゃくちゃだね。」
「お前んとこ以外はな。」
落ち着いたのか、いつも通りとなった氷草と十六夜は旧宿舎を見てそういいあった。
幸い、根に傷や破損が見られず、氷草は安心していて、十六夜は荷物を探し始めた。
「あ。十六夜耳ふさいで。」
説明足らずな発言だが、十六夜は意味を理解してヘッドホンを強くあてた。
氷草は、小さな空気の振動を感知したのか、耳を塞ぐ。
それでも、完全に塞ぎきれるものではないので、目をぎゅっと閉じて耐える。
「ひゃあー、なんだ?警戒の鐘か?」
「んー、なんか近いような遠いいような所からなにか来ない?」
氷草の疑問を受け止めた十六夜は地面に手をつける。
小さな振動から何かを感じるのだろう。
「……また来てるのか?」
「うっそ!200くらいぶっ殺したのに?どれくらいいそう?」
「そこまではわからねぇよ。ただ、沢山いるって感じだな。」
「……十六夜おんぶ!」
「は?」
・・
アンダーウッド収穫祭本陣
その場には黒ウサギ、ジン、ンナンナフ、そしてジャックとアーシャが対面していた。
「挨拶が遅れたな。信仰コミュニティ“鮮血の瞳”の幹部。ンナンナフだ。今回はコミュニティマスターの代行で
「一本角の議長をしている。サラ=ドラトレイクだ。
「?主神は挨拶に行くと言っていたが?」
「へ?」
「……情報不足のまま呼んだのか?主神はジン殿の“ノーネーム”に入っている。一緒に挨拶に言ったはずだが?」
サラは目を見開いて固まる。
「そんなこと知っている!」
「……主神の名前を知っておるだろうに。どうせ、お若き姿を見て使者などと思っただろうに。」
「…………。」
「なにも言われていないのだな。今後気を付けるように。」
「はい。」
「さて、話がそれてしまったな。サラ殿、本題を。」
サラは大きく頷いてから大きな石を取り出した。
それは人の頭ほどの大きさで、封印がされていた。
「これが奴等の狙いなのだ。名を“バロールの瞳”といい、一度に100の神霊を殺すことができると言われている。」
その名を聞いてジンと黒ウサギが驚きの声をあげた。
「バロールの瞳はバロールの死とともに消失したのでは?」
「……簡単に言えば、新たなバロールが生まれたと言えよう。信仰の力だな。」
「これを報酬に力を貸してほしい。
我らの手で腐らせるよりも使えるものが使った方がよい。
ウィル・オ・ウィスプには、ウィラ殿が。鮮血の瞳にはマスターが居られるだろう?譲渡するにもノーネームを含めた三コミュニティに限らせてもらう予定だ。」
そこまでいってサラガ何かを思い出したように小箱を取り出した。
「あぁ、忘れていた。白夜叉様からノーネームにへと預かっていた特別恩賞だ。」
それをジンは受け取った。
封を開けて取り出してみれば、笛吹の道化。“グリムグリモワール・ハーメル”の旗印を刻んだ指輪が入っていた。
「サラ様!」
そこにあわただしく一本角のメンバーらしきものが現れた。
「どうした?」
「目撃情報が!」
「なんのだ?」
「魔王、あの魔王イェスの目撃情報がありました!」
・・
十六夜にあのとき雷を落とすように仕向けた場所まで運んで貰った氷草は雲を作っていた。
雲ひとつなかった空は所々星空が見えるのみでどんどん雲が集まってきていた。
ギフトでなく、種族特有技能による天候操作も行っていた。
現在は曇り。
少し時間が掛かると十六夜は見ているようで、遠くを眺めては、空を見るを繰り返していて、とうとう氷草に話しかける。
「どれくらいかかる?」
「10分ぐらい。完全に今回はアシストになるね。ここまでの範囲、体力を削ぐ程度にしか使えない。」
「チャージが長いな。準備は出来てるんだ。何か手伝えるぜ?」
「……空気中の水分量をあげてくれ。水樹を傷つけずに。」
――目醒めよ、林檎の如き黄金の囁きよ。
目覚めよ、四つの角ある調和の枠よ。
竪琴よりは夏も冬も聞こえ来る。
笛の音色より疾く目覚めよ、黄金の竪琴よ――
「ん?歌?」
「あ、おい!あれを見てみろ!でっかいぞ!」
雄叫びを聞いて氷草は顔をあげた。
擬音も見つからないような雄叫び。
威圧感にアンダーウッド勢が息を飲んだ。
「あ、でかい。きっと純血だ。」
巨龍だった。
雷鳴と共に巨龍が現れている。
「でも、力は満タンになった。」
巨龍の雄叫びに応じて落雷が降るが、氷草の作り出した雨雲を通過する途中で雨雲が吸収したことにより、氷草の支配下にまわる。
「雨雲が雷を吸い込んでやがる。おいおい、どういう原理だよ。」
「雷を吸収する性質があるって言っちゃう。」
必要な力は揃って、有り余ったものが氷草に回ってくるほどに雷は吸収されていた。
龍の要素に加え、豊穣の力を持つ氷草の方が地の利を得ていたとも言える。
「……黒いギアスロール?」
ハラハラと空から黒いギアスロールが、舞い降りてくる。
通力でそれを掴んで十六夜と読んだ。
ギフトゲーム名"SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING"
プレイヤー一覧
・獣の帯に巻かれた全ての生命体。
但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断する、
プレイヤー敗北条件
・無し(死亡も敗北と認めない)
・プレイヤー側禁止事項
・無し
プレイヤー側ペナルティ事項
・ゲームマスターと交戦したプレイヤーは時間制限を設ける。
・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
・ペナルティは"串刺しの刑" "磔刑" "焚刑"からランダムに選出。
・解除方法はゲームクリア及び中断された際のみ適用。
ホストマスター側勝利条件
・なし
プレイヤー側勝利条件
一、ゲームマスター・"魔王ドラキュラ"の殺害
二、ゲームマスター・レティシア=ドレイクの殺害
三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ
四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繋がれた革命主導者の心臓を撃て
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
" "印
「十六夜!これ、レティシアの名前が。」
「どうなってる?レティシアがゲームマスター?」
ただ、それだけに驚いている暇などなかった。
下の方では騒ぎが起こっている。誰もが巨龍を見上げ口を開いていた。
地上には沢山の巨人の他に、巨亀や火蜥蜴などが沢山いた。
巨龍が鱗を降らせ、それらを作り出していたのだ。
氷草は、出し惜しみなどせず、地上の巨人や敵側となるものにたいしての落雷攻撃を仕掛ける。
「十六夜!これが僕の天変地異を起こさない最大の落雷だ!残りは殺ってくれ!」
昼が訪れたかのように明るくなり、轟音がアンダーウッドに響き渡った。
地面さえも振動し、体の芯まで振るえる。
そして光が消え失せ、振動さえなくなったあとに、空に向けて青白い雷が放たれた。
「あれは黒ウサギの。」
そしてすぐに黒ウサギの声が響き渡る。
その最中、巨龍は雷雲を撒き散らして動いた。
その動きだけで突風が起こり、あらゆるものを区分なく空に巻き上げていく。
「……不味いね。」
十六夜に掴まり立ちをして、辺りを見回した氷草は、そう呟いた。
「おい、まだヤル気なのか?」
「残念だけど、さすがに無理だ。僕じゃ無理なんだ。でも、迎えにいくことならできる。」
「……。」
・・
――アンダーウッド本陣営――
一夜明け、会議場には五つのコミュニティが集まっていた。
“一本角”の頭首兼連合代表、サラ=ドラトレイク。
“六本傷”の頭首代行、キャロロ=ガンダック。
“ウィル・オ・ウィスプ”参謀代行、フェイス・レス。
“ノーネーム”リーダー、ジン=ラッセル、と逆廻十六夜に久遠飛鳥そして春日部耀。
“鮮血の瞳”幹部、ンナンナフ。
「これよりギフトゲーム“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”の攻略作戦の会議をします。委任状を他のコミュニティから受け取ってるので、委任されたサラ様とキャロロ様は責任ある発言をしてください。」
「わかった。」
「はいはーい!」
黒ウサギはメンバーを見て、氷草が居ないことに気がついた。
耀はあり得ないほど落ち込んでいて、飛鳥は氷草がいないことに下唇を噛んでいる。
「氷草様はどちらに?」
「氷草なら一緒に回収されちまったやつらを助けに行った。な、ンナンナフ。」
「えぇ。やはりといっていいでしょうね。あの方ですから。黒ウサギ殿、氷草様は大丈夫です。ただ、この会議を伝達する術がないのがおしい。」
「まぁ、氷草なら大丈夫だろ?」
「では、ゲームの方針を、と行きたいところですが、サラ様からお話があるそうです。」
何?と一同は首を傾げた。
サラは立ち上がり周囲を見渡す。
沈鬱そうな顔で深いため息をサラは漏らした。
「言いたいことは四つある。
一つ、魔王イェスの目撃情報があった。
二つ、これは重大なことだ。まず、黄金の竪琴が奪い返されてしまった。
三つ目と四つ目だが、秘匿としてほしい。
バロールの死眼が盗まれた。
そして、魔王の出現はアンダーウッドだけでないらしい。」
「……は?」
「“サラマンドラ”、“鬼姫”連盟、“サウザンドアイズ”の白夜叉様。少なくとも三つ以上が同時に襲われた。」
誰もが異常事態とわかる。
たとえ日が浅い3人でさえ。
「偶然じゃ無い、わよね。階層支配者を倒すために強大な魔王が複数の魔王を統率して、“
「そうだな。……なら逆に納得できるな。」
「何?」
「一ヶ月前に“サラマンドラ”が襲われたのは知ってるだろう。」
「あぁ。」
「魔王を手引きしたのは“サラマンドラ”自身と言うことは?」
「……初耳だ。だが、父上ならやりかねない。」
十六夜は続けて持論を話す。魔王連盟、そして手引きする組織があることに。
「父上が主犯だと?」
「そこまではわからん。
箔付けのために呼んで、うまく利用されたかもしれないからな。」
ホッとしたサラだったが、フェイス・レスが追い討ちをかけるように告げた。
「すいませんが、現
「ああ、その通りだ」
「もし、今襲われている
黒ウサギもサラもジンも首をかしげる。
「今までこんなことがなかったから忘れられていたが、
前例が二つしかなく、白夜叉殿とレティシア殿とだけとなっている。若い者にはあまり知らされていない。」
「そうだったのでございますか。
あの、ところで一番最初の魔王イェスとは?黒ウサギは名前しかウサギ耳に聞いておりませんが。」
一同は忘れていたようで、ハッとした。
「私も小耳に挟んでいる程度です。月一でゲームが行われているようですが、コミュニティのリーダーが殺されたこと以外被害がないとか。」
「なんだそりゃ?魔王にしちゃ、やることが小さいな。」
「私は一度だけ遭遇したことがある。
ゲーム名は“The replacement air”」
「和訳で空気入れ換え。何でそんな名前に。」
十六夜はそれが疑問に思った。
えらく単純な名前だと。
「魔王曰く、『何でも英語にしちゃえばカッコいい感じになるよね。』だそうだ。」
「変わってるな。ゲーム内容は?」
「ゲーム開催、五時間以内に指定コミュニティの頭首の殺害をすることだ。」
「なに?」
「ゲーム盤で行われていて常に夜だった。新月の夜でな。ほぼ闇に近かった。
プレイヤー側の敗北条件は、
・指定コミュニティー頭首以外が同士討ちで死亡した場合。
・時間内に殺害できなかった場合。
・プレイヤー側全員の降伏。
勝利条件は、
・魔王を完全に殺した場合。
・指定コミュニティの頭首を殺した場合。
・隠された太陽の光を集め、偽りの太陽を作り出せ。
禁止事項として指定コミュニティの頭首の変更を禁じていた。」
「で、どうなったんだ?」
「敗北だ。
魔王ははなっから殺すつもりでゲームを仕掛けていた。それに何度も心臓を刺したりしても、すぐに生き返っていた。不死を殺せというものだった。」
「随分酷いのね。そのイェスってどう言った容姿なの?」
飛鳥は恐ろしい獣の姿を連想していた。
「金髪に真っ赤な目。歳は14ほどの少女だ。」
「へぇ、面白いじゃねぇか。生意気で冷酷なんだろ?」
「生意気でも冷酷でもなかった。」
・・
吸血鬼の古城
古城に舞い降りた氷草は、よく知る力を感知した。
真っ暗で、普通通りにはいかないものの、二種類の生物が争っている。
片方は赤黒くでぐちょぐちょと音を立てるもの。もう片方は赤黒くでバチャバチャと音を立てるもの。
液体のような音を立てるものを氷草はよく知っていたが、ここにいるのはおかしいもの。と考えていた。
「いるの?」
氷草が探しているのは破魔の魔剣の製作者。
氷草の妹だ。
彼女なら箱庭の存在を知ってるが、人間とほぼ同じ学校に行ってるのでここに来る暇はないはず。
それでもっての彼女なら複数同時に存在することが出来る。
「あ、おn……氷草。」
「あ、げn――」
妹の声が聞こえたと思って、名前を呼ぼうとしたら頭突きされた。
「氷草。ここでは兄妹って隠してよね。それに私、魔王だし、イェスだし。」
「ワケわかんないよ。」
「せっかくクリスマスで、オフとれたのにお兄ちゃんたちはお仕事だしママ寝てるし、収穫祭あるって聞いたら他の魔王がゲーム始めたし。」
「落ち着いて。まず状況を教えてよ。」
それもそっか。
そういってイェスは柏手を一つ打った。
ポッと球形の光が生まれ、明るくなる。
「消して消して!」
その場はコズミックなホラーでいっぱいだった。
すぐに氷草は明かりを消させる。
見られたらおしまいだと氷草は、わかっているのだから。
「向こうに怪我人と子供がいる。怪我人の手当てを氷草にやってもらいたい。」
「分かった。あの廃墟だね?」
「そう。入ったら決壊を張って。でかいの打ち出すから。」
あの赤黒い液体に似たものは、イェスの力が実体化したもの。
その数が多くなってきていて、その理由は吸血行動によって……相手を捕食して増えていくのだ。
ねずみ算式に増えていくそれは、当たりを多いつくし始めていた。
その液体の補助により、すぐに廃墟にたどり着けた。
「皆さん!命に別状はありませんか!」
「は、はい。あなたはたしか、鮮血の瞳の。」
「うん。氷草。君は受付の。」
「はい。キリノと申します。」
「これもあの嬢ちゃんのお陰さ。」
年輩の、獣人がスッと立ち上がった。
「あの植物、寄生種だぜ。生き物や死骸を苗床にして繁殖する菌糸類。」
「冬虫夏草のようなものですか?」
「あぁ。似てるから冬獣夏草とも言われている。」
「あ。結界を張るので、下がってください。」
結界を張り終えると同時に、高火力攻撃がその場に広がった。
酸素不足で炎はすぐ消えたが、結界を解くとものすごく焦げ臭かった。
「おぉ、すごいな。真っ黒な炎とは。」
「あいつったら、そういう意味か。」
イェスが結界を張らせたのは、酸欠で殺さないためだった。
「大丈夫?張るの遅かったけど。」
「ギリギリだったね。カウントしてくれたら良かったのに。」
「で、そのじいさんは誰?知り合い?」
「ジジイはよしてくれ。俺にャ“六本傷”のガロロ=ガンダックっつー名前がある。」
「僕は“鮮血の瞳”の竜使氷草です。」
「私は、“罪の槍”イェス=トゥ・ティ・レヴィアニタルって言うよ。」
二人が自己紹介をすると、ガロロの表情が変わった。
「“罪の槍”イェスだと?それにトゥ・ティ・レヴィアニタル!?」
「そうだよ。」
「お前、魔王か?」
「そだね。魔王だ。」
「……。」
「私が魔王だっていいじゃない。怪我人の手当てをしなきゃ。
それにさっきの攻撃を運悪く受けちゃった人もいるかもしれないし。。」
その発言に怪訝そうにガロロは眉を潜めた。
気に召さなかったようで割りと強い口調で文句を言う。
「それを考慮してないのか?」
「助けられたにしては随分ね。そんなこと言われたら後ろの子供を食べたくなっちゃうじゃない。」
ニタァ、と笑うイェスは軽く頭を叩かれてムスッとしながら、抗議の意を込めて氷草の腕に軽く噛みついた。
「いだだだだだ‼歯立ててるでしょ?!」
「
「ハゲでも馬鹿でもないしっ!」
はたから見ればかじりついているように見えるが、歯を使って吸い付いているが正しい。
すぐ飽きるだろうと、氷草はやめろとは言わなかった。
思った通りにすぐ噛みつくのをやめたイェスによじ登られ、おんぶを今している。
心配そうにガロロに見られ、氷草は少し落ち込んでいるが、イェスにその方面の配慮が見られないため、吹っ切れることにした。
「ヤホホホ!氷草さんもいらっしゃいましたか。」
氷草の知る声で、向こうも知っている声だ。
ジャック・オー・ランタン。
カボチャの幽鬼だ。
「氷草!ジャック・オー・ランタン!私は始めてみたよ!」
「イェス、暴れないで。
ジャックさん、無事でしたか?」
「ヤホホホ、さっき我々のとは違う地獄の炎を見ましたが……もしや、背負ってるのは魔王イェス?」