温厚な龍が異世界からやって来るそうですよ?   作:イェス

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№15 グリフィス

《聞くに、二翼の長と言うが、まさかその人が貴賓として呼んだものにそのようなことを?》

 

鎌首をもたげ、立派な角を大きく揺らしてリリにそう尋ねる。

リリは、生唾を飲んでから答える。

 

「はい。その人がそう名乗っていました。」

 

《ほぅ、どう説明してくれるかな?グリフィス殿。我()()はこういっているが。》

 

氷草の感情の変化に伴うように、辺りの空気が冷たくなり、細氷(さいひょう)が作り出され、氷草の周りをキラキラと彩る。

 

ゆっくりと、氷草は人の姿になって地面に舞い降りる。

 

「龍に変化していただけか?それとも……」

「形なんて別にどうでもいいだろ?」

 

人の姿になった氷草に反し、グリフィスは人化の術をと解いて姿を激変させた。

幻獣・ヒッポグリフ。

 

「思いしるがいい!威を借りた小僧!紛い物の小娘!このグリフィス=グライフこそ

第三幻想種――“鷲獅子(グリフォン)”と“龍馬(ドラニコルホース)”の力を持つ、最高の混血だとッ!!!」

 

雄叫びと共に稲妻と旋風が吹き乱れた。

が、そこで動じる氷草ではない。

 

「黙れ、雑種。」

 

氷草は戦闘体制を取らずに、後ろの耀とリリを守るように立ちはだかる。

 

「氷草、ここは私が!」

 

耀の声を聞き、手で制して突進してくるグリフィスにたいして呟いた。

 

「0K。」

 

そこに氷草とグリフィスの真ん中に割り込んだものがいた。

 

「はい。そこまで。」

 

 

氷草は殴られて尻餅をついてしまった。

が、氷草の呟きにより発動した魔法が割り込んできたものの足に当たり、凍らせた。

 

「痛!」

 

すぐさま氷草は、立ち上がり本格的に戦闘体制にはいった。

相手が楽しんでいるように思えたからだ。

 

「まってくれ、喧嘩両成敗や。足、溶いてくれない?」

「す、すみません。ですが、何故かばったのですか?」

「まぁ、格下と称されて怒っとるんどろうけど、なぁ。」

 

殺すのは違うやろ?と氷草に優しく笑って見せた顔は、とてつもなく胡散臭い顔だった。

 

・・

 

本陣

 

蛟劉と仲裁に入った男は名乗った。

他のメンバーや、ンナンナフも集まってきていて蛟劉やサラが両者の間合いに立ってなければすぐさまやり合いかねない雰囲気を醸し出していた。

 

「……、話はよくわかった。グリフィス正式に謝罪せよ。。」

「ふざけるなッ!!!」

 

怒声と共にテーブルを叩いたのはグリフィスだった。

 

「今回、お前たちが前面に悪いぞ?侮辱した上に攻撃を仕掛けるなんてこと。それも招待客に対して。」

「名無し風情を何故庇う?そこの紛い物の小僧だって威を借りているただの猿ではないかッ!!!」

「……グリフィス。それは違うぞ。風情などではない。彼らはアンダーウッドや我々を助けてくれた者達。感謝もせず妬みによる侮辱をしたのだぞ?」

 

鋭い指摘をされてもなお、食い下がるグリフィス。

その態度にしびれを切らしたらしいンナンナフは声を上げた。

 

「氷草は、今回“正式的に鮮血の瞳の主神”として招かれています。

主神が侮辱されている今、全面戦争を二翼に仕掛けてもいいんですよ?」

「鮮血の瞳だと?あんな寄せ集めコミュニティーの主神だと?笑わせるな。」

 

そこに蛟劉が割って入ってきた。

 

「こらこら、だめやで。落ち着き。」

 

「……貴方は誰なの?これは“ノーネーム”と“鮮血の瞳”、そして“二翼”の問題よね?」

 

蛟劉に敵意をもって飛鳥が声を上げたのにたいして、サラが慌てて彼を紹介する。

 

「この御方は亡きドラコ=グライフのご友人で連盟のご意見番でもある方なんだ!けして怪しいものではない!」

「……ご意見番だと?そんなやからがいるとは初耳だが。」

 

怪訝そうに眉を潜めるグリフィスに、一同の不信感が増した。

そんな雰囲気を受けて蛟劉は困ったように頭を掻き、袖から蒼海の色を持つギフトカードを取り出し見せた。

それのギフトカードの名前を見て、氷草以外のメンバーの顔色が変わる。

「ふ……“覆海大聖”蛟魔王だと!?」

 

驚いてるメンバーをよそに、氷草は、ンナンナフに耳打ちをする。

 

「すごい人ってわかってたけど、ふくかいたいせいってなに?予測でも出てこないんだけど?」

「予測?えーと覆海大聖ですね。西遊記、知りませんか?」

「坊主と猿とカッパと豚がインドいく話でしょ?」

「うーん。そのくらいですか。えーと、すごい人です。」

 

「くっ、……つまるところ穀潰しだろうが。なんの権限があって我らの戦いに割って入ってきた?」

「せやなあ。そっちは申し開きも出来へんけど、今回は別や。無理矢理でもあの場を終わらせる必要があったんや。」

 

何?とグリフィスが牙を剥いて睨む。

蛟劉は細い瞳を僅かに開いて凍る声音で告げる。

 

「若いの。何処の誰に喧嘩を売ったと思ってるんや?」

「……?何を今さら。私はノーネームに」

「阿呆。この子ら、そこの氷草君以外は問題ない。サラちゃんにもだ。問題なのは、四桁コミュニティーの“鮮血の瞳”と白夜王に喧嘩売っとるんやで?白夜王の同士を侮辱し、鮮血の瞳の主神をも侮辱した。さっき寄せ集めっていってたけど、コミュニティーの地盤(カミサマ)が長く不在の間、ずっと四桁を守り続けていたコミュニティーやで?わからんか?」

「……?」

「お前は、明確に思考し、絶望させる術を持った巨龍と最強の階級支配者(フロアマスター)と同時に戦うことできるんか?龍の数は15や。」

 

これにグリフィスのみならずその場にいる全員が戦慄した。

 

「……ま、僕が君らを止めたのはそういう理由や。……落日なんて若いうちから経験するもんやないよ。」

 

皮肉が込められた口調にグリフィスは反論の余地がなかった。

 

「すまなかった。」

「それは何ににたいしてかな?こちらは“ノーネーム”と“鮮血の瞳”に対する謝罪と訂正を求めます。」

「ちっ。」

「ねぇ、ンナンナフ。もし、僕が魔王になるって言ったらみんなは従ってくれるかな?」

「氷草様?もちろんでございます。鮮血の瞳は必ずあなた様に従います。もともと魔王コミュニティーでしたので、問題などありません。傘下コミュニティーもその覚悟があって名を貸しております。」

 

その会話に黒ウサギが止めにはいる。

 

「待ってください氷草様!何をそこまで!」

「そこまで?友人のために魔王になるくらいどうってことないさ。僕は不死だからね。陰ながら君たちを応援することになるけど。」

 

氷草はなるきなんてないが、そういえば脅し文句として通用すると知っているし、そもそもグリフィスは妹の一人にマーキングされていることを知ってるため、そういっただけだ。

それでもやはり、脅すことができたようだ。

 

氷草の言葉に押され、グリフィスは謝罪をして出ていった。

 

その背を見送った氷草は、大きくため息をついてから立ち上がり、蛟劉に深く頭を下げた。

 

「今回はご迷惑をおかけしてすみませんでした。あのとき、あなたが止めてくださらなかったら私は彼を殺していた。」

「いやいや、子供の行き過ぎた喧嘩を止めただけや。詫びとして、君の同士をなんとかしてくれへん?この流れは昔話をさせられるもんや。」

 

その声に氷草が十六夜や飛鳥、耀に黒ウサギを見て一言、

 

「……どうすることはできませんが、どうとも思わなくすることはできますね。」

 

・・

 

蛟劉は結局“ノーネーム”の彼らが寝付くまで延々と昔話をさせられた。

起きているのは蛟劉と氷草のみとなっている。

深夜をまわると、あちらこちらで行われていたどんちゃん騒ぎも幕をおろし、起きてるものは月を眺めたり、静かに呑んでいたりと、静寂に包まれていた。

河辺の清涼な風が大樹の葉を揺らした。

すこしばかり火照ったからだにいい加減に吹き抜けていく風を感じて、氷草は尻尾を揺らした。

 

「いやぁ……昔話を語って聞かせたのは、さて。何年ぶりになるんかな…………。」

 

隣の男の酒に付き合ってたのか、付き合ってもらったのかはもう、問題ではなかった。

 

「……でもまぁ、全ては(つわもの)のもが夢の跡。百年に満たない一夜の夢やった。

ほんと、今日は楽しかった。こんなに楽しかったのは何時ぶりやったかな。」

 

今だ、話し手は蛟劉で、聞き手は氷草だ。

 

「あぁ、白夜叉様。お久しぶりです。」

「おお、氷草もいたか。蛟劉もひさしな。蛟劉とは何世紀ぶりだ?」

「さて……悟空姐さんが仏門に帰依すると決めた、その時以来とちゃいます?」

 

隻眼でにんまりと笑う蛟劉に、白夜叉は苦笑した。

 

「僕はこれで、」

 

氷草は大物に挟まれては居心地が悪いと退散しようとしたが、白夜叉に呼び止められてしまう。

 

「まて、まだ残ってはどうかの?おんしに聞かれて不味いことなどない。」

「うぅ、はい。」

「はっきり、めんどくさいと思った?」

「当たり前だよ。何世紀も生きてる二人にたいして、僕は16年ぐらいしか生きてないもん。」

 

氷草は諦めてもといた場所に座り直して不貞腐れたように頬を膨らませる。

 

「はは。そうそう、長兄から御使いをたのまれてますんよ。」

「牛魔王から?私に?」

 

封書を渡した蛟劉は背筋を伸ばしておもむろに立ち上がる。

 

「いやぁ、これで長兄こ御使いも終わりや。つーかホンマありえへんわ。百年ぶりに呼び出したと思ったら、手紙の御使いやもんなあ。人使い荒い人やで。」

「お前を信頼してるのだろう。」

 

氷草は白夜叉と蛟劉の心を除くように、雰囲気を食んでみると、“白夜叉は蛟劉を後継者にしたい”“蛟劉は会いたい人がいる。”と読み取れた。

白夜叉の容姿が変わってることに何一つ、疑問を抱かないまま、氷草は蛟劉にある言葉を投げ掛ける。

 

「枯れて流れるのには早過ぎやしない?」

「どういうことや?」

「僕の攻撃を受けたとき、胡散臭くない笑みを浮かべてたよ。自尊心からなる笑み。

人間と違って、時間はたくさんあるよ。」

 

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