温厚な龍が異世界からやって来るそうですよ?   作:イェス

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№19 不死不滅

「あいや、そこまでや。」

 

妹のゲームに勝利した氷草が投げ出されたのは、戦場の真っ只中だった。

ゲーム盤から放り出される時、一気に情報後流れ込み、現在魔王同盟と戦闘中であることを告げられた。

 

「すごい。吸血鬼ばっかじゃないか。」

 

氷草は、一本の槍をもって蛟劉の生み出した濁流に飲まれる巨人族を値踏みする。

手に持つ槍はゲームクリアをした際に、手土産として妹から受け取ったもので、槍は二メートルほどあるが、とてつもなく軽く、歪んでいる。

歪曲の聖槍(ハイズ・スピア)】と名付けられた純白の槍の穂先は返しが付いており、引き抜くと相手を抉る仕掛けがついている。

返しの部分はガタガタで綺麗に切れてはくれなさそうだ。

 

「君の妹ちゃんには脱帽やわ、氷草。」

「うん。よくやってくれたって感じだね。さすがだ。」

「氷草くん!あなたいったいどこで!」

 

氷草は、よく知る同士の声に、すぐに反応した。

しばらく氷草は行方不明となっており、怒鳴られても仕方ないな。と尾を丸めた。

 

「飛鳥!遅れてごめん。ゲームに巻き込まれて。でも、戦状はわかってる。」

「まず、終わらせよか。」

「うん。無事で何よりだわ。

それに蛟劉さんの言う通りだわ!

早く終わらせて、話はそれからよ!」

 

蛟劉が右手を掲げると、濁流が倍になる。

すべてを流すような津波が巨人たちに押し寄せる。

 

その一端に氷草は、降り立ち左手を降り下ろした。

すると、巨人を飲み込んだ水流に巨大な雷が、いや……幾万もの雷が降り注いだ。

水流に足をとられぬようにと踏ん張っていた巨人もいたが、氷草の落とした雷により感電し飲まれていく。

 

「――あんたが巨人の支配者か。」

 

蛟劉の視線の先、数十キロ先。

氷草の肉眼では見えないが、気配を感じとるようにな視れば、フードを被った生き物を見ることが出来た。

 

「……流しても流しても、巨人は動く。」

 

3体の巨人が濁流に逆らい蛟劉の元までたどり着いた。

大きな斧を振りかざす巨人を、氷草は見上げて避けるためにしゃがんだ。

防御は蛟劉に任せる為だ。

蛟劉ならば、痛くも痒くもないという確証かあるのだから。

 

「眠い、一撃やな。まるで岩礁を打つ浅瀬の飛沫や。」

 

そう、蛟劉がいっているうちにも氷草は雷を流す。

蛟劉に被害がなく、巨人が焼かれる微妙な調整をして。

氷草の予想通り、濁流に耐えている巨人に感電し、焦げ臭い臭いが漂い始める。

 

「ヒハハ、相変わらず強いじゃねェか!東海の皇子様よォ!」

 

ムッとした顔で声の主を見上げた蛟劉につられ、氷草もその方を見つめる。

ただ、氷草はそれに気持ち悪さを覚えた。

体と魂がチグハグなのだ。

 

「細かなところは分からないけど、サンドラがオカシイってことはわかったけど……。」

「本体をみれるんのは、子供だけと聞いてる。子供の放蕩心を利用するとか。」

「……つまり、ペドフィリアってことだね。」

「そうやな。」

 

二人の会話を青筋をたてながら叫ぶサンドラ?に二人は冷ややかな視線を送る。

 

「中身は混世魔王ちゅーもんや。まぁ、所詮は五桁の魔王。たいしたことあらへんよ。」

「言いやがるな。一番厄介なアルマティアがいねぇ今が正気だ!傷はもういいな!?」

「些か支障はあるが――っ!」

 

そこに、グライアと混世魔王の目と鼻の先に雷が落ちた。

グライアも混世魔王もサンドラを傷付けることはしないと思い込んでいたため、思考が停止する。

が、氷草はそれでも雷を落とすのをやめない。

むしろ過激になってきているのを見て、混世魔王は堪らず声をあげた。

 

「おいおい、この体はサンドラちゃんのなんだぜ?」

 

その言葉に、氷草は首を傾げた。

 

「でも、精神は混世魔王なんでしょ?サンドラには終わったあとお詫びとして他の“新しい体”をあげればいいしね。」

 

にこりと笑って破魔の魔剣をとりだし、そう氷草はいって見せた。

混世魔王はその言葉に、底知れない恐怖を感じた。

が、すぐ気のせいと自分を騙して威勢よく二人を煽る。

 

「はは、いいぜ。二人相手してやる!千年越しのリベンジタッグマッチだ!しかもこちらの器は超極上!相手は小僧連れってなぁ、笑い者だぜ!」

「ふん!小僧は任せてもらおうぞ!」

「へぇ、五桁(オマエ)四桁(オレ)を?身の程知れや!山猿。

氷草も随分なのに目をつけられたもんやね。」

「はは、なんちゃってドラゴンなんかに負けないよ。本物の格を見せなきゃ、兄弟にボコられちゃう。」

 

その直後だった。

爆音と共に山が噴火した。

出鼻を挫かれた混世魔王は舌打ちをして、そちらを見る。グライアも蛟劉だって。

が、そんななか氷草は上空を凝視していた。

 

「なんや?」

「な、なにあれ?三頭龍?アジ・ダハーカってことろ?」

 

氷草の目には三つ頭の白龍がちゃんと見えていた。

歪な翼を大きく広げ、宮殿を見下ろしている。

その、三つ頭のひとつと目があった。

古い記憶に、“アジ・ダカーハ”という記憶がある。

それと酷似している。

言動で悪を体現するのでなく、姿形で表す悪。

氷草の、竜使族の正邪感とは違うものがそこにあった。

 

「見えてるんか?それに、アジ・ダカーハやって?」

「宮殿に?飛鳥!宮殿にはいったい、」

「不味いわ!宮殿には黒ウサギたちがいるの!」

「そんな!」

 

氷草は氷草の全速力をもって宮殿にかけていった。もうすでに、アジ・ダカーハは宮殿の屋根に触れていた。

 

(十六夜!)

 

呆然とアジ・ダカーハを見る黒ウサギらしき人物に爪を伸ばすアジ・ダカーハを、ワンテンポ早く駆けつけた十六夜が拳でアジ・ダカーハを殴って軌道を黒ウサギからそらしたらしかったが、拳は砕けているようで、ぐちゃぐちゃに折れ曲がっていた。

 

ぐちゅ、と潰れる音がした。

 

黒ウサギと十六夜に飛び散った血液が降り注いだ。

黒ウサギも十六夜もアジ・ダカーハの間に飛び込んで来た人物を目視し、極限まで見開いて信じられないものを見るかのような声を上げた。

 

「氷草!」

「氷草……様?」

 

致命傷だった。人間からしてみれば。

脇腹……いや腹を持っていかれて、いつも穏やかな表情は苦痛で苦悶に歪んでいた。

 

「ぅ、ぐぅ。」

 

それでも、氷草は立ち上がり、二人を守るようにアジ・ダカーハに立ちはだかる。

黒ウサギに降りかかった血液は気化していき、十六夜に降りかかった血液は十六夜に吸い込まれていく。

 

「おい、氷草、これはいったい?」

 

疑問に氷草は答えず、代わりに月亭が答える。

 

 

「氷草の血液も毒にも薬にもなる代物です。氷草様はお二人にかかった分を万能薬に変質させました。」

 

月亭も氷草に着いてきていた。

氷草の弟の愛玩動物であり、部下である月亭にとって、惨状など見慣れたものだ。

月亭は、三人の背後に佇む山羊を見上げ、ほう。と声を漏らしてから、

 

「我々は逃げますぞ。」

 

『っ、ですが、』

「逃げて!大丈夫。」

『し、しかと心得た。』

 

氷草は飛鳥にプレゼントされた“城壁”アルマテイアにたいしてそう、いった。

アルマテイアも氷草の言葉を聞いて、それを承諾し耀と黒ウサギ、そして月亭をのせる。

彼女は擬似的なイージスの楯として造り出されたもので、飛鳥が擬似神格を込めた四つの宝珠を与えることにより、本来の神格を取り戻し、あらゆる攻撃を防ぐギリシャ神群最強の楯である“イージスの楯”のなっている。

華々しくデビューを飾ったギフトゲームをやっている最中、氷草は妹のゲームに強制参加させられていたため、それを知らない。

 

「アルマテイア、黒ウサギは頼んだ。

氷草。俺も参加させてもらう。

その体じゃ、すぐに動けねぇだろ? 」

 

駆けていくアルマティアの背から黒ウサギはのりだそうとするが、耀がそれを制す。

アジ・ダカーハは逃げるものではなく、氷草と十六夜を見ていた。

 

「……ふふ。同士のために命をかけるか。やはり地獄のちまたは、幾星霜の時を経ても私をたぎらせて止まん。

ただ、そこに転がってる人間はつれていかんでよかったのか?」

「……ハッ!こっちこそ驚天動地だ。まさか言葉を話せるなんてな。こいつなら大丈夫だ。」

「無論。本来なら己の怪物性を高めるに言葉は使わぬ。

しかし、死者が相手ならば話は別だ。黄泉路の土産ぐらいにはなるだろう?」

「そりぁ中々気が利いてる。どうしても一つだけ、アンタに聞いておきたかった。」

 

ほう、とアジ・ダカーハは、意外そうな声をもらす。

十六夜は紅玉のような六つの目を直視して聞いた。

 

「お前は、何者だ?」

 

その問にアジ・ダカーハは、失笑で返した。

名だけで畏怖された存在に名を聞くものが現れたとはな。と。

 

「よもや、我が名を問うものが現れるとはな。いいだろう。名乗り上げるぐらいの贅沢は許されてしかるべきだ。」

 

アジ・ダカーハは“Aksara”と刻まれた旗を背中に靡かせて誇示する。

 

「箱庭三桁“拝火教(ゾロアスター)”神群が一柱、魔王アジ=ダカーハ。宗主より旗と第三桁を預かり今生を魔王として過ごすことを約束された、不倶戴天の化身である!」

 

ただ、その行為は無駄ではなかった。

氷草は体を修復して、万全の体制を整えられたからだ。

それに気がついたアジ=ダカーハはまっすぐ氷草を見据えた。

 

「いざ来たれ!幾百年ぶりの英傑よッ!!!

死力を尽くせ!!!

知謀を尽くせ!!!

蛮勇を尽くし―――我が胸を貫く光輝の剣となってみせよッ!!!」

 

その夜、星々が揺れた。三界を突き抜ける嵐が吹いた。

静止していた世界を廻る歯車が、激動と共に動き出した。

 

氷草は破魔の魔剣を蛇状態に代え、角杖をとりだし、巻き付ける。

 

「お主、なにものだ?」

「不死不滅の龍神さ。信仰を存在理由として必要としない本当の神様さ。」

 

右手に角杖、左手には槍。

潤いに満ちた髪が靡く度に、ダイアモンドダストが放出される。

 

「どちらかと言えば、善性の神かな?まぁ、もっと大きな区分だとしたら人間に害を及ぼす方の区分だけどさ。」

 

氷草は角杖をかかげて短く、「凍りな」とだけ呟いた。

それはアジ=ダカーハが鋭い爪を振り上げる動作をしたからだ。

純白の凶爪を防ぐために巨大な氷の壁が出現する。

余波で宮殿の残骸が吹き飛ばされ、地盤を抉るが、氷草には全くダメージも入っていない。

 

「同士のために命をかけるとかいったけど、僕たちはあなたを倒すよ。」

「ほう?私を倒そうと意気込むものが現れようとはな。しかも、私を恐れもしない。

今のうちに、そこの人間を逃がしておけばよいものを。」

「っ、んだと…………!!!」

 

慈悲を込めたその言葉に、十六夜は奥歯を噛み締めた。

万全であるにも関わらず、戦いにならないと言われたも同然だからだ。

生まれついて強いものは強い。だから弱いものは弱い。

氷草が戦えるもの、アジ=ダカーハに恐怖を覚えないのも、死ぬことがないからだ。

 

「憐れんでくれてありがとうよ。だが、まだ足掻いてすらいねぇ。」

 

十六夜は氷草の隣に並ぶように前に出る。

 

「大丈夫かい?」

「あぁ。大丈夫だ。勝つぞ。」

「うん。絶対に勝つ。だから本気を出す。

アジ=ダカーハ。悪いけど、僕のために死んでもらうよ。」

 

高らかに氷草が宣言し、角杖を地面に突き刺した。

 

「踏み越えよ!我が屍の上こそ正義である!!!」

 

突き刺した角杖の真下から、十六夜の立つ半径二メートル以外一面の大地が割れ、溶岩が姿を表す。

氷草は、溶岩の水面に降り立ちキッとアジ=ダカーハを睨み付けた。

 

「始めよう。貴様が死に果てるまで!」

 

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