箱庭・上層三桁・忉利天
蓮の花が浮かび、桃の並木道が彩る天界の門。
普段、静寂に包まれているその場に、シャランと、雅な鈴の音が響き渡る。
「久しぶりねぇ。白夜王。」
忉利天という門のまえに、一人の女性が周りと不釣り合いな、不気味な生物を椅子がわりに座っていた。
十代の少女ような肌。ウェーブがかかった美しい黒髪。
ルビーのごとき煌めきを持った瞳。
良家のお嬢様のような雰囲気をまとった女性は白夜王、つまり白夜叉が門に近づいたとき、そう呟いた。
常人なら聞こえないその声でも、白夜叉はちゃんときいていた。
忉利天は特別な門で、
三桁以上に属するものは、必ずその門を潜らなければならない。
その門は壊れていたのだが、最近やっと建て直されたのだが、
「なにようか?白痴の万物王。」
「あら、やめてよ。白痴は転生する前の体のことでしょう?私は精神体だけで転生したのよ?肉体をちゃんと持って私はここにいるわ。あんなの、脱け殻よ。」
「……やはり、氷草はお前の息子か。基本的には温厚だが、片鱗は見せていたからな。薄々気がついていたが」
「一応、主祭神級なのよね。地球の神々と違って、元々の力が違うのよ。」
「そうだな。それにお前の子供。純血の龍と一応、くくられているが…………」
「アストラルとマテリアルに囚われたままじゃいけないわね。
それに、いつまでも信仰にてよってもダメ。
宇宙誕生の力を利用してあの子達を生んだのよ?純血じゃない。
まぁ、元々17台居たけど、もう7かぁ。個性が強い子が生き残ったのね。」
白夜叉とその女性、帝白はお互い間を取り出方をうかがう。
「白夜王、私を封印とか倒すとか思わないことね。
私は少なくとも17回の世界創造をしているとも言えるのよ?太陽ごときに私が倒せるのかしら?究極の混沌を。」
「…………わかっておる。」
「ふふ、話がそれちゃったけど、伝言を頼まれてたのよ。この世界でかなり自由に行動できる権利を引き換えにね。
天軍を派遣する気はないらしいわよ。」
白夜叉は口をアホみたいに開けて帝白をみた。
天軍、つまり氷草達が戦っているアジ=ダカーハという魔王がくくられる“
それが派遣されないのだ。
つまり、下層を見捨てたことになる。
箱庭は人類史と切っても切り離せない関係にあり、箱庭の問題がどの形であれ十六夜たちがもといた世界に影響するようになっている。
だからこそ、アジ=ダカーハなどの
「下層を見捨て新しい箱庭を作るみたいね。
だから、私が自由に行動できる権限をもらえたのだし、本気みたいよ?消して自由を害さないと誓ってくれたのだし。」
「おい、アザトース。それはほんとか?お前に自由を与えた?そんな、バカな!本気で下層を見捨てたってことか!」
「そうよ。でも、下層には私の息子がいる。親バカかしら?でもね。きっと息子とお供達は倒すわ。末っ子も力を貸してるみたいだしね。」
・・
【ギフトゲーム:その身をもって悪を示せ。
主催者:竜使氷草
プレイヤー:アジ=ダカーハ
参加条件:人間もしくは人間をルーツとするもの
禁止事項
・プレイヤーの能力使用
・プレイヤーの飛行
プレイヤー勝利条件
悪を示す
主催者の完全な殺害
プレイヤーの自害
魂を捧げる
プレイヤー敗北条件
勝利条件のどれかを達成できなかった場合
禁止事項を行った場合
主催者勝利報酬
プレイヤーの眷属化
プレイヤー勝利報酬
プレイヤーの眷属化
プレイヤー参加報酬
不滅の呪い
宣誓
“竜使氷草”の名の下にこれが試練の一つであることを証明します。】
アジ=ダカーハは主催者から手渡されたギアスロールを見つめてから、手渡してきた本人をまじまじと見た。
「勝利しても負けたとしても、眷属となるとな。」
「普段は、気に入った人間に対して、身を清めるためにやるからね。箱庭の外だともっと簡単だけど。あまり長くやってると、自害から供物を差し出したくなるよ?」
「眷属化か。便利だな。それに、洗脳か?面白い。」
「普通、眷属にしたいもの以外に使わないから。」
アジ=ダカーハは、恐怖の感情が一切なく、ゲーム開始と同時に友好的な感情を見せてくる氷草に戸惑っていた。
眷属化といっても、すべてを支配されるわけではない。
反逆をあり得ると言うのに、ここまで楽しみにされるとは思わなかった。
それと同時に、己にも戸惑っていた。
覚悟も何もかもがどうでもよくなるくらい、安心感と目の前の幼龍を守らねばと思ってしまうのだ。
一種の洗脳。
アジ=ダカーハは一心に、自らの造物主を思い、それに耐えるのだった。
一方、氷草と言えばアジ=ダカーハの必死の抵抗を一切気にせず、ゲーム後のことを考えていた。
後ろで叫ぶ十六夜の声が聞こえないくらい、気持ちが高ぶっている。
「む?」
そんな氷草を現実に引き戻したのは、輝く羽と羊皮紙だった。
「あれは、空中城塞。」
氷草は遠い城塞に立てられた旗印を見る。
「どうした!」
目を凝らしていた氷草のとなりに十六夜が跳ねてきて、何が見えたのかを問う。
「“
「女王?」
「うん。」
その呟きをアジ=ダカーハも聞いていた。
それを見たものなら誰しも首を傾げるだろう。
先程まで暴虐を尽くしてきた魔王がおとなしく会話しているのだから。
それは、氷草の司るものの影響でもある。
氷草は箱庭で“豊穣”を振るってきていたがら天性のものは、“調和”。
アジ=ダカーハや十六夜にも進行形で使っている。
実際、アジ=ダカーハが守らねば。と思ったのも、行うゲームに十六夜が文句を言ってこないのも、その力のお陰だ。
周りとはうって変わって、のんびりとした雰囲気の三人の周りでも、急激な変化が起こった。
地面から突起物が立ち上がり、三人を押し上げた。
街がいきなり現れたのだ。
氷草は特殊な伝達方法で、場所を特定し始める。
氷草の目から大量の情報が、竜使の形成するネットワークに送られ、どの場所かを検索していく。
それは、何百年昔の記憶から、現代や今の景色からと氷草や兄弟、そして下位個体などの記憶の中から一つ一つ探っていく。
また、特殊な器官を使い、そのまちに存在する生命体を探る。
「ロンドンじゃねぇか!」
そう、十六夜が叫ぶと、陽気な声が聞こえた。
「ヤホホホ!その通り!この街こそ、我が故郷!我が魂の舞台!イギリス首都・ロンドンでございます!…………とはいっても、模造品ですがね。」
氷草はジャックといくつかのやり取りをし、不動で待ち続けているアジ=ダカーハの方にゆっくりと降りていく。
「ふん。開幕の華、口上を述べるくらい待ってやるのが魔王としての礼儀。」
誰に言うのでもなく、そうアジ=ダカーハは呟いていたが、その背中を射抜くような鋭い閃光が走った。
それを膝の動きだけで跳躍して避ける。
翼を広げようとして、一瞬ためらったあと、片手で塔をつかんでからだを押し上げる。
三つのうちのひとつが、上からの襲撃者を捉え、真横に跳んだ。
「ええぃ!気づかれたか!」
盛大に舌打ちを漏らし、塔の壁を足場にして方向転換をし、アジ=ダカーハに挑む。
蛟劉だ。
蛟劉は棍でアジ=ダカーハの首の付け根を殴打するが、武器の方が壊れる。
アジ=ダカーハは落下していく蛟劉を追い、物理に反した落下速度を叩き出している。
そして、アジ=ダカーハは咆哮を発した。
「姿を見せるがいい!魔王の首を狙わんとする英傑ならば、姿を見せて口上のひとつも述べてみせよ!」
それだけで、ロンドンが揺れる。
その声が、響いて消える頃に、煌々と靡く金の髪がアジ=ダカーハの視界の隅を掠める。
レティシア=ドラクレア。
それ続いて“覆海大聖”蛟魔王と“パンプキン・ザ・クラウン”ジャック・オー・ランタンが姿を現す。
けれど、それで終わりじゃない。
天から降り注ぐ羽の輝きが一際強くなる。
アジ=ダカーハはその人物にたいしては警戒していた。
「お初にお目にかかります。私は、迦楼羅天が一子・
優雅なそぶりで一礼する鵬魔王。
一つ一つに美しさを感じさせる彼女だが、その目には闘志をみなぎらせていた。
その隣で、蛟魔王・蛟劉が軽快に笑ったのを見て、アジ=ダカーハは呟く。
「おもしろい。個で郡を破れずして何が魔王か!」
能力と飛行を封じられてもなお、アジ=ダカーハは、圧倒的な覇気を身にまとい、歴戦の勇士の余裕をかき消し、慢心を許さない。
ゲームの宣誓がなされ、相対する蛟魔王、ジャック、レティシア、鵬魔王の霊格が膨張する。
宣言がなされ、アジ=ダカーハの身体を超重力が襲った。
「……ッ……!?」
「謎を解く暇を与えたらアカン!一気に畳み掛けるぞッ!!!」
眷属化のゲームを仕掛けている氷草は、微妙な気分だが、場の雰囲気を読んで氷草も攻撃を開始する。
「きたれ!黒い仔山羊!ティンダロス!」
氷草と黒き豊穣の女神の間柄は教わっただけとはぐらかしてはいたが、実際には師匠と弟子の関係にあった。
その関係をもって、何故か黒い子山羊とティンダロスの猟犬を産み出すことに成功している。
「山羊の皮は被らなくていいのか?」
「うん。もういい。僕は受け入れたから。」
蛟劉たちが前線で戦う最中、氷草は産み出した猟犬と子山羊に指示を送ってアジ=ダカーハを妨害する。
「小賢しい!」
噛みつくティンダロスを払いのけていく。
子山羊はそこそこの力があるためか、避けたり耐えたりしているものの、負傷が目立ってきていた。
「こい!万物王の息子よ!」