温厚な龍が異世界からやって来るそうですよ?   作:イェス

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№23 決着

 

「夜明けよ。」

 

最屋上のテラスで氷草の母親、帝白はそうひそうに囁いた。

帝白の膝枕で寝ていた氷草は、唸りながら目を開ける。

 

いままで感じられなかった母の暖かさに彼はまだすり寄っていたそうだったが、自分がどこにいるのかを思い出すと仕方なく顔をあげた。

 

「母さん。僕、アジ=ダカーハを産み直そうと思うんだ。」

「あら?お母さんになるの?」

「いや。卵にして受肉かな?名前は、なにがいいとおもう?」

「そうねぇ。眷属(こども)の名前なら、アジ=ダカーハからとってみたら?」

「うん。……あ、おもついた。」

「あらら、もう?何て名前なの?」

「はは、秘密!」

 

ニコッと氷草は自らの母に笑いかける。

これから命がけの戦いがあると言うのに。

いや、彼にとっては“死”というものがないため、ゲーム感覚が抜けていないのだろう。

 

「氷草。私の可愛い氷草。覚悟なさい。仲間を失いたくないのなら。それに、【歪曲の聖槍(ハイズ・スピア)】をあの子から受け取って、十六夜くんに渡してあるのでしょう?

今、仲間達がアジ=ダカーハの分体を吐き出させている頃よ。」

 

帝白の言う通り下界では何万の人員で分体を吐き出させて、本体の厚さを下げようとしている。

そのために、いくつもの犠牲が伴おうとも、アジ=ダカーハを倒さねばここは終わる。

 

「さ、皆のところに行きましょう。」

「うん。」

 

皆、つまり主力メンバーのところだ。

空中城塞の橋から地上を見下ろしている。

主導権こそ握ってはいるが、予断を許さない状況。

主力は最終戦の為力を温存させなくてはならない。

 

「来たか。氷草。万物王。」

「えぇ。戦況はどうかしら?」

「まずまずってところやな。」

「……なぁ、万物王。ひとつ聞きたいことがあるんだが?」

「あら?なにかしら?」

「あんたならあの蜥蜴、倒せるんじゃないのか?」

 

蜥蜴?と数秒考えてから、彼女はアジ=ダカーハのことだと理解する。

帝白はクスクスと笑い十六夜の質問に当然のことを言うように「できない。」と帝白は返す。

 

 

「あれは、いつだって人間に殺られるのを望んでいるのよ。勇者にやられる未来をね。」

 

十六夜は呆れたように肩をすくめた。

 

「勇者か。

なら、それは俺じゃないんだろうな。氷草か?」

「十六夜。忘れてるようだけど僕人間じゃないから。」

「そういや、そうだったな。」

 

 

ヤハハ、と軽く笑ってから十六夜は真剣な顔をして、氷草と向き合う。

すこし落ち込み気味の十六夜を氷草はどうしたのだろうか?と思いつつも。黙ってしまう。

 

「“原点候補者”か。」

「なにそれ?」

 

聞きなれない言葉に氷草が聞くと、十六夜は少し考えてざっくりと話す。

 

「卵が先か、鶏が先かの代理ってやつだ。

さしずめ俺が人間代表なんだろう。」

「……すごいじゃん!代表なんだね。」

 

いまいちよくわかっていない氷草を見て、十六夜は少し笑ってから氷草に呟く。

 

「何で俺なんだろう?」

 

その呟きに氷草は、一瞬目を丸くし、すぐに中二病患者を見るかのような視線を十六夜に向けた。

が、少し考えてからまるで暖かく見守る親のような視線を十六夜に向けた。

 

「珍しいね。緊張してるの?」

「そりゃあ、するだろ。」

「あ、クッキー食べる?」

「ヤハハ、面白いことを言うな。」

「はは、流石に冗談。

だねど、主戦力はずっしり構えてないと。下で戦ってる人達に余計な心配をかけたくないでしょ。

『最終決戦は任せろ。だから頼んだ。』ってね。僕らは役割分担して皆で一緒に敵と戦ってるんだから。あまり深く考えない方がいいよ。」

 

氷草自体、下界の惨状は痛いほどよくわかる。

眷属が次々死んでいってるのさえも。

氷草は、どうしたものかと供給エネルギーを追加しようとして、母たる帝白に止められた。

 

「氷草。あなた、流石に死ぬわよ?無理にしようとすれば、すぐにお腹の炎が切れるわ。」

「はい。」

 

なら、なんの燃料を使って煉獄の炎を燃やそうかとかんがえていると“鮮血の瞳”の傘下のノーネームの青年が駆け寄ってくる。

彼は、蛇の血縁を組んでいるコミュニティーの長だ。

かれは“鮮血の瞳”幹部達に人気がある。

理由は単純に、爬虫類系列のコミュニティだったからだ。

“鮮血の瞳”は氷草の意向にそって平等にその地位にあった対応をと心がけているが、爬虫類贔屓は強い。

“サラマンドラ”に氷草が手を貸したのも、亜竜なれど、同じ爬虫類だからという理由もある。

 

「氷草様!ジャック様が!」

 

その言葉を聞いて、表情からかなり不味い感じと受け取り氷草は城の中に入っていった。

 

・・

 

氷草が駆けつけたときリリが一生懸命ジャックを戻そうとしているところだった。

 

「氷草様、もう大丈夫なのですか?それによくオレだって……」

「うん。魂がジャックだったから。戻ろう。このままじゃ死ぬよ。人型だから余計かかるんじゃない?飛鳥は、楽しみにしてるんだ。ハロウィーンをやるって。そこにジャックを呼びたいんだよ。道化師ジャック。」

 

道化師というフレーズにジャックは自嘲するように笑う。

 

「……氷草様には話していませんでしたよね。氷草様、(オレ)は殺しました。年端もいかない子供達、幼い赤子でさえ。大義のためでなく己の創作意欲を満たすためだけに。」

「創作意欲。」

「母恋し、父恋しと泣き叫ぶ幼子の腕を方から切り取ってアーチを作り、死面の張り付いた頭蓋骨を並べてシャンデリアを吊るし、彼らの断末魔を子守唄のようにして眠りを得ていた。

それが、私の原点だとしても、私を道化と呼べますか?」

 

氷草は、言葉を失った。

その悪辣極まりない所業についてもそうだが、彼のかたるジャックという人間像は彼からはとても想像できなかった……と理由ではなく、ただ単純に

 

(趣味悪っ!)

 

と、ドン引きしていた。

 

(えー、自分は悪道にいきるアウトローな妖怪とか悪魔とかのこじらせちゃってるやつと同じ趣味じゃん。まだ、骨だったらホラーアピール?理想に忠実なんだー。とか女の子の露骨なリボンやフリルの部屋に対するようなノリで行けるけど、流石にこれはない。)

 

そもそも、考えると基準と常識が違った。

氷草が考えているものじゃ、他に聞いたやつらとは雰囲気が違う。

他のやつからしたらサイコホラーものだが、氷草からすると、マグロの尾やひれで作ったアーチとカマで作ったシャンデリアを見るような目線。

サイコ以前に心の病気を心配して心のお医者さんを紹介する代物なのだ。

 

(狂気の沙汰だ。病んでたんんだね。)

 

氷草の不安げな視線にジャックは話を続ける。

氷草とジャックには、闇よりも深い考えの違いの溝による盛大な行き違いが生じているが、二人は気がつくことはできない。か

 

「私の拭いきれない鮮血の過去でございます。」

「……(鮮血の過去?友達に自慢したらボロクソに言われたのかな?)」

「私に騙された聖ぺテロは私を無の境界に落としました。生もなければ死もない、光も闇もない無限の宇宙に。」

「……うん。(ぺテロGJ。デザインセンス、超高くなってるよ!)」

 

氷草は、勝手に悪趣味だった過去があり、それが後ろめたく道化としていられない。と思っている。

だから、氷草は先日まで中二病に酔いしれていた元中二病患者を励ますように、肩を叩いた。

 

「ジャック。誰しも通る道だよ。安心して、この前来てた妹はその道を極めて腐らないゾンビを開発――」

「なっ。」

 

ジャックは小さく驚きの声を上げた。

一体何を聞いていたのだと目を見開く。

彼の口から出てきた言葉は、それほどまでに予想外過ぎた。

ジャックは、氷草であるなら激昂し焼き殺されるだろうと覚悟していたからだ。

仮にいまここに子供達以外のノーネームがいるとするなら、鮮血の瞳の同士がいるとするなら、あの夜を思い出すだろう。

 

それは、氷草が箱庭に来て間もない頃、ガルド達に捕らわれてい人質の現状について報告があったとき。

 

『彼らにはコミュニティ拡大にともない、非道な行為がありまして……その……子女を……その。』

 

と、ギルド長たるオウルがどもっていたのだが、それにたいして氷草は、ケロットした態度で、食ったのか?と問い、オウルが残念そうに肯定すると、

 

『そっか。名をあげるチャンスって訳か。』

 

氷草からしてみれば、目の前でやられなければいいし、親しかったり大切に思ってるやついがいが殺られるのなら別にいいと思ってる。

元々氷草の種族は人間を食べるので、しっかり区別して生きているのだ。

周りからは博愛と担ぎ上げられているのだが、根本的に人間と暮らしていて、食べてしまえば区切りがつかなくなってしまうのでは?と恐れているだけ。

それに見えないところで危機に陥っている人がいても、目の前の些細な不便を抱えている人を助けるし、テレビの向こうのストリートチルドレン等にも、『あぁ、あの国に生まれて不運だったな。』ぐらいにしか考えないが、自分の身近になると、宝玉を使って水源の力を増幅させたりと様々な恩恵を与える。

 

だからこそジャックの昔に関しても、怒りの感情は抱かず、ただただ悪趣味だった。という印象しか残らなかった。

たから、いくらジャックが己の行った凄惨な物事を語ったとして、氷草からしてみれば過去にやらかしてしまった中二で痛いエピソードを悔やんで語っている程度にしか思わない。

博愛故にそうとしか思わない。

もしも、彼の双子の妹、彼女は愛憎を司っているが、その彼女が聞いたなら激昂し焼きつくすだろう。

人間の分際で生意気だ。等と言って。

 

「氷草様、それは、」

「うんうん。」

「まるで、私に罪がないと聞こえるのですが?」

「へ?なにいってるの?生物が同種の子供を殺すことがなんの罪になるの?そんなこと、ライオンもイルカもやるよ?」

「私は、幼子を――」

「あぁ、今になって辛いんだね。

……僕はね、生物の言葉がわかるんだ。はっきりとね。

だから、食べる生物が殺されるときの断末魔だって活け作りの魚の声だって気付かず踏んでしまった無視の声だって聞こえる。

しらすの踊り食いをしたときなんか――ジャック?」

「貴方は、幼子を殺した私に罪はないと?」

 

その言葉に氷草は、眉を潜めた。

ジャックは幼子を殺す私を許すような、無慈悲な神なのですか?と聞いているのだから。

 

氷草は信仰の必要がない神だ。人間がいなくなったら不便という理由で加担しているのだ。

氷草こそ言わないが、他の兄弟は「神様だからってすべてを救うとは思うなよ?」と言い張るものもいる。

氷草も無意識にそう思っている。

だから、目の前の罪を背負っていると言われたがっているジャックが不快でしかない。

 

「ジャック、何でこの僕が君たち主観の善悪にとらわれなきゃいけないの?下等生物は黙っていてね。」

 

にこりと笑って見せた彼は、ジャックを担ぎ上げる。

氷草は、無意識に塞いでいたリリの耳を離して

 

「リリ、ジャックはもういいよ。他の人をお願いね。」

「え?はい!わかりました。」

「それと、カグチだったかな?ご苦労様。これから忙しくなるだろうから、倒れない程度に頑張ってね。」

「は、ハイッ!」

 

 

 

「……よろしいので?」

「別に?無礼なカブひとつ失ったっていいもんね。せめて最期は華々しく飾りなよ。不死性抜けて、そんな傷じゃもう永くない。」

「永く……ないですか。ヤホホホ。」

 

ジャックを見ていた氷草に、祈る声が聞こえてきた。

マンドラだ。

 

【どうか、もっと力を!この体がなくなっても構わない。せめて、せめて、残る同士を守れる力を!】

 

その声を聞いてすぐに駆けつけたかった。

 

「飛鳥、ごめん。勝手に分配させてもらうよ。

おい!誰か!アジ=ダカーハの分体を捕獲しもってこい!」

 

氷草は、世話役につかせている眷属にそう命じた。

氷草は、はや歩きで十六夜のもとに向かう。

 

「お?どうした?」

「ちょっとね。

“出よ!仔蛇の達よ!”」

 

彼は、空中に門のようなナニかを出現させるとボタボタっと真っ黒な蛇が出てくる。

出てくるというより、生まれ落ちたが正解だろう。

 

「っ!氷草様?」

 

門のようなナニかを閉じると、氷草は勢いよく咳き込む。

体力を一気に消耗したかのように崩れ落ちる。

 

「はぁ、はぁ。大丈夫。」

 

肩で息をする氷草をジャックがそっとさえる。

そんな彼のもとに眷属が慌ててやってきて氷草に、アジ=ダカーハを彼に差し出した。

暴れる双頭竜の首根っこに彼は噛みつくと、何やら飲み始めた。

 

「ぷはぁ!ご苦労様。いいよ。ありがとうジャック。……ジャツク?」

 

礼を言った氷草だが、ジャックの様子がおかしいことに気がついて首を傾げた。

 

「氷草様、さっき仰っていられましたよね?せめて最期は華々しくと。

もう助からぬならば、せめてこの命の限りを尽くしたい。

私は、魔王に落ちても構わない。」

「………。」

 

氷草は、静かにジャックを見つめた。

覚悟している目を見て、少しだけ笑って見せるとジャックの頭を鷲掴みする。

 

「ジャック。僕の使ってない神格と神性を、魔力と通力を貸し与える。うまく使ってくれ。」

「……はい!」

 

ジャックは両腕に力を込めた。衣服や髪、瞳を炎上させ刑を受けている地獄の罪人のような顔をしている。まわりに氷塊が浮遊しガラスのようにキラキラと光を反射している。

 

「ジャック。契約は成立した。死後お前は僕らの裁判を受ける。違えるな。なんがため、魂の代わりにその力を受け取ったのか。」

「ヤホホ、分かりました。

氷草様。最期にひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なに?」

「愛がなければ生まれてきてはいけませんか?」

「生まれてくる権利は平等だよ。」

 

・・

 

氷草は、十六夜達のところに向かうために眷属に双頭竜を処理するように命じた。

ジャックとアジ=ダカーハの戦闘が遠目ながら見えていて、もうすぐジャックの体が壊れてしまうことも氷草にはわかった。

けれど、止めには入らない。救いは与えない。

魂の代わりに力を貸し与えた。

最期は華々しくあれ。己のいい放った言葉だ。

彼は、己の神格を受け止めきれた事に驚いていたが、うまくはないものの、末端を制御していることにひと安心していた。

 

元々消耗しきっていた体に鞭を入れて立ち上がっていたのだが、氷草の力という猛毒によってマイナスまですり減らされた体はもう持たない。

流れ星のように尾を引いて光の粒子になっていくジャックを見つめながら氷草は、笑った。

 

「次世に幸あれ。」

 

もう、ジャックの姿が見えず、心臓をむき出しにしたアジ=ダカーハしか見えていなかった。

己のもとに貸し出したものが帰ってくると知ると、力の引き換えに取り出したジャックの魂を丸飲みした。

 

そのまま氷草は十六夜の隣にたつ。

 

「ジャック、この大馬鹿野郎が…………‼」

 

十六夜はジャックを糾弾する。

その声を氷草の腹の中のジャックが申し訳なさそうに動いていたのを感じてそっと胃の辺りに手を当てた。

 

「最終作戦決行だ。今度こそあの魔王を仕留める。」

 

十六夜は【歪曲の聖槍(ハイズ・スピア)】をしっかりと握りしめて立ち上がった。

場には、龍に姿を変えた蛟劉とレティシアがいる。

その姿を見て、氷草は龍の姿となる。

ベースは人だ。y型の角を生やし、腕には鱗が見えている。

 

「最適化。これが最適化か!アジ=ダカーハ。僕は人類を終わらせる気はない。」

 

真っ直ぐ氷草はアジ=ダカーハのもとへ向かう。

 

「来るがいい!英傑たち!幼龍よ!そして踏み越えよ!我が屍の上こそ正義であるッ!!!」

 

氷草は、隠していた霊格や神格などすべてを解き放つ。

氷草はアジ=ダカーハに蹴りを入れる。

それをアジ=ダカーハが両手で受け止め、ブレスを浴びせる。

氷草は風を起こしてブレスを掻き消す。

氷草はアジ=ダカーハの首筋に噛みつくが、すぐさま振り払われる。

氷草のゲームによりアジ=ダカーハは空を飛べないが、経験差がハンディを覆い隠していた。

氷草に合わせるようにレティシアと蛟劉が攻撃するが、うまく入らない。

そしてやっと、やっとレティシアがアジ=ダカーハを拘束する。

 

そこで彼は、新手を感知する。

 

「この気配、天使?いや…………違う!ナニコレ?」

 

氷草が辺りを見回すと、城砦方面の上空に羽を振り撒きながら飛行する真っ白いナニかがいた。

 

「あ、不味い!」

 

その呟きを聞き、龍となっている蛟劉が反応する。

 

「あの距離、間に合うかどうか……。」

「大丈夫。僕が跳ぶ。」

 

氷草は角杖を取り出すと、距離を計るように掲げた。

そして破魔の魔剣を蛇形態から剣形態にしてから、空間跳躍をはかる。

今の氷草なら確実に跳べた。

 

そして、天使のようなものに斬りかかる。

 

「【魔力付属:侵食する闇】」

 

破魔の魔剣に元々対魔物属性がついていて、目の前の天使擬きを切断することができる。

が、再生していく。

氷草は、天使みたいだ。と思いながら冷静に追撃するため角杖を振るう。

 

「GA…………RE……WE――WEEEeeeeee」

「うるさい。黙れ!」

 

氷草は目の前の天使擬きの口を凍らせる。

だが、切断した部分は再生しきっている。完全に再生した天使擬きに舌打ちしてもう一度破魔の魔剣で斬りかかる。

 

「凍れ。【宇宙の温度】」

 

今度は切断面を凍らせる。

 

「【石化】【詠唱破棄:心臓停止】【詠唱破棄:深淵の息】凍れ、【局所の冬】」

 

天使の翼を石化し心臓を停止させ肺を水でみたし肺を凍らせる。

 

それは空間跳躍をして氷草の背後に回ろうとするが、氷草はそれさえも感知してそれの後ろに転移する。

氷草は空間に氷塊を出現させるとそれを踏み台に力を込めて天使擬きに魔剣を突き刺す。

そして力任せに魔剣を下ろす。

下ろすと同時に角杖を頭に突きつけ魔術をはなつ。

 

「【窓の創造】こいっ!【変幻:ダークエネルギー:光線】」

 

天使擬きに向かって光線が放たれる。

氷草は光線を大きくし天使擬きを完全に飲み込んだ。

気配を探り、完全に天使擬きが消滅したことを確認して氷草は、安堵の息を漏らす。

 

氷草がアジ=ダカーハの方をみれば、ちょうど黒ウサギが上から疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を投げるところだった。

 

「我が一族の敵!此処で晴らします!穿て――疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)‼」

 

それに合わせてレティシアがアジ=ダカーハを上に投げる。

アジ=ダカーハは無理やり拘束を解き放って避けた。

 

その直後、アジ=ダカーハに二つの槍が突き刺さった。

 

「はは、終わった。人類最終試練(ラスト・エンブリオ)をクリアした!」

 

ひとつは黒ウサギが放った疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を十六夜が地上で受け止め突き刺したもの。

もうひとつは、十六夜に渡していた歪曲の聖槍(ハイズ・スピア)

アジ=ダカーハが疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)に気を取られている好きに十六夜がアジ=ダカーハに向かって歪曲の聖槍(ハイズ・スピア)を投げて、直ぐに疑似神格・梵釈槍(プラフマーストラ・レプリカ)を受け止めて突き刺したのだ。

 

幻の街、ロンドンが砕け散る。

氷草は十六夜とアジ=ダカーハの近くに降りるとにこりと笑った。

それと同時に契約書類(ギアスロール)が舞い落ちる。

 

誰しもが、新たな魔王の出現かと恐怖したが、それは違う。

 

「おめでとう。アジ=ダカーハ。ゲームクリアだ。」

 

【ギフトゲーム:その身をもって悪を示せ。

上記のゲームがクリアされたことをお知らせします。

勝者:アジ=ダカーハ。

達成条件:悪を示す

主催者(ホスト)は速やかに恩恵の授与に移行してください。】

 

「我を生かしておいてよいのか?」

「ふふ、生まれ変わってもらうよ。さすがにね。」

 

「ふむ。少し時間をくれ。」

「うん。わかってる。」

 

アジ=ダカーハは三つの頭で別々のものをみる。

心臓を貫いた槍と心臓の大動脈を貫いている槍。満身創痍の主催者。

 

「ふむ。…………やられたぞ。まさか、まさか第六宇宙速度で飛翔する槍を受け止めようなどと考える大馬鹿者が実在しようとはな。それにもうひとつの槍を投げてからとは。」

 

穏やかで、晴れ晴れとした笑顔を“勇者”逆廻十六夜を向ける。

死んでいたかもしれないものを、勇気をだし受け止めた。

これが勇者と言う以外何があるものか?

 

「……っ……。」

 

アジ=ダカーハは心臓に突き刺さった槍をもつ手をみてから、最後の加護を授けるように手を握りしめる。

 

「…………恥じることはない。知らぬなら此処で学べ。()()()()()()()()()。」

「そんな。違う。」

「違わぬ。恐怖に震えてもなお、踏み込んだ足。忘れるな。()()()()()だということ。」

 

違うと駄々をこねる十六夜の頭をアジ=ダカーハはひとなでして氷草をみた。

 

「もう、幼龍の片鱗を受け取ってしまうとはな。幼龍、お前が何者か、どの宇宙観かと思っていたが、お前が()()か。先程、マクスウェルとの戦いではじめて知った。」

「うん。さすがアジ=ダカーハ。確かに僕は宇宙だよ。詳しいことは母さんに聞かなきゃいけないけど。僕の成分は放射成分と物質成分とダークエネルギー成分だ。それこそ、エネルギーの塊。純血龍さ。」

 

アジ=ダカーハをオレンジ色の炎が焼いていく。

純白の総身、三首、紅玉の瞳。

そのすべてが焼かれていく。

焼かれて灰が積もっていき、やがてオレンジのウロコ模様のついた卵が残る。

深紅の布地の“絶対悪”の旗印は、元々の旗印、少女と丘の旗印のものに書き換わった。

 

氷草は卵を大事そうに抱える。

それと同時に、隕石でも落ちてきたかと勘違いするような大歓声が起こる。

生き残ったことをよろこぶものもいれば、喪った仲間を悼み涙するものもいる。

 

そして、悔し涙を流すものも。

 

「違う。違うんだ。アジ=ダカーハ。」

 

この意味を知るのは、その場に立ち会った者だけだ。

蛟劉が十六夜の隣に降り立ち優しい声音で十六夜に語りかける。

 

 

「それでも君は勝った。今はそれでええんよ。」

 

蛟劉の、その言葉に卵が少しだけ反応し氷草は笑う。

そして、崩れ落ちてしまった十六夜に手を差し出した。

 

「十六夜。ほんとにありがとう。アジ=ダカーハは気にしてないよ。」

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