“風浪の鉱山”六本傷の宿。
秋雨全線が過ぎ去り、少し肌寒くなり始めた地域。鉄を打つ音がずっとなっている鉱山の一角の宿に氷草たちは止まっていた。
アジ=ダカーハとの戦いから三ヶ月がたち、
戦没者の追悼式や戦後処理を終えた後、新たな活動を始めるために東側の土地に足を運んできていた。
「キュイキューイ!」
一ヶ月ほど前に生まれ変わったアジ=ダカーハは今はロティという名前を与えられて氷草の眷属として暮らしている。
ロティが寝ている氷草の上で飛び跳ねて氷草を起こそうとするが、氷草が寝返りをうっただけで吹き飛ばされてしまう。
(おのれ。ようりゅうめ。われをふきとばしおってからにっ!)
若干アジ=ダカーハ要素が残っているものの、ロティは完全に氷草の眷属になっているためおとなしい。
容姿は白いままだが、三頭龍が一頭龍になり、赤ちゃんドラゴンのように丸みを帯びたボディだ。今は黒ウサギに並ぶ“ノーネーム”のマスコットキャラクターだ。
「キュイキューイ!(自らのコミュニティを放り出してここで惰眠をむさぼる気かっ!)」
“鮮血の瞳”に関して氷草は、トップで鮮血の瞳のは絶対服従なのだが、外の宗教と同じく時々“神の言葉”を囁きにいったり“祝福”をしたりするものなので、放置で構わない。
「キュイキューイ!(それ以前にはらがへったぞっ!ネグレクトか?いくじほうきか!)」
氷草の種族は基本育児しない種族だ。
元々抱卵もしないし、胎性だとしても生んで、後は自由に生きてねっ☆となる。
氷草は地母神という影響で、抱卵まではした。
人間に馴染んでいる者や下位個体などは育児をするものの、氷草は天界生まれの天界育ち。
これまで最上位者として下位個体に育てられてきたのだ。やり方はしってはいるが本人のやる気次第。幸いロティは氷草の血が少しだけ入っているため龍脈や自然の流れからエネルギーを得て餓死を免れているものの、育ち盛りには足りない量だ。
「うん?ロティどうしたの?遊びたいの?」
「キュイキューイ!(ハラヘッタ!)」
氷草の種族はありとあらゆる生物の言葉を理解できるが、ロティの声は赤ちゃんの鳴き声と一緒なので氷草は、わかっていない。
「ほら、ロティビー玉!」
「キュイキューイ!(はっ、きれいってそうじゃねーよ!)
キュイキューイ!(ほんのうにはんのうさせやがって!メシメシ!)」
ドラゴンの【財宝を集めたい】という本能を刺激させられるビー玉を前に、腹が減っているロティだったが、ビー玉を氷草に返して飯を要求するが、ロティは言葉を喋っているのではなく赤子の鳴き声と同じ声を発しているので、氷草はわからない。
また、氷草と共に箱庭に来ていた月亭は元の世界に役目を終え帰ったので、氷草にアドバイスをする人物は居なかった。
「……もしや。」
「キュイキューイ!(やっとつたわったか?)」
「ビー玉じゃ、ダメだっていうのか?」
「キュイキューイ!(ちげーよっ!ちがくないが、ちっげーよっ!)」
えー、じゃあ宝玉?と悩んでいる氷草に、ドアをノックする音が聞こえた。
「氷草起きてる?」
「起きてるよー。」
昨日はなんやかんやあって、氷草は御門釈天
なる人物と出会い、超高速鉄道を同盟で作るという話し合いをして疲れていた。
「入るぞ?」
「うん。いらっしゃい。帝釈天。」
扉を開けて入ってきたのは帝釈天その人だ。
降天という氷草からしたら訳のわからないことをする彼は、人間になっているらしく東洋系の顔立ちのブランドスーツを着ている。
彼と初めてあったとき、瞬間自らの兄と見間違えた。しかし次の瞬間には、『兄はこんな残念な雰囲気でないしもっとイケメン。それに若い。』と思いだし果敢に挑んでいった。
二人が仲良くなった理由は、黒ウサギを氷草が助けたからである。
ちなみに黒ウサギは運命なのか、帝釈天とまだあっていない。事情を話しているため、いることを知っているが、うまく噛み合わず会えずに居た。
哀れ。黒ウサギ。
「アジ=ダカーハも可愛くなったな。」
「うん。
けど、今の時期は僕でも何をいってるか解らなくて困る。早く喋れるようになってほしいんだけどね。」
「……どういうことだ?」
「えーと、赤ちゃんの鳴き声?かな?伝えたいけど言葉に出来ないってこと。」
「考えを読めないのか?」
「うん。言いたいことは纏まってるんだけどね。例えるなら、滲んで読めない字って所。」
ロティを抱き上げて取り敢えずどこからか取り出した謎肉を与える。
「で、本来の目的は?」
「十六夜のことついてだ。あいつは何者だ?お前はわかるんじゃないか?お前たちがトップの箱庭が観測できない世界のことを教えてくれ。」
その言葉に氷草は、黙ったまま帝釈天を見る。
「僕たちの世界に坂廻十六夜という人物は存在しなかった。そして恩恵から逆算して探しても……だ。」
「なに?」
「そもそも“ここみたいな箱庭”さえも存在していないしね。」
「“ここみたいな”?」
「僕は、本当に世界の外からやって来た。
箱庭のルールに縛られていないんだ。まぁ、守るけどね。きっと母さんもルールにを守って――って、ここでおしまいだ。十六夜たちが来た。」
「さすが、事実上一桁親子だな。」
「はは、持ち上げすぎだよ。」
「実際、やろうとすれば大体できるだろ?“混沌”極振りだろうに。」
謎肉をもう一度ロティに渡して氷草はドアを開けた。
「よぉ、氷草。脱皮は終わったか?」
「おはよう。不全もなく快調だよ。艶と張りが増してるだろ?って、御門もいるのか。」
扉の前に立っていたのは十六夜と黒ウサギ。
そして飛鳥と人の姿をしたアルマティア、そして耀だった。
「いらっしやーい。あ、十六夜そこの肉食べないでね。」
「ロティのエサだからか?」
「カニバりたいなら別にいいけど?安心安全の牧場産さ。実家からのもん。僕は食べてないよ?」
「……文化の違いだよな。」
「殴らないの?」
「あぁ。文化の違いだ。食べるために殺すのなら俺達も同じことしてるからな。」
「ふーん。じゃっ、こっちの謎肉ジャーキ食べる?」
氷草の発言に真顔で十六夜が拳を振り上げたので、慌てて彼は弁解をのべる。
「待って!待って!この謎肉はカニバらないものだから!ダイスミンチだからっ!」
とっさに帝釈天を盾にして対抗する氷草。さすがになんも関係のない帝釈天をルイオスのようなのりで殴ることができない十六夜は拳を下ろした。
一方、ロティといえば、やっとありつけた肉を大量に食べて満腹の状態だったのに、カニバってた事実を叩きつけられ、呆然としていた。人間じゃないので全然カニバってないのだが。
「これからの事について話し合いたいんだけどいい?」
耀がそういうと帝釈天が「俺も混ぜてくれ。」と口を出してきて、取り敢えず氷草がとっている部屋で話をすることになった。
「今の“ノーネーム”は長らくリーダー不在の状態です。これによって滞っている執務が多くあります。一番大きい案件は新たに加盟したいという申し出を、本来“鮮血の瞳”の主祭神、氷草様に請け負ってもらっていることです。」
「でも、氷草くんじゃなくてちゃんと“同盟主”の“ノーネーム”の誰かがやらなきゃいけないの。」
アルマティアの説明後、耀がハッキリとそういう。
その発言から、“新しいリーダー”を決めるという事が、言葉にしなくとも他の四人にも伝わった。
「僕は同盟の“鮮血の瞳”の主祭神。ノーネームじゃ、リーダはできないよ。」
「うぅ、そうなのでございますか?なら、お三方となりますが。」
黒ウサギがチラリと十六夜、飛鳥、耀を見る。
三人とも氷草に押し付けようと思っていたらしく顔をひきつらせてる。
「君たち僕に押し付けようとしてたでしょ?」
目をそらした三人に、帝釈天が救いの手を伸ばした。
「ん、なら耀ってこうめいの娘だったか?“ノーネーム”のリーダーの娘なんだろ?」
「……そうなの?」
「たしか、春日部でございましたよね?……あ。」
「あら、なら春日部さんで決まりね。」
「やはは、なら仕方ないな。」
「む、むりむり!そんな。」
どうにかして誰かに委せたい耀は、まず氷草を見るが、氷草は真っ先に四桁コミュニティーの名前を出してきたので無理だ。
耀が飛鳥を見た。飛鳥は与える側。先の大戦でも指揮をとっていた。
「あ、ダメよ。私は一時的に独立して外界に飛ばされた“ノーネーム”の同士を探しに行くのよ。黒ウサギには話したけど、私の血筋にはいろいろね。それに、昨日のギフトゲームで双子の姉妹とやっと会えたの。私はもっと強くなって帰ってくるわ。」
「外界って、時間かかるんじゃないの?なんだっけ?なんか時間が交差するあれとか、そもそもどこにいるかもわからない同士を探すんだよ?」
時間がかかる。
その氷草の言葉に飛鳥が頷く。
仕方なく耀は十六夜を見るが、十六夜も首を振った。
「俺はこの箱庭を旅する。」
「「「なっ!」」」
氷草、飛鳥、耀が声を揃えて驚く。
黒ウサギは分かっていたような顔をして大きくうなずいた。
「それはどうしてだい?冒険心?」
氷草が真っ先に十六夜に疑問を投げ掛けると、十六夜はまっすぐ氷草を見て、「オマエならわかるんじゃないか?」と言った。
氷草自体予想はしていたが、頭の良い十六夜はすでに答えを見つけ出していると思っていたためあえて言わなかったが、十六夜が未だに悩んでいるということを聞いて氷草は俯いた。
「そうか。気がついて悩んでるんだね?」
氷草の言葉に耀も飛鳥も何を言っているかがわからないようだ。
ただ、アルマティアと黒ウサギ。そして帝釈天が氷草と同じく俯く。
「キュイキューイ!」
ただひとり、いや一匹。十六夜に声をかけるものがいた。
アジ=ダカーハ本人だ。
「アジ=ダカーハ……いや、ロティ。」
「悲しいかい?敵うはずがないのに殺してしまって。」
「ああ。そして申し訳なく思う。あれは不当な手段だ。俺はただ、功績をもぎ取っただけだ。」
「なら存分になやむと良いよ。悩んで悩んで答えが見つかったとき帰ってきな。そのときは命は賭けないけど、本気の勝負を僕のロティとすれば良い。
十六夜が生きてる限りそれができるんだから。」
「……そうだな。そのときはよろしくな。ロティ。」
「キュイキューイ!」
そうして、無理矢理“ノーネーム”の新党首が決まった。
ノーネームの面々が本拠に戻って一週間ほど
飛鳥は等々に旅立つといい、旅だった。
月亭が等々にいなくなってしまったことも重なって、コミュニティーの子供達はえらく寂しがっていた。
そしてその一週間後、十六夜が誰にも言わずにいなくなってしまった。
「氷草様。」
「僕も耀も居なくならないよ。リリ。」
「キュイキューイ!」
「はい。氷草様。ロティちゃん。」
リリを彼が励ましていると、耀が角から怨めしい声を出してボソッと呟いた。
「氷草は良いよね。重圧なくて。」
「僕だって悩みくらいあるよ?末っ子がばら蒔いたギフトゲームを回収しなきゃいけないし、死んだはずの兄弟がいてどうにかしないといけないし。」
「どうにかって?」
「始末だね。」
「……え?」
「耀は心配しなくて大丈夫だよ。僕がずっと逃げてきた事。成長のときってやつだ。」
「氷草は、まだ成長するの?」
「うん。当然だよ。僕ってまだ3才児ぐらいだから、成長期来てないし。」
「氷草君って化け物じみてる。」
「耀ひどくない?これでも僕は――」
「知ってる。純血龍でしょ?」
耀がクスッと笑うので、氷草はとびきりの笑顔を耀に向けて、
「温厚な龍として定評のある神話生物の竜使氷草だよ?」
「でも、氷草って存在感が人間と似てるよね?」
「ちょっと!そこはうん。でしょ?それに僕が龍って見られないのは、“能ある鷹は爪を隠す”ってやつだからね。ロティもいってやってよ!」
「キュイキューイ!」
・・
氷草の出身地“天界”
氷草が箱庭で楽しく日常を過ごしている頃、母帝白と四男がお茶をしていた。
「はじめましてよねぇ。私のかわいい幻夜ちゃん。そのうさみみかわいいわよ。」
「……これはデバイスだ。」
「それにしてもうまくやったわね。」
「……母さんは気がついてたか。」
「それとなく末っ子から情報が入ってたからね。」
四男、幻夜はコーヒーを一口飲むと、ひとつため息をして母、帝白を見る。
「母さんが戻ってきたなら、必要なくなっちまったからな。手間かけ損ってやつだ。
あのバカ兄貴は性根叩き直してこいってとらえていたから良いがなぁ。」
兄弟間で、王位継承争いでちょっと邪魔だから箱庭に送り込んでだが、根本的な解決をもたらしてくれた異界にいる氷草を恨めしく思った四男。
「拗ねないの。今度現夢と一緒に遊園地に行きましょう?ナニレンジャーだったかしら?レンジャーショーやるみたいだし。」
「俺、そんな歳じゃない。」
「あら、まぁ。時間がたつのって早いわね。それから、あなたも箱庭に行ってみましょ?」
「箱庭に?」
「えぇ。驚かしてやりましょう。あの子のを取り巻く状況が、もう少し落ち着いてからね。」