白夜叉とのゲームを終え、半刻ほど歩いた後、“ノーネーム”の居
住区画の門前に着いた。
門には旗が掲げてあった場所が割りと鮮やかに残っていて、周りとの色の差がまだあった。
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので………。」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい。」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら?」
躊躇いながら門を開ける黒ウサギ。門の向こうから砂塵がやって来てそれをやり過ごした四人の視界に入ったのは、一面の廃墟だった。
「命がなくなってる。」
そう、氷草は呟いた。
豊穣と呼ばれるようになって、恵みなどを感覚としてわかるようになっていた彼は、ぐるっと敷地内を見渡した。
龍は天候も操れる。氷草は手のひらサイズの雨雲を産み出して雨を降らせてみるが、大地を削るだけだ。
「ミミズはおろか、微生物もいない。腐葉土も作れない。」
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは――――今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます。」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった町並みが三年前だと?」
「十六夜、別に不思議なことじゃない。こんなことをしてきた愚者ならたくさんいるらしいから。」
「いるらしい?お前は見てないのかよ。」
「見てないけど、見せてもらった。」
「?」
氷草の言葉に疑問を持ちながらも十六夜は建物にさわる。
「黒ウサギ、コレを直すにはどれくらいかかると思う?」
「……数あるギフトからそれらしいのを見つければ簡単でございますが、それまでが大変なのでございますよ。……?氷草様?その雨雲はなんでございますか?」
黒ウサギが氷草のつかんでいる真っ黒な雲を指差す。
氷草は黒ウサギに向けて雨雲を飛ばした。
「龍だから。一応最強種の最高峰族だし。これくらいできて当然なんだ。
……でも土の中に生物が全くいないし、死んでるから削るだけ。」
「わかるのですか?」
「“ネイチャーフェイス”っていうギフトでね。」
「それって自然顔ってこと?」
耀が直訳を聞いてくるが、そこに十六夜が否定の意を唱えながら建物から離れてやってきた。
「自然はあってるが、フェイスは顔のFaceじゃなくて、信仰とかのfaithの方だろ?カタカタにすれば同じだが、発音はスが違うあれ。」
「そう。自然信仰。知り合いの豊穣の神に豊穣をそれっぽく教わったことがあったから、そのときに取得したと思う。
それにしても、ここまでとは。」
黒ウサギが間を見て歩き出したので、それに従う。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊ぶ心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました。」
暗い表情の黒ウサギに対して、十六夜は瞳を爛々と輝かせた。
「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
・・
水樹を貯水池に持っていくので、そちらに行く途中で、ジンとその仲間たちと遭遇した。
「あ、みなさん!水路と貯水池の準備は調ってます!」
「ご苦労さまですジン坊っちゃん♪皆も掃除を手伝っていましたか?」
「黒ウサのねーちゃんお帰り!」
「眠たいけどお掃除手伝ったよー」
「ねえねえ、新しい人達って誰!?」
「強いの!?カッコいい!?」
「YES!とても強くて可愛い人達ですよ!皆に紹介するから一列に並んでくださいね」
パチン、と黒ウサギが指を鳴らすと、さっきまで黒ウサギに群がっていた子供達は綺麗に一列で並びだした。人数は二〇人程で、中には猫耳や狐耳の少年少女もいた。
(マジでガキばっかだな。半分は人間以外のガキか?)
(じ、実際目の当たりにすると想像以上に多いわ。これで六分の一ですって?)
(……私大丈夫かなぁ?)
(これだけ人数がいて、半分にも満たないなら、なんとか荒野を……出来ても一ヶ月か?)
それぞれ子供たちを眺めて思っていた
氷草はそっと黒ウサギに小声で話しかけた。
「農地もあんな感じだろ?あの子らの力を借りれば農地なら一週間くらいで使えるようになるようだ。」
「!本当にございますか?」
氷草は静かにうなずいた。
「右から逆廻十六夜さん、久遠飛鳥さん、春日部耀さん、竜使氷草様です。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼らの為に身を粉にして尽くさねばなりません。」
「あら、別にそんなの必要ないわよ?もっとフランクにしてくれても。」
「駄目です。それでは組織は成り立ちません。コミュニティはプレイヤー達がギフトゲームに参加し、彼らのもたらす恩恵で初めて生活が成り立つのでございます。これは箱庭の世界で生きていく以上、避ける事が出来ない掟。子供のうちから甘やかせばこの子供達の将来の為になりません」
ピシャリと言いはなった黒ウサギに飛鳥と耀が残念そうに顔を伏せた。
「それと、氷草様が貴方たちの力を借りれば、農地を元通りに出来るそうなのです。
それと、此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言いつける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」
「「「よろしくお願いしす!」」」
二〇人程の子供達が一斉に大声で叫ぶ。
それを見て、耀と飛鳥が複雑な笑みを浮かべるが、十六夜と氷草は笑う。
「元気そうでいいじゃねぇか。」
・・
「おっ。ずいぶんと大きいんだな。」
「はい。以前は龍の瞳を水珠に加工してそれを使っておりましたが……。」
「……!
ひ、瞳を?そ、その龍は宝玉を作れないのかったの?」
「へ?作れるのですか?」
「へ?作れるよ?」
十六夜は最初、龍の瞳に目を輝かせたが、氷草の言う宝玉に興味を持っていかれたようだ。
それを察した氷草は興味を変えるために宝玉の話を出したのだが、計画通りはまったので、安堵の息を漏らした。
(末妹なら平気だけど、僕の目は3つで、再生すると消えちゃうからね。痛いだけのムダ。)
それを察してか、ジンが完全に水路の方に話を進めだす。
「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開けます。此方は皆で川の水を汲んできたきたときに時々使っていたので問題ありません」
「あら、数kmも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」
飛鳥がふっと思った疑問を忙しい黒ウサギに代わってジンと子供達が答えた。
「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました!」
「半分くらいはコケて無くなっちゃうんだけどねー。」
「大変だったね。君たちぐらいの石ある?」
どう思ったか氷草がそう狐の少女にそういた。
「ありますよ?えーと、こっちです。」
その少女に手を引かれて意思のある場所につれていかれる。
月亭は他の子供らに囲まれていて付いてきていないが、黒ウサギと十六夜だけは付いてきた。
「何をするのでございますか?」
そう聞いてきた黒ウサギにニコッと笑って、
「ちょっとね。」
貯水地迄もどってきたら石を氷草は持ち上げた。
でこぴんをする。
すると、綺麗な球形に石が割れてそれに氷草は、力を込めた。
すると核を残して石が透明になり、核が橙色に光始める。
宝玉だ。
「よし。水樹をセットしようか。」
「それでは苗のひもを解きますので十六夜さんは屋敷への水門を開けてください。」
「あいよ。」
十六夜が貯水池に下り、水門を開ける。
黒ウサギが苗のひもを解くと大波のような水が溢れかえり、激流になり貯水池を埋め尽くす
水門の鍵を開けていた十六夜は驚いて叫ぶ
「ちょ、少しマテやゴラァ!!流石に今日はこれ以上濡れたくないぞオイ!」
そう叫んでる十六夜を尻目に、水面を氷草は歩いて苗木の真ん前にたった。
そして種を前にそっと置くと種から蔦が出てきて水樹を囲った。
その蔦に宝玉を置くと橙の淡い光が水樹を包み込んで、倍の水が出てくる。
「増幅系ギフト?」
「ああ。効果は促進。怪我の治りとかが早くなったり、農作物が成長したり。その効果が追加されるんだ。」
水が倍になったことで十六夜は巻き込まれたが、その事に皆は気づかない。
「おいこら!巻き込まれたじゃねぇか!」
「あ、ごめん。大丈夫と思ってた。」
・・
本館に向かって女性陣から先に風呂にはいることになり、それまで男三人は共同スペースで駄弁り始めた。
(十六夜の服は氷草が乾かた。)
「お前って龍っぽくないな。」
「化身だからね。」
「実際はどれくらいなんですか?」
「まだまだ30mくらいだよ。……外のと一緒に見せてあげるよ。」
三人は外にでて、氷草がもとの姿になる。
それを見て十六夜とジンが歓声をあげた。
氷草は尻尾を一振りして、限定的に風を巻き起こす。
すると数十人の男共が巻き上げられて十六夜の前に落ちる。
氷草は声帯を使わずに声を出した。
《お前たちはどこからきた?》
「ひ、ひぃ!ふ、フォレス・ガロですぅ!」
《ほぅ。何をしに来た?よもやガキどもをさらいに来たんじゃないだろうな?》
男共が何やらそうだんしたのち、一人が前に出て頭を下げた。
「恥を忍んで頼む!我々の、いや魔王の傘下であるフォレス・ガロを叩き潰してほしい!」
「嫌だね。」
そう答えたのは十六夜だった。
「お前達、ガルドとフォレス・ガロが憎いか?叩き潰されて欲しいか?」
「あ、当たり前だ!俺達はアイツらの所為で今まで散々な目にあってきたか!それにあいつらは魔王の傘下だ!」
《だが、我々はお前たちの願いであやつを倒すのではない。
我々には目的がある。》
「も、目的?」
《我々は打倒魔王を掲げたジン=ラッセルについていくもの。その意味、わかるよな?》
「打倒魔王。」
氷草が神通力でジンを浮かせ、頭に乗せる。男共がジンを見上げ月をバックに氷草が見下ろした。
《ジン=ラッセルが"魔王"を倒すために立ち上がったのだ。お前たちはこれを知らせろ。》
「さぁ、コミュニティに帰るんだ!そして仲間のコミュニティに言いふらせ!俺達のジン=ラッセルが"魔王""倒してくれると!」
十六夜も口を合わせそうたからかにいう。ジンは内心ガタガタと震えているが、神通力で押さえ込まれているので、凛々しい表情で堂々と立っている。
「わ、わかった!明日は頑張ってくれよ!」
そう言って男共が退散していき、氷草がジンを下ろし化身になった。
・・
フォレス・ガロまできて、氷草は元気が有り余る蔦たちの中からギフトロールを発見した。
『ギフトゲーム名"ハンティング"
・プレイヤー一覧
春日部 耀
久遠 飛鳥
竜使氷草
ジン=ラッセル
・クリア条件
ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐
・クリア方法
ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。
指定武器以外は"契約"によってガルド=ガスパーを気付ける事は不可能。
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・指定武器
ゲームテリトリーにて配置。
宣誓
上記を尊重し、誇りと御旗の下"ノーネーム"はギフトゲームに参加します。
"フォレス・ガロ"印』
「ガルドの身をクリア条件に指定武器で打倒!?」
「こ、これはマズイです!」
ジンと黒ウサギが声を荒らげ、氷草が疑問を言う。
「簡単だろ?指定武器を手にいれるだけだから。」
「確かにゲームの内容自体は簡単です。しかし問題はルールです。このルールだと物理攻撃はおろか、飛鳥さんのギフトで彼を操る事も、耀さんのギフトで傷つける事も出来ない事になります!」
「…どういうこと?」
「ギフトではなく"契約"によってその身を守っているのです。これでは神格でも手が出せません!彼は自分の命をクリア条件に組み込む事でお二人の力を克服したのです!」
その説明を聞いて耀と飛鳥がうつ向いてしまう。
「それなら筋力が一番あるこの僕がガルドをやる。サポートに回ってほしい。」
門の開閉がゲーム開始の合図のようで、生い茂る森が門を閉じてしまう。
光を遮るような密度で生える木々のせいで住めるような場所は見当たらない。
煉瓦の形跡はあるが、どこも根に押し上げられてしまっている。
「誰もいないし、風下なのに匂いがしない。」
「あら?犬にもお友だちが?」
「うん。二十匹ぐらい。」
「どうやら建物のなかに居るみたいだね。変わった音がないし二階建てか、床が地面についていない建物にいるようだ。」
「わかるんですか?」
「ああ。感覚を植物たちの波長に合わせて関知するんだ。」
氷草は、2メートルほどの龍の姿になるとふーと鼻息を草木に吹き掛けた。
するとうぞうぞと元気に動いていた木々たちが階段のように折り重なり道を作り出した。
「あそこにいるのね?」
《そうだな……ふむ。指定武器もそこにあるようだ。
ジン、お前はここで待っていろ。お前のギフトじゃ役に立たん。》
氷草は言い放ったあと、耀と飛鳥を背にのせて木々の階段を上がっていく。
階段といっても木々自体が一メートルほどあるので、周りに生物が感じられない今、龍の姿で運ぶ方が早いと思ったのだ。
軽々と人をのせてるのを見られたら何をグチグチ言われるかはわからないが、同族が近くにいないのでいいと氷草は思った。
《飛鳥、ガルドは傷つけられない代わりに押さえることが出来るかもしれん。》
「それなら通用するの?」
《かもしれん。それでなくとも回りの植物を操れるのではないのか?》
「回りの?……わかったわ。」
二階の壁を破壊して二人を下ろし、氷草は化身になる。
音を殺して慎重に歩き、ある部屋を覗く。
「―――‥‥‥………GEEEEEYAAAAAaaaaa‼」
ガルドは怪物のようになり、白銀の十字剣を背に守りながら立ち塞がっていた。
それが勢いよく突進してきて壁が壊れる。
氷草がガルドを受け止めたため、耀と飛鳥がダメージを負うことはなかった。
「耀、指定武器を!飛鳥、押さえ込んで!」
「「わかった。」」
耀が指定武器を取りに行き、飛鳥が威光でガルドを押さえつけようとする。
が、ガルドに聞かなかった。
「“草木よ!ガルドを押さえなさい!”」
「とった。」
飛鳥が押さえつけたのと同時に氷草は指定武器、白銀の十字剣を受けとる。
そして虎に向けて構えて、脳天を狙って飛んだ。
この中で一番筋力があるのも彼、そして剣を構えたことがあるのは彼だけ。
氷草は正確にガルドの脳天を突き刺し、ガルドを殺した。
ジンと合流して黒うさぎと十六夜のもとに戻ると、見知らぬ人物がいた。
「……お?」
微かにだが、氷草は同族の気配を感じ、声を漏らす。
「はじめまして。わたくし、鮮血の瞳の頭首。
オウルと申します。」
深く頭を下げて氷草の前に膝まずいた。
「あなた様のご先祖、その方がこちらいらっしゃった際、眷属となりました蛇のコミュニティにございます。」
「先祖?ひいおじいさま……かな?」
「いえ、ミハク様ですが?」
そこで黒ウサギが割って入ってきた。
「待ってくださいませ!よ、四桁コミュニティの鮮血の瞳にございますか?」
「えぇ、そうですが?
我々は龍神様を信仰するコミュニティ、名前の由来は信仰する龍神様の瞳からです。
我々は東区角の第1000外門に本拠を構えています。」
「どうしてそのコミュニティがノーネームに?」
「勘違いなさらないでください。我々は氷草様に会いに来たのですから。」
「え?」
「ミハク様の御子孫である――」
「ミハクはお母様の名前だけど?」
「「え?」」