温厚な龍が異世界からやって来るそうですよ?   作:イェス

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№7 ペスト

氷草が最初に気がついたのは、嗅いだことのない臭いだった。

 

(なんだ?これは。)

 

めまぐるしく動く周りに反して、氷草だけは考え込んでいる。

氷草の髪を黒い風が乱していき、さらに臭いが強まった。

 

「この臭いは、病原?」

 

人間にない特殊器官で死の風を嗅ぎ分け分析していく最中、斑模様の服を着た少女が氷草の目の前に降り立つ。

その少女は魔王一派の一人で、氷草は他のものより強いことを何となく、フワッとした感覚ながら知っていた。

が、氷草は消して慌てたり狼狽したりしなかった。

 

「あら?ずいぶんと落ち着いてるのね。」

 

斑模様には幾つかの覚えが氷草にはあった。そして目の前の少女の立ち位地にさえも。

 

「そうかい?んー、君は大勢の霊の代表者かな?服装から……んー黒斑病じゃあなさそうだし、黒死病かな?確かラッテンフィンガーを名乗っていたけど?」

「あら?そんなことわかるのね。」

 

氷草はバタバタと翼を動かして風を巻き起こす。

彼女の放つ黒い風を吹き飛ばす。

 

「ハーメルンの笛吹はネズミで、起源として、サーカスの脅しやウィザード川の氾濫、人攫いがあったときくけど、感染病による大量死も関わるとも言うしね?」

「詳しいのね。」

「まぁね。昔妹にいろいろ聞かれたからね。調べたことを思い出しただけ。それにもとの世界じゃ研究職みたいなものだったし。」

 

ニヤリと氷草は笑い、破魔の魔剣を魔王に向ける。

 

「レディ、ペストは太陽に弱い。いや、病原菌は弱い……かな?陽光の殺菌作用は君に効くか分からないけど。」

 

氷草の立つ一角のみ、周りのランプを無視する形で日光がさす。

さながらスポットライトに照らされた演劇の主人公のようだ。

日光が刀身に当たると魔剣事態が淡く発光し熱を放つ。

光が刃先に集まり、球形になる。

 

「な、星霊でもないのに!」

 

そしてその球体状のエネルギーは光線のようにペストに向かう。

 

「太陽光レーザー。」

 

ペストに攻撃を加えた直後、雷鳴がなった。

 

{"審判権限"が発動が受理されました!これよりギフトゲーム"THE PIED PIPER of HAMELIN"を一時中断し、審議結果を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備を移行してください!繰り返します…}

 

黒ウサギが高らかに宣言したのを見た魔王。

それを見て、悔しそうにした氷草。

まるでこうなることを事前に知ってたかのような魔王の態度に、氷草は嫌悪感を抱いた。純血種の肩書きゆえのプライドか、または生まれ持った性分かはさておき、下に見た者に逃げられるのはあまりよしとしないようで、苛立ちか尾で砂ぼこりを巻き上げた。

「あなたは?誰なのかしら?私にダメージをかなりおわせるなんて。」

「はは、無理してんじゃないの?かなりフラフラだよ。」

 

余裕に満ちたその顔に魔王が思い付いたように手を叩く。

 

「……気に入ったわ。8000万人の死者の霊群である魔王の私の配下にならない?」

「お断りだね。君の下には下りたくないな。下るなら守ってあげたくなるようなリーダーがいいからさ。」

 

・・

 

氷草は本部の方に向かい、黒ウサギのもとまでいく。

他のコミュニティも来ていて、大分混雑していた。

他のメンバー……ジンと十六夜、レティシアと合流したはいいものの、耀は倒れ、飛鳥が連れ去られたと聞き、氷草は少し心配する。ピンピンとしている十六夜の顔を見て、二人を思い浮かべる。

人間にしては耀も飛鳥も規格外だ。

が、それ以上の規格外の十六夜と比べて見てしまえば見劣りする。

氷草は最悪の事態を考えてしまい、それを振り払うかのように頭を振った。

 

「今より魔王との審判会議に向かいます。同行者は4名です。まずは"箱庭の貴族"である、黒ウサギ。"サラマンドラ"からはマンドラ。その他に"ハーメルンの笛吹き"に詳しい者が居るのならば協力して欲しい。誰か立候補は居ませんか?」

 

それを聞いた十六夜がジンを掴んで担ぎ上げた。

 

「ハーメルンの笛吹きについてなら、このジン=ラッセルが誰よりも知っているぞ!」

「…は?え、ちょ、ちょっと十六夜さん!?」

 

ざわめき立つが、十六夜の宣言によりジンと十六夜が交渉を行うことになった。

氷草は二人を見送り、鮮血の瞳のメンバーと合流する。

いまだ最悪の事態(くうそう)を振り払えていない氷草は少し暗い表情をしている。

 

「氷草様。」

 

イナバが心配そうに声をかける。

氷草は信者の手前、みっともない姿は見せまいと無理やり笑顔を出して、そこにいる鮮血のメンバーに情報を出した。

 

「イナバ、今回の魔王の名前はペスト。ハーメルンの黒死病でなく別のだ。」

「ハーメルンの魔王でないのですか?」

「あぁ。ハーメルンの死亡者は130人。だがやつは8000万人の死者の霊群である魔王と名乗った。」

「8000万人……黒死病でですか?」

「何か知ってることは?」

 

近くの鮮血の瞳のメンバーが顔を見合わせるが出てこないようだ。

だが、遠慮がちに奥から青年が出てきた。

 

「14世紀にペストによる死亡者数が全世界で8000万人というのを…………。」

「14世紀?大流行があったとはそれとなく知ってたけど……可能性は高い?」

「はい。それと、星霊・白夜叉殿がゲーム条件を満たしてないとの。」

「……小氷期。」

 

氷草の小さな呟きを耳にしたのは青年だけだ。

話をしていた青年が首をかしげた。

あまりにも聞きなれないような単語で、困惑する。

 

「しょうひょうき……ですか?」

「あぁ。14世紀から17世紀の間、太陽の力が弱くなり、不作続きが頻発していたらしい。不作による栄養失調での免疫力低下、そこでペストにかかれば。」

「流行、ですか。」

 

その会話を他のメンバーも聞いている。

静かに。

 

「それだ。太陽の弱体化により太陽の主権を持つ白夜叉が動けない。

偽りの伝承はペスト。だが、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。か。」

「なんなんでしょうか?」

「うーん。うちの天才バカが何とかするでしょ?僕らは病患者の治療をする。これから増えるだろうしね。」

 

考えをその場にいない十六夜に放り投げ、イナバに動向を伝える。

あまり考えたくない。

そう氷草は思っていたのだ。怠惰な行動を責めるものは一人もその場にいなかった。

 

「治療ったって、そんなギフトなどないですよ?」

「ふふ、僕は豊穣の神であるんだよ?対ペスト薬なんて簡単さ。まぁ、万能薬草をじゃんじゃん生やすから君たちはそれを洗って乾燥させて粉末状にしてもらうだけだけどね。それでいいでしょ?僕たちは参加者の治療を行う。」

 

にこりと氷草が笑いかければ、鮮血のメンバーは従う意思表示として氷草に跪いた。

 

・・

 

大祭運営本陣営・隔離部屋個室。

 

閑散とした空気が立ち込める部屋で春日部が目を覚ました。

発熱で霞がかかったように鈍く意識がはっきりしない。

春日部は部屋に十六夜がいることを感知し、名前を呼んだ。

 

「……十六夜?」

「お?起きたか。容体はどうだ?」

 

十六夜が持ってる本から顔をあげ、耀と目が合う。

交渉から六日がたち、“ノーネーム”で唯一ペストを発症した耀は隔離部屋にいた。

本来隔離部屋には入室禁止のはずだが忍び込んできたようだ。

 

そんな二人の耳にノックが聞こえた。

 

「どうぞ?」

「失礼します。起きたんだね?耀。」

 

氷草が部屋に入ってくる。

 

「氷草、ここ隔離部屋だよ?」

「うん。そうだね。僕は病魔に脅かされない種族の方々に手伝ってもらって薬を配給してるところだよ。ね?十六夜。」

 

責める言葉は言わないが、十六夜にたいして笑顔の圧力をかけていく。

十六夜は氷草の表情が戻ったことを理解し、二人に見えない角度で笑った。

 

「やはは、さすが氷草。」

「まったく。

耀、食欲はあるかい?少しでもお腹にいれておかないと。」

 

薬草の入った粥を氷草が差し出す。

それを耀は受け取りゆっくりと口に含んだ。

 

「美味しい。」

「それはよかった。」

 

ついでとばかりに薬茶を十六夜に押し付けた氷草は十六夜の持ってる紙

に目をやった。

その視線を感じて十六夜は氷草にメモを渡した。

 

「このメモから割り出さないといけないんだがな。」

 

いかにも考えてますよ。という表情でメモを返し、自らも水を飲む。

 

「そっか。ハーメルンのって13世紀だったよね。新天地開拓、天災、誘拐、十字軍。

月は違うけど、植民運動があったりとね。」

「植民運動?」

 

耀が氷草のはなしに興味を持ったようで、聞き返してきた。

その反応に気を良くしたのか、氷草はニコニコと喋り出す。

彼はおしゃべり好きだ。

 

「そう。ドイツの方は人が多すぎて、長男以外は農奴になるしかなかったんだ。そこで出てきたのが、まぁ、新天地開拓で植民地さ。まぁ、14世紀に黒死病(ペスト)が流行ってなくなったんだけどね。その制度。」

「説としては1284年に縛れるってことか。」

 

十六夜がメモ用紙を睨み付け考え込んでいる。

それを呑気に眺めながら氷草は大変だなぁ。と、考えていた。

 

「うーん。ややこしくなっただけか。」

「1559年頃からはじめて、ネズミが出てくるんだ。なんも動機なしだったら子供らに聞かせるのにあれだしね。ハーメルンのには報酬を支払わないと痛い目にあうぞ!ってのが語られてるんじゃないの?」

「違うの?」

 

そんな横で氷草は耀に続けて話す。

知ってる情報を共有しようとしていないのは、十六夜はリミットが迫っていて焦ってるのと、氷草が怠惰なせいだ。

 

「そう。僕がはじめて知ったのは、ハーメルンの町の人々がネズミの被害に苦しんでた。ある日通った笛吹男に退治させたんだけど、支払うと約束した報酬をばっくれて子供たちを拐われてしまった。ってさ。」

 

氷草は考え込んでいる十六夜に糖菓子を差し出す。

それを口に含んで、眉間にシワを寄せて十六夜はまだ考え込んでいる。

 

「何をそんなに悩んでるの?」

「偽りの伝承について、ペストに関するものだ。

さっきの話で埋もれたんだけどな。ペストに関して、短期間で大勢の生け贄が必要になる。」

「あぁ、彼女ね。でも、100年って短期間かな?普通に全世界で見たら一日で100人は平気で死ぬと思うけど?」

 

それを聞いた十六夜が口をあんぐりと開ける。

その表情から氷草は首を傾げて十六夜を見つめている。

そんな二人を耀は不思議そうに見ていた。

 

「いやいや、ハーメルン内だけだぞ?」

「あれ?いってなかったっけ?ペストは14世紀に起こった太陽の氷河期に伴った黒死病(ペスト)大流行によって死んだものたちの霊群の代表だって。偽りの伝承はペストで問題ないんだけどね、あっやっぱりステンドグラスかな?」

「おいおいおいおい!そんなこと聞いてないぜ。なんだ、白夜叉に関してもわかってんのか?」

「太陽の主権さ。白夜叉は白夜……太陽だろ?」

「ったく!あとちょっとだったってか!よし!春日部、枕高くして寝てな!そして氷草はこい!」

 

「へ?」

 

後ろに控えていたのか、イナバはにこりとしている。十六夜と繋がっていたらしく、氷草に一礼してから、いってらっしゃいませ。そういった。

 

「いいの?氷草はあなたたちのリーダーなのに。」

「えぇ。あの方はハーメルンに詳しいようですしね。雑務より華々しく戦う方がいいと我々は思っていたところです。」

 

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