氷草は黒ウサギとサンドラと共にペストと交戦していた。
魔王側の力でハーメルンの町のようになってしまった中、建造物を飛んで移動する。
「氷草、貴方とまたこうして会えるなんてね。」
氷草は完全に角も尾も翼も出していなかった。
その代わり真っ黒な山羊のようなものの毛皮をいつもの服の上に羽織っている。
「ずいぶん毛色が変わったわね。…………ヘカテーだと貴方の性別と合わないし…………何にあやかってるのかしら?」
「黒き豊穣の女神さ。それに今の僕はどちらでもないからね。」
そんなこと聞いても余裕の表情でペストは氷草を見下ろしていた。
「豊穣ね。それで何ができるの?」
「これはただの手段でしかない。
豊穣を願うのは、飢餓。
飢餓死はペストより明らかに多い。
そして飢餓の要因に日照りも含まれる。
飢餓をや呼ぶのも豊穣を呼ぶのも同じ力なんだ。」
空が明るくなるにつれ、熱量が増していく。
地面は乾いてひび割れていき、日光がその場にいるものに降り注ぐ。
「くっ、でもこの力で下の奴等も巻き込まれ…………!!」
ペストの眼下には地上に傘を差すように巨大樹が日光を遮っていく。
樹木が急成長して一つの大きなきとなっていくのを目の辺りにしたペストは口を開けて呆然と見ていた。
「神格を貰ってるって訳じゃないわね?もしや、貴方も神霊なわけ?」
「はは、生きてるさ。」
「やっぱりね。わかるわ。私には分かる。そのギフトが死を纏ってるぐらい。」
憎悪のこもった目で氷草を氷草を睨み付ける。
「どうしてそんなに狂わないで笑っているの?」
「狂う必要も笑わない必要もないから。」
照りつける日光がペストを焼く。
熱いのか眉をひそめ汗を拭えようにする。
誰だって強い光には弱いのだ。
氷草のとなりにサントラがやって来る。
「貴方は…………氷草さんですか。」
横目でちらっとサンドラを氷草はみる。
しばらく黙って氷草は山羊皮を脱いだ。
頭からは二十センチほどのyのような角が生えている。
「町を変えてしまったようだけど、残念だったね。」
氷草の影から子山羊に似たものが樹木の上に降り立つ。
およそ数十匹。
その一匹を捕まえて氷草はかじりついた。
「…………供物ですか。」
黒ウサギは静かに呟き、その行為を見ていた。サンドラは顔を真っ青にし子山羊を見つめている。
「そう!僕は善神の類いだけど、対がまさに邪神だし、そもそも僕の“ネイチャーフェイス”自体、邪神の師匠の下で取得したしね。」
えらく歪んだ笑顔、にへらと笑う氷草の異常にいち早く気づいた黒ウサギがかけよる。
「氷草さん!」
「あははははは、大丈夫だよ。大丈夫。」
一種の安定状態の暴走で、言い換えるなら発狂状態。
無理やり邪神の要素をつめことによるブースト効果を発揮させる。
食べた子山羊を贄として、その他の子山羊を信者にして。
人間なら自己を失うが、氷草のもう一つのギフト、
ざわざわと地上を覆う樹木が揺れ、さらにいっそう生い茂る。
そしてペストの黒い風を完全にステンドグラスを探すものまで届かせない。
「いいわ。皆殺しよ。貴方を殺せばあの邪魔な木は無くなるんでしょ?」
「さぁ?どぉ思う?」
氷草に向かって黒い風が突き抜けていく。
その風にたいして食べ残した山羊を投げつければ山羊は腐敗していく。
「触れただけで死を運ぶ風よ。」
「“与える側”の力!?」
「はははははは、与える側?ならこの僕が本気を出す理由も出させる資格もあるよねぇ?
でもさぁ、不死者にその力効くわけ?」
氷草は真っ向から黒い風を受ける。
そして逆にその黒い風を従えるように足元で黒い竜巻を作った。
破魔の魔剣を槍じょうに変形させ、構える。
「なによ、それ、太陽とでも言うの?」
「どうだろう?でも、太陽の力ってもの感じない?」
破魔の魔剣が発光しだす。
徐々に気温が上がっていき、ペストはもちろん、サンドラや黒ウサギにも熱が襲う。
一人、氷草は涼しい顔をして、
「
寒冷期が終わる。」
氷草の支配下にあった黒い風が霧散していった。
それは、ペストの支配下にあった黒い風も同じ。
氷草がおもいっきり破魔の魔剣を打ち出せば、ペストに一直線に向かって行った。
「ぁ。そんな……まだ……!」
「残念だったね。」
・・
ゲーム開始より四時間後に勝利条件の一つ、“偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ”というものが達成された。
町ももとに戻り、身動きのとれなかった白夜叉が参加者の前に現れたのだった。
「皆、よく戦ってくれたの。東のフロアマスターから礼と詫びを告げねばならんの。
偉そうにしておきながら、終始を見届けることしかできなかった。申し訳無かったのぅ。」
避難の声は一つも上がらなかった。
それだけ彼女を信頼しているのだ。
白夜叉の謝礼が終わると、サンドラが前へと出て両手を広げた。
「――魔王とのゲームが終わりました。我々の勝利です!」
ワァッと歓声が上がる。マスター達の言葉を聞き、ようやく実感がわいたのだ。
魔王の驚異から去ったことで安堵するものの嬉し泣きも聞こえていた。
そんな中、氷草のもとに十六夜がゆっくりと歩いてきていた。
「お疲れさん。少し、様子が変わったな。」
「ははは、ちょっとね。てか、手どうしちゃったのさ。」
「やはは、ちょっとな。テンション高いだけか?」
氷草は十六夜の砕けた右手を見てケラケラと笑って簡易的な処置を施す。
「ちょっとかじってみても良い?」
「いいぞ?」
氷草が十六夜の右腕に噛みついた。
十六夜は驚いて手を引こうとしたがガッチリと押さえ込まれていたので諦め、身を委ねる。
「やはは、まさかやるとは。ッ!……痛みが……やっぱあれか?ドラゴンの血を浴びると~的な?」
「なに、ハイチで麻薬指定されてるものさ。」
「オイ。それを言われると判断に困る。」
氷草は十六夜を担ぎ上げた。
そして医務室へと向かっていく。
氷草は遠くを見て微笑んだ。
「十六夜、たった今もう一つのハーメルンとの笛吹がここを旅だったよ。」
「?」
「130人の精霊軍さ。」
「……いたのか?」
「割りと近くにね。
あの日を語る碑文の解釈の一つ、開拓の話。最も支持されるハーメルンの話さ。」