百年の本の物語   作:執筆家

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逃走

逃走

 

 

狂気であった醜い狩人の悲鳴を背に少年とシュレガーは走り続けた。

その耳に己の急いた呼吸音と土を蹴る足音をかき消すようにあの猟犬の毒の息遣いが聞こえてくるような気がした。

だが足が駆けることに慣れ、目がただ前を見ることに集中すると、少年の頭は不思議と様々な記憶が海の泡のように浮かんでは弾けはじめた。

「こんなときに」

少年は焦った、駆けることに集中しなければ、こんな恐ろしいときに!こんなときに!

だが次々に沸き起こる記憶の泡で、森の王と精霊たちの泡が弾けたたった一瞬だった。

今まで彼が自身で避けていた木の根や枝は、彼に道を開けようと自ら身をよじり、避け、地中に潜り少年の息遣いとは別の風の波がささやかな声を少年に届けていた。

 

思い出して  思い出して  忘れてしまわないで

 

 

記憶の泡が一気に弾け、そこから記憶と思考の種が芽吹いた、それはあっというまに天高く伸び、枝枝を広げ少年はそれを見た。

 

森の王と精霊の話 かしの木の王と 小さな一族達 のばらの村!

 

その瞬間、その林檎の木はそこにあり、そこに存在していた。

王たるのそ木の虚は大きく口を開け、少年と猫を飲み込んだ、虚は閉じそこに静寂だけが残った。

 

 

 

 

 

 

突然虚に飲み込まれた少年はあまりのことに息を飲んだ、視界からは月明かりに照らされる森の風景が消え何も存在しないかのような闇が広がった。

わずか一瞬、把握できない恐怖が呼吸と思考を停止させた、が、すぐに彼の足は柔らかな地面を踏んだ。

同時にどん!と尻餅をついた、痛みにまた息を止めると、軽やかな着地音とふん!と鼻が鳴った。

暗闇の中から声が届く

「君ってやっぱりどんくさいな」

「君はうまく着地できたみたいだね」

少年は尻をさすりながら起き上がり闇の中に声をかけた。

当然さ 闇の中のシュレガーがまた鼻を鳴らす。

少年がシュレガーを見つけようとーーーー暗闇の中で暗闇色の猫が見えるわけもないのだが目を凝らすとそれに反して耳にわずかな音が聞こえてきた。

それは何か小さなものが走り回る音だった、少年の斜め上や斜め下、真正面から

何か小さなものがパタパタと走り回っている。

思わず少年は声をあげた。

「シュレガー」

「聞こえているかい?」

シュレガーは答えなかった、ただ気配が感じ取られ、少年のすぐそばにいるようだった。

音をもっと聞こうと息を潜め集中すると、足音の他に小さな小さな声が聞こえた。

「…か……っと……」

「どこ……し……ゆの…」

「冬の…に…はやく…」

「ああ、あった、ほうら冬の棚だったろう」

それと同時に暗闇に小さな光が現れた。少年の目がそんな僅かな光に慣れようと見開くと、そこには小さな小さなランタンを持った小さな生き物がいた。

「怪我はないですか、変わった子供」

それは小さな森ねずみだった。

 

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