百年の本の物語   作:執筆家

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のばらの一族

のばらの一族

 

小さな森ねずみは小さな小さなランタンを持ち、濃いグレイのパンツに赤いベスト、首にはシルクのスカーフにブルーのモーニングを羽織っていた。

ベストやモーニングには針の先ほどの金色のボタンがついており炎にキラキラと光った。

「無事ですか変わった子供」

その小さな体に似合わず深く低いしっかりとした声だった。

「大丈夫です、ありがとう」

少年は思わず背筋を正した、目の前の小さな生き物は威厳に満ちていたからだ。

「森の命や木々達が貴方が追われていると教えてくれたのです、ここまでたどり着いて良かった」

森ねずみは小さな目を柔らかく細めた。

少年が思わず立ち上がろうとすると、森ねずみはあわてて少年を手で制した。

「ああ、少し、少しお待ちください」

「この館は一番大きな館ですが、貴方様には小さなものなのです」

「いま明かりをつけます故」

少年が身を固まらせ、暗闇に意識をやると、暗闇の中でたくさんの小さな生き物が走り回る音が聞こえる、それと同じくして小さな小さな声があちこちで発せられているのにも気がついた。

 

「やれやれ歳かの、ランタンが見えんわい」

「おじいちゃま、ここだよ火に気をつけて」

 

「ねえ、兄様チビちゃん達を抑えていて、こんなに走り回られたら踏んでしまうわ」

「猫だ、猫だよ!」

 

少年がその声に集中していると、不意に暗闇が晴れ、柔らかな灯りが周りを照らしだした。

 

少年は思わず息を飲んだ。

 

少年の頭上、少年は座っていたのだが、手を伸ばせば届きそうな天井一面に様々な絵が色鮮やかに描かれておりその真ん中には砂粒ほどのクリスタルがふんだんに散りばめられた豪奢なシャンデリアがキラキラと光を放っている。

壁にはタペストリーが何枚も掛けられ、柱はつる薔薇が巻きつく本物の木だった。

少年の目の高さほどに部屋に一周するように廊下があり、その手すりの向こうには小さな森ねずみ達がが小さな瞳を輝かせ少年を見ていた。

深い緑のロングコートを引きずった背の曲がったねずみや、一回り小さい芥子色のドレスに白いエプロンをつけた瞳の大きなねずみ、濃紺の釣りズボンをはいて忙しなくヒゲを動かすもの、その後ろには更に小さなねずみ達がお揃いのカラフルなつなぎを着て半分ずつ顔をのぞかせていた。

 

なるほど少年が立ち上がれば間違いなく天井に頭をぶつけることになっただろう、少年はひとしきり驚くと最初の威厳あるねずみに視線を戻した。

「ここが一番大きな部屋なのです」

森ねずみは言った。

 

「森のはずれはまだまだ先、ここを思い出してくださってよかった」

「どうぞ朝までここでお休みください変わった子供よ」

 

エプロンをつけたねずみたちが少年の足元に小さな入れ物に(もっともそれは彼らの持つ一番大きな鍋だったのだが)

湯気と甘い香りを放つ液体を運んでくると、ねずみ達は口々に少年に飲み物を進めた。

間をおかず同じような鍋にミルクがなみなみと注がれているのを見ると少年ははっとした、シュレガーは猫なのだ。

「シュレガー、君ちょっと…」

慌ててシュレガーを探すと小さなねずみ達にまとわり付かれ尻尾をゆらゆらと揺らす彼の猫を見つけた。

シュレガーはこれ以上不機嫌な顔はないだろうというくらいにぶっちょう面でそして不満やるかたないという声を発した。

「僕はねずみなんか捕らないよ」

頬は膨らみ、金色の瞳が細く細く少年を睨んだ。

少年は彼を侮辱したことを感じ、それを謝った、シュレガーはそっぽを向いて鼻をふん!と鳴らした、相変わらず尻尾にまとわりつかれていたが追い払うこともせず緩やかに尻尾を揺らし続けた。

 

「ねえねえお話聞かせて!」

 

小さなねずみ達が口々に少年に集まってきた。

それに威厳あるねずみが口を開く

「これお前たち、今から休む方にそんなことお言いでないよ」

少年は微笑んだ

「大丈夫です、お話といっても僕のはずれ村のお話くらいしかないけども…」

「お話!して!して!」

子ねずみ達は声をあげ飛び回った。

威厳あるねずみは微笑むと朝までゆっくりお休みを、と一礼するとランタンを壁掛けに掛け、廊下の奥へ消えていった。

子ねずみの他には釣りズボンをはいたねずみと芥子色のドレスを着たねずみがおずおずと側に歩いて着た、芥子色のドレスの娘は少年の前でドレスの裾をちょん、と掴んで優雅にお辞儀をした。

大人たちが次々と廊下の奥に引っ込み、部屋の明かりが半分ほどに落とされたとき、シュレガーはため息を一つついてその場に横になった、するとそこに子供たちが駆け寄り、その絹のような毛皮のにうずもれ、顔だけを少年の方へむける。

シュレガーは不満そうにもう一度一つため息をつくと、体を動かさないよう慎重に頭を横にした。

少年はそれを見て微笑むとキラキラ光る黒曜石の瞳達にはずれ村の話をはじめた。

 

はずれ村はようやく春がきたところだと、

春の訪れは冬の終わりに咲く、小川のほとりの白い花の木があり(なんという花か少年は知らなかった)

その花の花びらがはらりはらりと一枚ずつ川に舞い散っていく、その花びらは水面に触れると同時に白い魚に姿を変え

小川を泳いでいく。

菜の花と蓮華が風にのせて囁かに歌いだしミツバチ達を呼び、

シルフィード達は忙しく飛び回り一番遅くに咲く桃色の花木を起こし花が開くのを忙しなく手伝い、

小さな生き物達は自分達の活動範囲の調停に羊皮紙片手に走り回る。

 

ふと少年は母のことを思い出し、少し寂しくなった。

寂しくなるにはまだ早いようなと自分に笑みを浮かべながら子供達を見やると、子供達はいつからか

シュレガーの毛皮の中で黒曜石の瞳を閉じ小さな小さな寝息をたてていた。

 

少年は横になると安堵と走り回った疲れですぐに深い眠りに落ちていった。

 

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