オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン-- 作:小説はどうでしょう
はらり、と着物を纏うと背の羽は消え纏った光も失せる。
マフラーを巻きなおしたシンはもう今までの知っているシンと同じで
「……シンさん。貴方はいったい」
「なんなんだよ、お前さん」
「あ~……」
戸惑う四人に頬を掻きながら苦笑を漏らす。
「出来るならこの事は秘密にしておいてくれると助かるんですが。その……ちょっと普通じゃないってのは自分でも分かってるんで。でも」
その目を真っ直ぐに向ける。
「僕は皆さんの、敵じゃぁありませんよ」
その事を分かってさえ貰えれば、実際のところ秘密の漏洩は頓着するつもりはなかった。ただ、出来るならこの世界で出来た初めての仲間、と呼べる者達には、距離を置いて欲しくはなかっただけ。
不意にペテルは歩み寄る。
「分かってますよ、そんな事は。それに秘密は守ります。そして――」
手を差し出せば
「助けてくれて、ありがとうございました。シンさん」
「…………はいっ。どういたしまして」
笑顔を見せ合える。
それだけで、自分の行動を肯定できたシンだった。
「っ!?」
人の気配と足音が聞こえてくれば
「駄目じゃっ! 孫は何処にも居らっ! お! お主達っ!」
「! …………これは」
リィジーとナーベが見たのは、さっきまで確かにゾンビと成り変わり果てた死体となっていた者達の元気な姿だ。
「たたた確かに死んでおった筈じゃ!」
「落ち着いて下さい」
平静を崩すリィジーの前に出ると
「僕が復活に使えるアイテムを持っていたんです。以前にとあるダンジョンで見つけた物で効果が何処まで効くかは分からなかったのですが、なんとか皆さんを呼び戻す事が出来ました」
「アイテムじゃと! 魔法ではなくアイテムじゃと」
目を張るリィジーに(この世界にも復活の概念はあるのか)と復活の魔法の存在を見る。
「とは言いましてももうありませんけれどね。使いきりのアイテムでしたので」
「そ、そうか。それは惜しい事を」
肩を落とすリィジーになんとか誤魔化せたと胸を撫で下ろすと
「おいおい婆さん。それじゃあ俺達が死んだままの方が良かったみたいじゃないかよ」
「そ! そうは言うておらんさ」
「そうだぞルクルット。失礼だぞ」
「へいへい」
おどけるルクルットと視線が合う。
場の空気と復活の話題を棚上げしてくれようとしていると理解すると、シンもまた笑顔で応えたのだった。
「何処です」
「っ!」
いつの間にか、ナーベはシンに肉薄していた。
その鋭い視線が真っ直ぐ突き刺さる。
「何処、といいますと?」
「その死者の蘇生を可能にするアイテムがあるダンジョンは何処にあるのです」
「なにぶん昔の話ですし、もう忘れてしまいました」
「…………」
「そんな事よりお嬢さん」
ルクルットが割って入った。シンとしては願ったりだがナーベの視界には入ってもいない様だ。
「貴女の様な美しい方には出会った事が無い。惚れました。一目惚れです。どうか私とお付き合いしてい」
「黙りなさいウジムシ。私に話しかけるな」
「く~~。そのクールな物言いもまたすばらしい。ではせめてお友達から」
「私の視界から消えなさいシロアリ。踏み潰しますよ」
「あぁ! 是非とも踏まれたい! お気になさらず、我々の業界では御褒美ですの」
「いい加減にしろルクルット!」
「ははは」
いつも道理のやり取りに皆が笑い、シンもまた笑いの輪に入っていく。ナーベの視線を受けたままで――
「そろそろ本題に入りましょうか」
「シンさん?」
皆の視線を集めれば真顔を見せる。
「賊の狙いはンフィーレアさん、という事ですね?」
「それは……はい」
漆黒の剣が顔を伏せると「私達は、彼を守りきれませんでした」と拳を握る。
「大丈夫」
「……ぇ」
肩に手を置かれると、見上げた先にはシンの笑み。
「みんなと一緒に
「助ける事が出来る、と?」
「ま、そうですね」
皆の表情が明るくなると「それで?」と冷たい声が掛けられた。
「何か手掛かりはあるのですか?」
その声の元にはナーベが無表情で立っている。
「お前達を殺した者は何処に行った?」
「そ、それは分かりません」
「その者に心当たりは?」
「それが」
四人が顔を合わせると、不審気なナーベが「どうしました?」と伺うが
「どうにも死ぬ前の記憶、というかこの家に入ってからの記憶があいまいで」
「あぁ」
「うまく思い出せないである」
「顔を見た、筈なんですけど」
四人の記憶から殺された時の記憶は無かった。
まるでその部分の記憶だけ故意に
割って入る人影はシン。
「生き返った際に記憶に若干の障害が出ることはあるんですよ。殺された時の記憶は欠落したのかもしれませんね」
「では手掛かりは無いという事ですね」
「あ、でも!」
「ん?」
一人、ニニャが手を上げる。
「確か誰かが…………何かの魔法を使う為にンフィーレアさんを
「魔法、ですか」
それは自分には分からない知識だ。自分はユグドラシルの魔法はさほど知りはしないのだから。
だが、と視線をナーベに向けると、その表情は少しだけ厳しさを増していた。
「それはどのような魔法ですか?」
「えぇ、と……それが良く思い出せなくて」
「思い出しなさい」
「【
「っ!」
「本当ですかっ! ルクルットさん」
「へ?」
僅かな記憶を引き出したルクルットが声を挟むと驚いたのはナーベよりもニニャだった。
「それ! 第七位階の魔法ですよっ! そんな魔法を使える筈っ!
「その魔法を可能にするアイテムを使う為に彼を」
「であれば、バレアレ氏は生きている可能性が強いである」
「ってこったよ。ナーベちゃん」
ウインクを見せるルクルットに視線を向ける事もなく、ナーベは考えに耽る。
「それに」
と更に続けるルクルットにいい加減に視線を向けると、彼は自分の首元を指差して
「連中を追う手掛かりは、有るみたいだぜ」と笑みを見せていた。
「【
目を閉じ静かに集中したニニャが目を開けると「――ここです」と広げた地図の一点を指差した。
ニニャが魔法で追跡した手掛かりは自分達を殺した相手がその戦利品として自分達からむしり取って行った者。
銀のプレートだ。
その追跡した場所は
「墓地、か」
「ま、アンデッドの軍勢を生み出そうってんならそうだよな」
「すぐに助けに向かうである」
「はいっ」
「いや、ちょっと待っ」
漆黒の剣とシンが地図の上で話していると、つい、と一つの人影がドアに向かう。
釣られて視線を送ると、そこにはナーベの後姿。
「ナーベさん? どこへ」
「決まっています」
何を当たり前の事を、とどこか呆れた感じの答えが返ると
「依頼を果たしに行くだけです。失礼」
それだけを言って部屋を出た。
「ちょ!」
「む、無茶ですよっ」
慌てて皆が飛び出すがナーベは一切気にしない。
一歩前に出たのはペテルだ。
「お一人で向かうお積りですか!」
「私が受けた依頼は【孫を家に連れて帰る事】です。私が彼の帰宅を目にするまで依頼は終わっていません。それだけです」
「だったら我々も一緒に」
「足手纏いです」
「っ!」
冷徹に言い切る彼女の言葉に時が止まる。
「先だってお前達を殺した敵が居る以上お前達が戦力に成らないのは実証済みでしょう。役立たずは役立たずらしく引っ込んでいなさい。邪魔です」
「それは……しか」
「そこまで言う事もないんじゃないかな」
四人の前に立ちナーベに向かうシン。
「一度の負けが全てじゃないだろう?」
「なら勝手に二度死になさい。私に関わるな」
「ナーベさん」
ナーベは視線をリィジーに向ける。
「孫を連れてくる、で良いんですね」
「う、うむ。頼んだぞ」
「では」
そしてナーベは一人、家を出て行くのだった。
◇ ◇ ◇
「…………」
「…………」
無言
「…………」
「…………」
ただ無言
「…………なんです」
「ん? いや、たまたま同じ方向なだけですよ、はい」
「…………ちっ」
黙って付いてくるハムスケに乗ったシンに声を掛けてみたが自分の苛立ちを解消するには至らない。
いっそ殺してしまおうか? とも考えないでもないが、ナーベの目的は冒険者として名を上げる事であり、ここで漆黒の剣の一人を殺すのはあまり良い策ではない。
実際にはシンは漆黒の剣のメンバーではないのだが、既に彼の名前も彼らの名前も記憶していないナーベにとっては一括りで記憶してしまっているのだから仕方が無い。
そのまま無言で歩き続け墓地の門まで到着してみれば、既にそこでは――
「は、早く街に報せをっ!」
「ここを破られるなぁああっ!」
墓地より溢れ出るアンデッドを前に多くの兵士が必死に戦っている場面だった。
視線を厳しくするシンを他所に、ナーベはつかつかと最前戦に向かう。
目の前で倒れ込んだ兵士に襲い掛かろうとするアンデッドを無表情に蹴り飛ばす。
「なっ! き、君、いや貴女は」
「どきなさい。踏み潰しますよ」
「え?」
自分を通り過ぎるナーベに呆気に取られる。
それは助けられた兵士だけでなく他の兵士も同じであった。
それほどに圧倒的だった。
「…………ゴミが」
ナーベが抜き放った剣が一閃する度に数匹のアンデッドが切り刻まれた。
「…………ダニが」
ナーベが薙ぎ払う度に数匹のアンデッドが吹き飛ばされた。
圧倒的に強く。そして
「なんて……美しい……」
圧倒的に美麗な存在が、戦場の全てを自分に集約させていた。
ナーベが邪魔を排除しながら一直線に向かった先には大きな門。
まさに開けられまいと必死の攻防を繰り広げていた門の前に立てば
「門を開けなさい」
「なっ!」
その言葉は皆の度肝を抜くのに充分だった。
「ば、馬鹿な事を言わないでください! 向こうはもうアンデッドで一杯です!」
「だいたい君は胴のプレートじゃないかっ! 危険だから俺の後ろに」
「ここは俺に任せて君は逃げるんだっ! ちなみに俺に恋人は居ないっ!!」
「分かったっ! 結婚しようっ!!」
中には錯乱した者も混じった様だが、皆一斉にナーベの暴挙を押し留めようとするのだが
「いいから早く開けなさいツェツェバエ共が」
との暴言は聞こえていない様だ。
そんな騒ぎの中――ドガン! ――と何かが壊れた音が響き皆の声も止まれば
「あ」
呑気なシンの言葉と共に、門の扉がゆっくりと倒れ、バダンと地面に倒れ込んだ。
「う!」
うわあああああああああああああああ
そこに雪崩れ込んできた大量のアンデッドに周囲の兵士は一瞬で戦意を喪失した。
我先に逃げ出そうとする兵士達とは逆に門に向かって笑みを漏らすナーベを見咎めて、シンの目も鋭くなる。
その先で
「手間が省けました」
静かに剣を収めれば
「【
広げた両手に稲妻が迸る。
その光景に逃げ出そうとしていた兵士達も思わず足を止める。
シンはただ見詰め続けた。そして光は強まり――
「【
――辺りを雷光が覆いつくし、そして静寂が訪れた時に皆が目にしたのは、たった一撃の魔法で一掃されたアンデッドの群れと、一人立つナーベの姿。
「たった……一撃で」
「そんな……」
「ま、
剣でアンデッドを圧倒していたナーベが唱えたたった一つの魔法で、アンデッドの群れが一瞬で殲滅された。
その事実に愕然としている皆に一瞥をくれると
「お前達は街にアンデッドが溢れない様に壁になっていなさい。すぐにケリを付けて来ます」
そう言い残しナーベはつかつかと墓地の中へと姿を消す。
「あの人は、いったい……」
誰もが呆然と彼女が消えた闇に佇む。
ただ誰かが――皆が、つぶやく。
「…………美姫…………最も美しく……強い」
「……あぁ」
静かに、その美しさを称える【美姫】の字名が生まれた瞬間だった。