オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン--   作:小説はどうでしょう

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第2話 実証

 

 それは戦いと言うよりも実験に近かったのかもしれない。

 

「…………なるほどなぁ」

 襲い掛かってきたゴブリンの三匹目を切り捨てて感心する。

「侍大将(マスター)だからってことなんだろうね」

 剣道などかじった事も無い自分が、まるで刀を手足の様に操りゴブリンを切り捨てていく様は、自分自身ですら感嘆を覚えるほどだ。

 考える前に身体が動く。

 そうする事が当然の様に刀を振るう。

 侍としての技能が自分に与えられている事に対する驚きと戸惑い、そして理解がそこにはあった。

「っん?」

 刹那、身を移動させれば底には矢が飛んできた。

「なるほど、スキルはあるのか……」

 侍大将の他に剣聖、そして刀匠の最高レベルを持てば得るスキルに【先の先】がある。

【後の先】の最終形であるそのスキルは、言ってしまえば未来予知。矢が飛んでくる未来が見えたと言う訳だ。

 侍の剣技とスキルを確認したシンは、それならば? と虚空に手を伸ばしてみた。

「方法は分からないんだけど……あぁ、なるほど……ね」

 何も無い空間の隙間に手を差し入れれば頭の中でアイテムを探ってみた。

 何かを掴む感触にそれを取り出せば二本の巻物(スクロール)が握られている。

「さて……炎の槍(フレイム・ランス)……」

 ひょい、と巻物を一本放って魔法名を唱えれば、それは炎の槍となって最後のゴブリン二匹を貫いた。

「なるほど、魔法ってのも存在するんだ。でもそれじゃあ」

 不意に、ユグドラシルだった頃を思い出し、その魔法の数を思い出してげんなりする。

「他にもこっちに来ている人がいるなら、面倒なことにならないといいんだけどなぁ」

 ユグドラシルの魔法は多岐に及んでいる。

 それが実際に行使されるかと思うとあまり歓迎できる未来予想図は思い浮かばない。

「こんな事なら」

 ともう一本の巻物を元の空間に戻す。

「もっとまじめにゲームしとくんだったなぁ」

 溜め息を付きながら夜空を眺めた。

 

 彼が使用した巻物は彼ら、グレイハット専用のオリジナルだった。

 それは白紙の巻物。つまり、何も魔法を施されていない状態なのだ。それを改変し、改造した。

 

 何でも使える巻物に。

 

 そこには制限も無く制約も存在しない。

 ウィザードもクレリックもエレメンタラーもネクロマンサーも関係ない。ユグドラシルに現存する全ての魔法が使える万能の巻物。

 超位魔法すらも即座に発動出来、しかも連発すらも可能という馬鹿げたアイテムだ。

 それほどのチートアイテムなのだが、それはシンにとってはまったくの無意味で役立たずな代物。なぜなら

 

「僕の知ってる魔法なんて……少ないし」

 

 それが全てだ。

 彼に限らず、グレイハットの面々はそんなアイテムを創りはしたが基本使った事は殆どなかった。あるとすれば「こんな設定創ってみたんだ! ちょっと俺に超位魔法ぶつけてくれよ!」というギルドメンバーの実験用での使用しか記憶に無い。

 もともとこの巻物の創造の切欠もそれが主とした目的であるのだから致し方ない。

 シンもまたそんな事で数回の魔法使用の記憶、そして後はゲームをやっていなくても皆が知っている様な有名な魔法やコマーシャルなどでも流れていた様なメジャーな魔法がいくつか位だろう。

 ゲーム時代であれば使用しようとすると眼前にモニターが開き、数えるのも馬鹿馬鹿しい位に連なる魔法名の中から好きな物を選択して実体化させるだけだったが、今現在となっては頭の中でイメージ出来ない物が実体化のしようが無い。

 無限に魔法を行使出来るアイテムも、それを使う者にそもそもの知識が無い以上、無用の長物でしかないと言う訳だ。

 

「とりあえず僕の身を守る手段は侍の力だけだな。魔法は……無いものねだりしても仕方が無い……こんなことならもっと別のキャラで入っておくんだったよ」

 いまさらながらに肩を落とす。

 シンもどうせ最後だからと気安くユグドラシルにINしていた為に、大した設定を盛っては居ない状態だった。

 彼の持っていたデータの中には【幽体化(アストラルボディ)】や【敵一撃死】、【完全不可視(ハイ・アンビジアル)】など様々な出鱈目を持っていたのだが、今回は特にそれらのチートを念頭にはINしていない。

 この様な状況では心許ない事この上なかった。

 現在の彼はというと

 

「さてさて、このレベルで何処までフォロー出来るかって事なんだけど。こんな事ならもうちょっと粘っとくんだったなぁ」

 そのレベル、152。

 かつてギルド内でレベル限界突破のブームがあったが、自分は152までしかいく事が出来なかった。

 ゲーム上の上限が100なのに対し、それらを得るには勿論通常のゲームではあり得ない。

 相応の数のセキュリティを突破し、如何にしてメインサーバーのシステムに異常を感知させないで自分のレベルを()()()()()()に掛かっている。

 その作業はレベルが上がれば上がるほどに難易度が増し、シンでは152までしか到達出来なかったがギルドマスターは200を超えた程だ。

 その後で発覚して一時期は全てのグレイハットがユグドラシルから消滅したのは笑い話だった。全員が一度に消されたのはその一回だけだろう。

 果たしてこの世界に存在する者がどの様な者なのかが分からない以上、自分以上の存在が過去確かに存在した事を知るシンにとって、レベル152は決して安心できる材料では成り得ない。

 今倒したゴブリンがこの世界最強の生物であればその不安は杞憂だが、それは決して無いだろうとは確信に近い予想だ。

「刀とレベル、あとはこの両手だけか」

 不意に、両手を見詰める。

 

 神の左手・悪魔の右手

 

 それが今回のINに際してユグドラシルに持ち込んだ設定だ。

 ユグドラシルのプログラムには存在しない、自分で改竄して創造した情報操作プログラム。

 

 対象のデータをデリートする右手。

 対象のデータを書き換える左手。

 

 ゲーム時代では魔法やスキルを一方的に無効化していた。たとえ超位魔法であろうとワールドアイテムであろうと関係なしだ。時にはプレイヤーのアカウントそのものをユグドラシルから消去したこともある。

 左手はマップを変えたり敵のレベルを改竄したりしていた。PKに追われている弱いプレイヤーに頼まれて追い詰められた時にステータスを敵と入れ替えたりする。

 これはゲーム内で行われるハッキングといったところだろう。

 大概はその力を使った後にはユグドラシルより垢バンを喰らうのだが、別に気にも止めなかった。所詮また侵入すればいいだけの話だ。

 

 だが今はこの両手がこの世界ではどう作用するのか。それはおいおい試す必要もあるだろうが、とりあえずの備えにはなるだろう。

 

「よし。いくか」

 空間に手を差し入れて服を取り出せばそれを瞬時に身に纏う。

 すると背中に在った三対六枚の翼は消え、その身を纏う煌きも掻き消えた。

 

 立つのは武士然とした若者一人。

 

 和風の着物と目元まで覆い隠すマフラーを身に付け、シンは歩を進める。

 その装備はグレイハットの面々がユグドラシルの国や街、イベントやプレイヤーに接触する際に決められたルールの下に作られている。

 

 レベルを100まで下げる事。

 姿形をノーマルの人間タイプにする事。

 

 その二つがグレイハットがユグドラシルにゲームとして接触する事の条件であり掟。それも絶対の掟だった。

 ユグドラシルを楽しんでプレイしている人々に害を与えない。

 その一点を持って、その掟には絶対の価値があり、その価値を、ギルドの面々は充分に理解していたが為に、それはギルド結成以来一度も破られた事は無い掟だ。

 既にギルドも瓦解し、ここがユグドラシルかどうかも不確かな現状でその掟を守る必要は無いのかも知れないが、と苦笑いを見せるシンではある。だがそれでも自分はグレイハットのシンであるのだ。その自分の立ち位置を自分自身が認識する事で、シンもまた自分を保っていられるだろうと思っていた。

 

「まずは、情報を集めようか」

 

 なにも見えない暗闇の森の中、シンはその闇にどうかする様に森の奥へと進んでいったのだった。

 

 

 

 

――――そして

 

 

 

 

 城砦都市エ・ランテルのとある宿屋の扉の前に立つのは

 

「うん、紹介された宿屋は、ここだね」

 

 漆黒の着物に身を包み真っ白なマフラーで顔を覆う若者が一人。

 その腰に一本の刀を差し入り口の扉に手を掛ける。

 

 

「さて、いこうか!」

 

 

 後に【漆黒の英雄】と呼ばれる事になる冒険者・シンの伝説の幕が今――――上がる。

 

 

 

 

 

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