オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン--   作:小説はどうでしょう

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第3話 出会い

 宿屋のドアを開け姿を見せれば一瞬だけ皆の視線が集まった。

「っと」

 少しだけ居心地の悪さを感じる部分も有りはするが、気を持ち直してそのままカウンターと思われる場所へと足を運ぶ。

 主人と思しき人物の前に到着した頃には既にシンへの注目は薄れては来ていた。

「……宿か? 酒か?」

「宿をお願いします。取り敢えずは一泊で」

 ぶっきらぼうな主人に笑みを浮かべるシンの胸には今しがた組合から授けられたプレートが掛かっていた。

 主人はそれを見ると目を細め

「銅のプレートか……一日五銅貨。大部屋な」

「大部屋、ですか」

「あん?」

 困惑したシンを値踏みするかの様に睨むと

「お前は銅だろうが? 駆け出しか?」

「ついさっき登録を済ませたばかりで。ここを紹介してくれたのも組あ」

「だったら大部屋だ」

「?」

 言葉を遮られて疑問を受かべるシンに溜め息を漏らすと

「駆け出しで一人なら顔を売れって事だ。うちは冒険者が泊まる宿にしちゃ底辺だからな。お前と同じ駆け出しや銅や鉄のプレート持ちばかりが泊まる」

「なるほど。ここで知り合いを作っておけば友人も作りやすいという事ですか」

「そこはチームとか言っとけよ小僧。舐められても良い事はねぇぞ?」

「気を付けます。それじゃあ……一泊、お願いしますね」

 カウンターに銅貨を五枚置く。

「飯は? 銅貨一枚で出すが」

「それは結構です。食事は済ませてきましたので」

「好きにしな。二階の突き当たりだ」

「どうも」

 

 数歩、階段に向け足を運べば視界に足が一本伸びてくる。

「…………」

「へへへ」

 見れば三人の男がニヤケ顔をこちら向けている。

(ん~、転校生の気分だなぁ)

 そのまま避けて歩いた、つもりだったが足の方が自分を追ってぶつかってくる。

「ってーなー、兄ちゃん。お前何処に目ぇ付けてんだよ」

「僕の目の場所も分からないとなると貴方の方こそ視力は大丈夫ですか?」

「んだとテメェ!」

 剣を抜いた男に辺りが喧騒に包まれるが、それは直ぐに収まる。

「ぶっ殺……へ?」

 振り上げた、筈の剣が手から消えていた。

 見上げた先で天井に突き刺さっている自分の剣の柄が見える。

 シンは剣を鞘ごと腰から引き抜き相手の剣を打ち上げていた。そのまま横に振れば

「お前! 何をごっ!」

 そのまま男の横面を鞘で殴打し吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた男がテーブルやイスを吹き飛ばしてそのまま壁に激突していたが、視線は男の仲間二人に向けたまま。

「で? 貴方達も僕の目の場所を知りたいのでしょうか?」

「お、俺達は」

「べ、別に、なぁ?」

「でしたらそこを通して「おぎゃああああああああああああああああ」く、れ?」

 自分達の会話をぶった切る様な奇声に思わず視線を動かせば、そこには壊れたテーブルを前に頭をかきむしり絶叫している女性が一人。

 戸惑う自分と視線がぶつかり思わずたじろぐ。

「ちょっとあんた! いったいどうしてくれんのよっ!」

「ん? ん? …………え? ぼ、僕?」

「他に誰が居んのよ!」

 赤毛の女性がシンに詰め寄ってくる。

 装備や身体付きを見ればどうやら冒険者である様だ。二十歳の自分よりもいくらか年上という感じ。

 だが自分が責められる覚えが無い。

「あの、僕が何を」

「あのバカがぶっ飛んできた所為で私のポーションが壊れたのよ! 割れたの! 使えなくなっちゃったのよっ!」

「で、でもそれは僕じゃなくてあの人達の所為じゃ」

「あん?」

 すごい剣幕で睨まれた男達は汗を一杯に出して首を振る。

 再びシンに視線をぶつけると

「金貨一枚と銀貨十枚よ! あのごく潰し共に払える訳ないじゃないっ!」

「でもだからって」

「私があれを買う為にどんな血の滲む努力をした事か」

「いや、ですから」

「食事を抜いてお酒も我慢して欲しかった髪飾りまで犠牲にして」

「あ~…………聞いてませんね……」

 自分の前でぶつぶつとなにやら呟き続ける女性に(これはもう言っても無駄だよなぁ)と諦めたシンは着物の袖に手を収めれば、そこからアイテムを探り当て

「では僕のポーションを差し上げるという事でどうでしょうか」

「これで冒険も楽になると思って天国だった私のこの気持…………へ? ポーション?」

「はい」

 手渡された小瓶をしげしげと見詰める。

(赤いポーション?)

 見たことの無い色のポーションに一瞬不思議にも思ったが、先ほど男を吹き飛ばした腕を見てもシンが只者ではないとの察しはつく。

 だったらこのポーションも効果が無いなんて事はないだろうと思い。

「ま、まぁそういう事だったら私はいいんだけど」

「それでは僕はこれで」

「あ、うん」

 

 シンはそのまま大部屋へと行きそのまま壁にもたれて目を閉じる。

 こうでもしないと空腹でどうにかなってしまいそうだった。

 実はシンはこの世界の硬貨を有しては居なかった。それはユグドラシルの硬貨という事もである。

 自分達はユグドラシルで硬貨を必要としなかったのだから。

 そしてこの世界においても自分はまさに文無しだ。さっきの銅貨は冒険者組合に準備金として渡された物で、既に懐には一枚の銅貨も残っていない。

 

(とにかく仕事をしよう……金がないと何も出来ないし……あぁ……)

「腹、へったなぁ~」

 

 今、シンのもっとも強大な敵は――空腹だった。

 

 

 

 

 翌朝、シンは再び冒険者組合の建物へと足を運んだ。

 まずは早速仕事をしなければならないのだから気も急いている。

「ん~、と……あ、丁度良いや」

 昨日受付をしてくれた受付の女性の手が丁度空いたところだった。

 シンはそそくさと彼女の前に立つと

「昨日はどうもありがとうございました」

「あら貴方は。さっそく冒険ですか?」

「えぇ、それで、ですね」

 シンの容姿や柔らかい物腰にそこそこの好印象を持っていた受付嬢は笑みを持って言葉を促すと、シンは少しだけ身を寄せ

「僕みたいに冒険者に成り立てでも出来そうな依頼ってないですかね? その、どうにもまだ始めたばかりで張り紙の難易度がいまいち分からなくて」

「あら」

 シンが指差した先の掲示板には何枚もの依頼書が張られており、様々な冒険者達が検討している様子だが、あいにくシンにはこの世界の文字がまだ理解出来てはいないのだ。

 読めない張り紙を眺めていても仕方が無いと、ここは築いたばかりのか細い人脈を頼りにするしかない。

「腕には少しだけ自信があるんだけど、ね」

「初めてなのに自信があるの? ふふ、随分余裕ね」

「あ、見栄半分って事でお願いしますね」

「了解よ。ちょっと待っててね、今なにか見繕ってきてあげるから」

「すいません」

「いいのよ」

 二十代の中程かと思われる受付の女性はそう微笑み席を立った矢先

 

「でしたら、我々の仕事を手伝いませんか?」

「「え?」」

 

 二人のすぐ傍に、一人の冒険者が笑顔で立っていた。

 

「突然すいません。私は【漆黒の剣】のリーダーでぺテル・モークと云います」

 

 

 

 これが漆黒の英雄シンと漆黒の剣の出会いであった。

 

 

 

 組合の二階にある一室でシンは漆黒の剣のメンバーと出会う事になる。

 リーダーのペテルは戦士。

 野伏(レンジャー)のルクルット。

 森司祭(ドルイド)のダイン。

 そして魔法詠唱者(マジックキャスター)のニニャの合計四人が漆黒の剣のメンバーだ。

 プレートのレベルは銀。

 ペテルはシンと同い年位に見受けられたが、その身のこなしや立ち居振る舞いは中々に様になっていた。

 おそらく可也の死線を潜り抜けてきたのだろうと予感させる。

 自分の名前を名乗りマフラーを外して顔を見せると、少しだけ意外そうな顔をされた。

 そもそも彼らがシンに声を掛けたのは昨日の宿屋の一件を聞きつけてのものだったので、彼らとしてはもうすこし凄みのある人物を予想していたらしい。

 少しだけ苦笑いを見せたシンだったが、今はそれよりも気になった事がある。

「少しお聞きしたいんですが」

「なんでしょう?」

「さっきの話に出たぁ、ンフィーレア、さん、ですか?」

「ん? 彼が、なにか」

「その方はその……確かに男性なのですか?」

「へ?」

 思わずキョトンとしたペテルだったが、直ぐに笑顔をみせ「はい。確かに彼は男性ですね。もっとも、私自身がそれを確かめた訳じゃありませんけど」と応えたのだった。

 

 メンバー紹介のおりにニニャが生まれながらの異能【タレント】持ちであると告げられた時だった。

 ニニャのタレントは魔法を他者よりも早く習得出来るという物であったが、シンの興味を引いたのはその後に話題に出てきたンフィーレアの事。

「ありとあらゆるマジックアイテムが使用可能というタレントを持っているんですよ」というもの。

 ありとあらゆるアイテムを使用出来る――全ての職種や種族や制限を無視して行使出来る能力。

 

 そういう()()を創った者もグレイハットには確かに居た。

 

 だがその人物は女性だった。

 ンフィーレアが実は女性であったというのであれば、もしかしたら自分と同じくこの世界に来てしまったのではないかと興味を持ってみたものの、どうやらその考えは的を外した様子。

 少しだけ肩を落としたシンの様子は、どうやら皆に違う想像をもたらした様だ。

「あの、シンさん。それって」

「いえ、誤解しないで下さい。実は僕の昔の知り合いにそのンフィーレアさんと同じ能力を持った人が居たもので、つい」

「あぁ、そうでしたか」

「まぁ、昔の話です。話の腰を折ってすいませんでした」

「そんな」

「な~んだ。せっかくシンさんの恋バナ聞けると思ったのにな~」

「ルクルットさん!」

「ははは。ご希望に添えず申し訳ない」

 

 互いに打ち解けた五人は、早速仕事の話に入った。

 仕事はエ・ランテル周辺のモンスターを狩る仕事だ。

 だがそれは別に依頼されたから、という物ではなく、倒したモンスターに応じて得られる報奨金を求めての仕事だった。

 特に危険度の高い仕事という訳でもないのだが、シンとしては取り急ぎの生活費を得られれば何も言う事はない。

「よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 ペテルと握手を交わしたシンは、皆で部屋を出ることにした。

 

「お互い準備は出来ていますし、さっそく出発しましょう」

「そうですね」

 五人が旅立ちの為に一階に降りていくと階段の下で先ほどの受付嬢が笑顔を見せた。

 

「あ、丁度良い所に」

「はい?」

 思わず足を止めたシン達の前に立った受付嬢は一人の男性を招くと

「君に名指しの依頼よ」

「指名? いったい誰が」

「こちらの……ンフィーレア・バレアレさんです」

「はじめまして」

 まさかの話題の人物の登場に少しだけ動揺したシンだったが

「申し訳ありません。実は僕はもう仕事を決めてしまったのです。せっかく指名頂いたのに恐縮ですが、貴方の依頼はまた後日に、という事ではいかがでしょうか」

「ちょ! シンさん!」

 慌てたのは意外にもペテルだった。

「せっかくの指名ですよ! それもンフェーレアさんから」

「でも僕に声を掛けてくれたのはペテルさんが先じゃないですか」

「しかし、ですね」

「ん~…………っ! だったら」

 ポン、と手を叩くと

「話だけでも聞きましょう。ペテルさんも一緒に」

「へ? 私達は、別に構いませんけど」

「と、いうことでも宜しければですけど、貴方はそれでも?」

 振り返られたンフィーレアもまた笑顔を見せ

「僕はぜんぜん構いませんよ」

 

 六人はまた、今さっき出て来た部屋へと舞い戻ったのだった。

 

 それから約十分後、部屋を出て来た六人は早速出発しようと声を上げながら階段を下りてくる事になる。

 ンフィーレアの依頼はカルネ村という村の近くの森における薬草採集にいく自分の護衛と手伝い。

 シンは冒険初心者の自分一人では、と漆黒の剣を誘い結果漆黒の剣と共にンフィーレアに同行する形を取る事になったのだ。

 

 階段を下りたところにいた受付嬢はシンを見つけるや

「どう? 話は纏まった?」

 と笑顔で問うてくる。

「おかげさまで。僕の初仕事にしては楽しくなりそうですよ」

「良かったわね」

 

 皆に少しだけ遅れてしまったシンが少しだけ足早に出口に向かえば、その背に彼女の声が掛かる。

 

 

「いってらっしゃいっ!」

「はい! 行ってきますっ!」

 

  

 冒険が――――始まった。

 

 

 

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