オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン-- 作:小説はどうでしょう
草原をゆく一行はンフィーレアが乗る荷馬車を囲む様にして歩いていた。
先頭を
「ん」
不意に前方を見やったンフィーレアは
「ペテルさん」
「なんですか?」
「あそこで少し休憩にしませんか」
「うん?」
促された先では川辺に少しの岩場が見えた。
「そうですね。シンさん?」
「えぇ。僕も構いませんよ」
川辺で休憩を取る一行でシンは手ごろな岩に腰を下ろして一息を付いた。
この依頼はシンにとっては非常に有意義な物になっていた。
彼の知らない知識や情報をンフィーレアやペテル、ニニャ達は随分と分かり易く教えてくれている。
時折、そんな事も知らないのか? な空気も見えはするものの、それを笑ったり問い詰めたりする事も無い。知らない事であるのならば教えてあげればいい。ただそれだけの事をそれだけの事として彼等はシンに接してくれている事は、シンにとって何よりありがたい話だ。
中で特にシンの気を引いたのはあるモンスターの話。
「森の賢王、ですか」
「はい。ここいら一帯はもう森の賢王のテリトリーの中ですね」
「これから先は少しばかり危険なモンスターも出没してくるでしょう。その時はよろしくお願いしますね、シンさん」
ニニャとペテルの言葉を受け「そんなモンスターだったら会ってみたいですねぇ」と呑気な言葉を放てば皆が呆れていた。
森の賢王とは蛇の尾を持つ白銀の四足獣らしい。
叡智に優れ魔法も扱えると聞いたシンは、そのモンスターと接触する事でこの世界のモンスターの強さを測れないかと思案する。
森を統べる程であればこの世界においては強者の部類だろう。今まで倒してきたモンスターは贔屓目に見ても強いとは言えない。
シンは自分の強さに対する物差しを、手に入れられないものだろうかと考えているのだ。
魔法に関する知識に関してはニニャがもっとも有意義な情報をシンにくれていた。
「他には?」
「いろいろありますよ。周囲の危険を知らせてくれるアラームの魔法なんかは、森の探索などには役に立つんですよ」
「なるほど」
シンにとっては意外だったが、この世界の技術水準は思っていたよりも高い。
それは独自に発展している魔法文明が多いに関係しているといったところだろう。
「ほんと、シンさんってば意外にものを知らないんだよな。どんな田舎に住んでたんです?」
「いやぁ、ほんとにド田舎だったもので」
「ルクルット! 失礼だぞ! すいませんシンさん。仲間が無礼な事を」
「ははは。別に無礼って事でもないじゃないですか。僕としてはいろいろ教えてもらってホント助かってるんですよ」
「そう言って頂けると助かります」
真面目なペテルのらしい謝罪に思わず居心地が悪くなってしまうが、それでもシンにとってこの漆黒の剣との旅は、どこか楽しいものになっていた。
「ルクルット、お前もいい加減に!?」
言葉を途中で制されたペテルに視線を合わせる事無く、ルクルットは口元をニヤケさせると
「お出ましだ」
「っ! どこだっ」
「ほれ」
指差した方向に視線を向かわせれば確かに森の中から数匹のモンスターが現れている。
「ゴブリンか」
「オーガもてんこ盛りだ。どうする?」
「決まってる!」
ペテルは振り返ると
「ンフィーレアさんは馬車に隠れていてください」
「わ、わかりました!」
「前衛は俺が立っ! シンさんっ!」
言葉が終わる前にシンは大きく跳び一行の最前列に立つ。
「一応前衛職ですからね。ここは新人であり銅プレートの僕が最前列でいいでしょう。僕が抜かれても皆さんが居る訳ですし」
「しかし」
「すいませんが」
言って刀を抜刀する。
「議論の暇は無さそうですよ」
「つっ」
モンスターの一団はもうはっきりと視界の中だ。
「仕方ない。無茶はしないでくださいね」
「了解です」
「漏れて来るオーガは俺が武技【要塞】で抑える! ニニャ!」
「はい!」
「防御魔法と攻撃魔法で支援。ダインはゴブリンを足止め」
「承知したである」
「ルクルット!」
「あいよ」
「ゴブリンを狩れ」
「っし!」
思わず「お~」となってしまうのはシンだ。
パーティー戦闘という物に縁のなかった自分達からして、瞬時に各々の役割を定め効率良く立ち回る姿は一種の感動すら覚えた。
(たいしたものだなぁ……確かにこうすると複数人で戦う事のメリットは相当にでか「シンさんっ! 前っ!」っと!」
ペテルの叫びに前を見ればいつの間にか自分の目の前まで来ていたオーガがその手に持った木の鎚を振り上げ、そして振り下ろした。
「なんとも――」
間に合わない。とペテル達が目を瞑ろうとする前に
「――遅いんだよね、コイツ等は」
瞬時に入れ替わったの如くオーガの背後にシンの姿が現れれば、オーガの上半身が下半身から滑り落ち大量の血が飛び散った。
ゴブリンやオーガなどはエ・ランテルに辿り着く前に何匹も倒している。
このモンスターでは自分に傷一つ付けられない事は実証済みだ。無論
「さて、狩るかな」
逃がすなんて真似もしない。
シンは蹴り足に力を込め一気に大地を蹴るとオーガが凄まじい勢いで近付いてくる。
僅か二歩で間合いに入ってくるオーガの胴を最初の一匹目と同じく横薙ぎに払う。
彼の持つ刀はまるで豆腐でも切るかの様にオーガの身体を通り抜けた。
次いだ三歩目で隣のオーガの側面に移ると刀を横腹から反対の肩口に斬り上げる。
それは斬ると云うより通すと云った感じに滑り抜け貫き通る。
ふ、と立ち止まれば背後で二匹のオーガが
腰から二本の鉄杭を摘んで左手で投げ払うと右に向けて二歩動けばゴブリン四匹の真ん中に踊り出る事になり弧を描く様に刀を振り回しそのままその場より抜き出て止まる。
四匹の首が飛んだのとニニャとダインの目の前のゴブリンの頭に鉄杭に吹き飛ばされたのは
「…………な」
「…………え?」
ペテルとニニャが呆然とする中、否、漆黒の剣とンフィーレアが呆然とする中、剣筋も、剣先も、その動きすらも見得ない程の速さを持って数匹を惨殺したシンの姿にモンスターは恐怖し逃げ出す。がシンは懐から三本の巻物を取り出し、ひょい、と空中に放れば
「
具現化した三つの炎の球は逃げるオーガを貫通しゴブリン達を火の海に飲み込んだのだった。
モンスターの殲滅を確認したシンは笑顔で振り返ると、そこには戸惑いを見せる者達しかいない。少しだけ、苦笑いを見せる。
「シンさん……貴方は、いったい」
「僕、ですか?」
笑顔で近付いたシンは事も無げに言うのだ。
「ただの冒険者で、ただの侍ですよ。