オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン--   作:小説はどうでしょう

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第5話 野営

 

 皆で行う野営の設営はシンにとっては楽しいひと時となった。

 サークルや仲間内でのキャンプ位は経験があるが、ここまで本格的に何も無い場所で野営をするのは初めてだ。疲れを知らないレベル100の身体のおかげで一人の時は動き続けた。

 そしてなによりの楽しみは

 

「美味いっ! いや、ほんとに!」

「ははは。まだおかわりは沢山ありますから」

「すいません! 貰っていいですかっ」

「はい」

 簡素なスープや干し肉を美味そうに大食いするシンに皆が笑う。

「随分と腹ペコだったんだなぁ」

「いやぁ、実は金が無くて数日なにも食べてなかったもので」

「へ?」

 ルクルットの言葉に頭を掻きながら応えたシンは、再びスープを口に運ぶのだが、数日との言葉に驚いた。

「ちょ、数日って、大丈夫なのかよ」

「そうは見えない戦いぶりだったのであるが」

「まぁ、動きに弊害が出るって程でも無いんですけどね」

 思わず苦笑う。

 空腹はある程度感じるのだが数日食べ物を取らなかったにも関わらず動きに支障は出なかった。

(空腹耐性……なんてのは流石に無かったんだろうけど。身体の機能を持続させるってのもレベルの高さに関係するのかも)

 

 食事が終わりスプーンを皿におくと

「ごちそうさまでした」

 と、両手を合わせる。

「ん? シン氏」

「はい?」

「それはシン氏の信仰する宗派の儀式であるか?」

「え?」

 なんとなく、で行なった合わせた両手にダインの視線が向いている。

「あぁ。いえ、別にそういう訳では。まぁ日本っ、僕の……村ではそこそこ一般的な、ちょっとした作法? みたいなものなのかな」

「なんだよ。自分の村の事なのに随分疑問形なんだな」

「シンさんの村ではどんな神様を信仰していたんですか?」

「僕の村、ですか?」

「はい」

 見ればルクルットやニニャだけでなく、皆が自分の話を聞こうとしていた。

 シンは少しだけ「ん~」と考えれば

 

「そうですね~……いろいろな神様があって皆好き好きでしたね」

「村を挙げてってのは無かったんですか?」

「うん。個人の自由って感じでしたよ」

「それはまた」

「ま、冒険者(おれたち)みたいなのには多いかもな」

「それでシンさんは? どんな神様を?」

「僕ですか?」

 それは、と考える。

「そうですねぇ……特に神様は信じていないっていうのが本音なんですけど、強いて言えば……学問、ですかね」

「学問? シンさんは学者になりたかったのですか?」

 ニニャの問いにンフィーレアが割って入る形になり笑みも漏れるが、神を信じていないとの言葉にダインあたりは少しだけ真顔になっている。

「だからって神様を否定していた訳じゃないんだよ。とある宗教が信じている神様の誕生日を祝っての祝祭にはいつも楽しく参加したよ。ツリーなんか飾って皆でプレゼントを交換したりね。一年の始まりの日には別の神様に今年もよろしくと手を合わせたりもする」

「その、なんだか随分とおおらかというか」

「無節操だなぁ」

「ルクルットさんっ!」

「ははは」

 思わず笑った。

「それで夢は学者様、ですか」

「いや、それはないなぁ」

「でも学問って」

 ニニャには学問を修める事と学者になる事は一本道の様だ。

「僕はね…………ただ沢山勉強をして良い成績を修めて。そして良い仕事に就いて高い報酬を貰って生活をしていきたい」

「それが夢、ですか?」

「夢っていうよりは目標かな」

「それがシンさんにとっての幸せなんですね」

 ペテルの言葉に改めて考える。

「幸せか……うん。そうなんだろうね。少なくとも不幸じゃない。僕の村、いや僕は、かな」

 自分は、確かにそうだった。

「幸せになりたいんじゃなくて、不幸にはなりたくなかったんだ。それが僕の目標のすべてだった」

 不意に、ペテルの腰にある短剣に目が行く。

「皆さんみたいな夢は、僕にはなかった」

「シンさん」

 

 ペテルが手を伸ばしたのは腰の黒い短剣だ。

 このパーティーの名前の由来にして皆の目標。

 十三英雄の一人が持っていたと云われる漆黒の剣をいつか手に入れる。それがこのパーティーの夢だ。

 その日までその短剣が自分達の漆黒の剣だといったルクルットやペテル達を、シンはどこか眩しく思う。

「僕の村では……生きていくのに夢は必要無かった」

「我々には多分必要なんですね。この世界は人間には優しくありませんから」

「今は、分かりますよ」

 

 二人は暫しの間、夜空を見上げていた。

 

 

「あ、あのっ!」

「「ん?」」

 二人に声が掛かり見てみれば幾分緊張したンフィーレアがこちらを見詰めている。

「なんですか? ンフィーレアさん」

「その、シンさんにお聞きしたいんですが」

「僕に?」

 何だろう? とペテルと顔を見合わせると

 

「シンさんにはっ、お付き合いしている方はいらっしゃるのでしょうかっ!」

「…………へ?」

 

 どこか顔を赤くして聞いてくるンフィーレアに、少しだけ頭を働かせると――――「えっ!」と半身引く。

 

「す、すいません。お気持ちはその、嬉しいのですが、僕は男性の方とそういう関係になるのは」

「え? ………………ちっ! 違いますっ!」

「へ? 違う?」

 彼が自分に――と思ってしまったのだがどうやら違うらしい。そもそもその勘違いもどうかと思うのだが。

「僕が聞きたいのは、その、シンさんが特定の女性とお付き合いしているのかどうかって事で」

「あぁ」

 なるほどと一安心。

「別にそういう女性は居ませんよ。現じコホン! 僕が村に居た頃はそういう女性も居ましたが冒険に出る前に分かれていましたし、冒険に出てからこっちはそんな暇もありませんでしたしね」

「そ、そうですか」

 どこか気落ちした雰囲気は何故だろうか? と首を傾げる。

 そんなンフィーレアをよそに

「シンさんならいくらでも恋人を作れそうなのにな」

「シン氏の実力に憧れる女性は多く居そうではある」

「そうだと僕も嬉しいんですけどね」

 ルクルットやダインと笑顔で話すシンが視線をずらすと

「ではその、たとえばシンさんの好みの女性ってどんな人でしょうかっ!」

「え、っと。好みのと言われても」

「たた例えば髪は編んでいる方が良いとか、若くて、その十六歳くらいが好きとか妹が居た方が良いとか、村娘で農家の娘で両親の手伝いをしたりとか、その、例えば幼馴染に薬師が居たりする女性が好みだったりしたりするんでしょうかっ!!」

「あ、あの……ンフィーレアさん?」

 思わず顔がぶつかるほどに詰め寄ってくるンフィーレアに思わず仰け反るシンだったが、その聞き方では

「まるで誰かに限定している様に聞こえるんですが」

「え? …………っ! すすすすいませんっ!」

 慌てて距離を置いて座り込んでしまうンフィーレアの顔が面白いくらいに赤くて

 

「――――ぷっ!」

 

 一斉に、あはははは――と周囲が笑いに包まれる。

 

「へ~。ンフィーレアさんはそういう人が好きなんですね」

「ちょ! 僕は別に」

「照れる必要は無いのである。恋をする事はとてもすばらしい事であるよ」

「ま、俺くらいになるとあちこちに居過ぎて困るんだけどな」

「お前のは節操無っていうんだ! あ、ちなみに私達に手伝えることでしたらなんでもしますよ」

「皆さん」

「う~~ん」

「シンさん?」

 思わず考え込んでいるシンを皆が見ると

「そんな女性なら確かに僕は好きだな……いや、むしろ愛していると言ってもいいかもしれない。うん! そうだ、そうしよう! ここは是非ともそんな女性を探し出して求婚をしてみようっ!」

「ちょ! 困りますっ! エンリは僕が」

「貴方が?」

 五人の微笑みに更に顔を赤くするンフィーレアだったが、それでもはっきりと

 

「僕が、幸せにしたいと思ってるので、その……こ、困るんです」

 

「だったら僕なんて蹴散らして、想いを告げればいい」

 ンフィーレアの肩に手を掛ける。

「君が剣を取って戦って魔法を唱えて抗っても、僕は傷一つ負わない自信がある」

「……」

「でもその女性(ひと)を想う気持ちだけは、君は僕なんかに影を踏ませる事すらさせない自信があるんじゃないかい」

「もちろんですっ! この気持ちは、エンリを想う気持ちだけは誰にも負けませんっ」

「だったら自信を持てばいい。君は僕を勝った(まさった)のだから」

 

 いつのまにか、ンフィーレアはシンと漆黒の剣に囲まれていた。

 

「シン・カツラギを超えたンフィーレア・バレアレの想いに、勝てる者など居ないのだから」

「シンさん…………はいっ!」

 

 その後、「じゃ、前祝だ」と言い出したルクルットの言葉でささやかな宴となり、シンはこの世界に来て始めての、楽しい酒盛りに興じたのだった。

 

 

 

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