オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン-- 作:小説はどうでしょう
「痛ったたた」
「ははは。二日酔いですか? シンさん」
「たは」
昨夜の酒盛りで一番深酒をしたのはシンだった事だろう。レベルに関係無く二日酔いにはなるらしく、朝から随分な頭痛に見舞われていた。
「シン殿は馬車で休んでいるとよいであるよ」
「いえ、そんな訳には」
「そうですよシンさん。もうすぐカルネ村ですから危険も少ないか、と?」
話の先から見えてきた光景にンフィーレアの言葉が止まる。
そこには見慣れない、のどかな風景には不釣合いな村を囲む塀が見えている。
「なんだろう。前に来た時いにはあんな柵は無かったのに」
「……ルクルット」
「あぁ」
漆黒の剣が警戒を見せた。
あの柵が外敵に対しての物であるのは明白だ。そして外敵に対しての備えをしているという事はその必要に迫られている事をそのまま示していた。
自分達につもりは無くとも、村から見て自分達がその対象に含まれない保障が無い以上は警戒は必要だ。
(この気配は……ゴブリンか? だが村を支配しているにしては数が少ないが)
シンに探知系の魔法の知識が無い為に巻物は役には立たないが、どうやら侍の自分には相手の気配を察する事が出来るようだ。
シンには柵の向こうからこちらを伺う存在をほぼ正確に把握する事は出来ている。だがその存在と数、村の状況が彼には判断が付かない。ここは流れを見ようと無言で皆と道を進む。
「そこで止まって貰えませんかね」
「っ! ゴブリンっ!」
突然掛かった声を皮切りに周囲の茂みから一斉にゴブリン達が姿を現したかと思えば既に周囲を囲まれていると知る。
それぞれに武器を構えている姿を見ると、どうやら漆黒の剣の面々よりは力が上であろうかと伺えた。
だがシンにとっての驚きはゴブリンが襲ってこない事。なにより、リーダーと思しき剣を携えたゴブリンが言葉を発し自分達と交渉しようとしている意思が見えたことだ。
「人語を解するゴブリン……」
「普通、こうゆうゴブリンは種族を支配してる側で表には滅多に出てこないんですけど」
シンに並んで静かに杖を握るニニャが答えるが、ゴブリンはそれを見逃さず、されど笑みを見せてきた。
「出来れば戦闘は避けたいですけどねぇ。なにしろ――」
シンと視線がぶつかる。
「そっちのお侍さんからはちっとばかしヤバイ気配がビンビン感じるんでねぇ。こっちとしちゃあ兄さんとの荒事は避けたいんですよ」
「そう言いながら狙いを付けてる様なんだが」
「分かっちゃいるんでしょうが
「そうみたいだねぇ」
狙いはあくまでも漆黒の剣に向けられているのは感じている。
(人質、か……まぁ皆を守りながらでも勝てるっちゃ勝てるんだけど)
「僕としても話が通じる相手と訳も分からずことを構える気はないんだけど」
「まぁここはお互いの為に少し時間をくだせい、っと、姐さん」
「どうしたんですか?」
柵の向こうから聞こえる女性の声にゴブリンが振り返れば
「エンリ!」
「っ! ンフィーレア!?」
どうやら殺気や警戒はここまでらしい。ただ――
「「「「「おぉおおお~! エンリぃ~~~~~」」」」」
「みみみみなさんっ!」
「ンフィーレア?」
――ンフィーレアにとっての困難はそれから少しの間は続くことにはなったのだが。
村に通されて暫く村の様子を眺めていたシンや漆黒の剣の視界に、話を終えたンフィーレアとエンリがやってきた。
「皆さん、ンフィーレアがお世話になりました。エンリ・エモットです。一応、ゴブリンさん達にいろいろ指示させて貰ってます」
「姐さん。そこは命令と言ってくだせえよ」
「ジュゲムさんはちょっと黙っててください」
「へい」
自分達の周りに立っていたゴブリンのリーダーが頭を下げている所をみると彼女がゴブリンを指揮しているのは確からしい。
なぜこんな女の子が? と思わないでもないが、今はまず置いておこうと決めていた。
「私は漆黒の剣のリーダーでペテルといいます。こっちがルクルット。ニニャにダインです」
「初めまして、お嬢さん」
「よろしくである」
「こんにちわ」
「はい。よろしくお願いします」
「そして」
促され
「冒険者のシンです。よろしく」
「よろしくお願いします。エンリです」
エンリに右手を差し出すと握手を交わす。
ゴブリンが警戒したのが分かるがンフィーレアも警戒していたのは皆の気持ちを和らげるに一役買っていたのだった。
ンフィーレアは皆にエンリから聞いたこの村の概要を簡単に説明して聞かせる。
この村が陽光聖典からの襲撃を受けた事や、王国戦士長達が助けに現れた事。だが実際にこの村を助けた者の名は
「アインズ・ウール・ゴウン? ……いえ、私達はちょっと聞いた事が無い名前ですね。なぁ?」
「あぁ。そんなに凄え
あるいは冒険者同士なら知っているかも、と考え聞いたンフィーレアの言葉に覚えの無い返事を返したペテルとルクルットだったが、ついと視線を移せばそこには明らかに固まっているシンが居る。
「シンさ」
「その
「え? その私は」
「はい! ご存知なのでしょうか?」
シンの勢いに少し引いてしまったンフィーレアを押しのける様にエンリが前に出るが
「別の名前ではなかったですか? 例えばモモンガ、とかヘロヘロとか!」
「え? へろ? いいえ。確かにアインズ・ウール・ゴウン様ですよ? お連れの戦士の方もあの人の事をアインズ様と呼んでいらっしゃいましたし」
「いやしかしアインズ・ウール・ゴウンとはギル!」
「ちょ!」
「シンさんっ!」
「っと」
気が付けば、シンはエンリの両腕をきつく握りしめ彼女の表情に痛みが見て取れた。
ンフィーレアやニニャが慌ててシンの手に取り付いている。
「すっ! すいません!」
慌てて手を離し少しだけ距離を取る。
(アインズ・ウール・ゴウンだってっ! でもそれはギルドの名前だろう! 一体誰が……)
「その、シン殿?」
「なんだろう」
「さぁね」
「シンさん」
漆黒の剣の四人が見詰める中、シンの思考は己に埋没していく。
(モモンガさんが最後までログインしていたのは多分間違いない。ヘロヘロさんももしかしたら……だとしたら何故名前が違う? もし自分の存在を知らせたいなら名前を変える必要性が無い。違う人間が……いや、偶然にギルド名と同じ存在がこの世界に、ってのは都合が良過ぎるのか? でも……)
「あの、エンリさん。あ、先程はすいません。取り乱してしまって」
「いえ。あの、もしかすると冒険者さんはあの方の事を」
「僕の事はシンと」
「ではシンさん。貴方はあの方をご存知なのでしょうか?」
少し、考える。
「もしかしたら僕の知っている人物かと思ったんですが。そこで幾つか確認したいんですがいいでしょうか?」
「あ、はい。私でよければ」
エンリの視線とシンの視線が交わる。
「そのアインズという方の容姿なのですが特徴などは覚えていますか? 例えばエルダーリッチの様な姿だとかどろどろのスライム状の外見だとか」
「ふえ?」
あんまりの質問だ。
「いやシンさん。いくらなんでも」
「そうだぜ。エルダーリッチがなんで村を救うんだよ」
ペテルとルクルットの疑問も尤もなのだが
「いいえ。アインズ様がスライムだなんて事はないと思います。いつも仮面を付けてましたけど」
「仮面、ですか……それは彼と初めて会った時からずっと付けていたのですか?」
「ええ、だと思います、けど……すいません。なんだかあの方と出会った時の事があまり思い出せなくて」
「無理も無いよエンリ。それだけ怖い思いをしたんだから」
「ンフィーレア」
仮面を被っていた事に違和感も覚える。
もしモモンガの容姿に皆が脅えるとの事であれば顔を隠すに理由は足ると考える。
視線をゴブリンに移せば
「こちらのゴブリンの皆さんはその人のくれたアイテムで呼び出したとの事ですが、その騎士達から村を助けてくれたのもこのゴブリン達で?」
彼等の力を感じるに、確かに騎士団の一つや二つは彼等だけで対処出来そうだとも思う。
「いいえ。アインズ様から貰ったアイテムを使ったのはあの方が村を去ってからで、村を救ってくれたのはアインズ様が呼び出した異形の騎士でした」
「異形の、騎士?」
「はい。アインズ様はその騎士を【
「
自分の知識不足が苦々しい。
「その騎士が村を」
「はい。襲ってきた騎士を皆倒して。そしてアインズ様自らも、村を囲んだ騎士団から村を守ろうとした王国戦士長の方達を助けてくれました」
「……その襲ってきた騎士達は……生きて帰ったのでしょうか」
「! それは……」
「シンさん!」
言い澱んだエンリを背にンフィーレアが割って入る。
「近隣を荒らしていた騎士達は大勢の無抵抗の村人を殺したんです! エンリの両親だって……僕はそんな奴らを殺したアインズという人が間違っているとは思いませんっ!」
「そう…………なのでしょうね。この世界は……失礼」
皆に背を向け歩き出したシンは一度立ち止まり
「すいませんでした。どうやら僕の知っている人とそのアインズ・ウール・ゴウンという方は別の人間の様です。お力に成れず申し訳ない」
「……シンさん」
独り、場を離れていくシンの後姿をニニャは静かに見送った。
村を眺める事の出来る丘に立つシンは、村人に弓矢を教えるゴーレムの姿や、笑顔で話すペテル達やエンリの姿を見詰める。
だが思考は視線の先には無い。
「…………アインズ・ウール・ゴウン…………一体何者だというんだ。ギルドの関係者……じゃないよね、モモンガさん」
それが、シンの答え。
彼等【アインズ・ウール・ゴウン】は確かに異形種ばかりで構成される特殊なギルドであり、どちらかと云うと負の存在の象徴とも言えた。
その実力も伴い、どこかユグドラシル内においても悪役の役割を果たす場面も少なくない。
千人を超すプレイヤーが彼らのギルドに攻め込んだ時もあったと聞いた事もある。
だが
「その
彼は殺人を、した。
確かにこの世界においては人を殺す事は避けられないのかも知れない。この世界は自分達の世界ともユグドラシルとも違う。違いすぎる世界ではある。
だがユグドラシルのプレイヤーである自分達にとってこの世界は脆弱だ。それがこの世界で感じたシンの実感であり事実だ。
だとするならペテル達が人を殺す事と、自分達が人を殺す事は同義では無い。
結果が同じだとしても
彼等のは戦いで、自分達のはただの――――
シンの知るアインズ・ウール・ゴウンは、確かに異形だ。
悪魔を擁し、アンデットを従え、死と破壊をその身にまとっているのかも知れない。
だが、彼等はあくまでもルールに乗っ取ってゲームをしていた
確かにPK戦闘に特化したギルドだったかも知れない。
だがそれはその容姿故にPKを仕掛けられ続けた結果の避けられない結果に過ぎない。
彼等は弱いプレイヤーや他のプレイヤーを好き好んで襲いはしなかった。
自分達に敵対して襲い掛かってくる者。
他の異形種に対してPKをしている者。
襲われているプレイヤーを助かる為に。
彼等【アインズ・ウール・ゴウン】は、本質的に
モモンガも基本的に好戦的な人間じゃない。第一、リアルでも知り合いのたっち・みーに関して云えば、仲間が虐殺を行なうなど絶対に看過しない人間だった。
この村を救った
自分より遥かに弱い騎士団を、みんな殺した。
「………………違う…………絶対に違う…………」
彼ならば襲われている村を救う――――かも知れない。
彼等ならば村の為に戦う王国戦士長とやらを助ける為に戦う――――かも知れない。
アインズ・ウール・ゴウンに属する者達ならば、自分達の去った後の村に守り手を残すだけの知識やアイテムを持っている――――かも知れない。
だが彼等ならば、それら全てを――――敵の騎士団を
「アインズ・ウール・ゴウン……本当に君は、何者なんだろうなぁ」
何時の日か出会うのか。
その出会ういつかの日に、果たして自分はその人物の敵であるのか味方であるのか――――いまはただ、その疑問を空に投げつけるだけのシンだった。