オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン-- 作:小説はどうでしょう
「これがングナクの草です。これの採取を手伝って頂ければ今回の依頼は完了です」
「へ~。これがポーションの調合に使う薬草、ですか」
「えぇ」
ンフィーレアに案内されたのはカルネ村近くの森の中だ。
今回の依頼は彼の薬草採取の手伝いと護衛なのだから、ここからが依頼の本番といったところだろうか。
「それでは始めますか」
「さっさと済まそうぜ」
ペテル達は経験があるのだろうか、皆それぞれ適度に散り各々足場の草むらに目を向けている。
シンとて負けてはおれず「そんじゃあ僕も」と薬草を探そうとすると
「あの、シンさん」
「っ。なんです?」
「その、ちょっと」
「?」
一人、森の奥へとンフィーレアに招かれた。
「なんでしょうか?」
「あの…………すいませんでした」
「……は?」
ンフィーレアに連れられてみれば彼がいきなり頭を下げた。
「あの、なにを謝られているのか僕には分からないんですが」
「実は――」
ンフィーレアが話し始めたのは彼がシンに依頼をした経緯についてだった。
ある女性が彼の家に持ち込んだポーションはこの世界の常識を覆す程のポーションだ。
そんなポーションを彼女に渡した人物が居る。
「僕は……そんな貴方からそのポーションの情報をなにか得られるのではないかと……そんな考えで貴方に近付いたんです」
「……そうだったんですか」
「騙す様な形で近付いて、申し訳ありませでした」
「いえ、そんなに頭を下げる必要はありませんよ」
少し笑いを見せンフィーレアの顔を上げさせる。
もとよりシンとしても彼が自分を名指しで依頼をしてきた事には疑問もあったのだから、どちらかと言えばその理由が分かって一安心といったところ。
「ですが言い難いのですが、僕の持っているポーションは以前偶然に手に入れた物ですので、作り方や原料などと云った情報を僕から得る事は出来ないのですが」
「あ、もうそれは良いですよ。僕としてはポーションもですが、シンさんの様な凄い強い方と知り合えただけでも今回の依頼は充分に有意義ですから」
「はは。そう言って貰えると嬉しい限りですね」
「はい」
少しだけ笑いあうと、二人はそのまま薬草の採取を始めたが
「あ、そうそう。ポーションと言えばなんですが」
とンフィーレアが口を開いた。
「カルネ村を救ってくれたアインズ・ウール・ゴウンという方が」
「たしか、凄い
「その人もシンさんと同じ赤いポーションを持っていたそうなんですよ」
「…………ぇ?」
「襲われて怪我をしたエンリにポーションを渡してくれたそうで。怪我が綺麗に治ったと聞きましたからやはり通常のポーションより格段に効果が高いみたいですね。もしかしたらシンさんの物と同じ場所で入手したのかもしれませ……シンさん?」
見れば自分を見詰めて固まるシンがいる。
「……その、ンフィーレアさん」
「はい?」
真剣な表情で語りかけるシンにンフィーレアは静かに向き合った。
「ん? ンフィーレアさん、そっちはどうですか? 私達の方はボチボチと言った感じで……あれ?」
仲間と適度に散らばり薬草を採取していたペテルが現れたンフィーレアに声を掛けたが――
「シンさんはどうしたんですか?」
「少し忘れ物をしてしまって、シンさんにはカルネ村に取りに行ってもらってるんです」
「そうでしたか。確かにシンさんでしたら馬を走らせるより速いかもしれませんしね」
「はは。まったくです。さ、僕達は採取を続けましょうか」
「えぇ」
――そこにシンの姿は無かった。
◇ ◇ ◇
カルネ村のエンリの家。その周囲の異変に気が付いたのは妹のネムだった。
「お姉ちゃん。なんかゴブリンさんたちが集まってるみたいだよ」
「え?」
見れば窓の外に二人のゴブリンが剣を構えているのが見えた。
「なにかあったのかしら……ネムは奥に行ってなさい」
「でも」
「大丈夫だから、ね」
「うん」
妹を置くに部屋へと行かせエンリが家の外への扉を開けると、そこにはゴブリン・リーダーの背がある。
「何度言われても兄さんを黙って通す訳にはいかねぇんですよ。まず俺達との話を済ませてからにして貰えませんかねぇ」
「う~ん。僕は別にエンリさんに危害を加えるつもりは無いし、君達が人間に害をなさない以上は君達にも危害を加えるつもりはないだよ。ちょっと彼女に確認したい事があるだけなんだけど」
「だったら俺達に話してもいいんじゃねぇかい?」
「そこんところに自信が持てないからエンリさんに聞きたい事があるんだけどなぁ」
「んじゃあ通せねえよ」
もう何度目の押し問答だろうか。
腕尽くで押し通ってもいいのだがどうやらこのゴブリン達はエンリを守る様に動いている。最悪の場合でも全員が決死で掛かり彼女を逃がす事を目指す勢いだ。
シンとしてもそこまでするゴブリン達と戦う事は望まないし、倒す事はもっと避けたい。
「そこをなんと、っと」
「なにかあったの? ジュゲムさっ! 貴方はシンさん?」
「どうも」
扉から顔を見せたエンリが驚いた顔を見せているが、これでどうやらこの押し問答も終わりの様だ。
自分が話すからとエンリはゴブリンを説得してシンは家の中へと招かれた。
「それで、私に聞きたい事というのは? なにかゴブリンさん達には言い難い事の様でしたけれど」
「まぁ彼らに言って万が一にも話がこじれてもと思ったものですから」
「はい?」
「これ、の事なんですが」
キョトン? とするエンリの前に差し出されたのは一本のポーションだ。
この世界の普通のポーションとは違う、血の色の様に真っ赤なポーション。
「これと同じポーションを、見た事はありますか?」
「同じ、ですか?」
シンの手の中のポーションを詳しく見る必要はない。それは彼女の脳裏に焼きついているのだから。
「アインズ様から私がいただいたポーションと同じ色です。あの方がくださったポーションもこれと同じ、血の様に真っ赤な色のポーションでした」
「入れ物も、ですか」
「はい。そうだと思います」
「…………」
「シンさん?」
考え込んでしまったシンを不思議に見詰めるエンリだったが、シンの思考は己に埋没していた。
ンフィーレアから聞いた限りではこのポーションはこの世界では珍しい。もっと言えばこの世界にはいままで存在していなかった。
自分が持っているポーションはユグドラシルでは基本装備で最初にログインした時には全員のアイテムボックスに数個存在しているアイテム。
プレイ自体をしない自分にとってはその3個のみしか持っていない。
そのポーションと同じ物を持っているという以上、やはりアインズ・ウール・ゴウンというギルド名を
(やはりモモンガさんなんだろうか。でも……)
果たして彼に、人が殺せるのだろうか。
たっち・みーから聞いた彼の人間像とも違う。
彼はもっと慎重で、自分から戦闘をする様な人物ではない筈だ。だが気になるのは一つ。
(彼等は異形種プレイヤーだ。もしかしたらこの世界にそのまま現れたとして…………存在に魂が引かれるなんて事があるんだろうか……」
「え、っと、存在に魂、ですか? その、私にはちょっと意味が」
「っ! いえ、こちらの話で」
「そう、ですか」
頭を振るう。
最後にユグドラシルで会話したのがモモンガだった為、どうしてもユグドラシルと彼が一緒に思考に浮かんでしまう。
まだ情報は少ないと言い聞かせる。それに彼はどうあれ村を救ったのだから、自分よりも早くこの世界に順応しただけなのかもしれない。
「もし、他になにか思い出せたならンフィーレアさんにでもいいので教えてくれれば助かります。もしかしたら僕の知人の手掛かりにもなるかも知れませんので」
「そういう事でしたら。でももうあんまり話せる事は」
「いいんです。あればの話ですから」
「そうですか、あっ、そういえば」
「ん?」
何かを思い出した様に頭に指を当てたエンリが笑顔を見せると
「確かアインズ様がお連れの騎士の方のお名前を仰っていました」
「騎士? それはなんて」
「お顔は拝見出来なかったんですけど、それがなんと女性の方の声で! え、っと確かぁ…………っ! そう! アルベド様っ! そう呼ばれてました」
「アルっ!」
思わず固まる。
その名前は聞いた事がある。
実際に見た事は無いがユグドラシルで彼等のギルド。その拠点であるナザリック大墳墓を守護する為に彼等に作られたNPCの名前だ。
(たしか守護者とか呼ばれていたNPCの統括だと聞いた事が。じゃあやっぱりギルドの内の誰かがギルド名を名乗って行動しているのか? くそ! こんな事ならもっと詳しく聞いておけば良かったっ)
シンにはアインズ・ウール・ゴウンの知識は少ない。
精々たっち・みーから聞いた事を少しと彼等との僅かな交流の記憶が残るだけだ。
守護者と呼ばれるNPCも実際に目にしたのはセバスと名付けられた執事だけ。たっち・みーが自分が作ったと引き合わせてくれた事があるだけで、別に会話が成立する訳でもなく、ただ傍に立っているだけの存在。
他の守護者の名前も顔も殆ど知らない。人数すら聞いてはいないのだ。だが現実にアルベドと呼ばれた存在は動き、言葉を発している。
思わずエンリに対して身を乗り出したシンは
「そのアルベドという騎士は他に何か言っていませんでしたか!? アインズという方と彼女の会話で何か記憶に残っているものはありませんか!?」
「え? いえ、別に特には」
「お願いします! なんでもいいんでっ!」瞬間、シンが凍る。
「あの、シンさん?」
真剣な表情で固まるシンを不思議に思うと、彼は素早く窓の外に視線を向けたのでエンリもなんとなくそれを追って窓から森を眺めてみれば
「っ!」
見ている先の森から僅かな炎が噴出したのだった。
「あれはっ!」
「魔力? …………っ! しまったっ!」
「あっ! シンさんっ!!」
シンは窓を開け放つとそのまま身を躍らせ一気に森へと駆け出していく。
「何があったんだっ、ペテルさんっ!」
その視界に映る森から雷が迸っている光景は、彼の走りを加速させるのだった。
◇ ◇ ◇
森の中をペテル達は疾走していた。
「どうだルクルットっ!」
ペテルは走りながらも自分の少し後方を追走するルクルットに振り向かずに声を飛ばす。
「振り切れねぇ! しっかり付いてきやがるっ!」
「くそっ! なんとか森を抜けないっ! ンフィーレアさんっ」
躓いたンフィーレアを素早く助け起こすとそのまま走る。その手に持った籠を奪って捨て、速度を上げる。
「すいませんっ! まさかこんな事になるなんて」
「構いません! 今は逃げる事だけを考えてくださいっ」
「頑張るである! もう少しで森を抜けるであるっ!」
「僕がもう一度足止めを」
ニニャが杖を後方に掲げて速度を落とすと「構うなっ!」とペテルは怒声を張った。
「今は真っ直ぐに森を抜ける事だけを考えろ!」
「は、はいっ!」
また速度を上げる。
一同の視界にルクルットの背中が飛び込んできた。
「止まれっ!」
「!」
両手を広げ皆の進路を強引に塞ぐ。
「ルクルットっ! お前」
「やばいぜ」
「っ」
その先には森しか見えない。木々しかない。
だがルクルットの感覚はそれを捉えて離しはしない。
「やっこさん回り込みやがった」
「ちっ! じゃあ他のルートを「ペテルっ!」っ! 要塞っ!!」
ペテルが武技・要塞を発動したのと、彼の盾が茂みから突出した何かを弾いたのはほぼ同時だった。
激しい破壊音と共に彼の盾が砕けたがダメージは要塞によって負わなかったのは行幸である。要塞の効果も喪失してしまったが。
「ンフィーレアさんは下がってっ!」
彼を後ろに追いやるように、漆黒の剣はペテルを戦闘に茂みに対してフォーメーションを取る。
「――――そろそろ追いかけっこにも飽きたでござる」
「ちっ。やるしかねぇか」
「そうであるな」
茂みの奥から聞こえる声に反応する様にルクルットとダインが構えると、それに呼応する様に草木が踏みしだかれ、追跡者の巨体が姿を現した。
「それがしの一撃を防いだのは見事でござった」
「これが……」
「森の、賢王」
ペテルの言葉を応えたンフィーレアの視界には、巨大なジャンガリアンハムスターが人語を話しながら屹立している。
無論、これがハムスターである筈は無い。
その身体は大柄なダインよりも遥かに大きく、その尾は硬質な鱗で覆われている。
「さて、どこまでそれがしを楽しませてくれるかは分からないが、闘争を始めようではござらぬか」
「くそっ! やるしかないかっ! ニニャっ!」
「【
ニニャはペテルの鎧の防御力が高まめると傍のンフィーレアに小さく呟く
「僕たちが森の賢王の注意を引きますからンフィーレアさんは見て逃げて下さい」
「しかし」
「僕たちは冒険者で、貴方を守る為に雇われたんですっ! お願いしますっ」
「でも、そんな「今っ!」ちょ!」
会話を遮る様にルクルットが叫べばニニャはンフィーレアを後方に突き飛ばした。
「ふむ。一人も逃がさんでござるが」
「お前の相手はっ!」
踏み込んだペテルが間合いに入る。
「俺達だっ!」
振り下ろした剣が尾で受け止められた。
「勇敢でござる。それでこその戦いでござるよっ!」
「くっ!」
尾を振るわれただけで吹き飛ばされるが、追撃を掛け様と身を動かせば
「【
「ん?」
賢王の足元の草木が足に絡まる。
と、その身体に一本の矢が当たるが硬質な毛に阻まれて甲高い音を立てて地に落ちた。
「ちっ! 矢じゃ貫けねぇ」
「その様であるな」
ルクルットは弓を捨て剣を抜きダインが並ぶ。
「それがしの番でござるな。では【
ルクルットとダインの元に飛翔する炎塊が二人の目前で弾けると一帯が炎に包まれる。が
「中々やるではござらぬか」
その炎の奥で構える二人。その間にはニニャが展開した
「おおおおおっ!」
「ふむ、ふむ、ふむ」
ペテルは何度となく切り込むが賢王の尾は縦横に動き彼を翻弄する。するが彼も致命の一撃は喰らいはしない。そうしようと意識を向ける度
「【
「……ふむむ」
ニニャの魔法が賢王をけん制している。
当たったところでダメージも知れてはいるが、それでも反射的にそれに対応してしまう。
彼らを、敵として改めて認識した。
「遊びは終わりでござるよ」
「っ! な」
一瞬だった。
足元の拘束を物ともせずに引きちぎりペテルに体当たりをかませば彼が吹き飛び木に激突する。
「ペテルっ!」
「ルクルット!」
「しまっ」
異様に伸びた尾が賢王とは反対の位置から回り込みルクルットを弾けば返す勢いでダインを吹き飛ばす。
「まずは」
「【
ダインに尾を振り上げてた賢王に放った雷が簡単に尾で消し去られた。
「ふむ。やはりお主を先に黙らせた方がいい様でござるな」
「くっファイ「遅いでござるよ」っえ! つあっ!」
小柄な身体が吹き飛ばされた。
「……あ……(駄目だ……意識をたも」
意識を失うことは死に繋がる。
その事を充分に知っている。理解しているのにも関わらず、遠くなっていく意識の隅で賢王がこちらに正面を向けている。
「これが闘争でござるゆえ、御免っ」
「ニニャっ!」
鱗に覆われた尾先はルクルットの放つ矢よりも遥かに速くニニャに襲い掛かり――――
「…………ぁ」
――――ニニャの顔面で一本の鞘に止められていた。
徐々に明確になってくるニニャの意識に掛かるのは声。
「ユグドラシルじゃぁ他人の狩りの横取りはご法度なんだけど、まぁここは目を瞑って貰っても構わないよね」
「シンさんっ!」
手を差し出しニニャを立たせたシンは静かに鞘から刀を抜き放つ。
「仲間の加勢に来るとは敵ながら関心でござるな。敬意を持って苦しまずに殺してやるでござ「黙れよハムスター」っ! お主」
言葉の敵意に賢王が敵意を持って応えれば、森の中が殺意で満ちた。
それはペテル達にとって息をするのも忘れる程の圧力を感じる物。
その中で、漆黒の剣を背に立つシンの姿が大きく見えた。
「たかだが
構えを取る賢王に一歩を踏み出し――――
「お仕置きの時間だ」
――――闘争を宣言したのだった。