オーバーロード--漆黒の英雄の名は……シン--   作:小説はどうでしょう

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第8話 闘争

 

 森の中を疾走する五人の人影。

 そのうちの一人が木の根に足を取られるが、すかさず隣の影に助けられた。

「苦しいでしょうがもう少しですンフィーレアさん!」

「はい! すいません!」

「ニニャ止まるなっ!」

「でもルクルッ」

「俺達は足手まといなんだよっ! 分かるだろうっ」

「今は彼を信じるであるっ」

 一度だけ振り返った先で視界に映る煙に目を背け、漆黒の剣とンフィーレアの五人は森を抜ける為に再び走り出したのだった。

 

 

 彼等の目に映った煙の中。その森の奥深くではシンと森の賢王の戦いが始まっている。

「っと!」

 縦横の伸縮し曲がりくねる硬質の尾先を刀で受け止めるが、その威力はシンの予想を上回り彼の身を後退させる。

「よく防ぐでござっ! むう」

「…………」

 シンの投擲した鉄杭は賢王が居た()()空間を通り過ぎ大木に突き刺さる。

 鉄杭を避けた賢王の身体の文様が光を帯びると

「【電撃球(エレクトロ・スフィア)】!」

「……【火球(ファイヤー・ボール)】」

 賢王の眼前から発生した電撃球とシンの巻物が生み出した火球は二人の間で衝突し消失する。

 その爆炎を突き破りシンが賢王に肉薄すると刀を一閃。

「やるでござるな!」

「堅いなぁ…………はは」

 賢王は刀を避け切れなかった。が、その硬質な体毛が賢王の身を刀から守った。

 距離を置いた賢王を追撃しようとするシンが突然身を屈めると頭上を尾が通り過ぎる。

 尾を伸ばし回り込ませ背後よりの攻撃をかわしたシンに

「ほう! 見事見事」

 と笑みを見せる。

 そしてシンもまた――――

 

 

「…………はは――」

 

 その目輝かせ――――昂笑う。

 

 

 柄を引き寄せた刀を賢王に突き出し気を放出させる特殊技能(スキル)【虎砲】を放つが賢王は【魔法の盾(マジック・シールド)】で受け止める。

 

「はははっ!」

 

 霞んだ賢王がシンの側面に現れたかと思えば背後からの突進が見舞われるが、僅かにかすめてシンは距離を取る。

 

「あははははっ!」

 

 突然に羽虫の大軍がシンの視界を覆い尽くせばその羽虫諸共に尾が突き入れられた。

「それがしは賢王ゆえ森の全てはそれがしの手足でござる」

「くははは! あははっ」

 

 天高く飛び上がったシンの顔には――――歓喜があった。

 

 

 この世界に来て感じた事は、この世界の生物の脆弱さと、この世界における自分の力の強大さだ。

 あまりに儚く、あまりに強い。

 それが世界であり、それが自分。

 いつも加減をし配慮を強いられる生活に不満を覚えていた訳では無い。自分の命の危機が少なくなるという事はむしろ歓迎していたといっても良いだろう。

 

 だが、今、ここに、自分の目の前に――敵がいる。

 

「あははは! あーーーーっははははっ!!」

 

 少しずつ力を上げた。

 少しずつ力を込めた。

 その全てをこの眼前の敵は耐え、避け、弾く。

 

 ここに在るのは殺しではなく。戦いだ。

 蹂躙ではなく闘争だ。

 その、入り口だ。

 

 柄を握る手に力が入る。

 特殊技能【列空斬】を思い浮かべる。

 刀に魔力が注ぎ込まれ抜刀と共に魔力の斬激が放たれるのだろう。だが――どこまで――力を入れるのか。

 

(三割……五割か? …………くくく……いやぁああああ!)

 

 思い切り全力で抜刀した。

 

 

「イっとけえええええええええええっ!」

「っひょ!」

 

 ()()はまさに奇跡だった。

 奇跡的な偶然であり奇跡的な幸運であり奇跡的な回避。

 

 ほんの僅かだけ身を動かす事が出来た賢王の脇では、地面が大きく切り裂かれ巨大な傷跡を残していた。

 その先は長く、その奥は深い。

「なななななななな」

「…………っくはあああああああああ! 避ぉおけたぁあああ!」

 

 恐怖に慄く賢王と、歓喜に叫ぶシン。

 

 全力で! レベル100の力を込めて放った技を、()()()()()()()()()()のだ

 

 大地に落下しながら納刀するシンは着地と同時に両手を広げる。

 

「あはは」

 そこに刀は無く。あるのは両の手。

 

 神の左手と――

 

「あはははは」

 

 悪魔の右手。

 

「あーはっははは!」

 

 世界の(ことわり)を破壊する右天と創造する左天を従えて前進する。

 

 

「あーーーーははっははっははは!!!」

 

 

 滅びと癒しを左右に広げ携えて獲物に向かって突進する。

 

 どちらを打ち込もうかと脳裏が動く。

 命を止めようか?

 存在を創り変えようか?

 在り様を壊そうか?

 新たな命を生み出し当てようか?

 

 この力を――どう使おうか!?

 

 風よりも速く賢王に肉薄したシンがその両腕を天高く突き上げた時に

 

 

「まままま参ったでござるっ! それがしの負けでござるぅううううううっ!!!」

「っ!!!」

 

 服従を示すように腹を見せ地面に倒れ込む賢王を、シンは確かに見た。目撃した。

 だが

 

「っっっ!!!」

 

 止まれない。否――止まりたくない。

 せっかくの機会。

 やっとの機会。

 ようやくの機会なのだ。

 自分とここまで渡り合える敵に、次いつ出会えるのか分からない。

(全ての生を――――破壊するのはあああっ!)

 悪魔の右手を賢王に振り下ろす。

 

「~~~~~~~!!」

「っ!!!!!!!!」

 

 シンの目に賢王が映し出され、その映し出された賢王の潤んだ瞳に自分の笑みが映し出される。

 

 

 その笑みは歓喜に歪み凶気を孕み――――狂喜が在った。

 

 

(っの!)

 

 僅かにそらした右手は賢王の真横に撃ち込まれ――――周囲の森が死に絶えた。

 木は枯れ果て葉は腐り落ちる。

 

「ひっ! ひぃ~~~」

「………………僕は……」

 

 呆然と立ち上がるシンは自分の両手をしげしげと見詰める。

 確かに賢王を滅ぼそうとした。殺そうとした。

 自分はペテル達が逃げる為の時間稼ぎをしようと思った。

 時間稼ぎをしている()()()()()()

 賢王は魔獣であって魔物ではない。

 その行動原理は現実の世界での獣のそれとなんら変わりの無いものだ。

 自分のテリトリーに進入した部外者を排除しようとする縄張り争いでしかない。

 命を憎み命を呪う魔物の攻撃とはまるで違うものだ。

 人を襲うという結果は同じであろうとも、その中にある真実は火と水程も違う。

 人を襲う賢王を責めるならば、彼のテリトリーと知って入る人間もまた責められるべきなのだとシンは考えていた。

 だからこその時間稼ぎ――のはずだった。

 だが自分は、あの時確かに

 

 

「……呑まれた……」

 

 

 敵意に、殺意に。

 なにより自分自身の力に、呑み込まれてしまった。

 

 大きく、息を吐き出す。 

 まるで内に入り込んだ黒い何かが抜け落ちる様に心が晴れていくと

 

「森へ帰るといいですよ、森の賢王」

「ほえ! そ、それがしを見逃すでござるか!?」

 その姿勢はそのままに涙目で話す賢王に申し訳ない気持ちが強くなる。

 人語を話す巨大ハムスターの命乞いを切り捨てるほど、自分は血に飢えては居ないと苦笑する。

(今は、ね)と自責を込めて。

「君のテリトリーに入り込んだ人間と君が戦うのは自然の摂理なのだろうね。だから人間を殺すななんて言う権利は僕には無いんだ。ただできれば今後、僕の友人達がこの森に入る事は見逃して貰えると助かるかな。でなければ」

 一度、腰の刀に手を掛ける。

「また僕が君と戦う事になるかも知れないからね」

「…………」

「それじゃ……ごめんね」

 少しだけ頭を下げ、シンは振り返って静かに歩き出す。

 おそらく皆が森を抜けるくらいの時間は稼げただろうと合流を目指すと

「っ!」

「とおおおおおおおおおおおおおおのおおおおおおおおおおおおおピギャ!!!」

 背後からの突進を思わず避けると自分を通り過ぎて大木に激突した賢王。

「あの、なにを?」

「痛ててて」

 頭を抑えてもだえる賢王に少しだけたじろぐシンに、振り向いた賢王は地面に土下座をする。というか土下座に見えないでもない格好をした。

「それがしを殿の従者にしてくだされっ!」

「…………はい?」

「殿の人知を超越したそのお力にこの森の賢王! 感服致しましたでござる」

「感服って」

 ハムスターから聞くとなんとも新鮮だ。

「別に僕は君をどうこうしようとなんて思ってないんだけど」

「殿ではなくそれがしが殿に御仕えしたいのでござる」

「だから」

「殿が嫌とおっしゃられても押しかけ従者となるでござるよ」

「~~~困ったなぁ」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「あの……それで、ですか、シンさん」

「…………はぁあああ」

 ペテル達の前に居るのはシンと彼の従者。

「皆々様。これよりお見知りおきをでござる」

 森の賢王がシンの横で静かに控えていたのだった。

 

 遅れて合流したシンの姿に皆が胸を撫で下ろしていたところにいきなり賢王が現れた時には皆が武器を構えた。が

「あぁ~、とりあえずこいつはもう敵ではないので平気ですよ」

「無論でござる」

 賢王の頭に手を置いて撫でるシンの姿に驚いたものだ。

 その力で屈服させた事実をもってしてもシンの力を物語る。その異常なまでの力を実感するが、それは決して敵ではない。

 だとすれば、これはきっと歓迎できる結末なのだろうと皆が思考を切り替えていると

 

「そういえば殿のご友人の方々は薬草を取りに森に入られたとか?」

「え? そう、ですけど」

 賢王の言葉にンフィーレアがおずおずと答えると

「それで薬草は取れたでござるか?」

「それが」

「お前さんから逃げるので手一杯だったらかまたやり直しだよ」

「ルクルットさん!」

「なんだよニニャ」

「あんまり失礼な言葉使いは」

「構わないでござる」

 慌てるニニャを遮り「それでは」と賢王が森に視線を送れば

「え?」

「うわっ!」

 そこらじゅうから動物や鳥が現れた。

「これは一体」

「あぁ。こいつがみんなにせめてもの償いだってさ」

「受け取って欲しいでござるよ。皆、早く持ってくるでござる」

 賢王が言葉を放つや、森中の動物達がその口に薬草を咥え次々と押し寄せ薬草をンフィーレアの元へ置いていった。

 

「これは」

「これは凄いや」

「ヒュ~♪」

「は、あはは」

「さすがは森の賢王である」

 その量はンフィーレアの目標としていた量の数倍にはなった。

 

「どうやらお役に立てた様でござるな? 殿」

「あぁ。助かったよ。これで僕は」

 

 皆に向け、シンは笑顔で宣言したのだった。

 

 

「冒険者初依頼、達成だっ!」

 

 

 

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