転生特典は1000円(税抜)
“走馬灯”って知ってるか? そうだ。人間が死ぬときは脳が以上に活性化して
その影響で記憶が次々に脳裏に過るっていうアレだ。
俺も中二病を患っていた時のにわか知識なので詳しくはグーグル先生に聞いてほしい。
つまりだ、この俺《阪倉悠大》がそれを見ているということは、だ。
――――死ぬということに他ならない。
現在、俺は地面に伏していた。頭からはどくどくと「おまッ! こんなに俺って
血あったんか!」ってほどに血がドバドバ流れている。呼吸は荒い。そして、寒い。
周りではわーきゃーわーきゃーと騒がしく救急車のサイレンが遠くから聞こえるが
きっとこれは間に合わないだろう。
今思えばつまらいない人生だった。18歳、童貞。趣味はカードゲームとエ〇ゲ
実に女っ気の無い人生だ。
――――嫌だ……死にたくない。死にたくない……
せめて、せめて童貞卒……したかった――――
だが、俺の意識は……途絶えた。
……
………
…………
それから14年の月日が流れた。
だが、俺は奇跡的に生還したわけでは無い。“転生”したのだ。
どのような縁か分からないけど、第二の人生を歩んでみるのも悪くない。
と、思ったが……どうやら新しく生まれたこの世界は俺の知っているものとは
少しばかり違うようだ。
「――――グハッ!!」
「敗者に用はねぇ、さっさと失せなァ!! ヒャッハァァ!!」
俺は二転三転転がると地に伏した。決してリアルファイトでボコされた
わけじゃあない。当然ながら、悪の組織などとの戦いに巻き込まれて異能バトル
的な展開に巻き込まれている訳でも無い。ただ、カードゲームをしたのだ。
「雑魚のくせにいいカード持ってんじゃあねぇか、こいつは貰ってくぜ」
「そ、それは……俺の――――切り札」
ゴリラみたいないじめっ子(名前は知らん)は俺のデッキから一枚のカードを
抜き取ると残りのデッキを地面に捨てる。
生まれ変わった俺はいじめられっ子になってた。元々オタク気質だった俺は
さらにこの実力至上主義(デュエル)の中では当然最下層だった。そう、俺の
生まれ変わった世界は――――遊戯王の世界だった。
「ハッハハ、またやろうぜぇ!!」
ゴリラは高笑いを残すとご満悦で去って行った。後には哀れなモブが残る。
「うぅ……アニメの主人公みたいには、行かないか」
へへ、公園の砂がしょっぱいや……あ、これ俺の涙だったわ。
この世界に来てアニメと現実の相違点を嫌というほど知った。
まず、モブの俺には運が無い。そして“カードが高い!!”
なんたって実力至上主義だ。デュエルが強ければ人生勝ち組になれる。
進んで負け組になる奴なんていやしない。当然皆上を目指す。なら当然
その手段たるカードの価値は上がるっていう簡単な仕組みだ。
強いカードをバンバン生み出せるのは主人公だけだ。故に俺達モブはアホみたいな
金を出して元の世界じゃストレージにあるようなカードを求める訳だ。なにこれ?
元の世界より人生詰んでるじゃねぇか。
結果、俺にあるものは前世の使えないオタク知識とカードの知識だけだ。
けど知識なんてものはあるだけじゃどうしようもない。前世の記憶によれば
俺のような境遇の者達を“転生者”と呼ぶらしく。彼らには神が与えた“特典”
があって然るものだそうだ。そう例えばファンタジーの世界に転生したならば
“エクスカリバー”的な最強の武器が。または“異能”とか。
所謂、「強くてニューゲーム」ってやつだ。
けど俺はといえば、弱くてニューゲーム(HARDモード)だ。
全くヤムチャ視点である。
「くそ、あのカードそこそこ高かったのに……」
砂まみれの服を叩くと散らばったカードを拾う。
「もう今月金ねえよ……今週末のカード大会どうすっかな……」
その日は帰ることにした。
ただいま、と短く挨拶を交わすと2階にある自室へと入った。
「ん」
机の上に包みがあるのが目に留まった。おかしいな……進〇ゼミからかな?
俺はその包みを開けることにした。ちなみに進〇ゼミなどやっていない。
「どれどれ……これは確か、ストラクチャー……デッキか?」
ストラクチャーデッキとは、前世で1000円ほどの40枚前後のカードが入っている
初心者におすすめ?のカードデッキだ。なお、ひと箱で満足にデュエルが出来るとは
限らないので注意が必要だ。この世界にそういった類の商品は無いのだが……
「それから、手紙か。何々――――「転生14年おめでとう 神」……」
どうやらカミサマからの贈り物ってやつらしいな。随分遅かった、が。
「このデッキが、俺の“特典”ってことなのか。子供へのプレゼントにしたって
1000円は少なすぎじゃないか? けど……」
有難ぇ。基本的に強いカードが軒並みクソみたいに高いこの世界じゃ、ストラク
の看板モンスターでも十分に強い。このデッキがどうかは試してみないことには
分からないが。
「ま、闘えんだろ」
俺は《ストラクチャーデッキ 機光竜襲雷》
を有難く頂戴することにした。
「ともかく、だ」
これで始められる。俺のストーリーを――――