ルシがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:クヴェル
0話
そこは炎に包まれていた。
煙は充満し、全てのモノを阻むかのように轟々と燃え上がる炎。
その中で、壁にもたれ掛かっている者が一人いた。
服は焼けこげ、体は炎の中を突っ切たのか、至るところに火傷を負っていた。
「はは…、ここで死ぬのか」
炎が刻々と迫ってくるなか、青年はそう呟いた。
何度も炎の中を突っ切ったことにより負った火傷により体は痛みによりもはや動かすことができず、煙を吸いすぎ、朦朧とする思考で、青年はこれまでの人生を走馬灯の様に振り返っていた。
生まれも経歴も平凡な自分であったが、まさか買い出しに来たときに火事に巻き込まれて死ぬことになるだなんて思いをしていなかったことだった。後悔は無い。だが、未練はあった。
自分の夢を成し遂げられなかったことを。
だから青年は虚空へと体の痛みに耐えながら、手を伸ばす。
「何か傷痕を……、自分が生きた証を、残したかった」
遂に炎が青年の体にたどり着き、体が燃えていくのを感じ、青年の意識は沈んでいった。
……ここは、どこだ?
確かに自分は死んだはずだ。なのにどうして意識がある?
そこは辺り一面に白く覆われていた。自分以外に誰もおらず、何もない。
そんな場所にいること、死んだ自分に意識があることに動揺しながらも、とある考えに行き着いた。
ああ…、ここが死後の世界なのかと……
一人そのように納得している中、どこからとなく声が響いてきた。
―――死した魂よ、転生の機会を与えよう
己なかから聞こえてくるような、はたまたとても遠くから聞こえてくるような、距離感が全く感じられない言葉が耳朶を打つ。
転生?まるで二次創作に出てくる神様のようなことを言う。
事実、神様なのだろう。その言葉はいかなるものの存在によっても決して揺るがないような機械の如き声音。思わず、その場でひれ伏しそうになる威厳ある響き。しかし、実態がないのか自分の体はピクリとも動かない。
しかし、自分の答えは決まっている。
―断る。人の人生なんて一度で十分だ。
そのように、自分はその声に対して否と答えた。
しかし…、
―――転生する場所はもう決まっている。その身には転生時に下賜する能力を決める選択の
み許されている
声はこちらの答えに対し、何も応えることなく、淡々と決定事項を喋っていった。
ふざけるなよ!自分は転生などしないと言った筈だ。
―断る!自分は転生などしたくないと言ったんだ!早くこんな不毛なことは終わらせろ!
こちらの言葉に対し、声は
―――その身には転生時に下賜する能力を決める選択のみ許されている
また、同じことを言い始めた。
―だから!!断ると言っているはずだ!!
怒気を含ませた言葉を、声に対して放つが、
―――よかろう。ならばこちらで下賜する能力を選んでやろう
今までの機械のように淡々と発する威厳のある声は、一転、愉悦を滲ませた声へと変わった。
瞬間、自らの体に突如として走る激痛。その激痛に耐えられず、叫びを上げる。
―――せいぜい、こちらを楽しませてくれよ人間
朦朧とする意識の中で、そんな声が聞こえたのと同時に、自らの意識は暗転した。