ルシがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:クヴェル
ミアハ様に神の恩恵を授けてもらったのが、昼頃であったため、昼食を食べた後、街の案内及び『ギルド』へと赴き冒険者登録をすることとなった。
そして一夜明け、今自分は迷宮都市オラリオのダンジョン第一階層にいる。
自分の装備は昨日ギルドからツケで支給してもらったライトアーマーに、ショートソードだ。
いきなりダンジョンに潜るのはどうかと思ったが、早く行ってこいと目で訴えてくるナァーザさんに従い、昨日案内してもらった道を通り、ここにやってきた。
剣道をやっていたこともあり、できれば刀を持ちたかったが、刀は実際に持つと非常に重く、とてもではないが持ってすぐに振るえる代物ではない。まあ、支給もされていなかったが…。
そのため、まだ軽く、重心が柄に近く振りやすいショートソードを選んだ。
しかし、ダンジョンは洞窟の中にも関わらず、外に出ているかのように明るい。
これは魔石に似た物質でダンジョンができいるかららしい。
さて、今目の前には犬頭のモンスター『コボルト』がこちらに背を向け突っ立っている。
まだ、こちらには気付いていないらしく、初めて戦闘を行う、いや武器で何かを殺すという行為を行うには最適な条件下だろう。
左腰に掛けてあるショートソードを抜刀し、一足で斬れる間合いまで慎重に歩を進める。
そして、コボルトが間合いへと入った瞬間…
「はぁぁぁ!!」
気合を入れるとともに、
『グェッ!?』
コボルトがそんな悲鳴をあげると同時、その体は真っ二つに両断された。
「ふぅ--」
これで、初めての戦闘はあっけなく終了した。
反撃されることもなく、無事に終えられたことに安堵しながら、ショートソードの刃についた血を服の裾で拭いながら、納刀する。
そして、見るも無残な姿となったコボルトの死体へと目を向ける。
多少の嫌悪感には目を瞑り、自分がこれから行っていくことに覚悟を決めるため、その死体の姿を目に焼き付ける。
次からもこうする為に…自らがこうならないようにする為に…
ある程度の時間が過ぎ、コボルトの死体を目に焼き付けた自分は真っ二つにされた内の一つから見えている『魔石』を手で引っこ抜く。
すると、コボルトの体が灰へ変わり、跡形もなく消えた。
モンスターは魔石を『核』としている。
そのため、体内から魔石が失くなると体を保てず崩壊するため、魔石を直接攻撃し、砕くのも有効な手段らしい。
手に入れた魔石を腰に吊るしてある巾着袋へとしまう。
冒険者の基本的な収入源こそが魔石であり、たまに出現するドロップアイテムもその一つだ。
コボルトの魔石は手の爪ほどの小ささであり、とてもではないがこれだけではほとんど金にはならないと思わずにはいられない。
取り敢えず、当初の目的としては常に1対1を心がけ、他対1になれば即座に逃げることとする。
そう自分の心に決め、新たなモンスターを求めて歩き出した。
―-―-
『グルァッッッ!!』
「うおぉぉぉ!!」
『ギャッ!』
咆哮とともにこちらへと突っ込んでくるコボルト。
どこまでも直線的な攻撃を右へと避け、がら空きとなった左側面へと得物を斜めに振り切る。
それにより、コボルトの腹は裂け、血を吹き出しながら地面へと倒れ伏す。
「…これで、十体目か…」
未だ、運良く(?)複数のモンスターと遭遇することなく、モンスターを狩ることができている。
しかし、複数のモンスターに遭遇することのないように慎重に行動している為、精神的な疲労が凄まじい。
ただでさえ戦闘を行うのが初めてであり、こうなるのは当然のことか。
「…休むか…」
一度地上に戻り、休息を取ろう。
そう考えたとき…
―ビキリ
―ビキリ、ビキリ
何かが割れるような音が静寂としていた空間に響き渡る。
慌てて周りを見渡すと、壁の一部から三箇所ほど聞こえてきている。
「まさかっ!?」
急いで今まで来ていた道を引き返し、地上へと目指す。
あの壁から聞こえてきた音はダンジョンに来る前に教えてもらったモンスターの生成される音。
壁から生まれてきたモンスターは既に戦闘を行える肉体である。
「くそっ!!」
壁から生まれるとは聞いていたが、複数も生まれようとしているのは予想外だった。
『『『グォォォォ!!』』』
コボルトの咆哮を聞き、後ろを振り返るが、三体のコボルトがこちらへと向かってきている。
「くっ!」
今のまま走ったところでおそらくすぐに追いつかれてしまうだろう…。
分断できるか?とも考えたが、未だ一階層の構造を把握しておらず1対1に持ち込むのは難しい。
そうなればやれることは唯一つ。
「やるしかっ、ないっ!」
『『『グルァァ!!』』』
走るのを止め、正面にコボルトを見据え、得物を抜刀する。
コボルト3体の内、一体が突出し、その後に二体が並行して疾走している。
(相手に連携させる暇は与えないっ!)
目指すは敵の迅速な撃破。
そのためには突出した一体に構う暇はない。
例え、速攻で倒したとしてもすぐ後ろの二体にやられてしまう。
ならばっ!!
『ガアアアッ!』
もうすぐ突出した一体が間合いに入る。
―あと三歩…
―あと二歩…
―あと一歩…
間合いに入った…!
『グオオオッ!』
「はっっ!!」
コボルトの右腕を繰り出しながらの突進を右前方へと踏み込み、避けながらすぐ横にいるコボルトを無視し、追いついてきた二体のコボルトの内、最も近い右側の一体へとさらに踏み込み、胸部へと諸手で得物を捻り突く!
こちらに来ると思っていなかったのか、一瞬硬直してしまったコボルトは防御する暇もなく胸部を貫かれ、魔石を砕かれたのか、灰となり消え去る。
『グアアアッ!』
「おらああ!!」
消え去った一体の隣にいたコボルトが向きを変え、こちらへと攻撃しようとするがこちらの方が速い!
踏み込み突いた勢いそのままに、得物を両手で握り直し、軸足を回転させすぐさまコボルトに向くと同時に首に向け全力で振り切る!
『グェッ!』
コボルトの首が飛び、その活動が停止する。
さあ、最後だ!
そう思い、突進を躱され、振り向くのが遅れているはずのコボルトに向き直り、
瞬間…
コボルトの拳が胸に突き刺さった。
「ぐふっ!」
そのまま胸にきた衝撃により自分の体は思いっきり吹っ飛ばされた。
地面へと背中から滑りながら落ちるのと同時に、肺から空気が一斉に吐き出された。
(甘かった!?)
コボルトはすぐさま攻撃を仕掛けてくる様子はなく、痛む体に鞭をうち、直ちに立ち上がり、得物を中段へと構えなおす。
「っはぁっ…、っはぁっ…」
『ガルル!』
ギルドから支給されたライトアーマーを胸部に装備していたため、体へのダメージは軽く済んだが、もし防具を着けないままあの体が吹っ飛ぶほど攻撃を食らっていたらと思うと、ゾッとする。
どうやら、コボルトは味方を瞬時に倒したこちらを警戒しており、隙を見せていない。
(なら、こちらから行くまで!)
得物を振りかぶり、一気に近寄る。
コボルトは上からの攻撃が来ると思い、防御しようとするが、狙いはそこではない。
―狙いは防御のためにがら空きとなった腹部!
「とおりゃあああ!!」
『ガウッ!?』
上段となっていた得物を手首を返しながらすぐさま引きつけ、そのままコボルトの腹部へと叩き込んだ。
致命的な攻撃を受けたコボルトはそのまま悲鳴をあげ、その場に倒れた。
「はっ、はっ、はっ……」
疲れた…。
いきなりのコボルト三体との戦闘はなんとか勝利できたが、重いのを胸部に一発くらってしまった。
もしかしたら、最初の突出した一体を先に倒しておけばくらわずに済んだのかもしれない。
しかし、過ぎたことはしょうがない。
とりあえず、本当に一度地上に戻ろう。
そして、自分は倒したコボルトの死体から魔石を回収し、何とか地上に戻ることが出来た。