ルシがダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:クヴェル

9 / 9
7話・下

 ムネモリの工房はオラリオの北東のメインストリート方面にあるらしく、歩いていくにつれて大通りには作業衣を着た者たちが数を増し、工具などを取り扱う専門的な店も増えてきた。

 

「しかしムネモリ、俺の工房と言っていたが、集団で武具を鍛えてはいないのか?」

「ああ、うちのファミリアはちょいと特殊でね、個人に対して工房が与えられるんだ。」

「そんなんで新人は食っていけるのか?鍛冶屋なんていう職人芸は先達の技術を見て盗むというイメージがあるんだがな」

「まあ、それもそうなんだけどな。俺もしてるんだけど、どうしてもという奴は誰かに師事することはあるぞ。でも大抵そういうのは断られることが多いんだよ」

「そうなのか?」

「ああ、職人としての性っていうのか?とにかく、他の野郎に俺の技術は見せたくないっていう、そんな矜持があるんだよ」

 

そんな他愛ない話をする中、大通りから外れ細長い道を移動するようになった。日は既に落ちかけており、細い道全体に影を落としている。

これはホームに帰るころには日が完全に落ちているな。そんな事を考えているうちに、ムネモリは遂に足を止めた。

 

「よし、着いたぞ。これが俺の工房だ」

 

ムネモリが見つめている視線の先を見ると、そこには燃料とするであろう薪が大量に置いてある倉庫と、その倉庫よりも小さいかもしれないが正に職人が住んでいるとも思える建物が存在していた。

 

「もう少ししたら日が完全に落ちちまうから、今日は武器を選び出すだけで終わりそうだなこりゃ。ま、取り敢えず入ってくれ」

 

そう言われ工房の中へと入り、真っ先に映ったものは今は火が灯っていないがまさしく鍛冶屋の心臓とも言えるであろう炉だった。あの炉の前に陣取り、ムネモリがひたすらに鎚を振るい武具を鍛え上げる姿を幻視させた。

 

「ちょっとそこで待っててくれ、刀を取ってくる」

「ああ、分かった」

 

刀を取りに向かったムネモリだったが、見つかったらしくすぐに戻ってきた。

 

「ま、取り敢えずこの打刀とショートソードのどっちがいいか使ってみてくれ。ショートソードの使い勝手はギルドの支給品と大差ないと思うけど」

 

手始めに、今まで使ってきたのと使い勝手が変わらないというショートソードを使ってみる。

ショートソードを鞘から抜き、軽く振ってみる。…成程、確かに抜いた時の感触、振り心地共に今まで使ってきたものとあまり変わらない。もし打刀が手に馴染みそうになかったら、素直にこちらにした方が良さそうだ。

 

「本当に、今まで使ってきたものと比較してもあまり違和感がないな」

「だろ?その上強度や切れ味もそっちの方が上だから、打刀が合わないと思ったらそっちに

することをお勧めするよ。それじゃ、次はこっちの打刀だね」

 

そう言われ、ムネモリへとショートソードを渡し、打刀を受け取る。

柄を握り、鯉口を切り、一気に抜き放った。

刀を抜く際に違和感は特になく、【ステイタス】が上がったためか、試しに片手で振ってみると、刀の重みに振り回されることなく問題なく振るうことができた。これならば、この刀を武器にしても大丈夫かもしれない。

刀を鞘へとしまい、どの武器が良かったかを言おうとして、ふとある場所に目がいった。

そこには打刀と脇差の大小が掛けてあった。それらからは、ある種の気配、熱を感じさせた。

 

「ムネモリ、あの刀は?」

「あれか?あぁ~、あれはだな……」

 

自分の質問に対してムネモリは何とも説明しにくそうな顔をしており、歯切れ悪く説明しだした。

 

「まあ、何だ?こう、俺がここに生きてる証っていうか、鍛冶屋である証というか、ま、まあとにかく俺にとってとても大切なものだよ」

「生きてる証……か」

 

言っていて恥ずかしくなったのか早々に話を終わらせたムネモリを他所に、ムネモリの言ったことについて考えていた。

今の自分にあるのだろうか、そのようなものは。

……そもそも死ぬ前にもそんな証と言えるものが自分にはあったのか?

……いや、なかった筈だ、そんなものは。

……だって自分はそれを手に入れる前に、見つける前に……

 

「んん~~、どうする?どうせなら見てみる?」

「あ、ああ、お前がいいなら」

 

自分の考えはムネモリが話しかけたことにより中断された。生返事を返す自分に疑問に思い、ムネモリは首を傾げたようだった。が、自分に話しかけることもなく壁に掛けてある大小のうちの一つ、打刀を持ってきた。

 

「それじゃ、そっちの刀と交換してくれ」

 

新しくムネモリが持ってきた刀と今持っている打刀とを交換し、改めてそれを眺めてみた。

鞘と柄は朴の木(ほおのき)で作られた白鞘であり、装飾は全く施されていない。本来、この状態の刀を見ても、せいぜい刀があるなと思う程度だろう。

なのに、何故だろうか。見たときから全く変わらぬ気配をこの刀から感じていた。

その正体は刀の刃を見れば分かるのだろうか。そう思い、自分は先ほどと同じように鞘から刀を抜いた。

 

 鞘から抜いた刀を見た瞬間、自分はその刀に目を奪われた。

刀の反りは浅く、今にも落ちようとしている夕日に照らされ、互の目の刃文が浮かんでいるのがよく見えた。刀の長さは2尺4寸(約61.2cm)程であり、素人目で見ても素晴らしいと思える刀だった。

いや、それだけじゃない、初めに感じたものはそんなものじゃない。

……熱を、魂を感じた。今の自分には無い本物の……

 

「……シミズ、あんた泣いてんのか?」

「……え?」

 

そう言われ、自分の頬を伝う暖かいものを感じた。どうやら、気づかぬ間に涙が流れていたらしい。こんなことは初めてだった。

 

「そんな、何でだ?」

 

一度刀を鞘へと収め、流れた涙を拭う。刀を見て分かったこととは、とてもではないが、この刀は自分では使えそうになかったことだった。刀に宿る熱に対し、あまりにも冷めている今の自分では。

 

「……ムネモリ、それで、武器をどれにするかだが……」

「……なあ、あんた。そいつを使ってみるつもりはない?」

「は?」

 

ムネモリがこちらの目を見据えながら言った予想外の内容に面食らってしまった。

 

「この刀はムネモリ、お前にとって大切なものなんだろ?とてもじゃないが、こんなにも素晴らしい刀を自分が使うには勿体ないし、何よりもふさわしくない」

「そう言わずにさ、使ってみてくれよ」

 

自分がこの刀について質問したときの言動から、ムネモリがこれをどれほど大切に思っているかが分かった。

だからこそ、彼がこの刀を使って欲しいと提案してくることが分からなかった。

 

「お前と自分は今日初めてあったばかりなんだぞ。それなのに、何でお前は大切にしているこの刀を見ず知らずの他人に渡そうとするんだ」

 

自分がそう問うと、ムネモリは自分から目を逸らしながら、理由を語りだした。

 

「まあ、確かにそうなんだけどな……。そりゃあ、俺も最初は使ってもらいたいとは思ってなかったぞ。でもな、あんたがそいつを抜いて、涙を流したそのときに思ったんだ。…あんたなら必ずそれを大切に扱ってくれるって、そいつに込めた思いを理解してくれるかも、って。あんたがそいつに何を感じたのかは分からないけどな。……それに、そいつもここで使われることもないまま置かれてるだけなのは望んでいない筈なんだ」

 

しみじみと心の赴くままに語ってくれたムネモリの話を聞いて、やはり自分ではこの刀を扱うに値しないと思ってしまった。

刀に込めたムネモリの思いと比べると、自分の思いが、この世界に転生した時から抱く感情がひどく小さいものだと思えたから。

そんな自分の感情を察したのか、ムネモリはこう続けてきた。

 

「ほら、同じ境遇の者と初めて会った記念ってぐらいに思ってさ。それに、鍛冶屋が自分の打った最高傑作を勧めてるんだぜ?もしあんたとそいつが合わなかったら、それはそいつを使うことを勧めた俺に責任があるんだから」

 

――だから、そいつを使ってくれないか?そいつはきっとあんたの力になってくれるから。

本来、自分の方がこれを使いたいなどと懇願する筈なのに、なぜか逆の立場になっていることに戸惑いを感じながらも、確かに自分の心はこの提案に受け入れることにした。

もしかしたら…、もしかしたら本当にこの刀を使えば、共に歩んでいけば何かを見つけられるのかもしれない。

 

「……もしすぐに、これが折れたとしても知らないからな」

「おっ!なら……」

「ああ、自分にこの刀を使わさせてくれ、ムネモリ」

「ああ!よろしく頼むぜ!ユウ!」

 

ムネモリが満面の笑顔でそう言いながら突き出してきた拳に、自分も拳を突き出し、互いの拳をぶつけ合った。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・あ。

 

「……そういえば、自分は今10000ヴァリスしか持っていないのだが、この刀は幾らするんだ?」

「……やっべ、忘れてた」

 

 

 あの後、刀自体にはお金は払わなくてもいいが、自分に合わせて作ることとなる、戦闘時の柄や鞘などについてのみ代金を支払うこととなった。

また、ギルドの支給品であるライトアーマーではこれから先、ダンジョンでの戦闘が厳しいだろうということで、篭手(こて)脛当(すねあて)などの防具も作ろうということになり、体の寸法を測った後、ホームへと帰った。

 




名前:ムネモリ・正也(宗杜 正哉)(17)
所属ファミリア:ヘファイストス・ファミリア
lv.2
力:H 156
耐久:H 120
器用:H 111
敏捷:I 84
魔力:I 83
鍛冶:I
《魔法》
 【ルイン】・速攻魔法
 【ファイア】・速攻魔法
 【ブリザド】・速攻魔法
 【エアロ】・速攻魔法
 【サンダー】・速攻魔法
 【デプロテ】・速攻魔法
 【デシェル】・速攻魔法
《スキル》
 【鍛冶教訓(プリセクト)
  ・鍛冶を行う際、器用値上昇
 【行動予測(プリディクト)
  ・相手の挙動より、行動を予測可能
 【烙印】
  ・経験値増大
  ・魔法スロット
  ・使命を果たせ

 冒険者歴4年目の転生者。転生時に、鍛冶に向いた能力及びありとあらゆる武具の製造方法などの知識、若返り(3歳ほど)を願った。
【ヘファイストス・ファミリア】団長の椿・コルブランドに師事している。
また、ヴェルフ・クロッゾとは住む場所が近く、共に鍛冶を行うことがある。
ルシの烙印は右腕にあり、普段は布で隠してある。
スキル【鍛冶教訓(プリセクト)】による器用値の上昇は1ランク上の値になるほど上昇する。


打刀『昇』・脇差『華』
ムネモリ・正也が全霊を込めて打った大小であり、これを打ち上げたによりランクアップを果たした。
13階層以降の中層でも通用するであろう業物。
銘の由来はこの大小を打ったことにより、レベルアップ――器を昇華――させたことから。



※…魔法だけ見ると軽くチートだね、これ…



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。