真剣で私に恋しなさい!SA   作:円高

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川神駅の出会い

季節は変わり夏となる。

 

緑々(あおあお)とした草花が太陽の光を受けて尚一層その緑に深みを増す季節。この日は朝から事のほか暑い日だった。時折吹き付ける生暖かな風が川神駅前に忙しなく行き交う人々の顔を容赦なく撫で付け、輪唱の様に鳴く蝉時雨も毎日のように五月蝿い、尚且つ駅前の乾いたアスファルトからの照り返しは駅前温度計の表示を狂わせている。

 

この猛暑とも言える川神の熱波の中を一人の女が歩いていた。駅のターミナルビルからバスロータリーまでの距離をキャスター付きの大きなキャリーバックを引きずりながら、女は肩甲骨の下辺りまで伸びた少し癖のある黒く艶やか髪を掻かき上げる。

 

20代前半くらいのやや大人びて見えるその顔は美人と言ってもなんら差し支えない程に整ってはいるが何処か気怠げな印象を受ける、上背は170センチ以上は有るだろうか。上半身には白いノースリーブのワイシャツのその胸元を着崩して下半身には黒のタイトパンツを穿き、長く一見スリムに見える脚線はタイトパンツがしなやかに付いた筋肉の輪郭を側るようにフィットしているために見事なプロポーションであると同時にかなりの筋肉質でも有る様だった。

 

「暑っつ…」

 

喉の奥から漏れ出る様な声で女が呟く。

 

「あ~…駄目だ。これは人間の住む環境じゃあない…」

 

そう一人ごちながら、弱々しく植え込みに出来た小さな木陰に体をキャリーバックごと引きずるように入り込むと色々と悩ましげな格好でキャリーバックにしなだれ掛かる。駅を通り過ぎる人々の剣呑な視線を集めてはいたが特に気にする様子も無くただその顔を上気さている。

 

「大丈夫ですか?」

 

不意に彼女の近くで男性の声がした。男性といってもまだ若い少年の声で声色から身を案じてくれているのが解ったが女は起き上がる素振りを見せず、漸く顔を起こし細めた目でその声の主を見つめると、どこか色気を感じる仕草でその両肩に自身の両手を絡め体重を預け。

 

「水…」と弱々しく一言だけ言ってぐったりとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ…すまない迷惑をかけた」

 

木々の木陰で目を覚ました女は右手で両方のこめかみを抑えながらふらふらと頭を垂れる。

 

「いえ、当然の事をしたまでですよ」

 

その隣のベンチに腰掛けた少年は首を横に振ると、よく冷えたミネラルウォーターのペットボトルを差し出す。それを改めて礼を述べて受け取った女はペットボトルの底を頭に当てると空を仰ぎ見るように息を吐いた。木漏れ日が水と水滴に乱反射して女は目を細める。

 

「あぁ…川神は暑いものなんだな」

 

ミネラルウォーターを一口含むと溜息混じりに呟く。

 

「今日は特別暑いみたいですね、昨日までは34℃だったんで」

 

それを聞いて女はだらりとと頭を垂れると深く溜息をつく。暑がっている割には全く汗をかいていない様子だったが汗を拭う様な仕草で眼前に垂れた前髪を細いしなやかな指でかき上げると再度溜息をついた。

 

「私の田舎はそれ程も気温が上がらないから苦手なんだよね…暑いのが」

 

そう言いつつポケットからショートピースの黒いパッケージを取り出しその一本を口に咥えるが、ふと何かに気付いたのか火を灯そうと直前まで煙草に近づけたオイルライターの蓋を閉じる。

 

「君――ええと、煙草…大丈夫だったかな?」

 

彼女はあまり他人に気を使う様な性格には見えなかったが、恩人への気遣いか首を傾げオイルライターを弄びながら少年に囁いた。

 

「直江です。直江大和」

 

彼女の心の機微を素早く察した少年――大和がそう自身の名前を明かすと女は少し驚いたように目を見張る。

 

「へぇ…君――直江くん…?今の一瞬で私の考えてることを汲み取っちゃったの?」

 

「まあ、一応は。そんなに難しい事じゃないと思いますけどね」

 

「凄いと思うけどね。他人の気持ちに敏感なのってさ、私なんか何だってどうでも良いような性格だから、さ」

 

謙遜する大和に女は気怠そうに笑ってそう答える。それに大和は小さく苦笑すると、女の口に灯の無いまま咥えられていた煙草に気付いてそれをジェスチャーでチョンチョンと示す。

 

「あ、因みに俺は煙草大丈夫ですけど川神市の条例で公共の場所での喫煙は禁止されてるんですよね」

 

「やれやれ…住みにくい世の中になった物だな」

 

複雑そうな表情で肩を竦めて煙草を携帯灰皿に押し潰すと辺りを見渡す。この場所についてからまだそれ程時間は経っていない様だったが先程よりも人の往来が多くなっている様に見える。街頭の時計を見れば時間も正午を回り近隣に勤める人々が駅近の飲食店を賑わし始めていた。一日に20万人近くの旅客が利用する巨大ターミナルである川神駅の、日に何度かあるピークの一つだった。

 

「んー…?」

 

「っと…そろそろ出ようかな。色々迷惑をかけたね直江くん」

 

女は不意に空を見上げると少し慌てた様に腰を上げる。

 

「いえ、本当に大した事はしてないんで気にしないで下さい」

 

大和もそれに習い立ち上がると女は大和の顔を覗き込むようにその目を見つめる、角度的に女の胸元が見えてしまい大和は暫く目を奪われたが直ぐに視線をそらし表情には余り出さなかった。

 

(あー大丈夫大丈夫今のは不可抗力だ)

 

などと大和が心の中で自己弁護していると、女の方はそれと気付いていない様子で大和に声を掛ける。

 

「度々で悪いんだけどちょっと住所を教えて欲しいんだけど大丈夫…?ちょっと顔赤いけどさ」

 

「ゴホン…大丈夫ですよ、何処ですか?」

 

大和はわざとらしく咳払いをして誤魔化す。

 

「んっ、と……川神学園?」

 

女は川神市のパンフレットをパンツのポケットから取り出すと、そこに掲載された教育機関の紹介と銘打たれた欄を指で指し示す。

一介の公立学園が市のパンフレットに載っている事は驚きだが、この川神学園はある意味では川神市のランドマークのような物になっているのだから大和には何の驚きも無かった。

それもそのはずで川神学園の創設者で現学園長の川神鉄心は仏閣としての関東三山、拳法寺としての日本三山の一つ川神院の総代にして三山のその頂点に立つ人物であるからである。その強さたるや神の領域とまで囁かれる実力者だ。その他にも九鬼財閥の主導で近々始まった武士道プランにより誕生した3英傑のクローンの通う学園と言う事でも世界からの注目も集めている有様で、またその破天荒な校風と行事でも日本全国にも聴こえた有名校であった。

 

「でも面白いよね、市の観光パンフレットに地元の学校が大々的に載ってるなんてさ」

 

その学園に通う生徒である大和はその言葉に少し様な困ったような表情をして顔を掻く。

 

「ハハハ…まぁそんなに遠い場所でも無いですから案内しますよ」

 

誤魔化す様に乾いた笑いを漏らした大和は女を先導するように前に立つ。

 

「いやいや、流石にそこまでして貰うと悪いからさ、遠くないみたいだし…一人で行けるよ。たぶん…」

 

「そうですか、まあホントに遠くは無いですからこの大通りを真っ直ぐ歩いて言って…(中略)…すると直に見えて来ますよ」

 

「フム…こっちに真っ直ぐね」

 

大通りの向かって右側を指差して確認する女に大和は小さく頷く。

 

「ええ、迷うことは無いと思いますよ」

 

「そっか、ありがとね」

 

そう言ってから女は何か思い出した様にしゃがみ込んでキャリーバックをごそごそと探り出す。暫く探してから目当てのものを探り当てたのか大和を手招きで招くと、しゃがめと言う意図なのであろう、人差し指をチョイチョイと動かす。大和はすぐにその意図を察して自身も身を屈めた。

 

「はいっ…と、コレはお礼。お土産用にそんな物しか無いけど、ご飯のお供に美味しいと思うから…ま、食べてみてよ」

 

大和は不意に頭に乗せられた物を手にとって見る。それは『赤かぶ漬』と書かれたビニールのパッケージで中にはピンク色に染まったカブを一口大にスライスされた物が綺麗に並べられていた。

 

「いやいや、逆にこんな物を貰っちゃ悪いですよ」

 

「いいからいいから、かなり助けられちゃったしねお礼お礼」

 

謙遜する大和に半ば押し付けるように更にもう一袋手に持たせると、ゆっくりと踵を返す。

 

「それじゃ…ありがとう少年。また何処かで会えたらいいね」

 

女はそう言って右手を顔の横に立てると駅から出て来た群衆の中に溶け込んでいってしまい大和の視線からすぐに消えてしまった。暫くその方向を見ていた大和は、思い出した様に手に持った赤カブの真空パックを見やりながら再び女の消えていった方向を見て。

 

「あ、名前聞き忘れたな…」

 

そう一人呟いた。

 

少々面食らった様子だった大和は相変わらず賑やかな駅前ロータリーを見渡すとポリポリと頭を掻く。

 

「そう言えばあの人、川神学園に何の用事だったんだ?」

 

ふと沸いた疑問に大和は首を捻る。

 

(生徒と言うには見たことも無いし年齢も20代に見えた―――と言っても川神学園(ウチ)には例外があるか…」

 

その場合の例外は2-Sに在籍するマルギッテ・エーベルバッハと忍足あずみ、1‐Sに九鬼紋白の護衛と言う事で在籍するヒューム・ヘルシングなのだが、これらの場合は本当に特例中の特例なので大和は考慮しなかった。

 

(ま…生徒の関係者って所が妥当な線かな)

 

悪そうな人間にも見え無かったし。仮にそうだとしても少しくらい腕の立つ程度の暴漢では川神学園でどうこう出来るとは思わなかったが、大和は何気ない疑問にも一応の解答を付け元々行く予定であった駅前の書店へと足を向ける。

 

「さーて、少し時間をくったけどキング・オブ・甲殻類の新刊を―――」

 

と、そこまで言いかけて大和は素早く目線を上空に向けた。彼は武道家では無いので闘気や殺気などと言った所謂『気』を感知することは出来ないが、それが一般人にも感じられるほど圧倒的な桁違いの気で有るならば、なによりも良く知る人間の気で有るならば話は別だった。

 

「天から美少女とうじょーーーう!!」

 

突如はるか上空から美少女―――もとい川神百代が大和の目の前に降り立った。

駅前に暑く澱んで不快感を撒き散らしていた夏の空気が百代を中心に周囲への熱風へと変わり吹き付ける。周囲にいた人間もそのあまりに突然の出来事に暫し呆然とし目を白黒させたが、その原因を知るや否や

 

「なんだMOMOYOか」

 

「ああ…川神院の」

 

「キャー!モモ先輩、素敵ですぅ!!」

 

とリアクションは一様では無かったが川神に住む人間には慣れた物で、直ぐに日常へと戻って行く。百代の弟分である大和もその例外で無く、その圧倒的な登場に逢ってもリアクションはかなり薄かった。

 

「やあ姉さん、空から登場とは今日はどうしたの?」

 

「ハッハッハ、大ジャンプで移動してたらお前が見えたんでな、ちょーっと方向転換して来たにゃん♪」

 

唐突な猫言葉に大和の舎弟センサーが素早く反応する。

 

「奢らないよ」

 

「うっ…」

 

図星を突かれた様子の百代はギクリと固まり半歩ばかり後ずさる。

 

「弟が冷たいにゃん…チラッ」

 

「あざとい」

 

「ばっさりだー」

 

尚も上使いで目を潤ませる百代を大和は容赦なく斬って捨てた。

 

「姉さんを甘やかすとキリが無くなるからね」

 

「むー弟がつれない」

 

百代はつまらなさそうにそっぽを向くと、暫くして何か回天の秘策を思いついた様に再びその目を輝かせ大和に詰め寄る。

 

「ところで大和ぉ…さっきの女はだーれだ?」

 

「…見てたの?」

 

「あぁ――お前がねーちゃんのおっぱいを見て鼻の下を伸ばしていた辺りからな…!でもしっかし美人なねーちゃんだったなー」

 

大和が少しギクリとする。

 

「ジャアオレハコノヘンデ」

 

状況の不利を悟りゆっくりと振り向いて立ち去ろうとした大和の肩に、後ろから百代の両腕が絡まると背中に自己主張の強い二つの柔らかな感触が押し付けられるが大和は勤めて平静でいようと努力をする。

 

と言うかそれ所ではなかった。この状況は非常にまずいと百代の性格と舎弟としての経験から理解していた大和は何とかこの状況から抜け出そうともしてみたが力で百代に勝てる道理でなかったのと、何よりも抜け出すには余りに甘美な背中の感触だったので、いっそ諦観し開き直って背中の感触と百代の甘い香りを堪能していた。

 

「んー?お姉ちゃんに言ってみなー怒らないからさ」

 

百代が不敵な笑顔でと声色で囁く。

 

「だが返答によってはタイガー・ネックチャンスリーな」

 

「微妙に名前違うし、ちょっと古――って…ちょ、ギブギブ!!」

 

首に絡められた腕が微妙に極まって軽く締め付けられるのを感じて大和は声を上げると、百代もそれ以上はやらず大和に絡めていた腕を開放する。

 

「ここで行き倒れてた人でただ介抱してあげただけだよ」

 

極められていた首を摩りながら大和が正直な所を言うと不承不承の様子ながら百代も納得すると再び大和の双肩に腕を絡ませる。しかし今度のは優しく抱擁する様な感じで大和もすんなりと受け入れ抵抗はしなかった。

 

「なー大和、嫉妬するお姉ちゃんも中々かわゆいだろう?」

 

「まあね、でも奢らないけどね」

 

「ちぇっ、けちーヤドカリマニアー」

 

「俺にとっては最高の褒め言葉だよ姉さん」

 

姉と弟のじゃれ合いを楽しんだ百代は満足げに大和の肩から腕を放すと大きく伸びをする。そのプロポーションは一流モデルのそれになんら引けを取っておらず道行く男の視線を集めたが百代は何ら気にすることも無く再び大和の肩に片手を預ける。

 

「くぁ……あ~弟弄りも楽しいが後は強い奴でも現れてくれればなー」

 

百代は欠伸を一つ付くと少しつまらなそうに口を尖らせる。

 

「義経たちの挑戦者を審査する事をしてるじゃん、それじゃあ満足出来ない?」

 

「んー…そんな事は無いけどさ、やっぱ遠慮なしに全力で闘える様な相手が欲しいかなーなんて」

 

前髪のクロスを弄りながら少し物悲しげな表情の百代に大和は少し言葉に詰まる。

武道家であれば誰もが目指し羨むその圧倒的な戦闘力は、裏を返せばその才能と戦闘力の為に彼女とまともに闘える相手に恵まれず、ほんの少し前までその満たされない戦闘衝動の為に人格まで乱しかけた事も有った。

同年代の義経や松永燕の登場でそれもかなり緩和はされたが、やはり百代と全て近いレベルと言う人間は難しく恐らく今でも彼女の中では少なからず悶々とした思いがあるのだろうと大和は思う。

 

「やっぱり何か奢ろうか、姉さん」

 

大和の唐突な言葉に百代が目を輝かせる。

 

「おぉ!いいのか弟ぉ!!」

 

「あんまり高すぎなければね」

 

大和は姉と言うには少し可愛げの有る百代の反応を見て苦笑する。相変わらず五月蝿い蝉時雨の中、仲の良い姉弟に見える二人は川神駅の雑踏の中に歩き出したのだった。




なんとか次話を書けましたが相変わらずちゃんと文になっているか、原作キャラの喋りも違和感はないか自信なしです。
オリキャラは男にしようか女にしようか迷いましたが、まじこいの世界観的に女のほうが合いそうだったので女性にしました。オリキャラの服飾のモデルはKOFのヴァネッサ若しくはブラックラグーンのメイド服でないロベルタといった所でしょうか。

一部原作のセリフを拝借しましたが大丈夫だったですかね…
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