今回はかなりの亀更新となってしまいました。
今回のお話から3本ほど本編とは少しずれたAAキャラの絡み話となっております。
相変わらずの稚拙な文章ですがお楽しみいただければと思ってます。
その日、
みんなの視線の先は、格闘技だけならAランクだろうと謳われている1年生──ではなく、
その相手をしているグレーに染められた髪、目付きは鋭いがそこらの男子よりかは整った顔立ちをしている2年男子──平川透であった。
自由履修で強襲科の授業を受けているのだが、決して見ない顔だから注目されているのではない。
「く、くそっ! この・・・!」
大柄な1年は息を切らしながら、空手やボクシングなどを駆使した突きや拳を放つが、全て透にかわされる。しかも紙一重で。それが注目の理由だった。
紙一重とは誰にでもできる動きではない。大抵の人間は特に首から上への攻撃には自ずと恐怖心が働くもので、攻撃が当たるよりも早く避けるなどの防御態勢を取ってしまう。
対照的に男子生徒はかなり焦っていた。自由履修生とは言え、相手は先輩だ。これに勝てば自分の評価が上がり名実共にAランクになるかもしれない。なので、対格差を活かした押さえ込みでさっさと終わらせようと考えていたが、ちょこまかと攻撃をかわされ、襟や袖を掴むことさえままならない。
一旦、体制を立て直そうと少し距離を取り攻撃を中断する。それに合わせて、透も動きを止めた。
「もう終わりか?」
紙一重という最小の動きでかわし続けていた透は息を切らすことなく挑発とも受け取れる言葉を投げかける。
他学科の生徒に、しかもちょこまかと逃げ回っている相手に馬鹿にされれば、闘争心が強い武偵高生としては、
「こ、この野郎ぉ~!」
お決まりのテンプレセリフを叫ぶかはさておき、大抵はこの男子生徒のように挑発に乗ってしまう。
(そろそろ終わらせるか・・・)
透はバッとその場から一気に男子生徒との距離を詰めて、両手を相手の顔に近付ける。
これには男子生徒も驚愕。今まで防御に徹していた相手が奇襲をかけてくるとは考えてもみなかった。
やられる。そう思った瞬間──
パシィィン! と顔の前で音が響いた。
「・・・・・・ッッッ!?」
相手の顔の前で手を叩く技。
──猫騙し。それが透の仕掛けてきた奇襲であった。
だがこの技により、男子に様々な隙が生まれた。驚きのあまり目は瞑り、筋肉は緩み、重心は後ろに偏る。
その一瞬の隙を透は当然逃さない。足を引っ掛け尻餅をつかせ、首を掴んで地面に倒す。そのまま馬乗りになり、人差し指と中指の二本を男子の両目ギリギリに寸止めする。
「うっ・・・」
頸動脈を抑えられ、目潰しもされかねない状況。誰の目から見ても決着は着いていた。
透はスッと目から指を引いてやり立ち上がると、体育館の片隅に視線を向けた。
人だかりから離れ、徒手格闘を見学していたアリアは透の視線に気付くと、こっちに来るよう目で促してきた。
「30点」
開口一番、それはアリアが透に言った格闘訓練の評価であった。
「あんた、実戦でもあんなに時間をかけるつもり? 事件は連続して起こることもあるのよ」
武偵の仕事は基本的に時間との勝負である。自分が対処している事件の最中にも、どこかで事件は発生するかもしれない。そうなった場合は現場を速やかに解決し、次の現場へ早急に向かう必要がある。
透は先ほどの訓練では前半はひたすら攻撃をかわし続けて、後半相手が疲れを見せてから反撃に打って出た。それがよろしくなかったのだろう。
「格下相手にはさっさとケリを着けなさい。武偵憲章5条、行動に
「肝に命じておく」
「・・・と、今日はこんなことを言うためにあんたを呼んだんじゃなかったわ」
アリアは思い出したかのようにそう言うと、キョロキョロと誰かを探し始めた。
その視界にあかりを捉えると透を連れて歩み寄ろうとするが、どうも様子がおかしい。周りも少しざわついている。
誰かを庇うように5、6人の男子の前に立ち、口論しているようだ。
「不意打ちなんてズルい! 男なら正々堂々戦いなさいよ!」
「おいっ、あかり。やめろって!」
女子にしては身長が高く、金髪をポニーテールに結った少女が後ろからあかりの肩に手を置き、止めようとしていた。
自分の
「
人数をかけた不意打ちで、負け組たちは勝ちを得た気分になっているところ、納得のいかないあかりが前に出てきて口出ししているようだった。
「なるほどね」
アリアは何かを考えるように手で顎に触れた後、透の顔を見て微笑を浮かべる。
「ちょうどいいわ。透、あいつらに風穴をあけて来てちょうだい。さっきの復習よ」
「風穴はお前の仕事だろ」
「ガタガタ言わない! あんたに風穴あけるわよ!」
なんて脅し文句だ。
「迅速に済ませて来なさい」
「・・・風穴はあけて来ないからな」
やれやれといった感じでそう言うと、あかり達に近付いていった。
○
「不意打ちなんてズルい! 男なら正々堂々戦いなさいよ!」
「おいっ、あかり。やめろって!」
あかりは親友の火野ライカが自分の肩に手を置いて止めようとしていることに気付いていたが、その口を止めはしなかった。
それもそうだ。1対1で戦いを申し込んで来て、蓋を開けてみれば5対1。そんな卑怯な手を使った男子たちを許すことができなかった。
「ならお前たちは犯罪者グループに向かって、『1対1で戦ってください』って言うのか?」
「俺たちはそれを想定して訓練してあげただけなのになー」
後から取って付けたような言葉だ。ただこいつらはライカに仕返ししたかっただけに違いない。そんな信憑性のないセリフにますます憤りを感じるあかりだったが、彼らの言い分は必ずしも間違ってはないので反論できなかった。
「そんな奴らなんかほっとけって」
「ライカ・・・でも・・・」
まだ納得がいかなく、自分以上に悔しがってくれているあかりを慰めようとライカは笑顔を見せる。
「アタシに勝ったんだ。もう満足しただろ」
キッとあかりの後ろからライカは負け組連中を睨み付ける。
「いやいや、俺たちの受けた屈辱はこんなもんじゃねぇよ。なあ?」
「ああ、ライカちゃんには『今まで調子に乗ってすみませんでした』って謝ってもらわないとなぁ」
ライカが降伏すると、負け組はますます調子に乗り始める。
口ではああ言ったが、自分より劣る連中にここまでコケにされて、悔しくないわけがない。
だが、仮にも相手は強襲科で訓練を積んでいる生徒。2、3人相手なら何とかなるかもしれないが5人同時に相手をするとなるとさすがに厳しい。何よりこれ以上あかりを巻き込みたくなかった。
悔しい気持ちを飲み込み、頭を下げようとした時、一つの影が負け組連中との間を割って入ってきた。
「透くん・・・」
あかりがそう漏らす。
(この人が・・・)
先日、久しぶりに幼なじみと再会したとあかりは楽しそうに話をしていた。この男子生徒がそうなのだろう。
その透はこちらを振り返ることなく手首を何度も動かしていた。
『下がれ』
そう受け取っていいだろう。その指示に従い、ライカは気付いていないあかりを引っ張って外野に紛れた。
「誰だ、お前は?」
「バカッ! 自由履修で来てる先輩だよ」
リーダー格と思われる男子生徒がタメ口で話すのを見て、負け組の一人が慌てて注意をした。
武偵校は一応は縦社会・封建主義的文化が根付いているので、上下関係には厳しい。例えどんなに弱そうな先輩が相手でも無礼は許されないのだ。
しかし、タメ口で訊いたリーダー格の男子生徒は気にした様子もせず、
「先輩だから何だってんだよ。おい、あんた学科とランクは?」
タメ口のまま質問する。
「答える義理はないな」
「良いから言えよ!」
「それを訊いたところでお前らにメリットはないだろ」
それに、と続ける。
「自分の素性も明かさずに相手が簡単に教えると思うか?」
「ぐっ・・・」
透に論破され、リーダーは何も言い返せなくなると、
「と、とにかく俺たちはあんたに用はねぇんだよ! さっさとどきやがれ!」
本来の目的を実行しようと怒鳴り始めた。だが、透はその場から一歩も動かない。
「どけって言葉が聞こえねぇのか?」
業を煮やしたリーダーは透の胸ぐらを掴み、睨みを利かせた。
「あー、怖い怖い」
嘘をつくことに慣れている透とは思えないその棒読みセリフはリーダーの怒りメーターを上げるには十分であった。
「ナメやがってェー!」
左手は胸ぐらを掴んだまま、右腕を振りかぶる。
「戦闘に入ったら口を開くな」
拳が頬に当たる前に透はリーダーの顎に掌底を繰り出した。
「舌を噛むぞ」
右手を顎に当てたまま左の掌に右肘を乗せて、一気に押し上げた。
左手のパワーを乗せた掌底はリーダーの頭を勢い良く後ろに反らさせ、一歩、二歩とよろよろ後退させる。
(な、何が起き──ッ!?)
リーダーが頭を定位置に戻すと、カチャッと眉間に銃口を突きつけられていることに気付いた。
「まだ・・・やるか?」
獲物を狩るような目付きをした透を目の前にし、リーダーの額から冷や汗が浮かぶ。
そして、ゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと首を横に振った。
「お前らはどうする」
同様の質問を投げかけられた取り巻きたちは当然、「やりません」 「遠慮します」と口々に答える。
「・・・なら、こいつは返してやる」
「え?」
差し出された拳銃を見て、リーダーは慌てて右脚に付けていたホルスターを確認する。そこに自分が普段使っている拳銃は入ってなかった。
「い、いつの間に・・・」
「それを訊いたところでお前にメリットはないだろ。分かったらさっさと消えろ」
先ほどから変わらない目付きに気圧され、リーダーは拳銃を奪い取るとそそくさと取り巻きを連れて、体育館を出ていった。
「あ、あの」
声をかけられ振り返ると、そこにはライカがいた。少し離れたところにはアリアとあかりもいる。
「ありがとうございました」
「礼ならアリアに言いな。俺はアリアに指示されて動いただけだ」
「え、アリア先輩が?」
ライカは後方であかりと一緒にいるアリアを見る。どうやら会話は聞こえているらしく、アリアは「あたしは指示しただけで何もしてないわ。だから、感謝するのは透だけにしなさい」と言った。
「礼を言われる程のことでもなかったがな」
「いえ、そんなことないです。平先輩が来てくれなかったらアタシたち──」
透の「平川だ」というどこか焦りを含んだ言葉により、ライカの話は遮られた。
「平は旧姓、今は平川透だ」
透はライカではなく、あかりに言い聞かせるようにして説明していた。
当のあかりは自分のミスに気が付いたようで、両手を合わせて謝っている。
「すまないがそろそろ。まだアリアから用事があるみたいだから」
話題転換をしてその話を切り上げると、ライカは「引き留めてすみません。じゃあ、アタシたちはこれで失礼します」とあかりを連れて帰っていった。
「さっきのはどうだった?」
アリアと二人になったところで、先ほどの負け組との一戦の評価を訊いた。
「反省点も踏まえてすぐにケリを着けてたし、悪くなかったわ。20点よ!」
「おい、減点してるぞ」
「だって、あんた後ろの4人取り逃がしたじゃない。でも、一人はきちんと仕留めた。だから20点よ」
酷い採点基準だ。4人は敵前逃亡したのだから仕方ない。それを考慮して採点し直して欲しいなんて思いもしたが、実際点数なんてどうでもいい。
大切なのはアリアのパートナーとして認められているかどうかなのだから。
「そうか」ととりあえず赤点評価を受け入れることにする。
「それで、今日は結局何の為に俺を呼んだんだ?」
必修訓練の後の負け組討伐により、うやむやになっていたアリアの用件。それをようやく切り出すことができた。
「本当はあかりと組み手をやらせたかったんだけど、帰っちゃったしいいわ。あんたも帰っていいわよ。お疲れ様」
なぜ、あかりと。そう思ったが口にしなかった。大方、『あんたも稽古してあげて』などそんなところだろう。
「そうだったのか。なら、組み手はまた今度だな」
じゃあな、とその場から去っていく透の背中を見ながらアリアは先ほどの戦闘のワンシーンを思い出す。
透がリーダー格の男子に胸ぐらを掴まれた反動で身体を揺らした瞬間、注視していなければ気付かない程自然に左手がホルスターまで届いていた。
(多分、あれは・・・)
──『
そして、もう一つ気になったことがある。
『平は旧姓、今は平川透だ』
透はこの時ライカではなく、あかりを見ていた。まるで『次言ったら許さないぞ』と念を押すように。
隠したい旧姓を透は持ち、忍の殺法を二人は扱える。未だその関連性は掴めないが一つ言えることがある。
(この二人、ただの幼なじみじゃない)
その後、アリアは風魔と連絡を取り、今日の出来事を伝えた。
間宮あかりの身辺調査を継続して調べてもらうことに加えて、平川透の身辺調査も依頼するのであった。
いかがだったでしょうか?
絡みって程絡んでなかったかもしれませんが・・・
次回の更新は未定ですが、あかりちゃん大好きっ娘をメインで考えています。