緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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今回はござるとヤンデレが活躍するでござるよ!
それ故、いつもより文字数が多くなってしまったでござる!



かたじけない!



第12弾~闇夜のヤンデレ~

ここ最近、佐々木志乃(ささきしの)の心は穏やかでなかった。

 

先日、星伽白雪先輩と無事に戦姉妹(アミカ)契約を済ませ恐山から帰って来たというものの、あかりの口からは『アリア先輩』と『透くん』という聞き慣れない人物の二人の名前しか聞いていない。

 

帰ってきたその日こそ、「志乃ちゃんも戦姉妹契約できたんだね!」と一緒に喜んでくれたが、それ以降は特に気にしてない様子である。

 

(でも大丈夫。あかりちゃんは私のこと好きって言ってくれたし)

 

それでも、いつものテンションを保っていられたのはあかりとの友情を信じているからである。

 

しかし、ついに今日そのテンションが崩れることになるのであった。

 

 

放課後、志乃は探偵科(インケスタ)での授業を終えるとすぐにエステーラの屋台まで行き、メイドに予約させておいた出来立てのリーフパイを受け取ってきていた。

 

そして、あかりを迎えに強襲科(アサルト)棟前までやってきたところ、

 

(あっ、あかりちゃん!)

 

ちょうど棟から出てきたあかりを発見。すぐに近寄ろうとするが、ピタッとその動きを止める。

 

あかりの隣に誰かがいるのだ。目付きが鋭く、グレーの髪をした見たこともない男子。

 

(誰!? あかりちゃんがあんなに楽しそうに話すなんて!)

 

あかりは過去の自分にも見せてくれた眩しいほどの笑顔を浮かべている。そこで、志乃はハッと気付く。

 

(アイツが『透くん』・・・!)

 

幼なじみだか何だか知らないがそれを良いことにあかりに近付くなんて万死に値する。しかも、あの鋭い目付き──獣の目をしている。幼なじみの立場を利用してあかりを襲う気に違いない。

 

人気(ひとけ)のないところに連れ込まれ、肉食動物に襲われた小動物の如く、身体を震わせ涙目になるあかりの姿が容易に浮かぶ。

 

(それはそれでアリかも・・・!)

 

などと一瞬、恍惚とした表情になるが、ブンブンと頭を勢いよく振り、違うでしょと否定する。

 

(あかりちゃんとニャンニャンするなんて羨ま・・・じゃなくて、許せません!)

 

志乃はあかりを見守るという名目上のストーキングを始めたが、結局二人は校門を少し過ぎたバス停で別れ、それぞれ帰路に就いた。

 

その光景に志乃は何事もなかった安堵感とやはり妄想が抜けきらなかったのだろう、ちょっとしたガッカリ感に包まれた。

 

だが、今日は何もなかったとは言え、いつあの狼がウサギを襲うかも分からない。これは早急に抹殺の計画を立てなければならない。

 

志乃はリーフパイの袋を落としたことにも気付かずに、急いで家に帰るのであった。

 

 

 

 

 

しかし、あの透という男、思い出せば出すほどイライラしてくる。

 

ニャンニャンの件もそうだが、本来なら自分に見せてくれるはずのあの屈託のない笑顔をいとも容易く拝むことができるなんて。

 

そう考えただけでも、志乃のイライラのボルテージは上がっていく。

 

「あかりちゃんの! 笑顔は! わたしだけの! もの! なのに!」

 

帰宅した後、メイドの出迎えを無視した志乃はすぐに自室に入りテディベアに八つ当たりを始めた。

 

5発程、思い切りソファーにぶつけてやったところで、その体が千切れて中からワタが出た。

 

暴れたことで、怒りを1%程発散した志乃はわずかながら冷静さを取り戻す。

 

異性で幼なじみという最大の巨悪の出現。その首を討ち取るには冷静な判断力が必要だ。

 

(そう、まずは落ち着かなくちゃ)

 

志乃がオロオロと向かう部屋の片隅には、『あかりちゃんボックス』。そう名付けた宝箱が置いてあった。

 

(まずはあかりちゃんボックスで、あかりちゃん成分を摂取・・・!)

 

宝箱のフタを開けると、志乃の目には中からキラキラと輝く光の粒が迸るように見えてくる。

 

そこには額縁に入れた、特にお気に入りのあかりの盗撮写真。その他の盗撮写真が詰まった『あかりちゃんアルバム』。しかも、それは戦姉に頂いたアイテムと技術でわずか数日で一冊分増やしていた。

 

他にも、あかりそっくりに自作した『あかりちゃん人形』。あかりとの日常的な交流や反応をこまめに記録した『あかりちゃん好感度グラフ』を書いたノート。あかりが中身を飲んで捨てたペットボトル。髪の毛。

 

・・・などなど、あかり関係の品が大量に詰まっていた。

 

「ああ、あかりちゃん・・・」

 

その箱に頭を突っ込むようにして顔を埋めることで、志乃は至福の一時を過ごせるのだ。

 

10分・・・20分・・・30分・・・・・・とあかりちゃんボックスを堪能したところで、

 

「現実逃避してる場合じゃありません!」

 

ふと我に返り、にへらーとしていた表情が一変、キリッとした勇ましい、武装検事の娘らしいものに切り替わっていた。

 

あかりちゃんボックスを丁寧に閉じ、デスクのPCに向かう。

 

そしてブルーライトをカットするメガネをかけると、少し乱暴にキーボードを叩き検索をする。

 

まずは『透』『2年』『グレーの髪』『アリアのパートナー』という現時点で志乃が知り得る情報を元に透の詳細な情報を調べあげる。

 

あかりが絡むと情報収集能力が10倍になる志乃は『武偵高イントラネット』『武偵高裏サイト』などを素早く、そして着実に読み込んでいく──のだが、出てきた情報は、

 

・名前『平川透』

・2年A組

・装備科(アムド)、Bランク

・違法改造の融通は利かないがメンテナンスの信頼性は高い

 

・・・などの誰でも簡単に調べられそうな情報しか出てこない。

 

あかりやライカの話では最近、強襲科でなかなかにその強さを見せつけているようだが、強襲科や自由履修に関する情報が出てこない。

 

しかもアリアのパートナーだということも教えてもらっていたが、その点についても触れられていない。

 

これでは透がどの程度強いのか把握出来ない。アリアのパートナーになるくらいなのだからある程度腕は立つのだろうが。

 

作戦次第では倒せる相手かもしれない。その為には透の実力を何としてでも把握しなければならない。

 

 

そうして調べ続けて日が暮れた頃、

 

「・・・志乃様、お食事をお持ちしました」

 

双子のメイドが真鍮(しんちゅう)のトレーに載せた銀色ドームつきの食事を運んでくるが、

 

「そこに置いておきなさい!」

 

志乃は顔すら見せず、ドア越しに一喝する。

 

今、自分は食事どころではないのだ。強敵との戦いは一瞬の油断が命取り。それはこの作戦立案も同じ。

 

急げ。戦いにおいては、時間が味方につくことも、敵に回ることもあるのだから。

 

再び『武偵高裏サイト』を徘徊していると、一つの掲示板にたどり着く。

 

『武偵高ファンクラブサイト入口』

 

初めはスルーしていたが、万策尽きた志乃にとっては最後の希望である。

 

もしかしたら、あの獣のファンになるような変わり者がいるかもしれない。ファンなら何か弱点などを知っている可能性だってある。

 

そんな変わり者がいると信じて、志乃はファンクラブサイトのリンクをクリックした。

 

出てきたのは、数十人を越える武偵高生の名前だった。中には憎きアリアの名前や戦姉(あね)である白雪の名前があった。『佐々木志乃』の名前も見つけるが今はどうでもいい。

 

大事なのは『平川透』の名前があるかどうかなのだから。

 

(あった・・・!)

 

平川透のファンクラブサイト。志乃は早速クリックをしたが、中身はメンバーにならないと覗けないようだ。

 

ここで志乃の手が止まる。情報収集の為とは言え、一時的にとは言え、透のファンになるのには抵抗があるようだ。

 

(あかりちゃんのため、あかりちゃんのため、あかりちゃんのため)

 

心の中で『あかりちゃんのため』だと連呼し続け、透のファンクラブのメンバーになることにした。もし、有益な情報が得られなければ炎上させて、サイトを閉鎖に追い込む条件付きで。

 

メンバーになり、サイト内の掲示板を手当たり次第に探っていく。

 

途中、『中学時代の透様』とか『風呂上がりの透様』とかくだらない写真がアップされていたが、志乃はことごとくスルーした。

 

『アルバム』というページに移動すると、そこは透に関連する写真が貼られまくっていた。

 

そこもスルーしようかと思ったが、

 

(あれ?)

 

流しながら目を通したところで、ある共通点に気付く。一枚一枚写真を確認し直すと、志乃は確信した。

 

(カメラ目線が一枚もない)

 

盗撮されたと思われる写真はカメラ目線でなくて当然なのだが、証明写真や小学や中学などで撮った集合写真なんかも目をそらし、細めるか瞑っていた。

 

『透様ってなんでカメラ目線が一枚もないの~?』

 

自分と同じ考えの者がいたらしく、その発言が掲示板の履歴に残っていた。

 

『知らないの? 透様って──』

 

その一文を読んだ瞬間、志乃に幸運の女神様が微笑んだ。

 

「こっ・・・これだわ・・・!」

 

やっと見つけた。平川透の意外な弱点を。そして同時に巧妙な作戦を思い付く。そうと分かればこのサイトは用済みなので、志乃は退会することにした。

 

続けざまにインターネットで『月の満ち欠け』について調べる。

 

──明日の夜は『新月』のようだ。

 

やはり幸運の女神は自分に付いているようだ。この作戦は暗ければ暗いほど優位に働くのだから。

 

準備を整えるには、十分な時間がある。まずは食事を取ろう。腹が減っては戦は出来ぬと言う。

 

(──これで、あかりちゃんの笑顔は私だけのものに!)

 

 

 

 

 

(暇だ・・・)

 

その日の放課後、透は装備科(アムド)棟にこもり、メンテナンスという時間潰しをしていた。

 

というのも、今朝登校したところ下駄箱に手紙が入っていたのだ。内容は──

 

『平川先輩へ あなたのことが好きです。もしよろしければ、今夜9時に戦闘訓練で使う廃屋に来てもらえませんか? あそこなら誰も来ませんので、そこで答えを聞かせてください』

 

──といったラブレターである。

 

廃屋に呼び出しとは怪しい匂いがしないこともないが、もし相手が本気ならそこで待たせ続けるのも申し訳ない。

 

勤勉な生徒は夜9時でも校内に居残り、一般科目や専門科目の勉強をしていることもあるので人目に付きたくないという点では一応筋も通っている。

 

指定通りの場所、時間に訪れて断ろうというのが透の答えであった。

 

しかし、夜9時までかなりの時間がある。先ほどまでは発注を受けたメンテナンスやら銃弾の一括買い付けなど仕事をこなしていたが、やり終えてしまい時間潰しができなくなってしまったのである。

 

授業が終わってからかなりの時間も経つので、棟内も透ただ一人である。

 

(いや、もう一人いるか)

 

自分の座っている席の真正面には一面真っ白な壁がある。その白の中に浮かぶ黒く、束ねられた髪のようなもの。

 

恐らくカモフラージュして本人は隠れた気になっているのだろう。自分の髪がはみ出てるとも知らずに。

 

最初は見て見ぬ振りをしていたのだが、やることがなくなった途端、気になりだしてしまったのである。

 

「・・・そこの壁。バレバレだから姿を現せ」

 

その異様な光景には耐え難いものがあり、どこかへ行けば済む話なのだが、行くアテもない透はついつい声をかけてしまう。

 

ピクッと一瞬髪が揺れたかと思うと、カモフラージュに使っていた白い布が落ち、一人の女生徒が現れた。

 

その女子は口元を長いマフラーで隠し、腰まで伸びた黒髪はポニーテールにしていて、くの一のような風貌がある。

 

「さすがは平川殿。神崎殿のパートナーだけあるでござるな」

 

その独特の喋り方で透を誉め称えるのを見る限り、本人は壁になりきれていたと思っているのだろう。

 

「お初にお目にかかる。某は諜報科(レザド)1年・風魔陽菜(ふうまひな)

 

なるほど。『風魔』は忍者の姓だ。格好も喋り方もくの一らしいのは頷ける。

 

「して平川殿、いつからお気付きに?」

 

「初めからだ」

 

透がこの部屋に入り、仕事を始めた時には既に長いポニーテールは宙に浮いていた。

 

「なんと、初めからお気付きとは。平川殿の観察眼には感服いたす」

 

「・・・一つ言っておくがな。今のは誰でも気が付くぞ」

 

「それはどういう意味にござるか?」

 

「その長い髪が隠しきれていなかった」

 

「・・・・・・」

 

透の指摘に風魔はしばらく沈黙した後。

 

「・・・先刻のは、風魔の秘術『怪奇現象の術』。某の場合、髪がさも宙に浮いているかのように見せ、敵を動揺させる術にござる」

 

平静を装い、術の説明を始めた風魔だが一番動揺しているのは恐らく彼女だろう。

 

「・・・・・・」

 

「その目、風魔の秘術をお疑いか」

 

疑うも何も嘘だとバレバレだ。仮に百歩譲って本当だとしても、あんなふざけた術を秘術とするようでは、高名な忍者である風魔の名も随分と落ちぶれたものだ。

 

「・・・とりあえずこの話は終わりにしよう」

 

隠れ身を失敗したとは言え、風魔は透が仕事を終える数時間ずっと同じ姿勢でいたのだ。そこは賞賛すべき点だ。

 

それに免じて、透は風魔の嘘を追及しなかった。

 

「それより、ここ最近の尾行(ストーキング)はお前だったのか」

 

透はここ3日程、誰かに尾行されていることに気付いていた。しかし、振り返ると気配は消えており、正体の特定まではできずにいた。

 

「俺の身辺調査でもしてるのか? 一体誰の差し金だ」

 

「武偵憲章2条。『依頼人との契約は絶対守れ』・・・でござるよ」

 

当然のことながら、風魔は依頼人も依頼内容も伝える気はないようだ。

 

「・・・いくらだ? いくらで身を引いてくれる」

 

武偵は金で動くのが常だ。さすがに犯罪者相手に身を引く武偵はいないが、今回のように生徒がターゲットとなった場合、依頼人の報酬以上の金額を提示されれば憲章を破る生徒はざらにいる。

 

特に風魔のような学費を滞納するほどの赤貧武偵には効果はてきめんなのである。

 

「・・・某がたかが金銭で依頼人との契約を破棄すると思われるか」

 

声が震えている。明らかに金銭で動きそうな態度だ。

 

「三千円でどうだ」

 

「・・・・・・」

 

風魔は机に置かれた三枚の紙から目をそらす。誘惑に負けぬよう堪えていた。

 

「五千」

 

(ひ、樋口殿・・・!)

 

まだ大丈夫だ。何とか堪えられる。

 

「一万」

 

「本日より、平川殿の身辺調査を辞めるでござる」

 

諭吉には勝てなかった。

 

「かたじけない」

 

顔つきはクールなままだが、予想外の収入を受け取った風魔は内心うはうはであった。

 

(諭吉殿がいれば、焼きそばパン90個は食べられるでござるよ!)

 

「いいか。依頼人には上手いこと言っておけ。俺に接触したことも口にするな」

 

「御意に」

 

そう言って、帰ろうとする風魔を透は「待て」と引き留める。

 

「少し俺の時間潰しに付き合ってくれ。相手してくれたらもう一枚くれてやる」

 

透は風魔が断れないように、一万円札を見せつける。

 

「何時間でもお供致す」と即答する風魔に、こいつは一万円を見せれば何でもやってくれそうだなと透は思った。

 

「して、時間潰しというのは?」

 

「この後、待ち合わせがあるんだが・・・」

 

透はそう言い、ラブレターを対面に座っている風魔に手渡した。

 

「・・・これは恋文でござるか?」

 

「お前はどう思う。ただの手紙だと思うか?」

 

透は薄々怪しいと感じるラブレターに忍の意見は頼りになるのではないかと思い、風魔に付き合ってもらったのだ。

 

「某には何とも」

 

一万円を無駄にしたか。風魔の返答に対して透は思わず舌打ちをする。

 

「然れど、今宵は新月。闇討ちを狙うには絶好日でござるな」

 

「なるほど」

 

本当に告白か果たし状かのどちらかと透は考えていたが、闇討ちの線までは思いつかなかった。

 

さすがは闇に潜み生きてきた忍の末裔だ。常人とは視点が違う。

 

「そこへ行かれるのなら、十分用心されよ」

 

相変わらずクールな物言いだが、目は「諭吉殿を早くくだされ!」と訴えかけていた。

 

いいアドバイスも貰えたので、透は約束通り一万円を渡すのだが、こちらもこちらできっちりと待ち合わせ時刻ギリギリまで付き合ってもらうのであった。

 

 

 

 

 

もうすぐ約束の21時だ。防弾・防刃を備えた黒のライダースーツを身にまとい、暗視ゴーグルを装着した志乃は早めに廃屋に潜み、透の到着を待っていた。

 

書きたくもないラブレターを吐き気を催してまで、書き上げたのだ。もし来なければ後日、別の形で抹殺せざるを得ない。

 

(来た・・・!)

 

入口を見張り続けること、十数分。暗視装置を通して透がやって来たことを確認する。

 

懐中電灯で辺りを照らす透に気付かれないよう物陰に隠れる。

 

「・・・まだ、来てないのか」

 

そう呟き、中に入ってくる透の背後を取るよう志乃は静かに移動した。

 

やるなら今だ。志乃は透の背後で外装を洋風にしたサーベルのような日本刀をしっかりと握る。

 

(あかりちゃんは絶対に渡さない!)

 

一撃で仕留める。志乃のサーベルが透を襲おうとした瞬間──

 

「アイツの言った通りだったな」

 

「なっ・・・!?」

 

透が半回転で振り返りつつ、懐中電灯をこちらに向けてきた。

 

(くっ・・・せめてライトを!)

 

気付かれていたことに驚きつつも、志乃は冷静に優先順位を考え、攻撃対象を透から懐中電灯へ変更する。

 

「チッ・・・」

 

手から弾き飛ばされた懐中電灯が容易く破壊されたことが分かると、連撃を避ける為、透はバックステップでその場から引いた。

 

志乃はその様子を見届けたが深追いはしなかった。

 

(大丈夫。暗闇の中なら私に分がある)

 

一度深呼吸して気持ちを落ち着け、サーベルを構え直す。暗視ゴーグルの先では、攻撃に備える透があちこち見渡していた。

 

(今度こそ・・・!)

 

再び背後から接近する志乃だったが、

 

「そこか!」

 

「きゃあ!」

 

サーベルを当てるより先に、透が振り返り様に鞘に納めた刀で攻撃してきた。何とかサーベルの側面を盾にしたので、身体へのダメージは防ぐことができた。

 

「な、なんで?」

 

透は暗視装置を着けていない。闇に紛れるよう黒ずくめにした自分の姿が見えるはずないのだ。それなのに、こちらが攻撃するよりも早く武器をぶつけてきた。

 

「俺に何の恨みがあるか知らないが、攻撃する時に随分と殺気立っているな」

 

あかりがかかっているのだ。殺気立つのも当然である。しかし、まさか殺気で動きを読まれていたとは思いもしなかった。

 

「お前の姿もぼんやりとだが、見えるようになってきた。まだやる気なら、今度はこっちから仕掛けさせてもらう」

 

透が刀をこちらに向けて宣言してきた。ただでさえ、劣勢なのに向こうから来るとなると敗北は必至だ。

 

(こうなったらプランBに移行して・・・)

 

志乃は初めの闇討ちに失敗した時に備え、もう一つ計画を立てていた。それがプランB。ファンクラブで得た透の弱点を突くプラン。

 

殺気でこちらの動きを読まれている以上、こちらの攻撃は通用しないので、正直プランBも上手くいくか分からない。

 

しかし、こちらには奥の手がある。動きを読まれようが攻撃が当たればいいのだ。相手に防ぐ余裕を与えない、そんな一撃を志乃は持っている。

 

「正直、平川先輩を侮っていました」

 

今度は闇討ちをせずに、堂々と姿を見せる。一歩一歩透に近付き、お互いの刀による攻撃が届かない距離を取った所で足を止めた。

 

「私とあなたの差は歴然。このまま戦っても私の負けは目に見えているでしょう」

 

「分かってるなら話は早い。どうして俺を襲ったか聴かせてもらおうか」

 

その様子から戦意はなしと受け取った透は刀を降ろし、腰に添える。

 

「ですが・・・女には引けない時があるんです!」

 

そう言って、志乃は何かを宙に投げる。

 

「──!」

 

透の目の前で、それが小さな太陽になった。

 

閃光が辺り一面を真っ白に染め上げる。

 

「ぐっ・・・!」

 

──閃光手榴弾(フラッシュ・グレネード)。この閃光をいきなり見せられた人間は、どんな歴戦の猛者でも萎縮する。安全回路が組み込まれた暗視ゴーグルを付けた志乃本人にとっては全く無害な物であるが。

 

目眩ましになるのは数秒程度。なので、その間に敵を制圧するのが常套手段なのだが、志乃はその数秒を奥の手──佐々木家に伝わる秘剣・『燕返(つばめがえ)し』の準備時間に利用する。

 

「平川先輩、あなたのことを調べさせて頂きました」

 

志乃はこの時、昨晩のファンクラブサイトで見つけたあの一文を思い出していた。

 

 

『知らないの? 透様って目が弱いんだよ』

 

 

「あなたはカメラのフラッシュ程度の光でも数十秒間、何も見えなくなる」

 

原因は不明だが、透は昔から光に弱かった。電灯のように普段から付いている光は問題ないが、カメラのフラッシュなど突然の発光するものを目に映すと何故かしばらくの間、目が見えなくなっていた。

 

今回の手榴弾(フラッシュ)はカメラのフラッシュなど比にならない。透が視力を回復するのには数分、いや数十分といくかもしれない。

 

「先ほど、なぜ私があなたを襲ったのかを訊ねられましたね」

 

「ああ・・・!」

 

閃光を浴びた透は目を抑え、少しふらついた様子を見せる。その間にも、志乃の燕返しの準備は着実に進められていく。

 

「あなたはあかりちゃんに近付き過ぎた」

 

「・・・は?」

 

「あなたに、あかりちゃんは渡さない!」

 

志乃は強く意志のこもった声で告げたところで、燕返しの準備は整った。

 

「・・・いや、お前の言っていることが理解できないんだが」

 

「燕返し──!」

 

問答無用と言わんばかりに放たれた胴払いの一閃が5m以上の距離から、透に届く。

 

「──っ!」

 

何かを言う余裕もなく、透は吹き飛ばされた。

 

燕返しは鞘の摩擦を省くことで最速の剣を生み出す鞘無しの抜刀術である。

 

そんな超速度の剣をモロに喰らったのだ。いくら防刃を兼ね備えた制服だろうと、骨は折れているかもしれない。

 

現にサーベルが当たった瞬間、何かが砕けるような音が聞こえた。

 

「今後、あかりちゃんに近付かないとお約束するのであれば、これ以上こちらからは手を出しません」

 

吹き飛ばされて尚、倒れずに膝を着き前を向く透に少しの敬意を払い、志乃は忠告した。

 

「学習能力がない奴だな」

 

「えっ・・・?」

 

志乃は自身の目を疑った。ありえない。自分は夢でも見ているのだろうか。

 

未完成とは言え、燕返しをマトモに受けた人間が──

 

「立ち上がった・・・!?」

 

 

 

 

 

「あなたに、あかりちゃんは渡さない!」

 

志乃のその言葉には強い意志を感じられた──が、

 

「・・・いや、お前の言っていることが理解できないんだが」

 

こちらは襲ってきた理由を訊ねたのに、なぜそこであかりが出てくるのか、意味不明である。

 

「燕返し──!」

 

答えの代わりに発せられたその掛け声と共に感じ取った殺気。そして、最速が故に生み出された(くう)を切る音。目が見えずとも志乃の狙いは分かった。

 

透は全てを瞬時に判断し、その一閃の直撃を避ける為に刀を盾として使用した。

 

「──っ!」

 

しかし、その威力は凄まじいもので『鎌鼬』を納めていた鞘を破壊し、かつ透の体までも吹き飛ばした。

 

「今後、あかりちゃんに近付かないとお約束するのであれば、これ以上こちらかは手を出しません」

 

「学習能力がない奴だな」

 

「えっ・・・?」という声が聞こえる。

 

直撃したと思ってたものだから、透が立ち上がったのを見て驚いているのだろう。

 

「立ち上がった・・・!?」

 

視力を奪われ、その驚く表情が見えないのが残念だ。いや、暗闇だからどのみち見えないのか。

 

そんなどうでもいいことを考えるくらい、透には余裕があった。

 

「鞘が無くなった以上、時間はかけられない。首や手首を落としたくなければ、その場から動くな・・・!」

 

それは『俺は目が見えないから、下手に動くと露出している部分を斬りかねない』という警告。

 

「そんな見え透いた嘘が通じると思っているんですか!」

 

志乃は激昂して、さっきと同じ、居合構えに姿勢を移行させていく。

 

右前に足を広げ、膝を曲げて重心を下げ、サーベルは横薙ぎの回転力を溜めるため、背後へ。

 

「『鎌鼬・乱舞』!」

 

そんな構えを取っていると知らず、透は腰を落とし低めに『鎌鼬』を振るった。直後──

 

「痛ッ・・・!?」

 

目に見えない無数の風の刃が志乃の下半身を──特に脛を中心に襲った。

 

痛みに強い武偵高生でも脛を重点的に狙われれば当然辛い訳で、乱撃が終わった頃には志乃はサーベルを手から離し、割座で呆然としていた。

 

「・・・一応加減はしたつもりだが、大丈夫だったか?」

 

興奮していた志乃が静かになったとあり、目が見えず彼女の状態が分からない透は心配になり声をかける。

 

しかし、その声は志乃には届かなかった。呼び掛けに無反応とあって、やり過ぎたのではないかと少し不安になっていると。

 

「・・・ふぇ・・・ふえぇえええーん!」

 

前方から泣き声が聞こえてきた。

 

「あかりちゃんを取られちゃうよー! また私、ひとりぼっちに戻っちゃったよー!」

 

わんわんと、幼児退行したみたいに泣きじゃくっているのだった。

 

その泣き声に混じった言葉を聞き取り、透は何となく今回の事態を把握することができた。

 

 

『あなたに、あかりちゃんは渡さない!』

 

 

きっと志乃とあかりは大が付く程の親友で、あのセリフは最近あかりと接することが多くなった自分に対する嫉妬だったのだろう。嫉妬一つでここまでやるとは驚きだが。

 

ズボンとベルトとの隙間に『鎌鼬』を通した透は泣き声を頼りに志乃に近付き、

 

「大丈夫だ。俺はお前からあかりを奪ったりはしないよ」

 

まるで子供をあやす時のように優しい口調で慰めてあげる。

 

「・・・ほ、ほんとに?」

 

涙を目に溜めながら、志乃は捨てられそうな子犬みたいに尋ねた。

 

「ああ、約束する。これからもあかりと仲良くしてやってくれ」

 

優しく約束までしてくれた透に志乃は「ありがとうございます。ありがとうございます」と何度も頭を下げるのであった。

 

 

 

 

 

──数分後。

 

透は帰り道を歩いていた。その背中に志乃を乗せて。

 

志乃も初めは嫌がっていたが、透に「道案内してくれ」と言われ、半ば強制的に背中に乗せられてしまったのである。

 

今は志乃の道案内のもと、佐々木家へ向かい始めたところだ。

 

「あの、平川先輩・・・」

 

「なんだ」

 

「その・・・ありがとうございます・・・」

 

一歩踏み出すだけでも脛全体に痛みが走る自分を気遣い背負ってくれた透に志乃は恥ずかし混じりでお礼する。

 

「礼を言うなら俺の方だ」

 

未だに視力が回復しない透にとって、志乃は大事な自分の目である。彼女を送り届けた頃には視力もさすがに戻っているだろう。

 

「それと、今日のことはどうかあかりさんには・・・」

 

「言ったところで、俺に何のメリットもない」

 

それは「絶対に言わない」などのような口約束よりも説得力があった。

 

「はい!」

 

信じても大丈夫だろう。一安心した志乃は笑顔で頷くのだった。

 

そんな二人の様子を廃屋の屋上から一つの影が見送る。

 

(某の出番はなかったでござるな)

 

風魔は二万円の恩義に報いる為、透にもしものことがあれば、助太刀しようと勝手に廃屋を訪れていた。

 

結局そのような事態にならなかったものの、意外な収穫があった。

 

(妖刀『鎌鼬』・・・まさか、平川殿が所持していたとは)

 

妖怪が出現するようになったのは主に平安時代からだと言われている。

 

その時代は主に二つの一族が勢力争いを広げており、合戦の際はどちらも奇術・妖術を扱っていたと記録がある。

 

ある者は弓から電気を帯びた矢を放ったり、またある者は刀を振るっただけで遠方の敵を斬ったという。

 

いずれも妖怪や動物を封印した刀や弓――いわゆる『妖刀』『妖弓(ようきゅう)』『霊刀(れいとう)』『霊弓(れいきゅう)』によるものではないかと示唆されている。

 

(そして、神崎殿が仰った平川殿の旧名からしてもやはり間違いないでござる)

 

これはアリアに伝えるべきか、と思ったが二枚の諭吉がそれを許さなかった。

 

「平川殿、そなたは──」

 

風魔の呟きは風にかき消され、そのまま闇夜に消えていった。

 




この長ったらしい内容を最後までお読み頂き、ありがとうございます。


果たして最後にござるが知ってしまった透の正体とは?
恐らく皆さんも想像つくでしょうが・・・。


次回はりんりんをメインに一応考えてますが、構成が決まってないので亀更新不可避となりそうです・・・
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