前回より、2ヶ月経っていますね・・・。
その代わりと言っては、何ですがいつもよりボリューミーになりました。
見辛かったら、申し訳ないです!
夕日に染まったかのように紅くなった寝室で間宮ののかは目を覚ました。
なにやら外が騒がしい。焚き火をした時に鳴る、木が弾けるような音が部屋の中にまで聞こえてくる。
窓に近付き、カーテンを開くと、外は紅蓮の炎に包まれていた。
「──っ!」
そんな火事場の中心には、一人の女が立っていた。
腰の辺りまである艶やかなストレートの黒髪、大きなプリザーブド・フラワーの髪飾り、やや古めかしい黒のセーラー服、そして左手だけにはめた白い手袋。
その女は右手に持っていた
地面に落ちた甲高い金属音が引き金となり、ののかの見ていた景色が変わった。
火の海なのは変わらない。しかし、場所が自分のいたはずの勝どきから、茨城県の間宮町──故郷の街になっていた。
その業火に燃える町の中を、二人の少女が必死に走っていた。
追われていた。数匹の大型犬───いや、銀狼に。
体重70kgはあろうかという、本来日本にはいない大きな狼たちだ。
(あれは・・・あたし、とお姉ちゃん・・・?)
その少女たちは2年前のあかりとののかの姿そのものであった。
「きゃっ!」
姉妹揃って必死に逃げているが、火災で左肩をケガし、やや遅れぎみに走っていたののかが何者かによって頭を掴まれた。
いくら子供と言えども、人一人を片手で軽々と吊り上げるなど、人間が容易にできることではない。
事実、人間ではなかった。ののかの頭を掴んだのは、二足歩行する巨大な獣。
それはもう明らかに人間ではない、黒毛の獅子とも熊ともつかぬ怪物であった。
「お姉ちゃん! 助けて、お姉ちゃん!」
2年前の自分を襲った恐ろしい光景。思わず目を背け、後ろを振り返ると、例の黒セーラー服の女が立っていた。
「・・・ぅっ!」
2年前に街を、自分たちを襲った張本人。
怖い。ののかは本能的にその女から一歩ずつ後退りしていく。
「ォンッ!」
女の後ろから姿を見せた狼に吠えられ、ののかは背を向け、一目散に逃げる。
「お姉ちゃん! お兄ちゃん!」
助けを求めて、必死に走る。
「はぁ、はぁ・・・!」
どのくらい走っただろう。気が付くと、燃え盛る『ハイツ勝どき』まで戻ってきていた。
2年前に起きた地獄。あの時と同じことが起きないように、自分たちは皆、離ればなれになって密かに暮らしていたのに。
ただひたすらに燃え盛るアパートをあかりと共に呆然と見ることしかできなかった。
「・・・?」
視線を感じ、そちらを向くと、またしても黒セーラー服の女がいた。
女は微笑を浮かべ、左手にはめた白い手袋を外すと、2年前の間宮姉妹の首を後ろから掴んでいた。
そうあの時、女の
────
「──のか。ののか」
「っ・・・!」
透の声に引き寄せられるように、ハッと目が覚め、ののかは慌てて飛び起きた。
「お、お兄ちゃん・・・」
家は燃えていない。目の前には昨晩泊まった透がいる。ここで、ののかは先ほどまでの出来事が夢だったのだと確信できた。
(どうして、今頃あんな夢を・・・?)
夢であったことに安堵の溜め息をつきながらも、唐突に訪れた悪夢に不安は拭いきれない。
「随分とうなされていたが、大丈夫か?」
先に起きていたのだろう。透が心配そうに様子を伺ってくる。
「あ、うん。大丈夫だよ。ちょっと変な夢を見ちゃって」
余計な心配はかけさせたくない。ののかは作り笑いをし、立ち上がろうとする。
「・・・あ・・・」
急に立った為か、立ちくらみを起こしてしまい、ふらつくののかを透が支えた。
「本当に大丈夫か?」
「・・・ありがとう。もう平気だよ」
日に日に立ちくらみの頻度が増えている気がする。貧血気味なのだろうか。
「・・・昨日の夕食」
「え?」
「昨日の夕食の時、目の前のコップを何度か取り損ねていただろ」
核心をつくような言葉に、ドキッとののかの心臓が跳ね上がる。
「疲れかストレスかは分からないが、あまり無理するなよ?」
昔から透は他人の嘘や隠し事に敏感だった。
しかし、深くは追及してこない。話したくなければ無理して話すことはない、とこちらから打ち明けるのを待っていてくれる。
「・・・お兄ちゃん」
ここ最近、ののかの調子は優れない。透もそれを感じとったのだろう。
姉のあかりにも、伝えていない今の自分の状態。
「聞いてもらってもいいかな?」
透に打ち明けることにするのだった。
○
11区の中央にある車道交差点の脇に、間宮班と高千穂班の計8名が集まっていた。
「それでは
教官として今回の戦いを監督する、
ブランドもののスーツとネクタイを身に付けた小夜鳴は、細身で長髪、そしてメガネを掛けた美青年で、武偵高の中では珍しい人格者である。
「間宮班は『蜂』、高千穂班は『蜘蛛』の攻撃フラッグを、敵の『目』のフラッグに接触させれば勝利です。フラッグの
高千穂班を意識しつつも、あかりたちは小夜鳴のルール説明を聞く。
「エリア内の物は何を使っても構いません。なお、火器の使用弾薬は
小夜鳴は黒いゴム弾頭の9mm弾をつまんで見せてくる。
「まあ、頭とかに当たると死んじゃう事もありますけどね。 あはは」
そう続けられたセリフは、教育者とは思えない物騒な内容だったが、脅すためのウソでもなく、笑わすための冗談でもない。武偵高とはそういう所であり、武偵とは危険な仕事なのである。
「お互い、頑張ろう」
小夜鳴のルール確認が終わった後、あかりは対戦相手のリーダー、高千穂に右手を差し出した。
その手を、高千穂は金属製の扇で叩き、握手を拒む。
「私と対等なつもり? 不愉快だわ」
あかりたちを冷たい目で見下し、吐き捨てるように言い放ってきた。
高慢で無礼なその態度に、あかりたちの怒りが再燃し、今にも戦闘が始まりそうな緊迫なムードとなった。
「はいはい。それでは間宮班は南端、高千穂班は北端へ。10分後に試合開始です」
それにも武偵高の教師は慣れたもので、小夜鳴はニコニコ顔でパンパンと手を叩く。
小夜鳴に促されたこともあり、高千穂は余裕の笑みを浮かべながらその場を離れていった。
その背中を見つめる4人は、同じ方向を向き、やる気に満ちた表情になっていた。
(負けない!)
○
11区の北側へと去っていく高千穂班に続き、南端へと移動していく間宮班の様子を、近くのビルの屋上から、透が市販品の双眼鏡で、理子がラインストーンでキラキラとデコレーションしたオペラグラスで眺めていた。
しかし、透の双眼鏡は小夜鳴の姿を捉えたままであった。
「トオルン、どうかした? ずっと小夜鳴先生ばかり見てるけど」
「・・・いや、なんでもない」
透は双眼鏡を目から離す。
先ほどまで、ルール説明をしていたのだろう。首を動かし、8人全員の顔を見るように口を動かしていた。
だが、そんな中で透は違和感を覚えることがあった。あかり、志乃、風魔、この3人のことをやたらと見ていたような気がする。
偶然かもしれないし、透の勘違いかもしれない。とりあえず、今は
「対戦相手の
高千穂は金髪ロングヘアで、身長は160cmといったところ。全体的にキツめな印象だが、西洋人風の厚めの化粧や紅いルージュがよく似合う美人である。
制服もドレス風に改造しており、その身なりはさながら『女王様』である。
「俺は誰とも
というか、なんで知ってるんだ。と言いかけるも、心の中に留めておく。
理子の情報網はとんでもなく広い。それこそ、武偵高で起きた出来事は粗方把握している。そんな相手にわざわざ訊くなど愚問であろう。
「って言いながらも、ちゃんとテストはやってあげてるんだから優しいよねー」
「一応、
そんな雑談をしているうちに
当初の打ち合わせ通り、守備はライカと麒麟が担当しており、南端にある公園、その高台にある小さな林に陣取りをしたようだ。
攻撃はあかりと志乃が担当で、周囲に気を配りながら、着々と北側に進行していた。
「ここら辺から警戒が必要だねぇ」
高千穂が陣取っている工事現場へ向かうには、見通しのいい大通りを通らなければならない。
敵がここに防衛戦を引いている可能性が高いのだ。
今まさに、あかりと志乃はその大通りを進んでいるところである。
町の人々や武偵高の生徒は普通に道を歩き、お店も通常営業を続けている。
「あの2人組・・・」
「うん、そうだね」
透と理子は、女の子向けのカジュアル衣料店から、出てきた武偵高生の女子2人に目を向ける。
あかりと志乃がその2人組を通過した時、その2人は振り返り様に、あかりの膝の裏にローキックしたのだった。
ロングヘアのウィッグを投げ捨てた2人組の正体は愛沢姉妹であり、倒れたあかりの体をまさぐる。
スカートの中に隠していた『蜂』の旗を湯湯に見つけ出され、夜夜に容赦なく折られてしまう。
「あーあ、やられちゃったねぇ」
貴重な攻撃フラッグを1本折られ、あかりも愛沢姉妹に戦闘不能にされそうな状態にも関わらず、呟いた理子の口調にはまだまだ余裕があった。
なぜなら、対双子訓練をした志乃がいるからだ。
奇襲のせいで、防御も反撃もできなかったあかりの頭上を、志乃が跳び、左右に伸ばした両腕で愛沢姉妹の首を刈るようにして引っ掛け、そのままダウンさせた。
「わーお、さっすが志乃ちゃん!」
ランニング・ネックブリーカー・ドロップ───ラリアット気味に敵の首を腕で引っ掛け、駆け抜ける勢いでそのまま真後ろにぶっ倒す荒技である。
そんな派手な技を武偵高生とは言え、花の女子高生が使ってみせたことに、理子は一人盛り上がっていた。
あかりのピンチを救った志乃は湯湯を関節技で、夜夜を鎖分銅で、自由を奪い、胸の合間に隠していたフラッグをあかりに投げ渡した。
フラッグを受け取ったあかりは一瞬戸惑ったような様子を見せるも、そのまま北へ向かって走り出した。
「上出来だな」
「うんうん、いいねー。りこりんの想定通りだよ」
透と理子は志乃の訓練の成果とあかりの判断力を称賛した。
あかりも、愛沢姉妹の拘束に協力し、二人一緒に敵陣に向かうという方法もあったかもしれない。
しかし、あかりはそれをしなかった。どのような考えがあったかは分からないが、結果的に、下手に手伝い、志乃のペースを乱すという事態を避けることができた。
「さてさて、りんりんたちは大丈夫かなー?」
○
ライカの耳に装着したヘッドセットに、あかりからの状況報告が届く。
あかりの話によると、愛沢姉妹と遭遇し、攻撃フラッグを1本壊され、志乃と姉妹が交戦中。あかりは高千穂班の陣地深部の侵入に成功したとのこと。
「お話を伺うに、愛沢姉妹の動きは遊撃的でしたわ」
公園の林に陣取って『目』のフラッグを一緒に守る麒麟が言う。
愛沢姉妹が居た地点も11区の南北を分ける道路近辺だったので、こちらの侵入を待ち伏せてカウンターに転じる作戦だったのだろう。
となると攻撃は姉妹に任せてしまい、守備を固める作戦もあり得る。
だが、高千穂の攻撃的な性格から考えてそれは無いだろう。
「守備に最低1人は必要だから、あと1人攻撃手がいるな」
「左様。それが、某に御座る」
高い木の下で呟いたライカの読みは、突如として背後に生じた気配に肯定された。
「っ!」
ライカが振り返ると、木の上に、逆さ吊りの状態でぶら下がっている風魔と目が合った。
(風魔陽菜!)
ライカがその存在を認識した時には──サァッ──
風魔は木から落ちてきて、ライカが背に隠していた『蜂』のフラッグを掠め取っていた。
(これだから
高い攻撃力で敵を薙ぎ倒しつつ陣地に攻め入る
しかし、諜報科はそれを払わない事を前提としている。敵に見つからないよう、敵陣に忍び込むのが仕事なのだ。そして敵を急襲する。
そのターゲットは、
(・・・麒麟!)
透から言われていた。不意討ちで戦闘不能にされることと麒麟を人質にされる、もしくは倒されることを避けるようにと。
早速、不意討ちを喰らってしまったが、不幸中の幸い、フラッグを奪われることしかされていない。
なら次は麒麟だ。
潜入係が敵チームを相手にする時は、ユニットリーダー、機関銃手、通信手といった重要な
「させるかよ!」
風魔の動きは素早かった。だが、透の忠告もあったお陰で、麒麟が攻撃されるよりも先にライカは二人の間に割って入ることができた。
クナイを投げようと構えていた風魔の前に立ち、背後の麒麟を守るように両腕を広げ、
「
力強く、そう宣言した。
麒麟は戦妹だ。それを攻撃することは戦姉が許さない。守る。
そのライカの決意の言葉は、守らない戦姉だった理子とは真逆の言葉で、
「お姉様!」
「島殿は、お手が土で汚れている様子。フラッグは近くに埋めてござるな」
目ざとく、それを見て取った風魔からの指摘に、麒麟があからさまに動揺しているのが周囲に伝わる。
風魔の発言はカマ掛けだったのかもしれないが、今の麒麟の態度でバレてしまっただろう。
なおさら、風魔をここで自由にさせるワケにはいかなくなった。
「目がいいな」
ライカはセーラー服の背後からトンファーを2つ取り出すと、それを両手で構える。
「でも、目はアタシと合わせろ!」
息巻いて襲いかかろうとするライカに、風魔は、
「目は、潰すものでごさるよ」
忍者を思わせる外見の通り、忍術のような技を使った。
背筋を伸ばした状態で、足の裏から土煙を発生させたのだ。
発煙弾等の道具を使った様子はない。どうやったのかは分からないが、この煙は足下の土埃を飛散させたもののようだ。
(・・・見えねぇ!)
催涙性や毒性は無さそうだが、想定外の土煙で、ライカは視界を遮られてしまう。
その煙の向こうから、音もなく風魔の攻撃が襲い来る。
「くっ!」
とっさにトンファーでガードすると、キンッ、と小さくも鋭い金属音が手元で鳴り、火花が散った。
風魔はクナイを手元で様々な角度に持ち替えながら、ボクシングのジャブを放つような短いストロークで刺すように突いてくる。
(・・・あれ? この動きって・・・)
あまり力の
(平川先輩と同じ・・・?)
一挙一動全てが同じというわけではないが、風魔の狙い、動きは、訓練の時の透の動きと酷似していた。
いや、透が
(ホント、あの人は何者なんだ)
防御体勢を取っていたライカは、余裕の笑みを浮かべながら、風魔が攻撃するより先に、トンファーを使い、反撃に打って出てみる。
「むっ!」
反撃されることは予想外だったのだろう。風魔はクナイで攻撃を捌くと、一度態勢を整える為か、煙の向こうに姿を隠した。
風魔の後を追うことも考えたが、
『仲間を信じて、時間を稼ぐんだよ』
訓練の時に言われた理子の言葉がその足を留める。
今回、自分に与えられた役割は、フラッグを守ること。風魔を倒せるにこしたことはないが、それは二の次である。
未だ土煙が晴れる様子はない。麒麟が背後にいることを確認しつつ、いつ攻撃が来ても良いように警戒態勢を取る。
(あかり、頼んだぞ・・・!)
○
志乃から託された攻撃フラッグと共に、あかりは単身、高千穂班が拠点にしているであろう工事現場へ肉薄した。
勝つためには、ここに隠されているであろう『目』のフラッグを発見し、持ってきた『蜂』のフラッグでタッチしなければならない。
まずは自転車と原付が並ぶ駐輪場に潜み、工事現場を覗き込むと、
(あった・・・!)
敵の『目』のフラッグは、2メートル半程の高さがある土砂の山の頂上に堂々と立てられていた。
あそこまで走り、攻撃フラッグを当てれば間宮班の勝利なのだが、もちろんそう簡単に事が運ぶわけもない。
「お前が来たのね。これも因縁かしら」
土山の手前には、敵チームのリーダー・高千穂麗が待ち構えていたのだ。
丸腰という事はないだろうが、今のところ高千穂は武器を手に持っていなかった。
もしかしたら、辺り一帯にトラップが仕掛けられているかもしれない、とあかりが
「・・・私ね、神崎アリア先輩に戦姉妹契約をお願いしてたの」
おもむろに高千穂が話しかけてきた。
「でも
その話は、あかりが知らなかった高千穂とあかりの因縁。
アリアの戦妹になりたかった2人。片方はなれず、片方はなれた。
その2人が今、
運命なのか宿命なのか、事実上、これはその遺恨試合でもあったのだ。
(そうだったんだ・・・)
先日、教務科の掲示板の前で喧嘩になった時、止めに来たアリアの顔を見て、高千穂は少し複雑な表情を浮かべていた。
あれはそういうことだったのか。
「でも、今は戦姉妹にならなくて良かったと思ってるわ」
感情が表に出やすい性格なのか、負け惜しみを言うような顔をした高千穂は、
「お前を戦妹にするなんて、錯乱されたとしか思えないもの」
自分の手に入らなかった『アリアの戦妹』という立場をあかりを理由にして
高千穂には恐らく、挑発する天性の才能がある。そしてそれを自覚してもいるのだろう。
その事は事前に透から教えてもらっていた。だから
「・・・私、どうしても諦めきれなくて平川先輩にも戦徒契約をお願いしたの」
あかりが挑発に乗ってこないのを見てか、高千穂は話を続ける。
「でも、あの人は『かくれんぼ』なんてふざけた試験で私のことを落としたの。自由履修生だし、実力で負けるのが怖かったのでしょうね」
強襲科推奨の試験は『エンブレム』。30分以内に武偵高の校章が書かれたシールを奪うことができれば契約が可能となる。実力主義の試験である。
しかし、試験の内容や時間は戦徒の申請を受けた上級生が自由に決めることができる。
透はそれに従って試験の内容を『かくれんぼ』にしたのだろう。どのような思惑があったのかは知らないが。
「神崎先輩のお近付きになりたくて戦徒申請をお願いしたけれども、結果的にあのような臆病者の戦妹ならずに済んで良かったわ」
今度は透を材料にけしかけてきた。何がなんでも、あかりから手を出させたいらしい。
冷静さを失わさせたいのか、必殺の罠か、カウンターの攻撃でもあるのだろう。それは分かっていた。
「あたしの事は何て言ってもいい・・・」
だが、尊敬する先輩のみならず、今日の為に訓練の手伝いをしてくれた幼馴染みのことも馬鹿にされては、流石に黙ってはいられなかった。
「
怒りに任せて、あかりは高千穂の方へ駆け出した。
○
「もっと注意深く言っておくべきだったか・・・」
あかりが高千穂班のフラッグの方へ猪突猛進の勢いで突っ込んで行く姿を見た透は思わず呟いてしまう。
戦徒契約試験を通じて、高千穂の性格を知っていた透は、あかりに『挑発』に気を付けるよう、簡単に教えていた。
だが、あかりは挑発に乗ってしまった。その結果───
───高千穂まで残り5メートルといった場所で、あかりは見えない敵に跳び蹴りを喰らったかのように、真後ろに倒れた。
高千穂に視点を移すと、その手には巨大なリボルバー銃───スタームルガー・スーパーレッドホークが握られていた。
9.5インチという長大なバレルに加え、グリップの部分には拳銃に付けることは希なストックまで装着されている。そのシルエットはまるでライフル銃。
ドレスのように改造したセーラー服の長いスカートも内側にあの巨大な銃を秘匿できるという実用性があるものだったのだ。
追撃から逃れようようとするあかりに向けて、高千穂は容赦なくスーパーレッドホークを連射する。
突如として胸にゴム弾を被弾し、呼吸がままならないのだろう。あかりは、地面を這うようにしながら、なんとかさっきの駐輪場まで後退した。
あかりは、そこにあったイタリア製のスクーター・ベスパを遮蔽物にして、裏側に隠れる。
(火野・・・は、まだ風魔の相手か。佐々木は、どこだ?)
この状況、あかり一人で切り抜けるには厳しいと感じた透は、応援に駆けつけられる仲間はいないかと捜す。
ライカと麒麟は未だ交戦中で、今すぐに決着がついたとしても間に合わなそうである。それならば、志乃はどうかと11区内の至る箇所を見渡すがその姿は見当たらない。
「ちっ」
志乃の姿が把握できず、ちょっとした苛立ちから思わず、舌打ちをする。
「くふっ。トオルン、そんなにあかりんの事が心配?」
「心配も何も、応援が来ないことには、この状況を打破できないだろ」
「だいじょぶだいじょぶ。これから、面白いものが見られるよ」
理子のその意味深な言葉に、透は双眼鏡を目から離し、理子を見る。
理子はオペラグラスであかりと高千穂を見てるようだった。透の視線には気付いているのだろうが、何も答えない。見れば分かる、という事なのだろう。
再び双眼鏡越しに工事現場を覗くと、弾を撃ち切ったらしい高千穂が悠々と、銃弾を
もう、時間はない。ベスパごと吹っ飛ばされたら詰みである。
「・・・・・・あの、ベスパ・・・!」
見守ることに夢中で、気付かなかったが、あのベスパには見覚えがある。慌てて理子の事を見ると、こちらに可愛らしくウインクを決めてすぐに2人の戦いに目を戻した。
予想外の行動に動揺した様子を見せた高千穂だが、すぐに銃を構え直して発砲する。
高千穂の射撃は、あかりのこめかみ辺りに直撃し、その身体は大きく後方にのけ反り、手もハンドルから離れてしまう。
しかし、あかりは落ちなかった。乗馬マシンでの特訓の成果が、今ここで実を結んでいるのだ。
のけ反りから前向きに戻ったあかりが再びハンドルを握り、再加速させる。
そのまま、高千穂の横を過ぎ、砂山の斜面を上り始めたところで、あかりは走行中のベスパの上に器用に立つと、シートを蹴って、後ろへ飛び降りた。
「・・・こうなる事が分かった上で、あかりにあの訓練をさせていたのか?」
透は砂山を登っていく無人スクーターを眺めながら、理子に問いかける。
「んー、なんのことかなー?」
とぼけられてしまったが、恐らく間違いないだろう。
高千穂の事を調べ、敵の陣地が工事現場、さらに砂山の上に『目』のフラッグを立てることまで予測していた。
その上でバイクなりの乗り物がなければ、攻撃フラッグを当てることが出来ないと考え、乗馬マシンの訓練をさせた。
(こいつだけは、敵に回したくないな)
ベスパの左ミラーには、いつの間にか攻撃フラッグが何かで結びつけられていた。
そのまま進めば、攻撃フラッグと高千穂班の『目』のフラッグが接触する。
そのことに気が付いた高千穂は、ベスパに狙いを定めるが、足元のマンホールから志乃が現れ、レッドホークのストックにサーベルを突き刺し、阻止していた。
「おー、志乃ちゃんあんな所にいたんだ。どうりで見付からないわけだー」
理子は先ほどまで一生懸命、志乃を捜していた透の事をニヤニヤといじり始める。
「・・・・・・」
透は理子のいじりを無視して、決着の瞬間を見届ける。
もう邪魔する者はいない。頂上を目指すベスパは少し右に傾いたものの、ミラーに括り付けた『蜂』のフラッグで高千穂班の『目』のフラッグを天高く弾き飛ばした。
「終わったな」
決着もついたので、これ以上理子から何か言われる前に、透はそそくさと帰ろうとするが、
「トオルンってさ」
と声をかけられ、反射的に足を止めてしまう。
「思ったより心配性だよね」
「・・・うるさい」
背を向けたまま、一言返しその場から去るのだった。
コロナが猛威を奮ってますね・・・。
皆さんも、体調にはお気をつけください。
毎度のことながら、次回更新は未定ですm(__)m