今回で、いよいよバスジャックに突入です。
思ったより長くなってしまいそうだったので、今回と次回、2話での分割となる予定です。
ある日の放課後、
誰なのかは確認するまでもないのだが、一応玄関の方まで足を運ぶと、やはりアリアがいた。
アリアはキンジの部屋を出て行ってからは、度々透の部屋を訪れては宿泊しに来ていた。
透の部屋は、VIPルーム程ではないが、武偵高の寮の中で一般的な部屋よりかはワンランク上で、2LDKの間取り。
プライベートルームがあることも気に入っているらしく、余っていた方の部屋は徐々にアリアに侵略されていた。
(アリアの為に、空けていたわけじゃないんだがな・・・)
踵を返し、とりあえずリビングのソファーに座る。
一足遅れてアリアがやって来たが、物憂げな表情をしていた。
いつもなら、「お腹空いた」とか「今日の夕食なに」などと言いながら入ってくるのだが、それもない。
「どうかしたのか?」
透の問いかけに反応してか、アリアはスタスタと早歩きでソファーまで来て、ポフッと隣に座った。
「あかりの事、教えて」
唐突にその一言。具体性も何もないので答えようがない。先ほどまでの表情と言い、今日あかりと何かあったのだろう。
「・・・まずは、何があったのか教えてくれ」
アリアはコクッと頷き、今日の出来事を話し始めた。
「なるほどな」
アリアの話によると、射撃の腕が一向に上がらないあかりに対して、昼休みに訓練を命じていたそうだ。
あまりにも酷い命中率だったので、アリアは、あかりは元々撃ち方に悪い手癖がついていて、それを抑えているからダメなのではないかと言ったところ事実だったらしい。
その撃ち方で撃つように言ったところ拒絶したので、半ば強制的に命令したところ、あかりの撃った10発の弾は額、右目、左目、喉、心臓に各2発ずつ命中していたとのこと。
武偵法9条──武偵は
あかりが覚えていた手癖はその9条を破ってしまう殺人技の癖だったのである。
確かにあかりのことを知っておきたい気持ちは分からなくもない。
「・・・少し付いてきてくれないか」
透はそう言うと、アリアを部屋から連れ出し、屋上まで上がった。
「こんなところに来て、どういうつもりなのよ」
「とりあえず見ててくれ」
透は誰も屋上に来ないように、出入口の鍵を閉め、側面に移動する。
その壁にチョークを使って、人のようなものを描き始めた。
「それって」
アリアはすぐに気が付いたようだ。透が描いているものが、人型のターゲットであることに。
一通り描き終えた透は、壁との距離を開け、コンバット・マグナムを取り出すと、アリアの方に身体と視線を向け、右腕は伸ばしてターゲットに照準を合わせる。
軽く呼吸を整えた透は、早撃ちで装填された6弾を消費し、直ぐ様
「
壁に描かれた人型の額、右目、左目、喉、心臓に各2発ずつ、計10発撃ち込まれていた。
「やっぱりあんたも出来るのね・・・」
アリアは特別驚いた様子は見せなかった。あかりがやっていた技を幼馴染みの透も出来るのではないかと考えていたのだろう。
「あんたがあかりに教えたの?」
「・・・逆だ」
透はパァンッと、同じ姿勢で、もう一発撃つ。
「昔、あかりに見せてもらって覚えた」
たった今、放たれた弾はターゲットの手───所持する武器の辺りにヒットしていた。つまり、手癖は付いていないという事を意味している。
「じゃあ、
「・・・鳶穿のことも知っていたんだな」
そうだ、と肯定した透は、チョークで描かれたターゲットの証拠隠滅の為、少しずつ消し始める。
「透、あんたは知ってるんでしょ。あかりがどうして9条破りの技が染み付いてるのか」
「ああ。だが、これ以上は答えられない」
「っ! なんでよ!」
「あかりは十弩を見せる事を
透は壁の絵を消す手を止め、アリアの事を見据える。
「あかりが言いたくない事を、他人の俺が勝手に言うなんてできない」
「なら、あのまま放っておけって言うの?」
「それは、お前とあかりの関係性の問題だ。お前自身でどうにかするしかない」
アリアは納得していないといった表情をしていた。
それもそうだろう。あかりの事を知っておきたかったのに、頼った相手には核心とも言えない、中途半端な回答しか貰えなかったのだから。
「・・・アリア。あかりはどうして、お前に『技』の事を知られたくなかったと思う? どうして、お前に憧れていると思う?」
「・・・考えたこともないわ」
「少し考えてみてくれ。それが分かれば、きっとお前なりの接し方も見えてくると思う」
○
アリアに相談されてから、数日が経った。
早朝5時、透はいつもと変わらない朝を迎える。
2年前までは朝の日課として、竹刀の素振りなどをしていたが、今は行っておらず起床時刻のみがルーチンとなっている。
カーテンを開けると、生憎の雨。いつもは徒歩通学だが、今日はバスか、などと考えながら、ゆっくりと朝食の準備に取りかかる。
テレビでニュースを観ながら、朝食を取り、その後はパソコンを開き、行方不明者や身元不明の遺体の情報を調べる。
妹の美沙らしき情報がないと分かると、少し安堵し、武器の簡易的な整備を始める。
そうこうしてるうちに、登校の時間となっていたので、制服に着替えて家を出る。
学校に着いてもやる事は特にないので、基本的に時間ギリギリに登校する透は、バス通学の日は最終バスの一本前──7時47分に乗るようにしていた。
最終バスは、1時間目の始まる直前に一般校区に着くので、いつも混んでいるのだ。ヘタすると満員で乗れない事もある。
その1本前のバスに余裕で乗り込んだ透は、入口付近の横長5人席の端に座った。
「やぁ、平川君。おはよう」
仮眠でもしようかとした矢先、外の薄暗い曇天も吹き飛ばしてしまいそうな爽やかイケメンが声をかけてきた。
「・・・不知火か」
「隣座っても良いかな?」
「ああ」
隣に置いていたスクールバッグをどかし、座るスペースを作ると、ありがとう、とお礼を忘れない不知火が隣の席に座ってきた。
「平川君がバス通学って珍しいね。やっぱり雨だからかな?」
「まあ、徒歩でも良かったが、濡れるのも面倒だしな」
「ははっ。確かにそうだね」
不知火は笑顔でその話を完結させたが、まだ何か話したい事があるようで、透の顔を見て様子を伺ってきていた。
「・・・なんだ」
「平川君に訊きたい事があってね。神崎さんと間宮さん、最近何かあったのかな?」
「どうしてそう思う」
「二人共、最近少しギクシャクしてたから、平川君なら何か知ってるのかなって」
よく見てるな。透の率直な感想であった。
透もちょくちょく強襲科に顔を出し、二人の様子は見ていたが、表面上は今までとは変わらないような接し方だったので、事の背景を知らない人は気付きもしないと思っていた。
「何かあったところで、お前には関係ないだろ」
「否定しないって事は、平川君は事情を知ってるんだね」
「どうだろうな」
「僕の予想としては、平川君と神崎さんが最近よく一緒にいるから、間宮さんがヤキモチを妬いて二人の間に亀裂が入ったってところかな」
「どうして、あかりが嫉妬するんだ」
不知火の予想は見当違いも甚だしいが、一層否定してはより追及されかねないので、透はとりあえず話を合わせることにする。
「だって平川君と間宮さんって付き合ってるんでしょ?」
「? まあ、7年くらい前から付き合いはあるが」
「そういう意味じゃなくて、男女の付き合いだよ」
「・・・は?」
一瞬、透の思考がフリーズする。
「・・・それって、どういう意味だ・・・?」
不知火の中で、何故そのような認識になっているのか理解できず、困惑気味に訊き返した。
「間宮さんって、平川君の事、『透くん』って呼んでるし、敬語も使ってない。武偵高で後輩の子が先輩に馴れ馴れしく話すなんて、ただの先輩後輩関係じゃないよねって強襲科の一部では話題だよ」
「・・・あかりとはただの幼馴染みだ。そういう関係じゃない」
「幼馴染み、かぁ。はぐらかし方としてはポピュラーな言葉の選択だね」
「とにかく、その話はデマだったって周りに伝えておいてくれ」
「んー、どうしようかな。伝えるのは構わないけど、僕には何のメリットもないんだよねぇ」
透の口癖の一つである『メリット』という言葉で不知火は透をからかい始める。
文句の一つでも言おうとしたその時、『プルルル』と向かいの席から、着信音のような音が聞こえたので、無意識にそちらに視線が行く。
「ご、ごめんなさい!」
周りの視線を浴びたショートカットの女子生徒は恥ずかしそうに謝り、慌ててスクールバッグの中から携帯を探していた。
「私、マナーモードにしたはずなのに・・・」
そう呟いた女子生徒が着信を消す為に、携帯を開くと───
『このバスには 爆弾が 仕掛けてありやがります』
ボーカロイドで作ったと思しき、人工音声が車内に響き渡った。
一瞬の静寂の後、「ば、爆弾だって!?」「どういうこと!?」などと、車内は騒然となる。
『速度を 落とすと 爆発し やがります』
続けて発せられた脅迫を聞き取った透は、すぐに運転席に駆け寄る。
「そのまま止まらずに、走り続けてください」
「え、え?」
突然、起きた事態に運転手は慌てた様子を見せる。
「バスジャックです。速度を落とすと爆発する。だから今はその速度を保ったまま、走り続けてください」
なので、透は努めて冷静に簡潔に、運転手に事態の説明をした。
「わ、分かりました」
このバスはもう間もなく、次のバス停に到着という場所まで来ていた。
もし、本当に爆弾があるとしたら、バス停に止まった時点でアウトであった。
「とりあえず急場は
例の携帯を手に持った不知火が近付いてくる。
騒がしかった車内は、鎮まり返っており緊迫とした空気が流れていた。
パニックになっている生徒がいない辺り、不知火が上手く
「流石、強襲科Aランク。事件慣れしてるな」
「そういう君こそ、優先順位を考えて真っ先に運転手さんの所に行ったじゃないか」
不知火にこの先の相談を持ち掛けようとしたその時、透の携帯が震える。
「もしもし」
『透、今どこにいる?』
電話の相手はアリアであった。このタイミングで掛かってきたという事は、このバスジャックの件だろう。
「武偵高行きのバスの中だ」
『じゃあ、あんた今!』
「ああ、バスジャックに巻き込まれてる」
『そのバスってどっち』
その質問に違和感を覚えた。
「・・・どっちって、どういう意味だ」
まさか、と嫌な考えが頭をよぎるが、確証を得るために質問で返す。
『7時47分か7時58分のバスどっちに乗ってるの?』
「47分だ」
『透よく聞いて』
そして、その嫌な予感は的中する。
『あんたの乗っているバスとその後のバス両方でバスジャックが発生したの』
バスジャック2台同時勃発。
まさかまさかの事態です。
元々、1話でまとめるつもりだったので、次のお話はそれほどお待たせさせることなく更新できるかなと思います。
まあ、あくまで私のこれまでの更新頻度よりかは、という意味ですが…