緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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バスジャックも終わり、いよいよ終盤に差し掛かってきましたね。
今月末で1章を終わらせたいな~、なんて考えています。

こんな作品と作者ですが、読んでくださっている皆様、引き続きよろしくお願いします。
それでは第19弾です。


第19弾~忍び寄る影~

 

バスジャックを無事に解決した透は武偵病院にいた。

 

左腕に2発程、被弾しただけで今は痛みも何もないのだが、不知火に一応病院に行くよう言われ、仕方なしに来ていた。

 

教務科(マスターズ)への報告は不知火がやってくれるとの事なので、その面倒事を避けられた事を考えると来て良かったかもしれない。

 

診察の結果はどこも異常なし。骨にヒビが入っているということもなかった。

 

今は病院のロビーのベンチで、携帯を握り締め、連絡が入るのを待っていた。

 

事件を解決してから、アリアやキンジに電話を入れたのだが、一向に連絡が来ない。

 

まだ解決していないのだろうか。それならまだ良い。いや、アリアの身に何かが起きたのか。

 

色々な考えが頭をよぎる。

 

(きたか?)

 

携帯が震えたので、画面をすぐに確認すると『間宮あかり』からの着信であった。

 

アリアやキンジからの連絡でないことに少し気落ちする。

 

しかし、授業中であるはずのこの時間に、あかりから電話が掛かってくるのはいささかおかしい。

 

とりあえず、病院の出入口まで向かい、電話に出た。

 

「あかり、どうかしたのか」

 

『・・・・・・とおる、くん・・・?』

 

電話越しに聞こえてくる、あかりの声には、いつものような元気がなかった。

 

「泣いて・・・るのか? 何があった」

 

『・・・・・・アリア、先輩・・・せんぱいが・・・!』

 

「アリアがどうかしたのか!?」

 

『・・・ふぇえぇえぇ・・・・・・アリア先輩・・・ひくっ・・・・・・せんぱぃ・・・・・・』

 

まともに話せる状態ではないが、アリアの身に何かが起きた事だけは伝わってきた。

 

「あかり、今どこにいる。迎えに行くから待っててくれ」

 

『・・・・・・・・・』

 

言葉は何も返ってこない。雨の音と遠くから(むせ)び泣く声だけが耳に入ってくる。

 

「ちっ」

 

通話を切り、透は駆け出した。

 

病院で待っていれば、アリアやキンジと合流はできるだろう。

 

アリアの事が気がかりなので、出来れば待機していたい。しかし、あかりを放ってはおけない。

 

今は2時間目が始まって少し経った頃。少なくとも、1時間目は授業を受けていたと思われるので、今ならまだ一般校区にいるかもしれない。

 

透は大雨の中、傘を差さずに専門校区の歩道を全力で走る。

 

 

 

「はぁ、はぁ・・・」

 

一般校区に辿り着くも、そこには誰一人としていなかった。

 

右手を膝に置き、息を整えながら左手で携帯を操作し、あかりに電話をかけるが繋がらない。

 

(あかり、どこにいるんだ・・・!)

 

 

 

 

 

「・・・・・・ふぇえぇえぇ・・・・・・アリア先輩・・・」

 

どしゃ降りの雨の中、あかりは傘も差さずに泣きじゃくりながらヨロヨロと道を歩いていた。

 

 

憧れのアリア先輩。

 

 

誰にも負けない完全無欠の武偵。

 

 

そのアリアが、顔面から胸の辺りまでを、血塗れにして事件から帰ってきた。

 

 

意識を失ったまま、救急車に乗せられて病院へ搬送された。

 

 

何があったのか。誰にあんな目に遭わされたのか。透なら何か知ってるかも。透なら何とかしてくれるかも。

 

そう思い、震える指を制御して電話を掛けたのだが、ロクに話す事も出来なかった。

 

透が何を言っていたのかも覚えていない。

 

いつの間にか通話が切れていたので、アリアが運ばれた武偵病院へ向かおうとしていたのだが、涙が止まらず、前もほとんど見えなくなり、悲しみのあまり、どこへ歩いているのかもあやふやになってきた。

 

「間宮あかり」

 

そんなあかりの名前を呼ぶ者がいつの間にか隣にいた。

 

「・・・っ・・・!?」

 

あかりがその存在に気付くなり、隣にいた彼女は、すっ、とあかりの頭上に黒いコウモリ傘を差しのべた。

 

目元を軽く拭い、あかりは傘の持ち主の方に振り返る。

 

「──っ!!」

 

あかりの顔が、アリアの事とは別の驚愕のせいで真っ青になった。

 

腰の辺りまである(つや)やかなストレートの黒髪、大きなプリザーブド・フラワーの髪飾り、やや古めかしい黒のセーラー服、そして左手だけにはめた白い手袋。

 

その姿には見覚えがあった。2年ぶりに見た。

 

あかりは、彼女を知っている。

 

(夾竹桃(きょうちくとう)・・・!)

 

毒を持つ花、夾竹桃。

 

それが、彼女の名前だ。

 

「おいで」

 

その夾竹桃は、無表情のまま静かに告げた。あかりの方を見すらせず、正面を向いたまま。

 

 

 

 

 

一般校区にあかりがいないと分かった透は、ひとまず、志乃、ライカ、麒麟にあかりの居場所に心当たりがないか、という旨のメールを送った。

 

続けて、強襲科(アサルト)の施設も訪れてみたが、そこにも姿はなかった。

 

病院・・・は、一般校区までの道中で見かけなかったので、可能性は低い。帰宅したというセンも考えにくい。

 

学園島の中にはいるはずだ。透は手当たり次第に、路地裏やお店の中をチラッと横目で確認しながら走り続けていた。

 

お洒落なカフェを通りすぎようとした時、

 

(・・・あかり・・・!)

 

店内の窓際に座るあかりの姿を見付ける。

 

その窓に近付こうとしたが、対面に座っている相手の姿を見て、思わず退いた。

 

(夾竹桃・・・!?)

 

何故、こいつがいる。何故、あかりと一緒にいる。

 

幸いどちらにも気付かれた様子はない。

 

透はすぐにその場から離れ、反対側にある建物を陰にして身を潜めるように二人の様子を伺う。

 

何の話をしているかは分からない。サイレント映画のように、視覚情報のみで話が進んでいく。

 

二人の間で何の因縁があるのか、あかりの表情は終始、怒り一色である。

 

会話の最中で、堪忍袋の緒でも切れたのだろうか、あかりが突然、マイクロUZIを抜いて立ち上がった。

 

しかし、その立った姿勢のまま、突如、あかりは苦しみ始める。

 

首辺りを手でどうにかしようともがいている。遠目ではっきりとは見えないが、ワイヤーかピアノ線で首を絞められているようだ。

 

(あかり・・・!)

 

すぐ助けに行かなくては。

 

足を一歩踏み出したが、次の一歩が踏み出せなかった。

 

今、助けに行けば、夾竹桃との関係があかりにバレてしまう事は間違いない。

 

既に縁は切れていたが、夾竹桃は元・()()であった。

 

少なからずあかりと夾竹桃は敵対関係にある。その夾竹桃と元とは言え友好関係にあったとなれば、どう思われるだろう。

 

(いや・・・)

 

今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

邪な考えを振り切り、駆け付けようするが、あかりがその場に座り込む姿が見え、足を止める。

 

何者かがあかりの窮地を救ってくれたようだ。

 

姿を見せたのは、高千穂麗。夾竹桃の前に立ちはだかり、何か宣言をしている。

 

2対1では不利と感じたのか、それとも邪魔者が入ったので興ざめでもしたのか、真偽は不明だが夾竹桃はソファーから立ち上がり、喫茶店から出て行った。

 

透はすぐにその後を追いかける。

 

店を出た夾竹桃は、すぐに近くの裏路地に入り、待ち伏せをしていた。

 

「久し振りね、平透(たいらとおる)

 

「・・・あかりと何を話していた」

 

「あら、()()()()()() 間宮あかりが殺されそうになっていたのに」

 

夾竹桃は無表情ながら、透を嘲笑うように少し口角を上げる。

 

「あなたには関係のない話よ」

 

そう言った一拍後に、

 

「・・・そうね、よく考えれば少しは関係のある話ね」

 

と惑わすように告げてきた。

 

「安心なさい。あなたの名前は口にしていないわ」

 

その口振りから察するに、透が懸念していた事に気付いていたようだ。

 

嘘をついている様子はない。透はその事に少し安堵するが、警戒は緩めない。

 

「・・・『彼女』の計画は順調そうね。神崎・H・アリアに傷を負わせた」

 

傘を肩で支えながら、夾竹桃は煙管(キセル)に火を入れる。

 

「でも、あなたの計画は全然ね。一人を助けられなかったのに、()()を救うなんて無理よ」

 

「・・・お前が、俺の乗っていたバスをジャックして邪魔してきたのか!」

 

「他人の件に手出しするほど、暇でもお人好しでもないわ」

 

煙管を咥えて、フーッ、と煙を吹いた。

 

「いずれにしても、本気で神崎・H・アリアを守るつもりがあったのなら、24時間一緒にいるべきだったのよ。あなたはそれを怠った。そんな事で計画とやらを遂行できるのかしら?」

 

「・・・っ!」

 

「諺にもあるでしょ?『二兎追うものは一兎をも得ず』。結局、あなたは、どちらかを見捨てるしかないのよ」

 

突き付けられる酷な選択。究極の二択。それは、計画を立てる前からあった。

 

その時、透はどちらも選べなかった。選びたくなかった。だから────

 

 

「『灰色の武偵』───本当、あなたにぴったりね。武偵にもなりきれない。無法者にもなりきれない半端者。さっきもそうよ。高千穂だったかしら? 彼女が来てなければ、間宮あかりは死んでいた」

 

 

───透は『灰色の武偵』になった。

 

武偵を色で表すなら『白』。それに敵対する者なら『黒』。どちらにも属する武偵。

 

否、そんなものは体のいい建前だ。

 

「私との関係がバレるのを恐れて出てこられなかったんでしょ? あなたのその中途半端な考えは人一人殺すのに十分な時間を与えてしまうのよ」

 

『白』にも『黒』にもなりきれない色───それが『灰色』。

 

「・・・元・同期からの忠告よ。『彼女』の次の事件までに『白』か『黒』どちらかを選びなさい。それが、あなたにできる最善策よ」

 

それから、と話を続ける。

 

「その前に、()()()()を用意してあげる」

 

そう言い捨てて、夾竹桃はその場から去っていく。

 

激しくなる雨の中、取り残された透は、建物に寄りかかり座り込んだ。

 

夾竹桃が言っていた事はどれもきっと正しい。だから何も反論できずにいた。

 

「はは・・・」

 

アリアを守れずに、あかりを見殺しにしかけた。

 

自身の中途半端さが招いた事態に自嘲する。

 

(選ぶしか・・・ないのか・・・?)

 

過去に選ぶ事ができなかった選択が再び突き付けられる。

 

『白』になる。『黒』になる。『灰色』のままでいる。練習問題とは何だ。もっと別の手段はないか。

 

透は様々な考えを無理矢理、浮かばせ、苦悩し、葛藤するのだった。

 






夾竹桃、結構好きなんですよね・・・。

この作品においては、ヒロイン候補ではないのですが、透とはただならない関係性を持っています。
今後、それを深く掘りこんでいきたいですが、まだまだ先になると思いますので、頭の片隅程度に覚えておいてください。

次回更新も未定ですが、GW期間中にもう1話くらいはあげられるようにはする予定です。
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