緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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ここ最近、調子良く投稿できてるような気がします。
まあ、質が落ちてたら意味がないので、質を落とさぬようこのペースで投稿していきたいですね(今でも質が良いわけではないのですが)

第20弾です。


第20弾~コードネーム『AA』~

その日の夕方、透は武偵病院に戻ってきていた。

 

あれから、あの場で透は散々悩み続けたが、何も解決案は浮かんでこなかった。

 

考えることを止め、しばらく放心状態になっていると、ふとアリアの事を思い出し、携帯を取り出す。

 

キンジやライカから、アリアが入院したとのメールが入っていた。

 

ライカのメールの中には、『すみません。あかりとは連絡取れなかったです』という一文があったので、喫茶店まで引き返し外から中の様子を見るが、既にいなかった。

 

多分、あかりも病院に行ったのだろう。そんな短絡的な思考が頭に浮かぶ。

 

武偵病院に戻る事にしたのだが、さすがに制服や身体の濡れや汚れが酷く、不衛生である。

 

なので、強襲科(アサルト)のシャワールームで身体を洗ってから、貸出の制服を借りて、現在に至る。

 

(・・・()()()・・・)

 

いつもの()()()()()()()。頭を切り替え、病院の中へと入っていく。

 

看護師に自分の名前とアリアの名前を伝えると、VIP用の個室に案内された。

 

「・・・アリア」

 

看護師が去るのを見送ってから、ドアをノックする。

 

「・・・いいわよ」

 

少ししてから返事が返ってきたので、中に入ると頭に包帯を巻いたアリアがベッドに座っていた。

 

「あんたは無事だったのね。良かったわ」

 

アリアにしては珍しく、柔和な顔をしていた。

 

「アリアも思ったより元気そうだな。入院って聞いたから、もっと重症かと思ってた」

 

「こんなかすり傷くらいで入院なんて、医者は大げさだわ」

 

アリアは頭に巻かれた包帯を指差しながら言った。

 

「キンジ・・・はどうした。一緒じゃないのか?」

 

広々としたVIPルームには、透とアリアの二人しかいなかった。

 

入院したとメールを送ってきたので、キンジもてっきり一緒にいると思っていた。

 

「・・・知らない」

 

ピリッと空気が変わる。

 

「知らない訳ないだろ。あいつは今どこにいるんだ」

 

「あんなバカはもうどうでもいいわ。あたしには透がいる。それでいいの」

 

そのセリフで透は理解してしまった。

 

もう一つのバスジャックで、キンジはミスをやらかしたか、実力を発揮出来なかったかは分からないが、アリアに見限られてしまったらしい。

 

計画とは真逆の方向に進んでしまった。

 

本当なら、アリアには、透よりキンジの方が優秀というのを理解させ、真のパートナーとしてキンジを選んでもらう予定だった。

 

しかし、今回の件で透の評価がより上がってしまったらしい。

 

「応援もなしでよく事件を解決してくれたわ。さすがはあたしのパートナーね」

 

アリアの中では、透が自分のパートナーとしてふさわしいという結論に至ってしまったようだ。

 

『次の事件までに『白』か『黒』どちらかを選びなさい』

 

夾竹桃に言われた事を思い出す。

 

「・・・アリ───」

 

「アリア」と言おうとしたその時、

 

「───眼科の医師を呼んでこい!」

 

「空きベッド準備しておいて!」

 

廊下の方からバタバタと走るような足音や大きな指示の声が聞こえてきた。

 

「騒がしいわね」

 

「少し様子を見てくる」

 

透はそう言い、逃げ出すようにして病室を出た。

 

(・・・危なかった・・・)

 

問題を先送りにしただけなので、何も解決したわけではないのだが、余計な事を言わずに済んで胸を撫で下ろす。

 

適当に時間を潰してから病室に戻ろう。そう考え、ロビーへと向かう。

 

ロビーまで足を運ぶと、病院のスタッフや武偵高の生徒たちが集まっており、只事ではない様子であった。

 

廊下での騒ぎは恐らく、ここでの出来事によるものだったのだろう。

 

遠くから様子を見守っているとスタッフが持ってきた担架には、武偵高の制服ではない少女が乗せられた。

 

(武偵高以外の生徒か)

 

珍しいな、と思いながら騒ぎが治まるのを待っていると、担架が透の前を通り過ぎていく。

 

「え・・・?」

 

その担架に乗せられた人物に透は愕然(がくぜん)とした。

 

何か声をかける訳でも、何か行動する訳でもなく、ただ見送る事しか出来なかった。

 

しばらくしてから、

 

「ののか・・・?」

 

運ばれた少女の名前が口から(こぼ)れた。

 

 

 

 

 

数時間後、窓の外がすっかり暗くなった頃。

 

武偵病院の個室病室のベッドの上で、ののかは上体を起こして、座っていた。

 

その両目には痛々しく、幾重にも包帯が巻かれていた。

 

「・・・ののか・・・ぐすっ・・・えぐっ・・・」

 

あかりは、ののかの毛布に顔を(うず)めて、泣きながら心配していた。

 

「大丈夫だよお姉ちゃん。きっとすぐ治るから」

 

ののかは姉の手に触れながら、口元に健気な笑顔を浮かべる。

 

「・・・ののか、すまない。俺がもっと早く気付いてたら・・・」

 

ののかの不調の事は知っていたのに。相談もされてたのに。助ける事が出来なかった。

 

己の無力さに、謝ることしかできない自分に、憤慨に近い感情を感じる。

 

「謝らないで。お兄ちゃんは何も悪くないんだから。自分を責めないで」

 

自分達が励まさないといけない側なのにそれができず、むしろ励まされてしまっている。

 

「二人ともだらしないぞ。目が見えなくても、耳は聞こえるし、喋れるんだから」

 

ののかは、健気に口元を微笑ませて言うが・・・

 

包帯の下からは、抑えきれない涙がこぼれ落ちている。

 

そんなののかの気丈な言葉を、

 

「───否。視覚の次は聴覚。次いで味覚。8日もすれば、命を落とされる」

 

唐突に、否定する声があった。

 

振り向くと、病室の壁際にはカルテのコピーを読む風魔陽菜がいつの間にかいた。

 

それに続くように、

 

「あかりさん! ののかさん!」

 

「あかり!」

 

「間宮様!」

 

志乃、ライカ、麒麟が病室に入ってくる。

 

 

「ののか殿の症状の原因は、打たれて2年の後に五感と命を奪う『符丁毒(ふちょうどく)』。その分子構造は暗号状になっており、作った本人にしか解毒出来申さぬ」

 

「どうしてそんな事を知っている」

 

「それは元々、風魔の術に御座ったゆえ」

 

透が風魔に尋ねると、風魔は悔しそうに目を閉じ、絞り出すように、そう言った。

 

「それがどうして、ののかさんに・・・?」

 

ライカの腕を掴む麒麟が、恐る恐るそれを訊ねる。

 

「・・・一党の不覚をお詫び致す。数年前、幼子に別の毒を打たれ、解毒して欲しくばと、製法を強請(ゆす)り取られたので御座る」

 

眉を寄せながら、自分達一族の敗北と情報流出の失態を語った。

 

「毒を以て毒を奪うこの手口。()()()に御座るな?」

 

風魔が最終確認するように、あかりに訊ねた。

 

「・・・っ・・・!」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

その名前が出てしまった事に、あかりとののかは明らかに動揺した様子を見せる。

 

あかりはうつむき、歯を食いしばり、そのまま病室から出ていこうとする。

 

「あかりさん!」

 

「あかり!」

 

志乃やライカが制止の声をかける。

 

「ついてこないで!」

 

大きな声で遮りながら、あかりは病室の扉を掴んだ。

 

「あたしが犠牲になれば・・・いいの!」

 

涙声で言い捨てて、力任せに扉を開く。

 

「自己犠牲が『美談』になるのは、お伽話の中だけよ」

 

「・・・!」

 

開いた、その先にはアリアが立っていた。

 

「自己犠牲は、現実では『逃げ』の手段よ。そして逃げれば逃げるほど、事態は深刻化する」

 

「・・・アリア先輩・・・」

 

誰に止められても止まらなかった、あかりはアリアのお説教を聞いてようやくその場に留まった。

 

「もー、高千穂がヘンなメールよこすから、心配になって捜してみれば・・・」

 

やれやれ、といった様子で、アリアはあかりを押し込むようにして病室に入ってくる。

 

「あんたも、ずっと戻って来ないと思ったらそういうことだったのね」

 

「・・・ああ、すまない」

 

透もアリアの病室から出て行ったっきりだったので、心配してくれてたのだろう。

 

「敵に接触(コンタクト)されたのね?」

 

口を閉ざすあかりに対して、アリアはいきなり核心に触れてきた。

 

「あたし、カンは鋭い方なの。あんたが隠してるのは、その敵───夾竹桃の事だけじゃない。自分自身の事も、隠してる」

 

あかりを問い詰めるアリアの姿を見て、透はこの前の相談された時の事を思い出す。

 

ここ数日を見る限り、あかりの過去には触れない選択を取ったと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 

(お前なりの答えを見つけたんだな・・・)

 

後は、あかりがどう応え、さらに、アリアがどのような対応を取るかだ。その行く末を透は見守る。

 

「あんたは本当の自分をずっと隠して、力を抑えてきた。だから武偵ランクも低いまま。違う?」

 

「・・・・・・」

 

「何もかも隠したまま、何もかも解決できるの?」

 

黙り込み、うつむいたままのあかり。その背中にののかや志乃、ライカや麒麟の心配そうな視線が集まった。

 

「・・・ごめんねみんな。今まで、隠してて・・・」

 

ゆっくりと、あかりが口を開く。

 

「・・・話します。あたし、アリア先輩の前で・・・嘘、つけませんから・・・」

 

涙をこぼし、空虚で、どこか壊れたような笑顔を浮かべながら───

 

「あたしは元々、この学校に入っちゃいけなかった生徒なんです」

 

あかりは、ずっと皆に隠してきた自分の『正体』を明かすのだった。

 

 

 

 

 

「あたしの家は昔、公儀隠密(こうぎおんみつ)───今でいう政府の情報員みたいな仕事をしてました。でもそれは生死を賭けた戦いが続く、危険な仕事だったそうです・・・。そこで培われた戦技は子孫に伝えられてきました」

 

明かされる間宮家の秘密。透やののかはやや不安そうに、秘密を知らないアリアたちは、固唾を()んで見守る。

 

「間宮の術は全てが必殺の術。今は戦国時代じゃないので、実践に使う機会はないですが、もし、そういう時代が来たら、人々を守るために戦う。その理念のもと、お母さんから技を教わりました」

 

真剣に話を聞く、透やアリアたちの視線から目を逸らし、あかりは沈む声で過去を語り続けた。

 

「でも、2年前・・・その先祖代々の技を目当てに、間宮一族は襲撃を受けたんです」

 

それは透も知らなかった話。驚愕の声が出そうになるも、それを抑える。抑えて、あかりの話を聞いていた。

 

「・・・一族はバラバラになりました。一緒にいるとまた襲われるかもしれないから。あたしたちが襲われたのは・・・ののかがこんな目に遭わされてるのは、間宮の術なんかがあったからなんです・・・!」

 

両目いっぱいにためた涙を震わせて、あかりの声が次第に感情的になっていく。

 

「あかり。じゃあ、お母様の理念についてはどう思うの。『人々を守るために戦う』───」

 

少し落ち着かせるように、アリアが語りかける。

 

「それは・・・守りたいです・・・。でも、間宮の技は人を殺める技なんです。だから、あたしは武偵高で・・・」

 

「・・・技術を矯正しようとしてたのね。武偵法では殺人が禁じられてるから」

 

あかりの言葉にアリアがそう続けて、それにあかりは、小さく頷いた。

 

だから、あかりは憧れていた。

 

武偵法を守り抜いている、アリアに。

 

武偵高に来た事情こそ知らなかったが、間宮の技を使わない事とアリアへの異常なまでの憧れから、透はその事に気が付いていた。

 

「それで、『鳶穿(とびうがち)』も奪取の法に改変したと」

 

「うん・・・でも・・・何年もかかって、作り直せたのはそれだけ・・・体に染み付いた癖は、なかなか取れないんだ」

 

風魔の問いに、あかりは自嘲気味に答え、イスから立ち上がる。

 

病室の出口へ向かい、制服の腕を押さえるようにして立ち止まると、

 

「みんな、お別れだね」

 

左袖の武偵高の校章をビリッと剥がした。

 

校章を剥がす───その行為は、武偵を辞める、という事を意味する。

 

「あたし・・・やっぱり行くよ。夾竹桃のものになって、ののかを助ける」

 

後ろを振り返らないが、その言葉からは覚悟が感じられた。

 

「透くん、ののかのことお願い」

 

「あかり・・・」

 

「お姉ちゃん・・・!」

 

覚悟を決めたあかりに、透はそれ以上何も言えなかった。

 

同じ立場なら、自分もそうしていたと思うから。

 

戦姉妹(アミカ)契約解消します。あたしはアリア先輩みたいには・・・なれなかった」

 

そう言って、病室のドアノブに手をかける。

 

「───皮肉なものね。戦姉妹試験の時はあんたがあたしを追い、今はあたしがあんたを追う」

 

アリアの言葉にあかりの足が止まる。

 

未練が、あるのだろう。

 

捨てきれない思いが、あるのだろう。

 

「規則上、戦姉妹の途中解散には双方の合意が必要よ。あたしは合意しない」

 

「・・・!」

 

「あたしの戦妹(アミカ)なら戦いなさい。敵と───そして、自分と。武偵として、敵を逮捕するのよ!」

 

「・・・でも・・・敵は・・・夾竹桃は、強いんです・・・アリア先輩を傷付けた敵と、同じくらい・・・!」

 

うつむいたあかりの目から、足元に涙が落ちる。

 

「あたし、間宮の技もほとんど失ってるんです・・・昔のものは封じて、新しいものは身に付かなくて・・・・・・今のあたしは、何も持ってないんです・・・!」

 

その、あかりから溢れ出る感情を、

 

「違うわ」

 

アリアが即座に否定した。

 

「見落としてるわよ、あかり。あんたが持ってる、大事なものを」

 

「・・・何を、ですか・・・?」

 

「振り返れば、そこにあるわ」

 

促されたあかりが振り返ると、

 

「家が何だ、技が何だ! あかりはあかりだろッ!」

 

「微力ですが、お力添えしますの!」

 

「あかりさんが死ぬなら私も一緒に死にます!」

 

「某も助太刀致す。風魔の秘伝『符丁毒』の悪用、許すまじ」

 

ライカが、麒麟が、志乃が、風魔が、あかりと共に戦うと言った。

 

「みんな・・・助けて、くれるの・・・?」

 

そんな、あかりの問いかけに、

 

「1年暗誦(あんしょう)! 武偵憲章1条!」

 

アリアが鋭く、この場の後輩たちに号令した。

 

「───仲間を信じ、仲間を助けよ!」

 

「・・・みんな・・・」

 

「あかり」

 

アリアはあかりに近付き、一度捨てた武偵高の校章を拾い、制服の袖に付け直していた。

 

「あんたに初めて、作戦命令を下すわ」

 

「───!!」

 

「あたしはあたしの敵に、この傷の借りを返す。あんたはあんたの敵を逮捕しなさい」

 

額に巻かれた包帯を指差しながら、アリアは言った。

 

「作戦のコードネームは───『AA(ダブルエー)』。アリアとあかりのAよ。同時に、2人の犯罪者を逮捕するの」

 

その言葉を聞いたあかりは、身体を震わせ、目に涙を浮かべていた。

 

しかし、その涙は先まで流していた悲痛なものではなく、嬉し涙。

 

「返事ィ!」

 

「はいっ!」

 

アリアの喝に、あかりは大きな声で返事をした。

 

「あんたはあの娘たちに付いてってあげなさい」

 

志乃、ライカ、麒麟、風魔に囲まれ、より一層泣いてしまっているあかりを見て、アリアは透に近付きそう言ってきた。

 

「・・・俺は───」

 

これが、きっと夾竹桃の言っていた()()()()

 

『アリア』を取るのか、『ののか』を取るのか。

 

ののかは家族に近しい存在。妹のような存在。当然、助けられるのなら、自分の手で助けたい。

 

「俺は・・・アリアに付いていく」

 

だが、アリアには今、自分しかいない。アリアを守れる存在は自分しかいないのだ。

 

既に一度守れなかった自分が本当に守れるのかは分からないが、何もしないまま見捨てる事はできない。

 

「そ、そう?」

 

アリアはちょっと驚きつつ、嬉しそうな反応を見せる。

 

「火野、佐々木、麒麟、風魔」

 

1年生に近付いていった透は、

 

「あかりのことをよろしく頼む」

 

自分がこちらの作戦に参加できない事を悔やみ、申し訳なくも思い、頭を下げる。

 

「はいっ!」

 

「あかりさんの為なら、命だって賭けられます!」

 

「言われなくても、ですわ!」

 

「平川殿のお頼み、必ずや遂行致す」

 

ライカはライカらしく真面目に返してくれ、志乃は先ほど同様少し解釈に困る返答を、麒麟は透相手の為か素直じゃない言葉を、風魔は以前の諭吉の恩義に報いたいのか、語気を強めて返答してくれた。

 

それぞれ言葉は違ったが、みんなの思いは一つのようだ。

 

「あかり」

 

そして、今度はあかりに近付き、

 

「酷な事を言うが聞いてくれ。期限は最長で8()()ある。だから、入念に準備をしろ。急ぐ事は大事だが焦るな。ののかを助ける為に、万全な状態で臨んでくれ」

 

最低な事を言った。でも、あかりは透の本心を分かってくれているようで、

 

「・・・うん。透くんもアリア先輩の事を支えてあげて」

 

と言ってくれた。

 

 

振り返ると、一人暗闇の中に取り残されたののかが不安そうに身体を震わせてる姿が目に映った。

 

 

 

 

 

アリアは自分の病室へと戻り、あかりたちは夾竹桃との戦いの準備の為、ののかの病室を出た後、透は一人、病室に残っていた。

 

少しでも見えない事の恐怖を和らげてあげたい、その気持ちからののかの(そば)に居続けていた。

 

そんなののかも透が側に居ることに安心したのか、深夜を回る頃、ようやく眠りについてくれた。

 

「俺は最低だな・・・」

 

透は目に巻かれた包帯をなぞるように触れ、先刻あかりに言った言葉を思い出す。

 

『期限は最長で8日ある』

 

8日───『符丁毒』がののかを殺すまでの日数。これからまだ未来があるはずの14歳の少女からしたら、どれ程短いものか。

 

それもただの8日間ではない。視覚を奪われて、翌日には聴覚を失い、日に日に自分が自分じゃなくなっていく恐怖があるはずだ。

 

残酷な言葉を少女の前で言ってしまった。

 

「ごめん・・・ののか・・・」

 

ののかの頭に手を置き、そっと撫でる。

 

「・・・お兄ちゃんは最低じゃないよ」

 

突然の返答に透は驚き、慌ててののかの頭から手を離した。

 

「お姉ちゃんと私の事を考えて、言ってくれた事だってちゃんと分かってるよ」

 

「・・・起きてたのか・・・」

 

寝息を立てていたので、眠っているものだと思っていたが、狸寝入りだったようだ。

 

「私が寝ないと、お兄ちゃんも休めないと思って」

 

「気にするな。どうせ明日・・・というか、今日は時間が空いてるんだ。ののかが飽きるまで付き添うよ」

 

そう言って、透は布団の上に出ていたののかの手を優しく握った。

 

「こうやって、お兄ちゃんがずっと側にいてくれるなら、目が見えなくなっちゃった事も悪くないかな・・・」

 

ののかが手をぎゅっと握り返してくる。少し力が入り小刻みに震えている。

 

「バカな事を言うなよ。もっと楽しい事を考えよう」

 

「例えば?」

 

「例えば・・・退院したら何がしたい、とか。・・・そうだな。退院祝い、何が良いか考えてくれ」

 

「急にそんな事言われても・・・んー・・・お姉ちゃんとお兄ちゃん、できたら美沙お姉ちゃんと、みんなでご飯が食べたいかな」

 

「そんな事で良いのか?」

 

「うん。今はその普通の幸せが一番欲しい」

 

ののかは、楽しみにするような悲しみのような、複雑な表情を見せる。

 

「・・・お兄ちゃん、耳が聞こえなくなっちゃう前に言っておくね」

 

『視覚の次は聴覚』。風魔に言われたことを受け入れ、覚悟を決めるしかないののかに対して、罪責感を感じる。

 

「無事に帰ってきてね」

 

ののかは口元を微笑ませて、右手の小指を差し出してきた。

 

「・・・ああ。約束する」

 

7年前、二人の絆を結んだ指切りを思い出しながら、透は自分の右手の小指をののかの小指に絡ませた。

 




今回はいつもの文量よりかは、多めになっちゃいましたね。
最後まで丁寧に読んで下さった方、ありがとうございます。


次回更新も安心安定の未定です。
お待ちくださいませ。

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