緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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なんだかんだもう少しで5月も下旬ですね。
今月で1章終わらせたいとかほざきましたが、このペースではやっぱり厳しそうです…

地道にマイペースに進めさせていただきます。
読んでくださっている皆様、引き続きどうぞよろしくお願いします。




第21弾~面会~

バスジャックから2日後、検査入院していたアリアが退院した。

 

透は朝から、アリア退院の準備・手続きを手伝い、昼からは付いてきて欲しい場所があると言われ、今は美容院の前で待っていた。

 

「───ぉる・・・透!」

 

透は、その特徴的なアニメ声に名前を呼ばれ、目を覚ます。

 

「・・・悪い」

 

壁に寄りかかったまま、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 

「武偵は常在戦場。しっかりしなさい!」

 

そう説教してくるアリアは、いつもの制服ではなく、白地に薄いピンクの柄が入った清楚なワンピースを着ている。

 

美容室へは、バスジャックの時、負ってしまった額の傷跡を隠す為に、前髪を作りに寄っていた。

 

「・・・と言いたいところだけど、今回は大目に見てあげる。あんたずっとあの()に付きっきりで、寝てないんでしょ?」

 

アリアの指摘通り、透はこの2日間、睡眠を取っていなかった。風呂や着替えに自室へ戻ったりはしたが、それ以外はののかの病室で過ごしていた。

 

「このくらい、ののかの苦しみに比べたら大した事ない」

 

「あんたのその他人を思いやる気持ちは尊重するけど、自己管理もちゃんとしなさい。あんたに倒れられたら、あたしも困るのよ」

 

そのセリフから、パートナーとして、信頼してくれている事がよく分かるのだが、その信頼に対して透は罪悪感を感じる。

 

「・・・今後は気を付ける」

 

「分かれば良いのよ」

 

そう言って、アリアが歩き出したので、透は隣に並び付いていく。

 

モノレールに乗り、新橋、JR神田と経由して、降りた場所は新宿だった。

 

「どこへ行くんだ」

 

「・・・着けば分かるわ」

 

西口からビル街の方へ歩いて行くのだが、目的地に近付くにつれて、アリアの表情が重くなっていく。

 

そして、アリアが足を止めた場所。それは───

 

(そうか・・・()()しに来たのか)

 

───『新宿警察署』であった。

 

「・・・()()な尾行。シッポがにょろにょろ見えてるわよ」

 

いきなりアリアがそんな事を言い出したので、透の頭の中に疑問符が浮かぶ。

 

「あ・・・その。お前、昔言ったろ。『質問せず、武偵なら自分で調べなさい』って」

 

そう言いながら、電柱の陰から出てきたのはキンジであった。

 

睡眠不足のせいで、注意力が散漫になっていたか、透は全く気付いていなかった。

 

「ていうか、気付いてたんならなんでそう言わなかったんだよ」

 

「迷ってたのよ。教えるべきかどうか。あんたも『武偵殺し』の被害者の一人だから」

 

「?」

 

「まぁ、もう着いちゃったし。どうせ追い払ってもついてくるんでしょ」

 

と言って、アリアが署内の中へ入っていくので、透とキンジはその後ろをついていくのだった。

 

 

 

 

留置人面会室で2人の管理官に見張られながらアクリルの板越しに出てきたのは───

 

(この人が、()()かなえさん・・・)

 

柔らかな曲線を描く長い髪。オニキスのような瞳。アリアと同じ白磁のような肌。

 

───アリアの母親であった。

 

「まぁ・・・アリア。こちらの(かた)、彼氏さん?」

 

透とキンジ二人の顔を交互に見たかなえは、透に手のひらを向け、アリアに訊ねる。

 

「ちっ、違うわよママ」

 

「ごめんなさい。こちらの方が彼氏さん?」

 

「もっと違うわよっ」

 

今度は、キンジに手のひらを向けたかなえだが、当然アリアに否定される。

 

「『もっと』ってなんだよ・・・」とキンジがボソッと呟くのが聞こえる。

 

「じゃあ、大切なお友達さんかしら? へぇー。アリアもボーイフレンドを作るお年頃になったのねぇ。お友達を作るのさえヘタだったアリアが、ねえ。ふふ。うふふ・・・」

 

「違うの。こっちは平川透。あたしの『パートナー』よ。こっちのバカ面は遠山キンジ。2人共、武偵高の生徒。()()()()()じゃないわ、絶対に」

 

「・・・透さん、キンジさん、初めまして。わたし、アリアの母で───神崎かなえと申します。娘がお世話になってるみたいですね」

 

「いえ、こちらこそ」

 

「あ、いえ・・・」

 

例文のような挨拶に、透は淡白に応対したのだが、キンジは何故かドギマギとしていた。

 

「ママ。面会時間が3分しかないから、手短に話すけど・・・このバカ面は『武偵殺し』の3人目の被害者なのよ。先週、武偵高で自転車に爆弾を仕掛けられたの」

 

「・・・まぁ・・・」

 

かなえは表情を固くする。

 

「さらにもう一件、一昨日はバスジャック事件が起きてる。ヤツの活動は、急激に活発になってきてるのよ。てことは、もうすぐシッポも出すハズだわ。だからあたし、狙い通りまずは『武偵殺し』を捕まえる。ヤツの件だけでも無実を証明すれば、ママの懲役864年が一気に742年まで減刑されるわ。最高裁までの間に、他も絶対、全部なんとかするから」

 

───アリアの言葉が、透の胸に重くのしかかる。

 

「そして、ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を、全員ここにぶち込んでやるわ」

 

「アリア。気持ちは嬉しいけど、イ・ウーに挑むのはまだ早いわ───透さん。アリアのパートナーになって頂いてありがとうございます。ご迷惑をおかけすると思いますが、アリアの事、よろしくお願いします」

 

「・・・善処します」

 

ハッキリ「はい」と言えなかった事に、透はアリアとかなえに対して、バツが悪い思いになる。

 

「神崎。時間だ」

 

ここで、壁際に立っていた管理官が、壁の時計を見ながら告げる。

 

「ママ、待ってて。必ず公判までに真犯人を全部捕まえるから」

 

「焦ってわダメよアリア。わたしはあなたが心配なの」

 

「やだやだやだ!」

 

「アリア・・・!」

 

「時間だ!」

 

興奮するアリアを(なだ)めようとアクリル板に身を乗り出したかなえを、管理官が羽交い締めにするような形で引っ張り戻した。

 

あっ、とかなえが小さく喘ぐ。

 

「やめろッ! ママに乱暴するな!」

 

アリアは小さな猛獣のように犬歯をむき、アクリル板に飛びかかった。

 

だが、板は透明でも厚く固い。少しも歪まず、アリアを受け付けない。

 

かなえはアリアを心配そうな目で見ながら、2人がかりで引きずられるようにして運ばれていった。

 

 

 

 

 

「訴えてやる。あんな扱い、していいワケがない。絶対・・・訴えてやるッ」

 

かつん、かつん、とミュールを鳴らしてアルタ前まで戻ってきたアリアは、急に立ち止まった。

 

背後から見れば、アリアは顔を伏せ、肩を怒らせ、ぴんと伸ばした手を震えるほどきつく握りしめていた。

 

ぽた・・・ぽた。その足元に、何粒かの水滴が落ちてはじけている。

 

それは・・・聞くまでもない、アリアの涙。

 

「アリア・・・」

 

「泣いてなんかない」

 

怒ったように言うアリアは、顔を伏せたまま震えていた。

 

「・・・・・・」

 

透は着ていた制服の学ランを脱ぎ、アリアの頭の上から被せた。

 

「無理しなくていい。誰も見ていない。だから、泣いても・・・いい」

 

「・・・わぁ・・・うぁあああぁぁあああぁぁ!」

 

透のその言葉に、アリアは糸が切れたかのように、泣き始める。

 

「うあぁああああああ・・・ママぁー・・・ママぁあああぁぁ・・・!」

 

追い討ちをかけるように、通り雨が降り始めた。

 

人々が、車が、透たちの横を通り過ぎていく。

 

「・・・キンジ。お前は無理してここにいる必要はない」

 

アリアをそっと自分の方に寄せた透は、いたたまれないような表情のキンジに声をかける。

 

「・・・その、すまん・・・」

 

それは、何も出来なかった事の謝罪なのだろうか。キンジはそれ以上、何も言うことなく、その場から去っていった。

 

「・・・こっちこそ、()()の都合に巻き込んで悪かった」

 

離れていく背中に謝ったが、きっと伝わっていないだろう。

 

キンジはそのまま人混みに紛れていった。

 

 

 

「・・・もう大丈夫だから」

 

数分後、泣き止んだアリアは学ランを透に返した。

 

まだ少し目には潤いが残っているが、その顔はいつもの毅然とした武偵の神崎・H・アリアだった。

 

「透、あたし明日から一度ロンドンに帰って、態勢を立て直すつもりなの・・・その・・・一緒に来てくれる?」

 

ののかの事を気にしてくれているのだろう。

 

アリアは少し遠慮がちに、透に訊ねてくる。

 

「病院でも言ったはずだ。俺はアリアについていくって」

 

「・・・うん。ありがと」

 

ボソッと小さな声でアリアは呟いた。

 

「2回目だな」

 

「え?」

 

「1回目は強襲科(アサルト)の自由履修を取った時。2回目が今」

 

「あ、あんた、聞こえてたの!?」

 

透に聞こえてると知り、さらに以前、感謝した時の事も思い出して、恥ずかしくなったのだろうか。アリアの顔が赤く染まっていく。

 

「聞こえなかったことにしておくか」

 

「・・・?」

 

「全てが上手く行った時、今度は聞こえる声で言ってくれ───かなえさんを助けよう」

 

本当に感謝するのは、それらが片付いてからだ。その透の意志を感じ取ったのか。

 

「当然よ」

 

アリアは、同じく意志のこもった顔で透の事を見上げる。

 

「そうと決まれば、早く帰りましょ。特にあんたは帰ってさっさと休みなさい」

 

「そうだな」

 

いつの間にか雨が止んでいた。雲の隙間からは太陽が射し込んでおり、明るく照らされた道を2人は歩き、帰路に就くのだった。

 

 





久しぶりにキンジが登場しましたね。
そして、次回からいよいよハイジャックです。

早めに更新出来るように頑張ります。
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