今月で1章終わらせたいとかほざきましたが、このペースではやっぱり厳しそうです…
地道にマイペースに進めさせていただきます。
読んでくださっている皆様、引き続きどうぞよろしくお願いします。
バスジャックから2日後、検査入院していたアリアが退院した。
透は朝から、アリア退院の準備・手続きを手伝い、昼からは付いてきて欲しい場所があると言われ、今は美容院の前で待っていた。
「───ぉる・・・透!」
透は、その特徴的なアニメ声に名前を呼ばれ、目を覚ます。
「・・・悪い」
壁に寄りかかったまま、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「武偵は常在戦場。しっかりしなさい!」
そう説教してくるアリアは、いつもの制服ではなく、白地に薄いピンクの柄が入った清楚なワンピースを着ている。
美容室へは、バスジャックの時、負ってしまった額の傷跡を隠す為に、前髪を作りに寄っていた。
「・・・と言いたいところだけど、今回は大目に見てあげる。あんたずっとあの
アリアの指摘通り、透はこの2日間、睡眠を取っていなかった。風呂や着替えに自室へ戻ったりはしたが、それ以外はののかの病室で過ごしていた。
「このくらい、ののかの苦しみに比べたら大した事ない」
「あんたのその他人を思いやる気持ちは尊重するけど、自己管理もちゃんとしなさい。あんたに倒れられたら、あたしも困るのよ」
そのセリフから、パートナーとして、信頼してくれている事がよく分かるのだが、その信頼に対して透は罪悪感を感じる。
「・・・今後は気を付ける」
「分かれば良いのよ」
そう言って、アリアが歩き出したので、透は隣に並び付いていく。
モノレールに乗り、新橋、JR神田と経由して、降りた場所は新宿だった。
「どこへ行くんだ」
「・・・着けば分かるわ」
西口からビル街の方へ歩いて行くのだが、目的地に近付くにつれて、アリアの表情が重くなっていく。
そして、アリアが足を止めた場所。それは───
(そうか・・・
───『新宿警察署』であった。
「・・・
いきなりアリアがそんな事を言い出したので、透の頭の中に疑問符が浮かぶ。
「あ・・・その。お前、昔言ったろ。『質問せず、武偵なら自分で調べなさい』って」
そう言いながら、電柱の陰から出てきたのはキンジであった。
睡眠不足のせいで、注意力が散漫になっていたか、透は全く気付いていなかった。
「ていうか、気付いてたんならなんでそう言わなかったんだよ」
「迷ってたのよ。教えるべきかどうか。あんたも『武偵殺し』の被害者の一人だから」
「?」
「まぁ、もう着いちゃったし。どうせ追い払ってもついてくるんでしょ」
と言って、アリアが署内の中へ入っていくので、透とキンジはその後ろをついていくのだった。
留置人面会室で2人の管理官に見張られながらアクリルの板越しに出てきたのは───
(この人が、
柔らかな曲線を描く長い髪。オニキスのような瞳。アリアと同じ白磁のような肌。
───アリアの母親であった。
「まぁ・・・アリア。こちらの
透とキンジ二人の顔を交互に見たかなえは、透に手のひらを向け、アリアに訊ねる。
「ちっ、違うわよママ」
「ごめんなさい。こちらの方が彼氏さん?」
「もっと違うわよっ」
今度は、キンジに手のひらを向けたかなえだが、当然アリアに否定される。
「『もっと』ってなんだよ・・・」とキンジがボソッと呟くのが聞こえる。
「じゃあ、大切なお友達さんかしら? へぇー。アリアもボーイフレンドを作るお年頃になったのねぇ。お友達を作るのさえヘタだったアリアが、ねえ。ふふ。うふふ・・・」
「違うの。こっちは平川透。あたしの『パートナー』よ。こっちのバカ面は遠山キンジ。2人共、武偵高の生徒。
「・・・透さん、キンジさん、初めまして。わたし、アリアの母で───神崎かなえと申します。娘がお世話になってるみたいですね」
「いえ、こちらこそ」
「あ、いえ・・・」
例文のような挨拶に、透は淡白に応対したのだが、キンジは何故かドギマギとしていた。
「ママ。面会時間が3分しかないから、手短に話すけど・・・このバカ面は『武偵殺し』の3人目の被害者なのよ。先週、武偵高で自転車に爆弾を仕掛けられたの」
「・・・まぁ・・・」
かなえは表情を固くする。
「さらにもう一件、一昨日はバスジャック事件が起きてる。ヤツの活動は、急激に活発になってきてるのよ。てことは、もうすぐシッポも出すハズだわ。だからあたし、狙い通りまずは『武偵殺し』を捕まえる。ヤツの件だけでも無実を証明すれば、ママの懲役864年が一気に742年まで減刑されるわ。最高裁までの間に、他も絶対、全部なんとかするから」
───アリアの言葉が、透の胸に重くのしかかる。
「そして、ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中を、全員ここにぶち込んでやるわ」
「アリア。気持ちは嬉しいけど、イ・ウーに挑むのはまだ早いわ───透さん。アリアのパートナーになって頂いてありがとうございます。ご迷惑をおかけすると思いますが、アリアの事、よろしくお願いします」
「・・・善処します」
ハッキリ「はい」と言えなかった事に、透はアリアとかなえに対して、バツが悪い思いになる。
「神崎。時間だ」
ここで、壁際に立っていた管理官が、壁の時計を見ながら告げる。
「ママ、待ってて。必ず公判までに真犯人を全部捕まえるから」
「焦ってわダメよアリア。わたしはあなたが心配なの」
「やだやだやだ!」
「アリア・・・!」
「時間だ!」
興奮するアリアを
あっ、とかなえが小さく喘ぐ。
「やめろッ! ママに乱暴するな!」
アリアは小さな猛獣のように犬歯をむき、アクリル板に飛びかかった。
だが、板は透明でも厚く固い。少しも歪まず、アリアを受け付けない。
かなえはアリアを心配そうな目で見ながら、2人がかりで引きずられるようにして運ばれていった。
○
「訴えてやる。あんな扱い、していいワケがない。絶対・・・訴えてやるッ」
かつん、かつん、とミュールを鳴らしてアルタ前まで戻ってきたアリアは、急に立ち止まった。
背後から見れば、アリアは顔を伏せ、肩を怒らせ、ぴんと伸ばした手を震えるほどきつく握りしめていた。
ぽた・・・ぽた。その足元に、何粒かの水滴が落ちてはじけている。
それは・・・聞くまでもない、アリアの涙。
「アリア・・・」
「泣いてなんかない」
怒ったように言うアリアは、顔を伏せたまま震えていた。
「・・・・・・」
透は着ていた制服の学ランを脱ぎ、アリアの頭の上から被せた。
「無理しなくていい。誰も見ていない。だから、泣いても・・・いい」
「・・・わぁ・・・うぁあああぁぁあああぁぁ!」
透のその言葉に、アリアは糸が切れたかのように、泣き始める。
「うあぁああああああ・・・ママぁー・・・ママぁあああぁぁ・・・!」
追い討ちをかけるように、通り雨が降り始めた。
人々が、車が、透たちの横を通り過ぎていく。
「・・・キンジ。お前は無理してここにいる必要はない」
アリアをそっと自分の方に寄せた透は、いたたまれないような表情のキンジに声をかける。
「・・・その、すまん・・・」
それは、何も出来なかった事の謝罪なのだろうか。キンジはそれ以上、何も言うことなく、その場から去っていった。
「・・・こっちこそ、
離れていく背中に謝ったが、きっと伝わっていないだろう。
キンジはそのまま人混みに紛れていった。
「・・・もう大丈夫だから」
数分後、泣き止んだアリアは学ランを透に返した。
まだ少し目には潤いが残っているが、その顔はいつもの毅然とした武偵の神崎・H・アリアだった。
「透、あたし明日から一度ロンドンに帰って、態勢を立て直すつもりなの・・・その・・・一緒に来てくれる?」
ののかの事を気にしてくれているのだろう。
アリアは少し遠慮がちに、透に訊ねてくる。
「病院でも言ったはずだ。俺はアリアについていくって」
「・・・うん。ありがと」
ボソッと小さな声でアリアは呟いた。
「2回目だな」
「え?」
「1回目は
「あ、あんた、聞こえてたの!?」
透に聞こえてると知り、さらに以前、感謝した時の事も思い出して、恥ずかしくなったのだろうか。アリアの顔が赤く染まっていく。
「聞こえなかったことにしておくか」
「・・・?」
「全てが上手く行った時、今度は聞こえる声で言ってくれ───かなえさんを助けよう」
本当に感謝するのは、それらが片付いてからだ。その透の意志を感じ取ったのか。
「当然よ」
アリアは、同じく意志のこもった顔で透の事を見上げる。
「そうと決まれば、早く帰りましょ。特にあんたは帰ってさっさと休みなさい」
「そうだな」
いつの間にか雨が止んでいた。雲の隙間からは太陽が射し込んでおり、明るく照らされた道を2人は歩き、帰路に就くのだった。
久しぶりにキンジが登場しましたね。
そして、次回からいよいよハイジャックです。
早めに更新出来るように頑張ります。