緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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都合により、飛行機の着陸の過程はカットさせて頂きます。あらかじめご了承ください。


第26弾です。


第26弾~一夜明けて~

───早朝6時過ぎ。

 

台風一過の為か、空は雲一つもない晴天となっており、4月だと言うのに少し暑くなりそうな気温。

 

昨夜、ハイジャックがあったなんて、忘れてしまいそうな穏やかな天気の日。

 

平川透は『空き地島』まで足を運び、不時着したANA600便とその翼によってひんまがった風車を遠目に眺めていた。

 

その光景が、壮大な事件であった事を物語っている。

 

あの後、ANA600便は羽田空港へ着陸するはずだったのだが、防衛省の命令で使えなかったらしい。

 

しかし、キンジが機転を利かせて、この『空き地島』の対角線2061mと風車の柱に機翼をぶつける事で、なんとかこの場に不時着する事ができた。

 

これだけの事件だったのにも関わらず、死者が出なかったのは不幸中の幸いであろう。

 

アリアやキンジ、乗員・乗客たちは昨夜のうちに病院に搬送され、今頃はベッドの上で休んでいるはずだ。

 

無論、透も例外なく一度は病院に搬送されたのだが、奇跡的にどこもケガをしていなかった為、自室へ帰り、外が明るくなった今、改めて現場を見に来ていた。

 

飛行機の付近には、マスコミや野次馬が大勢いるので、離れた場所から見ているのだが。

 

今日は警察の事情聴取やらテレビの取材やらが待っている。憂鬱な気分になりながら『空き地島』を後にした。

 

 

 

次に、透は武偵病院を訪れた。

 

時間帯的に、面会できる時間ではないのだが、忍び込んでののかの病室に入っていった。

 

目に包帯を巻かれ、途中で耳が聞こえなくなり会話が困難となってしまった状態から会っていなかったのだが・・・

 

「───っ!」

 

病室のベッドで眠っているのであろうののかには点滴の管が繋がっていた。

 

恐らく、『味覚』と『嗅覚』も失い、まともに食事を受け付けられなくなってしまったのだろう。

 

まだ、夾竹桃とは戦っていないのだろうか。今からでも、あかりたちの作戦に加わろうか。

 

そんな事も考えたが、透にはまだやる事が残っている。

 

それに今から下手に作戦に加われば上手く連携が取れずに、足を引っ張ってしまう可能性だってある。

 

あかりたちを信用して送り出したのだ。信じて任せよう。

 

「・・・ののか、ちゃんと帰ってきたぞ」

 

でも、と言い、透は『鎌鼬』をベッドに立て掛けた。

 

「退院祝いはできないと思う。ごめん・・・」

 

眠っている事、聞こえない事を良いことに、口に出した。

 

誰か証人がいる訳でもないのに、ちゃんと伝えたと言う証拠でも残すかのように。

 

透は『鎌鼬』を置いたまま、ののかの病室を出て行った。

 

 

 

 

 

警察の事情聴取やテレビの取材をそつなくこなしたが、ほぼ一日中それらで拘束されてしまい、気が付けば夜になっていた。

 

ようやく解放された透は、武偵高の教務科(マスターズ)まで足を運んでいた。

 

「んー?『嘘発見器』じゃん。ハイジャックお手柄だったねぇ。んで、教務科(ウチ)に何か用?」

 

透の事を『嘘発見器』と呼んだ人物───2年B組の担任で尋問科(ダキュラ)の教諭である綴梅子(つづりうめこ)先生は、タバコを加え、椅子に座ったままダルそうにこちらに振り返ってきた。

 

「はい、綴先生に用があってきました」

 

「アタシにィ? あー・・・あれか? 平川、尋問科に転科する気になってくれたのかぁ」

 

「いえ、そうではなくて」

 

「アンタ尋問の才能あんだから、装備科(アムド)なんかにいるのはもったいないぞー」

 

透は装備科に所属はしているものの、時間がある時は、超能力捜査研究科(S S R)特殊捜査研究科(C V R)を除く専門学科の自由履修を受けている事がある。

 

尋問科の自由履修も何度か受けた事があるのだが、持ち前の嘘を見抜く力がどうやら尋問に活用できるようで、綴からも一目置かれていたようだ。

 

そのせいで、綴からは『嘘発見器』というあだ名を付けられてしまったわけだが。

 

「まぁ、とにかくこっちに来な。話はそこで聞くよ」

 

透は綴に連れられ、個室へと移動した。

 

「でぇ? 話って何さ。先生、せっかく気ぃ使って1対1にしてやったんだからさぁ。とっとと話してくんないかなぁ」

 

そのセリフからは、生徒を思いやる教師らしさを感じるが、目の前にいる綴は無気力な顔つきに、加えタバコ。腕組み足組みをしており、態度で全て台無しにしてしまっている。

 

「先生、俺は『武偵殺し』の協力者で、先日のチャリジャックやバスジャックにも関わってました。今日は教務科への報告も兼ねて、自首しに来ました」

 

この態度は今さらなので、気にせずに今日の目的を粛々(しゅくしゅく)と伝えると、

 

「・・・・・・」

 

綴は無言のまま、ぷは、とタバコの煙を吹き、タバコを灰皿に押し付けた。

 

「・・・平川ぁ、その話、もう神崎から教務科に報告済みだよ」

 

「え?」

 

その事実に透は大きく目を見開いた。

 

「アンタと『武偵殺し』。ある一点については利害が一致してたんだってねぇ。けどぉ、話聞く限りアンタ罪犯してないじゃん。どっちかって言うと、止めようとしてたらしいしぃ。なんか協力らしい協力でもしたの?」

 

「俺は『武偵殺し』に情報が行き届くようにキンジの部屋に盗聴機を仕掛けました」

 

「あぁ、それは確かに幇助(ほうじょ)犯になっちゃうかもねぇ。でもまぁ、それが事件を決定的にしたわけじゃないしぃ、盗撮や盗聴なんて武偵高(ウチ)じゃあ日常茶飯事だろぉ。先生聞かなかった事にしとくわー」

 

「みすみす目の前の犯罪者を見逃すって言うんですか?」

 

武偵高の教師とは思えない言葉に、透は呆れたように綴に物申した。

 

「平川ぁ、アンタ真面目すぎ。神崎から話を聞いて教務科で出たアンタに対する結論は『無罪』。理由は『武偵殺し』と知り合いだったってだけで犯罪行為に直接関与していない。それとそれ以上に今回までの事件解決への貢献度が大きい。文句あるかぁ?」

 

「ですが、綴先生は今、俺の罪を知ってしまいましたよね」

 

「学校にも面子(メンツ)ってもんがある。だから、聞かなかった事にするって言ったんだよぉ。はい、お話終了ぉ。とっととでてけー。警察なんかに行くんじゃないぞぉ。これは()()だからなー」

 

さらに反論をしたかったが、綴の態度を見るにこれ以上は続けてもいたちごっこになりそうだ。

 

「・・・失礼しました」

 

一応、頭を下げて個室を出て、仕方なく教務科からも出て行った。

 

犯罪歴が付かなかった事はありがたいし、その対応にも本来なら感謝すべきなのだろう。

 

しかし、透は納得していなかった。

 

犯罪だけじゃない。アリアやキンジを騙していた事の贖罪(しょくざい)もしたかったのだ。

 

そして、自由の身となってしまった今、自分はどうすれば良いのだろう。

 

武偵高の生徒である以上、教師にちゃんと伝え判断してもらうべきだと思い、警察での事情聴取の際には自首をしなかったのだが、どうやらそれが裏目に出たようだ。

 

「やっぱりここにいたのね」

 

教務科前の掲示板。そこにアリアが立っていた。

 

「アリア? ロンドンに帰るんじゃなかったのか」

 

今回のハイジャックの一件でアリアの母親の『武偵殺し』が冤罪だったことが証明され、公判は延びたらしい。

 

弁護士の話では最高裁が年単位で延期になるとのこと。その為、アリアは今度は1()()でロンドンに帰り態勢を立て直すと聞いていた。

 

「い、色々あってもうしばらく残ることにしたのよ!」

 

透の疑問にアリアは何故か慌てて、恥ずかしそうな嬉しそうな表情で答える。

 

心を落ち着けたかと思うと、今度はややうつむき加減に、

 

「・・・あんたに、騙されてたって知った時は正直ショックだったわ。あたしのパートナーはあんたしかいないって思ってたから」

 

その思っていた感情を透にぶつけてきた。

 

その悲しい思いが、透の胸を締め付ける。

 

「でも、あんたの事見てたから分かる。それにあたしの直感は鋭いの。あんたは『悪』じゃない」

 

今日のアリアは機嫌が良いのだろうか、表情をコロコロ変えてくる。今は、微笑みを浮かべた顔で透に近寄ってきた。

 

「理子には理子なりの事情が何かあったんでしょ。あんたはそれを手伝いたかっただけ。違う?」

 

透は答えなかった。肯定とも否定ともしたくない、そんな気持ちだった。

 

アリアは自分の直感が正しいと判断したのか、そのまま話を続ける。

 

「余計なお世話だけど、あんたはあたしを守ろうとしてくれてた。バスジャックの時、あんたが応援をいらないって言ったのは、あたしを一人にしない為だったんでしょ?」

 

飛行機の中で、理子に出題された2問目の答え合わせをするかのようにアリアは訊ねてくる。

 

「・・・半分、正解だ」

 

アリアを一人にするわけにはいかない。それは当然、考えていたことではあるが、それならアリアをこちらに呼べば最悪、自分が盾になることくらいできた。

 

しかし、それでは人数が多いバスをキンジ一人に任せる事になり、バスジャック事件そのものが解決できない危険性があった。

 

バスジャックを解決すること、アリアを一人にしないこと、アリアとキンジを組ませること、それらを考えた上で、あの時、透は応援不要と答えていた。

 

「半分って・・・残り半分は何よ」

 

説明が長くなりそうなので、答えは言わない事にした。

 

「・・・後、キンジから聞いたんだけど、あんたは元々、イ・ウーにいたけど今はいないって。それ本当なの?」

 

「ああ、本当だ」

 

「その話、詳しく教えなさい。どうして、あんたはイ・ウーにいて、辞めたのか」

 

「・・・そうだな。お前には、全部話すよ」

 

アリアには迷惑をかけた。

 

自分の事を知る権利がある。それもイ・ウー絡みの事ならなおさら。

 

これも贖罪の一つになってくれるだろうか。

 

そう思いながら、透は自分の過去を打ち明けるのだった。

 

 





次回は透の過去編です。
と言っても、何話も続かずに1話で簡潔にまとめるつもりです。


第1章が終わるまで残り数話。もう少しだけお付き合いくださいませ。
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