緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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今回は残酷な描写が含まれております。そういった描写が苦手という方は見るのをお控えください。



今回のお話は 第0弾~プロローグ~ に繋がるお話です。
透の過去の全てが明らかになる訳ではありませんが、楽しんで頂けたらと思います。



第27弾~始まりの2年前~

平安時代。この時代は主に『源氏』と『平家』の両家が勢力争いを繰り広げていた。

 

───1185年3月24日。

 

長きに渡る勢力争いも、日本の歴史上、この日に終結したとされている。

 

この日に起きた戦争を、『檀ノ浦の戦い』として、記録に残っている。

 

この『檀ノ浦の戦い』で、平清盛(たいらのきよもり)の孫である安徳天皇(あんとくてんのう)二位尼(にいのあま)と共に入水し、死亡。『平家』は滅亡したと教科書等にも掲載され、後世に伝えられている。

 

しかし、一部では『安徳天皇生存説』というものが存在する。

 

二位尼と共に入水した安徳天皇は、二位尼によって陸に送り届けられたという説。

 

 

実は、これが正史なのである。

 

 

安徳天皇が生きながらえた事により、平清盛直系の血は途絶えなかった。

 

平家は存在を隠すように、表向きには性を『平川』と変え、全国を転々とし、昭和中期頃になると、日本にも徐々に平和が訪れはじめた為、定住する事を決意した。

 

千葉県某所の人里離れた山を私有地として購入。平川透もその山で生まれ、すくすくと育っていた。

 

 

 

そして、今から2年前、透が中学3年生だった頃。

 

県内の私立中学に通っていた透は、その日真っ直ぐ家に帰っていた。

 

家から最寄り駅まで自転車で40分。電車で40分。さらにバスに乗ること15分。

 

通学に約1時間半かける透は、特定の部活には入っていなかった。しかし、コミュニケーション能力が高く、顔も広かった透は運動部の助っ人や文化部の手伝いに呼ばれる事が多々あった。

 

今日は誰からも声がかからなかったので、大人しく帰宅する事にしたのである。

 

「ただいまー」

 

夕方5時過ぎ、亡くなった祖父が建てたという、100坪ほどはあるであろう武家屋敷の玄関で透の声が響き渡る。

 

しかし、返事はない。

 

(この時間なら父さんいるはずなんだけどな・・・)

 

縁側を歩いていくと、いつもは父の部屋として仕切られている広間の(ふすま)が閉まっていた。

 

「父さん、ただいまー」

 

そう言って、襖に手をかけた時───

 

「透! 開けるな!」

 

父・正義(まさよし)が襖越しに大声で制止をかける。

 

しかし、透の手は止まらなかった。

 

「───なっ!?」

 

透の目に映ったのは、見知らぬ男2人と、壁際に追い詰められ血塗(ちまみ)れ状態の正義の姿であった。

 

「おい、この時間は帰ってこないんじゃなかったのか」

 

「・・・仕方ないな」

 

男が1人近付いてくる。

 

「や、やめ───」

 

───透の意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・う、んっ・・・?」

 

透は目を覚ました。

 

外はもう暗い。家の中も真っ暗で何も見えない。

 

(・・・そうだ、父さん! 父さんはどうなった!?)

 

意識を失う前の事を思い出し、慌ててその広間の電気を()けると───

 

 

 

 

「・・・あ・・・・・・あ・・・・・・」

 

 

 

 

───凄惨(せいさん)な光景が広がっていた。

 

 

 

 

 

その部屋には、先程の見知らぬ男2人の死体があった。1人は胸を抉られ仰向けに、もう1人は縁側付近で背中を斬られ、うつ伏せに倒れていた。

 

父親の姿はなかった。

 

いや、正確には()()()()()物が部屋の(すみ)に落ちていた。

 

上半身は消し飛んでおり、辛うじて残っていたのは右手と顔の左半分。下半身は内臓をぶちまけて、横向きに倒れていた。

 

最早、人間としての原型はほとんど留めていなかった。

 

「・・・・・・と、と・・・うっ・・・・・・ぉぇ・・・・・・!」

 

胃の中の物が逆流してきて、その場に座り込み、嘔吐してしまう。

 

吐き出した口を手で押さえると、頬にぬるっとした生暖かく不快な感触を感じる。

 

その手を見ると────

 

「───!!」

 

血にまみれていた。

 

反対の手を見ても同じく、血で染まっていた。

 

訳が分からない状況で、頭の中でパニックを起こした透は立ち上がり、部屋を出ようと一歩後退りすると、カチャッと何かを踏んづける。

 

視線を降ろし、その物を見ると刀であった。その刀にも斬った証として血がべっとりと付着していた。

 

血塗れの手に加え、足元に落ちていた刀。この2人を殺したのは────

 

「───お、俺・・・なのか・・・?」

 

いや、待て。自分は男に襲われた後の記憶が一切ない。しかし、自分は生きていて、正義と男2人は死んでいる。

 

正義が男たちに殺されたのは間違いない。なら、男たちは?

 

どう考えても透以外考えられない。

 

「ひ・・・ひと、を・・・ころ・・・・・・おぉぇっ・・・・・・」

 

父親の仇とは言え、人を殺すという非人道的な行為の認識。そこから生まれた罪悪感。

 

それらの重みに耐えきれずその場で倒れるように再び嘔吐する。

 

「・・・っ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

ひとしきり吐いた後、ヨロヨロと立ち上がった透は、重い足取りで部屋を出て、風呂場へ向かった。

 

取るべき順序が分からなかった。とにかくこの血を落としたくてしょうがなかった。

 

身体を洗いシャワーを浴びている間に少しだけ冷静になる。

 

(・・・美沙は!? 今は何時だ!?)

 

慌てて風呂場を飛び出し、時計を見に行くと、午後10時を過ぎていた。

 

美沙は弓道部に所属しているので、帰宅時間は普段から遅いのだが、午後9時過ぎには帰宅しているはずだ。

 

「美沙!」

 

透は私服に着替え、片っ端から家中を捜索し始めた。

 

キッチン、天井裏、押し入れ。しかし、美沙の姿はどこにも見当たらなかった。

 

自転車置場を確認すると、透の自転車しか置いていなかった。

 

(・・・まだ、電車は間に合う・・・!)

 

全速力で自転車を漕ぎ、自転車用に改装してくれた山道を下っていく。

 

普段なら40分かかる道のりを、25分までに短縮し、電車に乗り込む。

 

通学の時より長く感じる40分を過ごした後、いつもの駅で降りる。

 

学校へ向かうバスはさすがに動いていない。透は全速力で走り学校へ向かった。

 

 

 

東京ドーム2つ分はあろうかという中高一貫校。

 

透は忍び込んで、真っ先に弓道場へと向かう。

 

校内が全体的に暗かったので、予想は付いていたが、弓道場には鍵がかかっていた。

 

中には誰もいないのだろう。

 

(さすがに・・・疲れたな・・・)

 

透はその場に座り込むと、この後、どう行動するべきか考えようとしたが、気付かないうちに眠りについてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───もし。もしもーし、大丈夫?」

 

肩を揺らされ、ハッと目を覚ます。校内は照明が点いており、外も明るかった。

 

透を起こしたのは、朝練の為に鍵を開けに来た弓道部の顧問だった。

 

「先生、美沙は!?」

 

「えっ? 平川さんならまだ来てないけど」

 

()()()()()()。つまり、少なくとも昨日は普通に学校を出ているはずだ。

 

「すみません。少し、待たせてもらってもいいですか」

 

「あ、うん。別に待つのは良いけど、君、制服は?」

 

「あー・・・演劇部の朝練に参加してて、配役の服のままこっちに来ちゃいました」

 

「そうなんだ。授業になったらちゃんと制服に着替えてね」

 

そう言って、先生は職員室へ戻っていった。

 

弓道場入口前で待機していると、朝練に来た部員が次々とやって来る。

 

一人一人に美沙の事を確認していくが、手掛かりはなし。

 

昨日は部活後、普通に帰り、誰の家にも泊まったりはしてないとのこと。

 

結局、美沙が朝練に来ることはなく、美沙の教室にも行ったが、HR(ホームルーム)の時間になっても登校して来なかった。

 

 

その日、透は初めて学校を休んだ。

 

 

家にいるのではないかと期待して帰宅するも、美沙の姿はなかった。

 

正義の部屋に近付くと悪臭がした。部屋の惨状(さんじょう)がフラッシュバックし、胃液が込み上がってくるのを感じる。

 

怖くて中は覗けなかったが、やはり昨日の出来事は夢ではなかったのだろう。

 

吐くのを(こら)えて大広間に行くと、飾ってある日本刀の一つを手に取る。

 

「ひさめ」

 

透が刀に声をかけると、その刀の中から、煙のようなものが出てきて、その煙は人間のような姿を形成し、妖艶(ようえん)な美女へと姿を変えた。

 

白い肌に(つや)のある長い黒髪。白装束を着たその女性はまるで、妖怪の『雪女』を連想させる。

 

「どうしましたか? 透さん」

 

事実、彼女は『雪女』であり、平川家で家事などの手伝いをしてもらう事もある家政婦のような存在である。

 

普段は、妖刀の中に封印されており、誰かが声をかけない限りは出てこられないようになっている。

 

「ひさめ、ごめん。父さんの部屋の掃除をしてもらえないかな」

 

生前から正義に言われていた事がある。

 

もし、自分の身に何かが起きた時、家族以外は、誰にも知らせずに(ほうむ)って欲しいと。

 

今、考えてみると正義は、いずれこうなるという事を知っていたのかもしれない。

 

でなければ、大人でもない自分たちにそんな事を言っておくのはおかしい。

 

「・・・いいですよ」

 

惨劇があった事は妖刀越しに知っていたようで、ひさめは透をぎゅっと抱き寄せると、正義の部屋へと向かった。

 

大広間に一人取り残された透はその場に座り込む。

 

何故だか、不思議と涙は出なかった。

 

今は美沙の事だけが気がかりだからだろうか。

 

(美沙、無事でいてくれ・・・!)

 

 

 

 

 

朝、昼、夜。ずっと家で待ち続けていたが、美沙は帰ってこなかった。

 

夜10時半過ぎ、9時に帰って来なかった事から、再び学校付近で美沙の捜索を行っていた。

 

雨が降っていたが傘も差さず、ふらふらとしながら歩いていた。

 

(こんなことになるなら、携帯ぐらい持っとくべきだったか・・・)

 

山で暮らしていた為、平川一家は携帯は不必要な物として所持していなかった。

 

透はすれ違う人々の顔を逃さずに確認した。そんな人々も怪しい少年と顔を合わすまいと傘で顔を隠し、その場から足早に去っていく。

 

歩を進めて行くと、前方に誰かが立っているのが見えた。

 

(美沙!)

 

透は走り出した。

 

しかし、すぐに美沙ではないと気付く。

 

その人物は体格からして男以外の何者でもなかったからだ。

 

「チッ・・・」

 

舌打ちをして、その男を素通りしようとすると、

 

「平透くんだね」

 

声をかけられた。

 

「・・・あんた、誰だよ」

 

互いに背を向けたまま、透はその男に訊いた。

 

男は口元を一瞬緩め、透の方へと向き直す。

 

「今は探偵とだけでも言っておこうかな」

 

「探偵・・・だと?」

 

「君は妹を捜しているんだよね?」

 

妹。その単語に反応し、透は慌てて振り返った。

 

「お前、何か知ってるのか! 妹は・・・美沙は、今どこにいるんだ!」

 

「申し訳ないが、僕は君の妹の居場所は知らない。でも、返答次第では君の妹を捜し、君たちの父親の仇でもある『源氏』の一族も捜してあげよう」

 

その男の言葉を聞いて、透はただただ動揺した。

 

妹のみならず、父親のこと、そして父親を殺した連中のことも知っていた。

 

だが同時に、透は男の嘘を感じ取っていた。

 

 

『この男はもとより妹も源氏も捜すつもりはない。』

 

 

「僕と一緒においで」

 

これが男の言っていた返答すべき言葉なのだろう。

 

透は悩んだ。嘘だと分かっていても今は藁にもすがる思いだった。もしかしたらという気持ちを捨てきれない。

 

自分の直感を信じるべきか。心情を選ぶべきか。

 

そして、彼は答えを出す。

 

 

「1年だ」

 

 

限りなくゼロに近い可能性でも、男が捜してくれるという言葉を選んだ。

 

「1年だけ、あんたと一緒に居てやる。ただし、1年で美沙も奴らも見つからなければ、俺はあんたのもとから離れる」

 

男はその返答に満足したのか、フッと微笑み手を差し出した。

 

透もその手を見て男と握手をする。

 

「ようこそ。イ・ウーへ」

 

 

 

これが平透とイ・ウーのリーダーとの出会いであった。




安徳天皇生存説というのは諸説として実際にありますが、その後の平家の行動等は作者が勝手に考えたものなので、鵜呑みにしないようご注意ください。


親父が2回目の登場にして、惨殺されててなんか不憫・・・



妹の行方も、男たちの正体や死体も謎だらけですが、まだまだお付き合い頂けると幸いです。


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