今回で、第1章完結です。
第29弾です。
もう間もなく夜が明けようとする時間、透は武偵病院に来ていた。
アリアから連絡が入ったのだ。
あかりが夾竹桃を逮捕した、と。
そして、
「ののか!」
朝が早いということも、病院だということも忘れ、透は大きな声で少し乱暴にののかの病室の扉を開ける。
そこには───
「もー、お兄ちゃん。ここは病院だよ」
一般中学のブレザー制服に着替え、荷物をまとめているののかの姿があった。
ベッドも点滴も必要とせず、自らの足で立ち、あの痛々しく目に巻かれていた包帯もない。
そして、透の声に反応し、返事もしてくれた。
「ののか・・・」
透はゆっくりとののかに近付いていく。
「お兄ちゃんの顔、ちゃんと見えるよ・・・お兄ちゃんの声も、ちゃんと聞こえるよ・・・!」
ののかも透に近寄り、嬉し泣きしつつ抱きついてきた。
「・・・早くあかりたちにも教えてあげないとな」
透もそっと頭を撫でてあげる。
「うん!」
その笑顔を見れた事に一安心し、少しの間2人だけの世界に浸っていたのだが、
「ぉほん」
立ち会いとしてその場にいた看護師に咳払いをされ、ののかがハッと我に返った様子で、透から離れる。
「あ、そうだ」
そして、ののかは思い出したようにベッドに近付き、
「はい、これお兄ちゃんのでしょ?」
立てかけていた『鎌鼬』を手渡してきた。
しばらく使うこともないと思い、置いていった『鎌鼬』。
じゃじゃ馬なご主人様のお陰で、まだまだ使わせてもらう事になりそうだ。
「ああ、大事な刀だ」
○
時間帯的に特例として、ののかと一緒に退院手続きを済ませた透は、彼女を
アリアに指定された場所で、どうやらあかりたちもそこにいるらしい。
「ののか、着いたぞ」
ゆっくり会話する事もないうちに第2グラウンドに到着。
ハマーH1やアリアの車───ミニ・ジョンクーパーワークス・コンバーチブルの近くに停車させると、ののかに早くあかりたちの所へ行くように促した。
校門付近の桜の木の下に、アリアとあかりたちはいた。
志乃の頭や脚に巻かれた包帯や汚れの目立つ制服が、夾竹桃との戦いがいかに過酷だったのかを物語っている。
「お姉ちゃん!」
ののかはあかりのもとへ駆け寄り、あかりもののかの姿に気付くと、大急ぎで駆け寄った。
「・・・よかった・・・ののか・・・よかった、よかったよぉ・・・!」
ののかが治った事は、先にアリアに聞いていたのだろうが、自分の目で確認できて安心できたのだろう。
あかりの目から、嬉し涙が、溢れ出す。
「よくやったわね、あかり。あたしは自分の敵を取り逃がしちゃったのに・・・」
というアリアの声に、あかりは顔を上げた。
「『
ちょっと恥ずかしそうに、しかし、アリアは笑顔でそう言った。
「アリア先ぱ───」
「でも、顔を見て分かったわ。あんたは、あたしの教えを破った。『
アリアのその指摘に、あかりはギクッとする。
夾竹桃と戦った時、その気持ちで戦っていたのだろう。
「バカ・・・」
アリアは厳しい表情のまま、あかりの肩を掴み、ぎゅっと抱き締めた。
そのアリアの行動に、志乃がいち早く反応し、般若のような形相でアリアを睨み付ける。
「佐々木」
今の2人に横槍を入れるのは野暮というものだ。
そう思い、志乃の意識をあの戦姉妹から逸らす為に、透は近付き、声をかける。
「なんでしょうか」
睨んだ目付きはそのままに、志乃は透の顔を見据えてきた。
目で、邪魔をするな、と訴えかけてきている。
「大分ひどい有り様だが、ちゃんと
「・・・・・・!」
以前、決闘して敗北した際、透におぶってもらった事を思い出したのだろう。
志乃は顔を、かあああ、と赤くして黙りこんでしまう。
「おい、志乃。急にどうしたんだ?」
「平川様、佐々木様に何をなさったんですの!
「・・・ああ、あの時の事に御座るな」
事情がよく分からないライカは純粋に志乃の心配をし、麒麟はここぞとばかりに透を責め立てる。
風魔は何故か一人、事情を知っているようで勝手に納得していた。
「風魔、お前何か知ってるのか!」
「風魔様、平川様の弱みを握っているのでしたら、お教えくださいですの!」
「み、皆さんやめてください!」
唯一、理解していた風魔に、ライカと麒麟が詰め寄るが、志乃が必死にそれを阻止する。
「風魔」
透が、分かってるよな? と、目だけで凄んでみせると、風魔はゆっくりと首を縦に振り、
「・・・某は何も存じ上げぬ」
と、ライカと麒麟に述べた。
「こら、あんたたち! いつまでおしゃべりしてるの!」
ここで、あかりと話し終えたらしいアリアがガバメントを振り上げて
周囲が、いつの間にか明るくなっていた。
学園島は、何事もなかったかのように活動を始め、道には早朝戦闘訓練に向かう武偵高の生徒たちがちらほらと現れ始めている。
「さあ! 1時間目まで時間無いわよ! 登校準備! 走る!」
「はい!」
アリアの号令に、後輩たちは姿勢を正した。
そしてまずは、あかりが走り出す。
それを志乃が追いかけ、ライカも続いた。
麒麟も両腕を広げて元気良く駆け出し、風魔も忍者らしい独特の走り方でついていく。
透、アリア、ののかに見送られ、あかりたちは登校していった。
○
その日、透は、ののかを『ハイツ勝どき』まで送った後、武偵高に戻り、1~4時間目までの一般科目の授業を受け、5時間目からは体調不良と言って
今は、ののかと一緒に1.5km先にあるという驚安のスーパーに向かって歩いていた。
退院祝いのみんなで食べる夕食の食材を買いに行く為である。
初めは車に乗せて連れてくつもりだったのだが、ののかが歩きたいと言ったのだ。
ここしばらくはベッドの上だったので、歩くのもちょうど良い運動になるだろう。
そう思い、透は歩調を合わせながら、ののかの隣に付いていた。
「もー。授業休んでまで来る必要なんてなかったのに」
「ののかも病み上がりなんだ。今日くらい構わないだろ」
ののかがお小言してくるも、透は自分の行っている事は、至極当然といった感じの態度である。
「それよりも、今日の夕食は何にするつもりなんだ?」
とは言え、授業をサボっているのは事実なので、これ以上その話に触れられないよう、話題転換をする。
「んー、今日はお鍋の気分かな」
「この時期にか?」
鍋料理と言えば特に冬に好まれる料理である。
春となり気候も暖かいこの季節。鍋を食べるには少し遅いような気もする。
「あたしたち4人が集まった時って、だいたいお鍋だったもん」
ののかに言われて、昔の事を思い出してみると、あかりやののか達との食事の記憶は確かに鍋が過半数を占めていた。
「よく飽きなかったな・・・」
「ほんとにね」
透は過去の自分達に呆れたように言葉を漏らし、ののかはクスクスと笑いながらそれに同意する。
何気ない会話をしながら、信号のある横断歩道を渡り終えそうな時だった。
───『彼女』とすれ違ったのは。
突然の出来事に、一旦立ち止まる。
そして、すぐに振り返る。
「お兄ちゃん?」
横断歩道の途中で足を止めた透を不思議に思っているのだろう。しかし、ののかの声は透の耳には入ってきていなかった。
透の視界に映っているのは、毛先のみ淡い紫色に染められた黒髪セミロングの少女。
後ろ姿だけでは、似ても似つかないので、確認したい。
透は、少女に声をかけようと、横断歩道を逆走しようとしたが、
「お兄ちゃん、 赤信号だよ!」
ののかに腕を引っ張られ、横断歩道を渡りきってしまう。
すぐに追いかけようとするも、車の往来が始まり渡れそうもない。
何かすぐにでも渡れる方法はないかと周りを見ると、少し離れた位置に歩道橋を見つけた。
「ののか、ここで少し待っていてくれ」
ののかの返事を待たずに、透は走り出す。
歩道橋の階段をかけ上がり、橋の上を走りながら、少女の渡った方の歩道付近を見渡すが彼女の姿は既にない。
念のために、階段を下りてから辺りも捜したが、見つからなかった。
仕方なしにののかの所に戻ると、心配そうな顔で近寄ってきた。
「すごい慌ててたけどどうしたの?」
「・・・財布を向こうの通路に落としてて、な」
ポケットに入れていた財布をののかに見せる。もちろん、実際には落としてはいない。
しかし、本当の事は言えなかった。
何故なら、今すれ違った少女は───
(───
一瞬 、すれ違っただけなので、確信は持てない。後ろ姿や雰囲気も全然違った。
しかし、少女の服装───この学園島ではまず見かけることのない、
「待たせて悪かった。行こうか」
一抹の不安を残しつつも、ののかには悟られないよう普通に振る舞う。
しかし、心は冷静ではいられなかった。
(美沙・・・お前はどこにいるんだ? もしかして、
初投稿から約5年経って、ようやく第1章が終わりました。
途中、年単位で更新が飛んだ時もありましたが、なんとか区切りがつけられて良かったです。
今後も不定期・亀更新が続きますが、続けていこうとは考えていますのでよろしくお願いします。
追記:AA作戦での時系列ですが、どちらが先に起きた事象なのか、それとも同時に起こった事象なのか考えていました。
一応、無印にはハイジャックの翌日が満月。AAには夾竹桃との決戦日が三日月と参考になりそうな描写があるのですが、簡単に調べてみたら満月から三日月へは17日程、三日月から満月へは12日程かかるらしく、これではどちらを先にしても期間が空きすぎかと思い、今回はアリアの「あたしは敵を取り逃した」というセリフを基準に無印→AAの時系列があったという形を取らせていただきました。