少し間が空いてしまいましたが、第2章スタートです。
サブタイトルで色々と察することができそうな回です。
そして、各話の文章量統一できない問題が発生しました。申し訳ないです。
第30弾です。
第30弾~戦兄妹~
再びアリアのドレイとなった透は、久しぶりにキンジの部屋を訪れていた。
キンジとも何となくの流れで、和解しており、今では普通に会話をできる関係性までには修復している。
今日は、ハイジャックの際に壊れてしまったらしいベレッタ・M92Fの代替を持ってきたのだが、アリアとキンジは口喧嘩をしており、とりあえずソファーでその喧嘩が終わるのを待っていた。
ちなみに喧嘩の内容は、ももまんとウナギまんはどっちがうまいかという、
「ん?」
何か着信でもあったのだろう、口喧嘩を一時中断したキンジは、携帯を開く。
しばし、携帯とにらめっこしていたキンジは顔から徐々に余裕を無くしていき、
「ア、アリア、に、に、にに、ににに逃げろッ!」
ガタガタと歯を鳴らしながら、アリアに警告する。
「な、何よ。なに急にガクガク震えてんのよ。キ、キモいわよキンジ・・・」
「ぶ、ぶ、『武装巫女』が───うっ。マズい・・・来た・・・!」
どどどどどどどどど・・・!!
キンジの予告通り、猛牛か何かが突進しているかのような足音が、マンションの廊下に響き渡っている。
しゃきん!!
金属音と共に、玄関のドアが冗談のように
そこに仁王立ちするのは、巫女装束に
「白雪!」
であった。
ここまで猛突進してきたらしい白雪は息をぜーぜー切らせながら、眉毛をつり上げている。
「やっぱり───いた!! 神崎! H! アリア!!」
「ま、待て! 落ち着け白雪!」
「キンちゃんは悪くない! キンちゃんは騙されたに決まってる!」
騙された、に反応して透の心臓は一瞬ドキッと跳ね上がるが、白雪の標的はアリア。
内心安堵しつつ、この修羅場になりそうな部屋から早めに退散しようなどと考える。
「この泥棒ネコ! き、き、キンちゃんをたぶらかして
白雪は携えていた青光する日本刀を、ぎらり、と大上段に構える。
「やっ、やめろ白雪! 俺はどっこも汚れてない!」
「ア、ア、アリアを殺して私も死にますぅー!」
「だから何であたしなのっ! 人違いよ!」
「白雪! お前なに勘違いしてんだっうおっ!?」
セリフの途中で、キンジの背中をアリアが思いっきり蹴っ飛ばした。
キンジは廊下の壁にぶつかり、転倒してしまう。
「キンジ、なんとかしなさいよ! あんたのせいでヘンなのが湧いたじゃない!」
戦闘の火種がついにキンジにまで飛び火した。その火の粉がいつ自分に振りかかってくるかも分からない。
なので透は、このタイミングで出ていく事にする。
「キンジ、これお前の注文通り、安価で
「お、おい、ちょっと待ってくれっ」
透は廊下に倒れたキンジにベレッタを投げ渡し、返事を聞く前に真っ二つに斬られたドアを
どこからか「天誅ぅ───ッ!!」という恐ろしい声が聞こえる気がするが、きっと気のせいだろう。
透は自分の住む寮へと戻るのだった。
○
第7男子寮の505号室、そこに透の部屋はあった。
飲み物が切れていたのを思い出し、コンビニでお茶を購入してから上に上がると、誰かが透の部屋の前に立っていた。
黒髪のショートヘアを内巻きにしており、身長は150cm程の小柄な女子生徒。
透はその少女に見覚えがあった。
「吉水?」
先日、バスジャックに巻き込まれ、一緒に事件解決に貢献してくれた後輩の吉水千佳であった。
「あ、ひ、平川先輩! こんばんは・・・です」
急に声をかけたので、驚かせてしまっただろうか。
千佳はキョドった様子で不自然な挨拶をしてくる。
「ここは、俺の部屋なんだが・・・何か用があって来たのか?」
用件があるならあるで、さっさと済ませたい。
透は単刀直入に千佳に訊ねる。
「あ・・・その、私、平川先輩に
「・・・ああ。そう言えば、
2日前くらいに、教務科を通じて千佳からの申請を受け取っていた。
透は、
「すまないが他を当たってくれないか。俺は戦妹を作る気はない」
一度目は口答で拒否する。この程度で引き下がるなら、後輩の自分に対する思いや考えはその程度だということだからだ。
これは千佳だけではなく、これまでに申請してきた後輩全員に向けて行ってきた事である。
「で、でも、私は平川先輩が良いんです!」
これまでのほとんどの後輩同様、千佳は
「何で俺が良いんだ? 学部は確かに一緒だが、
それなら次に訊ねるのは、『理由』。
数多くいる先輩の中から、何故自分を選んだのか。自分の元で何を学びたいのか。
そして、専門科目が違う後輩ならなおさら、訊ねなければならない。
「私、強くなりたいんです。少なくとも自分の身は自分で守れるくらいには」
「それなら、
「バスジャックの時、装備科なのに平川先輩が一番活躍してました。本当なら強襲科がもっと頑張らなくちゃって不知火先輩も仰ってました!」
「装備科とか強襲科とか専門科目は関係ない。俺は俺に出来る事を考えて行動しただけだ」
「その『専門科目』にとらわれない姿勢が好きなんです! 私は平川先輩みたいになりたいんです!」
自分で発したセリフに千佳はハッとなり、「す、好きって・・・そういう意味じゃなくってぇ・・・!」とあたふたと目を回しながら否定した。
透は千佳の覚悟とその後の慌てっぷりに少し含み笑いをして、
「分かった。
と戦兄妹になるチャンスを千佳に与えた。
「い、良いんですか?」
「だが、さっき言ったように、俺は戦妹を作る気はない。教務科の命令だから試験をするが、俺は不合格にするつもりでやらせてもらう。それでも良いか?」
この嫌がらせとも受け取れるセリフを言うと、これまでの後輩は難色を示していたのだが、千佳は違った。
「はい、よろしくお願いします!」
小動物のようにくりくりした瞳をキラキラさせて、試験を受けさせてくれる事、そのものに感謝していた。
「じゃあ、早速試験を始めようか」
○
千佳は荷物を部屋に置いた透と共に寮の屋上へと上がった。
「一体、何の試験をするんですか?」
一応、明かりが照らしてくれてはいるが、夜という事もあり屋上は薄暗かった。
そんな場所で、どんな試験が行われるのか、千佳が至極当然な質問をする。
「強襲科推奨の試験は知ってるか?」
「えっと・・・確か『エンブレム』ですよね。30分以内に武偵高の校章が描かれたシールを奪うっていう・・・もしかして───」
「ああ。今からそれをする」
透は頷きながら答えた。
「と言っても、今シールは持っていない。だから、代わりにこの校章を奪えたら合格だ」
制服の左袖についた校章。透はマジックテープで着脱できるそれを示しながらルールの説明をする。
「どうして強襲科の試験なんですか?」
「強くなりたいんだろ。現時点での実力とその言葉がどこまで本気なのかを確かめたい」
校章を奪うだけ。試験そのものは至ってシンプル。
しかし、相手は透。バスジャックの時に見せた身体能力の高さもさることながら、あの神崎・H・アリア先輩のパートナーも務めるという折り紙つきの実力者だ。
対して、千佳は一般中学出身で所属する学科も車輌科と、戦闘の『せ』の字も経験したことのないようなド素人である。
無茶だ。勝てるわけがない。試験内容を変更してもらえないかと口が出そうになるが、グッと
「わ、分かりました。よろしくお願いします!」
ここで逃げたらきっと試験が不合格になるだけでなく、弱い自分のままだ。
それを変えたくて透の所に来たのだ。逃げるわけにはいかない。
覚悟を、決める。
「よし、スタートだ」
透は携帯を操作しつつ開いて見せてきた。
画面にはタイマーが表示されており、カウントダウンを始めたところだった。
残り29分59秒。
「失礼します!」
左袖の校章は手を伸ばせば十分に届く位置。試験開始直後、不意打ちのようで申し訳なく思いながらも、取ろうと右手を突き出す。
しかし、透の左腕に簡単に弾かれてしまい、額に拳銃を突きつけられてしまう。
「攻撃が遅い上に素直すぎる」
銃を向けられ動けなくなってしまった千佳に透は一言、忠告をしてバックステップで距離を取っていく。
離れた透を追いかける為に、千佳も走り出そうとするが、
「動き回る相手を無闇に追おうとするな。拳銃で牽制、もしくは被弾させて動きを制限して距離を縮めろ」
そのアドバイスに従い、千佳は足を止めて拳銃を取り出した。
その銃は、スターム・ルガーLC9s。車輌科から運転のジャマにならないように小型の拳銃を推奨された事と、他の小型拳銃より安めに売られていたので購入したものである。
「・・・・・・」
動き回る透に照準を合わせようと集中するがなかなか合わせられない。
いや、それ以前に手が震えてしまっていた。
車輌科では、牽制や威嚇の為の撃ち方しか教わっていない。
まだ入学して1ヶ月程しか経ってなく、車輌科所属という都合上、千佳は人に照準を合わせるという行為自体が初めてであった。
(もし、頭とかに当たったら・・・)
そう考えると、怖くて引き金も引けない。無闇に時間だけが過ぎていく。
「まずは、銃口の高さを首より下に合わせるんだ。それで頭に当たることはまずない。それから無理に俺を狙おうとしなくていい。俺の動きを見て、進行方向に向けて撃ってみろ」
自分の考えている事が分かっているのだろうか。
どうすればいいのか分からないタイミングで適切なアドバイスを与えてくれている。
「はい!」
そのアドバイスを素直に聞き入れて、千佳は右方向へと移動していく透の動きを見て、その進行方向を狙って発砲してみた。
パンッと渇いた音と共に透の動きが一瞬止まる。銃弾が目の前を通過したのだろう。
すると今度は左方向へと動き出したので同じように狙って撃ってみると、再び透の足を止める事ができた。
「間髪入れずに撃って相手の動きを封じていけ。そして、自分も少しずつ近付いていくんだ」
「はいっ!」
透の動きを止めるため、左右を発砲。そして、千佳は小走りで透に近付いていく。
透も左右が移動できないため、少しずつ後退していくが、とうとう金網まで追い詰めた。
(この距離なら・・・!)
素人でも撃てば当たる距離。透の脚に照準を合わせる。
「今、実践してもらったのが接近戦に持ち込む手段の一例だ。覚えておけ」
「あうっ!」
千佳が引き金を引こうとした瞬間、透が先に拳銃を抜き発砲しており、その弾はスカートの上から大腿部へ被弾した。
その痛みに耐え兼ねた千佳は、尻餅をつくようにして、女の子座りで崩れ落ちた。
防弾制服を着ているとはいえ、銃弾の威力はプロレスラーの本気の殴打を受けるようなもの。
戦闘経験値ゼロの千佳にとって無縁であった痛み。
「強くなる為には、これから先、その痛みを何回受ける事になるか分からない。それでも強くなりたいか?」
「こ、このくらい大したことありません!」
強がって立ち上がってはみるものの、本当はかなり辛い。
だが、弱音は吐いてられない。透の言った通り、これから何発、何十発と受けるかもしれない痛みなのだから。
「やああああ!」
千佳は痛みを紛らわす為に声を挙げて、透に飛びかかった。
しかし、そんな単純な攻撃が当たるはずもなく、透にスッと
痛みで足の踏ん張りがきかずに、勢い余った千佳は、ガシャンッ、と金網に激突してしまう。
「えっ・・・」
その受け止められるはずだった身体はどういう訳か、金網と共に屋上の外へと飛び出してしまう。
(あ・・・私、死────)
金網の網目から見えた地面との距離を認識してしまった瞬間、死を悟り、世界がスローモーションになった。
足場を失った身体は重力に従い、少しずつ落ちていく。
死は避けられないと頭では理解しつつも、上を見上げ手を伸ばしており、本能的に助けを求めていた。
「吉水!」
焦りを含んだ声が聞こえたと同時に、右手首に圧迫感と少しの痛みが走った。
「平川先輩・・・!」
透が上半身を乗り出し、右手でなんとか千佳の手首を掴んでくれていたのだ。
しかし、体勢は不安定であり、下手すれば2人共、落ちてしまうかもしれない。
「て、手を離してください! このままじゃ、平川先輩まで落ちちゃいます!」
慌てふためく千佳をよそに、透は目を瞑り、呼吸を整えていた。
「大丈夫だ。じっとしていろ」
この状況下においても、透の声は冷静であった。
いや、こういう状況だからこそ、冷静に対処しているのだろう。
「引き上げるぞ」
宙に浮いていた身体が少しずつ、上がっていくのを感じる。
建物とは背中合わせだった為に、屋上の縁に手をかけるなどの自力で登る手段が取れず、最後の方はお腹に手を回してもらい屋上まで引き上げてもらった。
その回した左腕の校章がチラッと目に入り、手が少し出そうになってしまうが、その気持ちを抑え込む。
(最低だな・・・私・・・)
危険を犯してまで助けてもらったのに、真っ先に考えてしまったことは感謝よりも試験。
その
「肩や腕は痛くないか」
「あ、はい! 大丈夫です!」
体からそっと手を離した透がケガの有無を確認してきたので、つい反射的に答えるが、
(違う。 私が真っ先に謝らないといけないのに・・・)
首を振って他事を考えていた。
「やっぱりどこか痛むのか」
「ああいえ! 違うんです! その・・・」
自分の身振りで透に勘違いさせてしまったらしく、慌てて否定して一呼吸置く。
「ご迷惑おかけしてすみませんでした! それから、助けて頂いてありがとうございます!」
そして、深く頭を下げた。
「当然の事をしたまでだ。礼を言われる程の事でもない。それに、謝るのなら俺の方だ」
「え?」
その意外な言葉に千佳は顔を上げて、透の顔を見つめる。
「この金網は恐らく老朽化していたんだろう。そんな危険箇所がある場所で戦闘が苦手なお前にこんな試験を行った。俺の判断ミスだ」
「そ、そんなことありません! 今のは私が勝手にぶつかって死にかけて、それを平川先輩が助けてくれたんです! 先輩は悪くありません!」
「そうであっても、金網に近付かないなど、いくらでも対応策はあったはずだ。場所の下調べも転落という起こりうる最悪の事態の推測も怠った。俺の責任だ。すまない」
「・・・謝らないでください。本当にあれは私の自業自得なんですから・・・」
謝罪と感謝すべき相手から謝られた千佳はどのような対応を取れば良いのか分からなかった。
だから、ただ謝った。自分が悪いのだという一点張りで。
(辞退しよう・・・)
命の危険にさらしただけでなく、余計な負い目まで感じさせてしまった。
これ以上、尊敬する先輩に迷惑をかけたくない。
「ごめんなさい! 戦兄妹契約を辞退させてください!」
再び頭を深く下げた。
これも身勝手なお願いだ。自分から申請を出して、試験も受けさせてもらって、自分から戦兄妹にならないと言い出すなんて。
自分はどれだけ、この人に迷惑をかければ気が済むのだろう。
申し訳なくて、情けなくて、涙が溢れ出してくる。
「お前は本当にそれで良いのか?」
その口調からちょっとした怒りのような冷たさのようなものが感じられる。
身勝手な女だとでも思ってるのかもしれない。
「・・・はい」
次に何を言われるのだろう。千佳は怖くて、下を向いたまま返事をする。
「吉水、一つ言っておく事がある」
どんな罵詈雑言でも我慢しよう。
千佳は目を瞑り、唇を噛み締める。
「俺の前では嘘をつくな。話が
怒られると思っていたものだから、そのまたしても意外な言葉に驚いた千佳は頭を上げた。
「俺は、
今と言い、先ほどの拳銃指南の時と言い、この人は自分の考えている事などお見通しなのだろう。
どうしたいのか。そんなもの、答えは決まっている。
千佳は制服の袖で涙を拭き取り、勇ましい顔に切り替わった。
「わ、私は平川先輩の戦妹になりたいです!」
その為にここに来ているのだから。
「・・・残り時間は約20分だ」
携帯の画面をチラッと見た透は背を向けて千佳との距離を取った。
「はい! よろしくお願いします!」
自分と透の実力差は一目瞭然。合格するのはほぼ不可能だろう。
だが、出来る限りの事はやってみよう。せっかく、こうしてチャンスを与えてくれたのだから。
○
「・・・3・・・2・・・1・・・時間切れだ」
透が指定した戦兄妹契約試験の時間制限30分が経過した。
結局、千佳は校章を取ることは出来なかった。
透も
レベル1のキャラが少しのアドバイスで数十レベル上がるのだったら苦労はしない。
当然と言えば、当然の結果である。
「平川先輩!」
駆け寄って来た千佳の表情は意外にも晴れやかであった。
もう少し落ち込むものかと思ったのだが。
「テストして下さってありがとうございました! 戦兄妹になれなかったのは残念ですけど・・・それでも、先輩を目標にしてこれから頑張ります!」
失礼します、と一礼して帰ろうとする千佳の顔は、やはり悲しげで無理して表情を作っていたのだと気付かされる。
「吉水」
その様子を放っておけずに、透は千佳を引き留めた。
そして、試験中に考えていたある提案を持ちかける事にする。
「・・・試験は合格だ」
「え?」
「正確には仮の合格だ。お前あの時、本当は取れたのに取らなかっただろ。だから、引き分けということにしておく」
透は、屋上から転落した千佳を助けるために左腕を体に密接させた時の事を思い出しながら話す。
あの時、千佳の視線が校章に行っていた事も、手がピクッと少し反応していた事も気付いていた。
とは言え、あの状態では避けようもないので、本気で千佳が取りに来ていたなら、間違いなく校章は取られていただろう。
「だが、正式な戦兄妹じゃなくて、仮の戦兄妹だ。俺や他の人の指導を受けてから改めて試験を行う。それまでは、俺の手伝いや下働きをしてもらうが、それでもいいか」
パシリに近い待遇ではあるが、千佳は満面の笑みを浮かべて、
「はい! もちろんです!」
と、その提案を受け入れてくれた。
(仮とは言え、俺に戦妹が出来るとはな・・・)
本来、透は戦妹を必要としていなかったのだが、それには2つ理由がある。
まず戦徒制度は、先輩は後輩に無償で仕事を手伝わせる事ができ、後輩は先輩から技術を学ぶ事ができる、という共にメリットがあるという制度なのだが、透からすれば仕事を、誰かに手伝ってもらいたいなどと考えた事もないので、メリットをあまり感じられないのだ。
後輩が居なくても困らない。つまり、戦妹を作る必要性を感じなかった。
もう1つは、後輩の評価が先輩の評価にも関わってくるというシステムである。
戦徒制度には『
それは、契約から72時間以内に、後輩が私闘で負けたら、契約解消になる規則である。
先輩が後輩を守れなかったということで、再契約も許されなくなるのだ。
また、後輩がランク考査で武偵ランクを上げられないと、先輩には『人を育成できない』という評価が残り、先輩の次回ランク考査に響くというものもある。
正直、透にとって評価そのものはどうでもいいのだが、そのようなシステムと後輩の諸事情に振り回されるのが面倒だと感じていた。
(・・・どうして、あんな提案を思い付いたんだか)
今回、透は仮とは言え、合格を言い渡した。黙っていればいつも通り、そのまま不合格にもできたはずなのに。
これまでの後輩は透の戦弟、戦妹になりたいというよりもアリアに近付きたいという生徒が多かった。
透の技術を学びたいという後輩もいたが、その生徒も少なからずアリアの影を追っていた。
だが、千佳は純粋に透に憧れを持って試験を受けに来てくれた。
きっと嬉しかったのだろう。千佳なら戦妹にしても良いと思ったのだろう。
透自身、その心情には気付けていないだけ。
今回、
まずは、あくまで仮であって、教務科に正式登録される訳ではないので、千佳の評価や事情に自分が振り回される可能性が大いに減った。
そして、長期間の試験を行っているという
故に、他の生徒の試験をする必要性がなくなり、余計な時間を奪われずに済む。
「とりあえず、しばらくは一緒に事件を捜査したり、犯人を追いかける事はしない。そういう事は正式な戦兄妹になってからだ。いいな」
「はい! よろしくお願いします!」
バスジャックで偶然出会い、偶然にも自分の出した試験に合格した。
きっとこれは何かの『
どこまで続く事になる縁か分からないが、切れるまでは大切にしよう。
透はそう思い、千佳と戦兄妹の仮契約を結ぶ事を決めた。
平均よりも長くなってしまいましたが、最後まで丁寧に読んで下さった方、ありがとうございます。
当初は千佳を戦妹にする予定はなかったのですが、途中で戦妹にしたいなー、とか考えてしまって、でも透は戦妹いらないとか言わせちゃってるから、どうしようとか考えた結果、こじつけるようにして今回のお話になりました。