そこそこ時間が空いた割には、そんなに進捗はない模様・・・。
第31弾です。
「これが家の鍵だ。こっちは俺の部屋で、こっちは余ってるから自由に使っていい」
屋上での
プライベートルームの説明をするにあたり、最近までアリアが出入りしていた部屋を開けると、床にはペルシャ
「こ、こんな豪華な部屋を使って良いんですか・・・?」
明らかに高価な家具が置いてある部屋を目の当たりにして、千佳はおずおずと透に訊ねる。
「まあ、他のやつも出入りする事があるから気にならなければな」
プライベートルームを出た透は、廊下でトイレと洗面所、風呂場を教える。
そこが終わると、一番奥の部屋───リビングに入っていく。
「ここがリビングとキッチンだ。テレビも観て良いし、腹が減ったら冷蔵庫の物も食べていい。俺がいない時でも自分の家のように使っていいからな」
「そ、そんな、先輩がいない時に勝手にあがらせて頂くなんてできないですよ」
「気にするな。勝手に偽造カードキーを作って、部屋を勝手に改造したやつを俺は知っている」
「じゃあ、さっきの部屋は・・・」
「その誰かさんが勝手に使ってる部屋だ」
やれやれ、と言った感じに透は呟く。
「やっぱり他人が使う部屋は抵抗あるか?」
先ほどから何かと遠慮がちな千佳が気になり訊ねてみる。
「い、いえ、その
「もし、何か言われたら俺の部屋を使っていい。俺自身ほとんどベッドしか使ってないし、寝るのはソファーでもできる」
家主は透なので、構わない、と一言言えば本来は済むのだろうが、万が一、透がいない時にアリアとトラブルになっては千佳が可哀想である。
なので最悪、透の部屋も使えるように許可した訳なのだが、
「平川先輩にそんな事させるくらいなら、私がソファーで寝ます!」
千佳は、家主に気遣いをさせないように、真心ある返答をしてくる。
しかし、その数秒後。
「・・・そうなったら、私が家に帰れば済む話ですよね?」
とても現実的な答えが返ってきた。
このまま話を続けるとややこしい事になりそうなので、話題転換する事にする。
「・・・まあ、とにかくこれで案内は一通り済んだ。今日はもう帰ってもいいぞ」
とりあえずカードキーを渡すことと部屋を教えること。やるべき事は終わった。
これ以上、拘束する意味もないので透は千佳に帰宅の許可を出した。
「あ、はい! ありがとうございました!」
千佳は深々とお辞儀をした後、顔を上げて恥ずかしそうに、
「・・・あの、一つお願いがあるんですけど・・・」
と言ってきた。
「なんだ」
これまで従順に透の話を聞いていた千佳からのお願いは少し意外だと思い耳を傾ける。
「私たち、せっかく仮戦兄妹になれたので、その・・・下の名前で・・・呼んで頂けませんか?」
なんだそんな事か。
断る理由も特にないので、透は即答で───
「千佳」
───と呼んでみる。
「ぴゃっ・・・ぴゃいっ!」
何故か噛んだ上に声が裏返り、小鳥の鳴き声のような返事をしてきた。
「い、いきなり呼ばないでください・・・」
「お前が呼んで欲しいって言ったんだろ」
希望を叶えてあげたというのに、何故こちらが責められるのだろうか。
「そ、それはそうですけど・・・うぅ」
名前を呼んでもらったのに、はい、の2文字すら上手く言えなかった為か、千佳は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「・・・まあ、改めてよろしく頼む。千佳」
少し間を空けてから、再度名前を呼んでみる。
すると千佳は顔を上げて、
「はい! こちらこそよろしくお願いします、透先輩!」
満面の笑みで返してきた。
○
翌日、透は
教員からはあっさりとOKが出たので、透の目論見通り、他の後輩から
『教務科には試験期間中という事で話を通した。仮の合格や仮の戦兄妹契約を結んだ事は他言無用で頼む』
千佳には、昼休みにメールで簡単に伝えると、1分も経たないうちに返ってきた。
『分かりました! 絶対、誰にも言い触らしません!』
そのメールを眺めて、改めて自分に戦妹が出来た事を実感する。
「平川君。ここ、いいかな?」
がやがやとうるさい学食の中、透が携帯をいじりながらコンビニのおにぎりを、キンジがハンバーグ定食を、アリアが持ち込みのももまんを食べていると、目の覚めるようなイケメン面の男が、話しかけてきた。
「不知火か」
透は目線を携帯から一度逸らすと、少し横にズレて不知火が座るスペースを確保する。
「聞いたぜキンジ。ちょっと事情聴取させろ。逃げたら
そして、もう1人───武藤がトレイを持って、キンジの隣に半ば強引に座った。
「なんだよ事情聴取って」
「キンジお前、星伽さんとケンカしたんだって?」
アリアと白雪のトラブルが発生したのは昨日の今日なのに、既に武偵高ではウワサが広まっているそうだ。
「星伽さん沈んでたみたいだぞ? どうしたんだ」
「白雪とはどうしたも何も・・・っていうか武藤。お前、白雪を見かけたのか?」
「今朝、温室で花占いしてたのを不知火が見たって言うからよ」
「なんだよ花占いって」
「ポピュラーじゃないか」
不知火が、形の良い眉毛を
「知らねーよ。アリアと透は聞いたことあるか」
「俺も知らないな」
透は口答で言い、アリアはももまんを頬張るようにして食べているので、知らない、という感じに首を横に振った。
「多分、皆知ってる。花から花びらを1枚ずつちぎって、スキ・キライ・スキ・キライ・・・ってやるやつだよ」
小学生の頃、女子が何人か集まってやってたな、などと昔のことを少し思い出しながら、透は他人事のように話を聞く。
「僕に見られてるのに気付いたのと、1時間目の予鈴が鳴ったのとで・・・占い自体は中断してたけど。なんか、涙ぐんでいるみたいだったよ? ・・・で、なんで別れちゃったの? もう、愛が冷めちゃったとか?」
うきゅうっ、とアリアがももまんを
透とあかりの関係の時もそうだが、不知火は他人の恋愛話が好きなのだろうか。
「あのなぁ・・・どこでどう話がこじれてそうなってるんだ。そもそも俺と白雪はそういう関係じゃない。ただの幼なじみだ」
「幼なじみ、かぁ。はぐらかし方としてはポピュラーな言葉の選択だね。ウワサでは神崎さんがヤキモチをやいて、星伽さんに発砲したって聞いたよ。だから僕の読みは遠山君と神崎さんがうまくいって、女子2人が決闘して・・・ってセン。だって、神崎さん
なんだかどこかで似たような会話を見聞きした覚えがあるが、下手に反応して蒸し返されても面倒なので聞き流しておく。
一方で、話の中心人物であったアリアは真っ赤になって一気にももまんを飲み込むと、
「こっ、こっ、このっ───ヘンタイ!」
「ぐっ!?」
キンジの顔面にパンチを入れた。
「ハッキリ言っておくけどねっ。あたしが白雪を追い払ったのは、ヤっ、ヤキモチとか、そういうんじゃないの。キンジはあたしのパートナーってだけ。す、好きとかそういうのじゃない。絶対、絶対、ぜぇーったい、それはない。これは本当の本心の本音よっ!」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ遠山君。星伽さんとは復縁の可能性も有りってこと?」
「復縁って何だ復縁って。ていうか不知火。さっきの話だがな───白雪は今朝の予鈴の時には、俺と一般校区の廊下で出くわして挨拶もせずに女子トイレへ逃げ込んでるんだよ。だから何かの見間違いだ。それに仲直りするしないだなんて、お前の個人的な意見なんてそもそも求めてないだろ」
キンジのそのセリフに透は違和感を覚えた。
不知火が今朝、温室で白雪を見たという話。そこから嘘は感じられなかった。
キンジの言う通り、見間違えていたなら、嘘を感じられないのは当たり前なのだが、武偵高内で最も有名な生徒会長の顔を見間違えるなんてまずあり得ない。
だがしかし、キンジの方も話をはぐらかす為の嘘ではなさそうである。しかも、幼なじみの顔を見間違えるというのは、なおのこと考えにくい。
つまり、2人の話を擦り合わせると、同時刻、温室と廊下に
某夢の国のネズミさんではあるまいし、考えられる説はどちらかが誰かによる変装。
(理子?)
真っ先に理子の顔が思い浮かぶ。
理子とはハイジャック以来、連絡が取れていない。今どこで何しているのかも分からない。
もしかしたら、理子が白雪に変装して戻ってきているのかも、と考えるが、だとしたら何の為に。
いずれにせよ、まだ何の確証も得られないまま動くのは良くない。キンジの言った通り、不知火が見間違えた可能性だって、完全には否定できないのだから。
「・・・そういえば不知火。お前、アドシアードどうする。代表とかに選ばれてるんじゃないのか?」
白雪の事でこれ以上からかわれるのがイヤなのか、キンジが話題を変えてくる。
アドシアードとは、年に一度行われる武偵高の強襲科や
「多分、競技には出ないよ。補欠だからね」
「じゃあイベントヘルプか。何にするんだ? 何かやらなきゃいけないんだろ、手伝い」
「まだ決めてなくてねぇ。どうしようか」
と、アンニュイに不知火は溜め息をつく。
「アリアはどうすんだ? アドシアード」
「あたしも競技には出ないわよ。
「じゃあお前も手伝いか。何やるか決めたか?」
「あたしは閉会式の
「
アル=カタとは、イタリア語の『
武偵高の女子はそれを、
「キンジと透もやりなさいよ、パートナーなんだし。手伝い、どうせ何でも良いんでしょ」
「あ、ああ・・・」
「俺もか・・・」
この出し物、世間的な印象がイマイチ良くない『武偵』という仕事のイメージアップを目的としたものである。
なので見た目がカワイイ方がいいだろうと、踊るのはチアガール姿の女子だけ。
男子はそのバックでバンドを演奏する役だ。
「音楽、か。まあ得意でも不得意でもないし・・・透もそれでいいか?」
「・・・まあ、仕方ないな」
「あ。2人がやるんだったら、僕もそれにしようかな。武藤君も一緒にやろうよ」
「バンドかぁ。カッコいいかもな。よし、やるかぁ」
不知火と武藤も加わり、速攻で4人組の武偵バンドが結成された。
「・・・でも神崎さん、代表を辞退するなんてもったいない。ポピュラーな話だけど、知ってる? アドシアードのメダルを持ってると、進路がバラ色になるんだ。武偵大も推薦で進学できて、就職にも有利。武偵局にはキャリア入局できるし、民間の武偵企業だって一流どころの内定がよりどりみどりって話だよ?」
「そんな先のことはどうでもいい。あたしには今すぐ、
そう、アリアの母親───神崎かなえさんを助けることだと透はすぐに分かった。
無実ながら複数の罪を着せられたかなえを救いだすために、アリアは数多の真犯人を相手に、これからも戦い続けなければならないのである。
「アドシアードなんかよりね。キンジ、透、あんた達の調教の方が先よ」
「ちょ、調教? お前ら、なんか変な遊びでもしてんじゃねーだろーな・・・?」
武藤が頬を引きつらせて、透、アリア、キンジを見回した。
「安心しろ。俺はお前らとは違う」
それに対抗するようにして、透もキンジと武藤に目線をやる。
「透、俺を
話をややこしくしない為にか、反論しそうな武藤の口を手で押さえながらキンジは呟く。
「うるさい。ドレイなんだから調教」
「ていうか調教って何をするつもりなんだ。具体的には」
「そうねー・・・んー。まずは明日から毎日、一緒に朝練しましょ」
アリアはどうやら朝練という案を今思い付いたらしく、うん、いいアイデアだわ、などと呟いてご満悦顔である。
透は、また面倒事が増えるな、と溜め息をつき、残りの昼休みを過ごすのだった。
次回更新は未定ですが、出来るだけ早くできるように頑張ります。