緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

33 / 52
夏バテなのか、全てにおいてやる気が起きない今日この頃です…。


これはこれで気分転換がてらチマチマ進めたいなとは思っています。



第32弾です。





第32弾~銃弾弾き~

翌朝7時。昨夜、アリアにメールで召集をかけられたので、待ち合わせの場所で待機していると、

 

「だーれだ」

 

と一緒に待っていたキンジを背後から目隠ししたアリアが遅れてやってきた。

 

振り返ったキンジは、アリアの姿を見て、一瞬黙ってしまう。

 

「んもう。こんな簡単に背後を取らせるなんて。甘いわね」

 

背伸びをストンと解除して、両手に腰を当てたアリアは、チアガール、の格好をしていた。

 

武偵高のチアガールは、黒を基調にした珍しいコスチュームを着用する。

 

ノースリーブのトップには胸の上部に穴が開いていて、穴からはアリアの真っ白な肌が覗いている。普通ならハートや星のような穴を開けるのだろうが、武偵高らしく銃弾型の穴が空いていた。

 

スカートは、本来ならスカート内に隠れるはずの拳銃がチラッと見えてしまうほどに短い。

 

「な・・・なんだよ、そのカッコ」

 

「見て分かんないの? チアよ。あんたモノを知らないにも程があるわよ?」

 

「お前にだけは言われたくないぞ。ていうか今のは、『なんでそのカッコなんだ』って質問だ」

 

「そんならそう言いなさいよこのドベ。これはあんたたちを調教する間に、あたしがチアの練習をする準備なの。同時にやれば、時間をムダにしないですむでしょ?」

 

と、アリアは誰もいない周囲を満足げに見回す。

 

ここは、武偵高が乗る人工浮島のハズレに位置する、通称『看板裏』。

 

レインボーブリッジに向けて立てかけてある巨大な看板の裏であり、体育館との間に挟まれた細長い空き地だ。

 

いつも人気(ひとけ)の少ないここをアリアは目ざとく発見していて、2人の調教とチアの練習の場所にしたらしい。

 

「それで、俺達は何をすればいいんだ」

 

さっさと本題に入って欲しく、透は話を切り出す。

 

するとアリアは、ぉほん、と学校の先生のようにわざとらしく咳払いするフリをし、透とキンジ、2人の顔を交互に見上げる。

 

「あたしの中では、あんたたちはSランクの武偵だわ」

 

「お前の中でだけはな」

 

「余計な口を挟まないの」

 

キンジはすかさずツッコミを入れたのだが、二丁拳銃に手を伸ばしたアリアを見て、すぐに沈黙する。

 

強襲科(アサルト)のSランクっていうのは、『1人で特殊部隊1個中隊と同等の戦闘力を有する』って意味の評価なのよ」

 

そう言ったアリアはキンジを見据える。

 

「あんたはそれだけの才能を持ってる。だけど、その力を自由には使えてない。だから必要なのは、あんたを覚醒させる『鍵』だわ」

 

その『鍵』は女性(アリア)に関係しているという事を透は知っているのだが、余計な事は言わないでおく。

 

「で、ハイジャックの後、あたし調べたの───『二重人格』ってものをね」

 

「そうなのか。よく分かったな」

 

アリアのその研究に、キンジはさも感心したような態度で相づちを打つ。

 

「本とかネットで勉強したの。なかなか興味深かったわ。で、あんたにはたぶん幼少期のトラウマによる別人格があって、戦闘時のストレスによってそっちに切り替わるのよ」

 

「なるほど」

 

「自転車ジャックの時も、ハイジャックの時もそうだったもんね」

 

「そうだなあ」

 

「だから───あんたを戦闘のストレスにさらしまくるのが、特訓の第一段階」

 

と言うとアリアは、チアの格好でも背中に隠していたらしい寸詰まりの刀を抜いた。

 

「・・・その話を聞く限り、俺には関係なさそうだな」

 

帰らせてもらう、そう言って透はアリアとキンジに背を向けた。

 

「お、おい、アリア」

 

キンジの驚いたような声に透が振り返ると、刀を振り上げ今にも打ち下ろしそうなアリアの姿が目前に迫っていた。

 

「・・・・・・」

 

それを、透は冷静に───

 

ばちいいいっ!

 

アリアの刀を左右の手で挟んで止めた。

 

「さすがね。あんたならいい見本になってくれると思ってたわ」

 

透が刀を離してやると、アリアはキンジに振り返り近付いていく。

 

「あんたには、真剣白羽取り(エッジ・キャッチング)を覚えてもらうわ」

 

「い、今のをやれってか?」

 

振り返り様にアリアの刀を白羽取りした透にキンジは化け物を見るような目を向けてくる。

 

「で、あんたはそうねぇ・・・銃弾弾き(バッティング)でも覚えてもらおうかしら」

 

そう言ったアリアは二丁拳銃を構えて、すぐさま透に連射してくる。

 

「ちっ」

 

キンッ! キンッ!

 

『鎌鼬』を抜いた透は1発目、2発目と弾き飛ばせはしたが、さすがに3発目以降は厳しいと判断し、『あの技』を使うことにした。

 

透は『鎌鼬』を構えて、その場から微動だにしない。しかし、アリアの銃弾は不自然に1発も当たる事はなかった。

 

アリアの撃った弾が的外れな訳ではない。透に向けて放たれた弾は真っ直ぐ飛んでいき、透の()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お前、それは()()()()・・・!」

 

キンジがハイジャックでの出来事を思い出してか、透に声をかける。

 

「・・・『風守(かざもり)』と言って、『鎌鼬(これ)』の応用技だ」

 

「いったいどうなってるんだ。あの時も俺の目の前で()()()()()()()()

 

「簡単に言えば、『鎌鼬』を中心に球面状の風のバリアを張っているんだ。だから銃弾や矢のような()()()()()()()()()()()()()()()()()事ができる」

 

ハイジャックの時、この技を使い、『鎌鼬』をキンジの前に投げ飛ばし掴ませた。

 

そうした事で『鎌鼬』とキンジを中心に風のバリアを張り、理子の銃弾を(かわ)す事ができた。

 

しかし、『風守』はあくまで銃弾などの遠距離攻撃の軌道を逸らすもの。その為、近接で撃たれたり、近接攻撃には対応できないという欠点もある。

 

「それに、応用技だからな。『精気』も普通に振るうよりも喰われる」

 

「その技を使うのは禁止よ。『精気』ってやつをなるべく使わないためにも出来るだけ、自力で弾けるようにしなさい」

 

一通りの話の流れを聞いていたアリアが2人の話に割り込み、透の特訓プランを簡潔に伝える。

 

「努力する」

 

透は再び帰ろうと背を向けるが、カチャッと不穏な音がしたので、

 

「・・・分かったよ」

 

仕方なしにその場に留まる事にする。

 

キンジは真剣白羽取りのイメトレ。アリアはチアの練習。そして透は目を瞑り、銃弾弾きのイメトレするフリをしながら仮眠を取るのであった。

 

 

 

 

 

今日も強襲科の自由履修を受けていた透は放課後、アリアと一緒に探偵科(インケスタ)棟の前でキンジを待っていた。

 

()ってえ・・・」

 

キンジは未だに痛むのであろう頭をさすりながら、校舎から出てきた。

 

「キーンジ」

 

その姿を見つけたアリアが、とてて、と夕焼けの中を駆け寄っていく。

 

「言っておくが放課後は訓練なんかしないぞ。俺は一般科目の宿題をやるんだからな」

 

「まだ何も言ってないじゃない」

 

「あと強襲科にも戻らないからな。あんな死ね死ね団に戻れってんなら、パートナーは解消だ。俺は来年転校するまで探偵科で平和に暮らす」

 

「まだ何も言ってなーい」

 

アリアはキンジのトゲトゲしい声などどこ吹く風で、とてて、とバス停に向けて歩いていく。

 

「でも朝練は明日もするからね」

 

「俺はもうしなくてもいいだろ」

 

隣で歩く透は『鎌鼬』をバトントワリングのバトンのように高速回転させる事で、銃弾を弾くという実に画期的な方法を今朝のうちに見つけていた。

 

「ダメに決まってるじゃない。あんた1人の時なら良いけど、周りに味方がいる時にあんなことされたら返って危険よ」

 

速攻でアリアに否定される。

 

透の方法は楽といえば楽なのだが、どこに弾が飛んできてどこに当たるか分からないので、弾いた後、その弾がどこに飛んでいくか分からない。

 

跳弾(ちょうだん)によって仲間が傷付く可能性があるのだ。

 

「ねえキンジ、透」

 

「「なんだ」」

 

2人の声がハモる。

 

「ふふ。なんでもなーい」

 

道すがら時々このように振り返り2人がいるのを確認してはランランとセーラー服のスカートをひらつかせて道に戻るアリアに、キンジはゲンナリとした様子を見せる。

 

「お前さぁ、俺達以外のパートナーはもう探さないのか・・・? せめてもう2、3人仲間を加えて、パーティーを組んだ方がいいんじゃないか?」

 

「仲間なんかいらない。みんなで何かやるのってニガテだもん。そもそもあたしは1人でも戦えるし、あたしについてこれるパートナーがいればそれでいいの。あんたたちの調教が仕上がれば、それで十分。あんたたちだけ、いればいいの」

 

まだ頭が痛むのか、それともアリアの話を聞き、さらに頭痛がしてきたのか、キンジはまた頭を押さえる。

 

「・・・頭痛がしてきた。お前にポコポコ叩かれたせいだ」

 

「アスピリンでも飲めば?」

 

「俺は頭痛とかカゼには大和加薬(やまとかやく)の『特濃葛根湯(とくのうかつこんとう)』しか飲まねえんだよ」

 

「とくのう? なにそれ」

 

生薬(しょうやく)の成分を濃縮した、って意味だ。葛根とか麻黄(まおう)とか、漢方薬が色々入ってる」

 

「じじむさ。じゃあそれ飲んでおきなさい。明日もまたぽこぽこする」

 

「ちょうどいま切らしてんだよな・・・あれはアメ横にしか売ってねーし。結構面倒なんだよ、あそこまで行くの。上野と御徒町の中間ぐらいの薬屋で、どっちの駅も遠いし」

 

「キンジ、透」

 

恐らく、キンジの話を聞いてなかったアリアが急に教務科(マスターズ)の前で立ち止まった。

 

「これ見て」

 

びしっ、とアリアが指す掲示板を2人して覗き込むと、

 

『 生徒呼出(よびだし) 2年B組 超能力捜査研究科 星伽白雪(ほとぎしらゆき)

 

白雪が教務科に呼び出しを受けていた。

 

「会長が呼び出しなんて、珍しいな」

 

偏差値75の優等生で生徒会長で園芸部長で女子バレー部長、生活態度も先日のアリア襲撃事件を除けば完璧な模範生の白雪が呼び出されるとは何があったのだろうか。

 

「アリア。このあいだ白雪に襲われたのをチクったのか?」

 

「───あたしは貴族よ」

 

きろっ、とアリアが(あか)い瞳でキンジを睨む。

 

「プライベートな事を告げ口するような卑怯なマネはしないわ。いくら売られたケンカでもね。バカにしないで」

 

アリアは口元に指をあてて少し考えてから、

 

「これはあの凶暴女を遠ざけるいいチャンスだわ。この件を調査して、あいつの弱みを握るわよ!」

 

と秒で先ほどのセリフを反古(ほご)にする卑怯な事を言うのだった。

 

「弱みってなんでだよ。白雪はあれから来てないだろ」

 

「来てるじゃない!」

 

そのアリアの言葉にキンジは驚いた表情を浮かべる。

 

「最近、あたしが1人だとあちこちでドアの前に気配がしたり、物陰から見張られてる感じがしたり、電話が盗聴されてるみたいに断線したり、一般校区でも渡り廊下から水がかけられたり、どこからともなく吹き矢が飛んできたり、落とし穴に落とされたり!」

 

(イジメかよ・・・)

 

後半に連れて内容がエスカレートしていき、透は少し引いてしまう。

 

「『泥棒ネコ!』って書かれた手紙が送られてきたり。ネコのイラストつきで」

 

「それは少しカワイイな」

 

「───とにかく! あたしはあの女に嫌がらせを受けてるのよ! 気付いてないなんて、ほんっとキンジはどこまで鈍感なの! この無能!」

 

「そうだったのか・・・」

 

「それだけならまだいいけど───今日なんか女子更衣室のロッカーを開けたらピアノ線が仕掛けてあったのよ! あたしが・・・その、まあ、身体的な理由によって、ロッカーの奥に潜り込まないと服を取れないのが分かってて、首の位置に仕掛けてあったんだから!」

 

それは、身長の低いアリアがロッカーに潜り込んだら、首をスパッ、といってしまう凶悪なトラップである。

 

「キンジ、透。この白雪が指定されてる呼び出しの時刻、一緒に教務科に潜入するわよ!」

 




『風守』が滅茶苦茶都合の良い技だなぁ、と書きながら思いました。


次は教務科への潜入回ですね。



次回更新までしばらくお待ちくださいませ。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。