今回は透のプロフィールがちょっとだけ判明します。
へーそうなんだーぐらいに捉えて頂ければ大丈夫です。
第33弾です。
東京武偵高は
教師の詰め所にすぎない教務科がなぜ危険なのか。
それは武偵高の教師が、危険人物ばかりだからである。
前職が各国の特殊部隊、傭兵、マフィア、殺し屋などの経歴の持ち主が大集合しているのだ。
「上げるぞ」
忍び込んだ教務科の廊下で、天井裏のダクトに一足先に上がった透がアリアの手を引き、ダクトに上げていく。
続けて、キンジを引き上げた透は通風口のカバーを閉め、
「アリア」
「なに」
「お前、匍匐前進速いな」
「得意なの。強襲科の女子で一番速いわ」
「ああ、ジャマになるものがないからな」
「なにが?」
「胸だ」
ごすっ! と前方から何やら鈍い音が聞こえ、キンジの前進が止まった。
「速く進め」
透が後ろから催促をした為か、キンジはゆっくりと進み始めた。
白雪を───見つけた。
どうやら呼び出しをしていた教師の個室にいるようだ。
透たちは狭い通気口から、部屋の内部をうかがう。
「星伽ぃー・・・」
女にしては低めの、白雪を呼ぶ声。
室内では、先日透もお世話になった綴先生が、黒い革張りのイスで編み上げブーツの足を組んでいた。
白雪は向かいのイスについて、少しうつむいている。
「おまえ最近、急ぅーに成績が下がってるよなー・・・」
ぷは、とタバコの煙を輪っか型に吹いた綴は、黒くて薄い革手袋の手でタバコを灰皿に押しつけた。
「あふぁ・・・まぁ、勉強はどぉーでもいぃーんだけどさぁ」
相変わらず教師らしからぬ発言をする綴に呆れながら、事の様子を眺めていく。
「なーに・・・えーっと・・・あれ・・・あ、変化。変化は気になるんだよね」
簡単な単語を忘れる脳の状態が心配になってしまうこの綴は、実はある一点において恐ろしく有能な武偵である。
尋問。
その技術において、綴は日本でも五本の指に入る名人らしいのだ。
何をされるのかは周囲の人間もほとんど把握していないのだが、綴に尋問されると、どんな口の堅い犯罪者も洗いざらい何でも白状する。その後おかしくなって、綴を女王とか女神とか呼ぶようになるらしいが。
「ねぇー、単刀直入にきくけどさァ。星伽、ひょっとして───アイツにコンタクトされた?」
「
白雪の言葉に、ピクッ、と透とアリアがその眉を動かした。
だが
というのも、その姿を見た者が誰もいないのだ。誘拐されたとされている超偵も、実は別件での失踪だったのではないか、という見方の方が今や多数派である。
だが、透は
なぜなら、そいつは
「それはありません。と言いますか・・・もし仮に
「星伽ぃー。もっと自分に自信を持ちなよォ。アンタは
「そ、そんな」
白雪はぱっつん前髪の下で恥ずかしそうに視線を落としている。
「星伽ぃ、何度も言ったけど、いい加減ボディーガードつけろってば。
「でも・・・ボディーガードは・・・その・・・」
「にゃによぅ」
破った英和辞書らしい紙で妙な草をモゾモゾ巻いた綴は、べろ、とそれをツバで留める。
「私は、幼馴染みの子の、身の回りのお世話をしたくて・・・誰かがいつもそばにいると、その・・・」
「星伽、
「・・・でも、
「これは命令だぞー。大事なことだから、先生2度言いました。3度目はコワイぞー」
タバコに火を
「けほ。は・・・はい。分かりました」
煙に目を細めつつ、白雪はとうとう首を縦に振った。
今までの会話から推察するに、超偵の白雪は、『
なので教務科は、白雪に護衛をつけろと命じた。
しかし、白雪はそれを断り続けていた。
超能力捜査研究科の予言は眉唾モノがほとんどで、諜報科はガセが多くて有名である。しかも敵は、周知として、存在すら怪しまれている
つまり、これは教務科の過保護なのだ。
優等生の白雪は教務科的には期待の星なので、その身に万が一でも何かあってはいけない。なので不確かな情報にも過剰反応して、ボディーガードをつけろと命令しているのだろう。
大人の都合に振り回される白雪には同情したくもなる。だが、今回はボディーガードをつけるべきだ。
と、透が色々と考えていた時。
がしゃん!
と、アリアが、通風口のカバーをパンチでぶち開けた。
「ちょっ・・・! おまッ!」
ブラウスの裾を握るキンジの制止を、キックで振り切ったアリアはダクトから飛び降り、豪快にスカートを
「───
着地と同時に放たれたアリアのセリフに、キンジは驚きのあまりか、身を乗り出し───
「う・・・うおっ!?」
真下にいるアリアめがけて、落っこちてしまった。
「うおっ!?」
「むきゅ!?」
アリアは一瞬せんべいみたいに潰れたが、ぼんっ、とキンジをはね
「き、きき、キンジ! ヘンなとこにそのバカ面つけるんじゃなうにゅえ!?」
赤くなって怒鳴るセリフの途中で、綴にネコづかみされて持ち上げられるアリア。
起き上がったキンジも、グッ、と襟首をつかまれて持ち上げられ、アリア共々、窓際に投げ捨てられた。
「んー? なにこれぇ?」
アリアとキンジの顔をしゃがんで覗き込む綴は、
「なんだぁ。こないだのハイジャックの2人じゃん」
すーっ、とタバコを一気吸いすると、こき、こき、と薄ら笑いを浮かべて、斜め上を見つつ首を鳴らした。
「これは神崎・H・アリア───ガバメントの二丁拳銃に小太刀の二刀流。二つ名は『
綴はアリアのツインテールの根本を片方掴んで、顔を確かめながら、ペラペラとプロフィールを語りだした。
「い、イタイわよっ。それにあたしはマヌケじゃない。貴族は自分の手柄を自慢しない。たとえそれを人が自分の手柄だと
「へー。損なご身分だねぇ。アタシは平民でよかったぁー。そういえば欠点・・・そうそう、アンタ、およ・・・」
「わぁ────!」
何か言いかけた綴の言葉を、アリアは両手をバタバタさせつつ大声でジャミングした。
「そそ、それは弱点じゃないわ! 浮き輪があれば大丈夫だもんっ!」
意外な事を知ってしまった。
どうやらアリアは泳げないらしい。
「んで、こちらは、遠山キンジくん」
綴は慌てるアリアから手を放すと、キンジの方を見た。
「あー・・・俺は来たくなかったんですが、
「性格は非社交的。他人から距離を置く傾向あり。しかし、強襲科の生徒には遠山に一目置いている者も多く、潜在的には、ある種のカリスマ性を備えているものと思われる。
「俺に聞かないでください」
「
キンジはギクッと焦りを含んだ表情を浮かべる。
「あー、いや・・・それはこの間ハイジャックで壊れました。今は米軍から払い下げたっていう安物で間に合わせてます。当然、合法の」
「へへぇー。
「うわちっ!」
じゅっ! と、一瞬だけ肉が焼けるような音が聞こえた。
笑いながら怒るという顔芸を見せた綴がキンジの手にタバコを押し付けたのだ。
「んで、嘘発見器はいつまで隠れてるつもりなのかなー?」
ダクトを見上げる綴と目が合ってしまったので、透は仕方なしに室内に降りる事にする。
「装備科Bランクに留まっているが、自由履修の評価を見る限り、超能力捜査研究科と
無言で姿を現した透を見ながら、アリアやキンジ同様、綴は思い出すように透のデータを話し出す。
「
「余計なお世話です」
キンジやアリアの方をチラッと見ると、2人は目を丸くし、綴の言っていた事が信じられないと言った表情をしていた。
アリアには昔のことを話したはずなのだが、いまいち信じきれてなかったのだろう。
「でぇー? どういう意味? 『ボディーガードをやる』ってのは」
黒いおかっぱ頭を向けた綴の前で、アリアは勢いよく立ち上がった。
「言った通りよ。白雪のボディーガード、24時間体制、あたしが無償で引き受けるわ!」
「・・・星伽。なんか知らないけど、Sランクの武偵が
黒いコートの裾を揺らして振り返った綴に、白雪は、
「い・・・いやです! アリアがいつも一緒だなんて、けがらわしい! それに・・・」
ぱっつん前髪の下の眉毛をつり上げ、予想通りのリアクションを見せた後、透の方を一瞬だけ見て、すぐに目をそらした。
「───あたしにボディーガードをさせないと、コイツを撃つわよ!」
アリアは
「き・・・キンちゃん!」
はわっ、と両手を口に手を当てて慌てる白雪。
計画通り───といった感じの、邪悪な笑みを浮かべるアリア。
「ふぅーん・・・そぉかぁー。そぉいう人間関係かぁー。で? どーすんのさ星伽は?」
何が面白いのか、この状況をニヤニヤと見ている綴。
「じ、じょ、条件があります!」
両腕をぴんと真下に伸ばし、涙目をぎゅーっと閉じて、白雪が叫んだ。
「キンちゃんも私の護衛をして! 24時間体制で!」
白雪の涙声が綴の部屋に響く。
「私も、私も、キンちゃんと一緒に暮らすぅー!」
その白雪の言葉に、キンジの体からは、ひゅう、と、キンジの形をした何かが出ていくのであった。
次回の構想があんまり上手く練られていないので、更新が遅くなりそうです。
思い付いたら思い付いたで、早目に投稿できるように頑張りますので、楽しみにしてくださっている方は、しばしお待ちくださいませ。