間隔が空くわりには内容が濃い訳でもない…
年末年始休みなので、この期間中にもう一話ぐらい投稿できたらとは思ってます。
第36弾です
「お兄ちゃん、あそこだよ。見て見て!」
山中にある家の縁側に座り、少女が興奮した様子で指差すのは、満天の星空。
都市部では街明かりで、ここまで綺麗に目に映す事は叶わないであろう。
「美沙は本当に星が好きだなぁ」
晴れた日の夜にはほぼ毎日、こうして星を眺める妹の姿を見て、少年は半ば呆れつつも微笑ましく感じていた。
「もー、いいから早く見てよ。ほら、あそこ『いて座』だよ」
学校で天体を習ってからいつもこうだ。少女は、自分の誕生星座である『射手座』が特に気に入っていた。
「あー、あのすごく輝いてる6つの星が目印だっけ?」
「うん!『南斗六星』って言って、こう・・・胸から弓にかけて輝いてるんだよ!」
少女は星座の射手を真似て、自身も弓を構えるようなポーズを決めながら少年に説明をする。
「で、あの星座はケイローンって人がなったんだろ?」
何度も聞かされた話。少年は射手座の知識だけは無駄に身に付いてしまっていた。
「ケイローンは人じゃないよ! 上は人だけど、下はお馬さんの姿をしたケンタウロスっていう種族なんだよ!」
「ごめんごめん。そうだったな」
「ケンタウロスはすごく凶暴らしいんだけど、ケイローンは『れーがい』的に、頭も性格も良かったんだって!」
少女はケイローンという存在を知ってから彼に夢中だった。というか、崇拝していた。
この頃から彼に憧れて弓道を始めるようになり、将来は彼のような人と結婚したいと言ってしまう程である。
「それも何回も聞いたよ」
少年は徐々にヒートアップして話をする少女を落ち着かせるように笑いかけながら、ポンッと手を少女の頭の上に乗せた。
「むー、別にいいじゃん」
少女は膨れっ面になり、まだ話し足りないアピールをしてくる。
少女の話を遮ってしまうと、大抵はこのようにいじけてしまう。
「分かった。じゃあ、今度はおひつじ座の話をしてくれよ」
なので、少年は自分の誕生星座の話を振ることで、少女のご機嫌を取るようにしていた。
少女はパアッ、と笑顔になり、
「うん! えっとね、おひつじ座はね───」
いつものように
────
懐かしい記憶と共に、透は目を覚ます。
昔の事を夢に見るなんて、自分では意識しないようにしていたのだが、先日、白雪に言われた占いの結果を気にしているのだろう。
壁にかけられた時計を見ると、既に夜9時を回っていた。
放課後、アドシアードの準備委員会があるという白雪の護衛をキンジに任せて、透は
地上1階・地下3階の建物で、自身に与えられたB205作業室に
(帰るか・・・)
思ったよりも作業は出来なかったが、それは夜中の起きている時に少しずつ進めよう。
透は帰り支度をし、あくびを噛み殺しながら部屋を出て行こうとする。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
扉を開けると、人形のように直立不動の姿勢をとる少女の姿があった。
透と目が合うが、じっと見てくるだけで何も話しかけてこない。
「レキ」
その少女の名前を透は口に出す。
レキは肩から少しズレてしまったドラグノフ狙撃銃を自然に肩にかけ直すと、はい、と頷いた。
しかし、それ以降は何も話はしてこない。ただ、じっと透の事を見据えていた。
「・・・初めまして、だな」
「初めましてではありません」
何か要件があるのだろう、と思った透は話を持ち出す為にとりあえず挨拶をしたのだが、何故かレキに否定される。
「透さんとは
国語の先生のように指摘してくるレキにそういう意味で言った訳ではないのだが、と思いつつも、
「こうやって面と向かって会話をするのは『初めまして』だな」
皮肉を交えて挨拶し直した。
するとレキも納得したのか、こくりと頷く。
「それで、いつからそこで待っていたんだ?」
「18時21分43秒からです」
何故、秒数まで細かく答えるというツッコミを心の中で抑えながら、レキの回答に透は驚愕した。
既に3時間近く経っているという事はもちろん、廊下を行き来する生徒たちは何も思わなかったのだろうか。
それにずっと待ち続けていたレキもレキだ。寝てしまっていた自分が悪いと言えば悪いのだが、出て来ないのであれば、日を改めて出直すなどの手段は取れたはずだ。
「その・・・長いこと待たせてしまってすまない。俺に何か用でもあったのか」
「はい。
少しでも安く購入したいと装備科の生徒の所で銃弾などを買いに来る生徒は少なくはないのだが、銃弾の部品を求めて訪ねてくる生徒は珍しい。
「ドラグノフということは
「構いません」
そう言うので、透は作業室の中へ戻りレキを引き入れる。
「よく俺が銃弾の部品を持ってる事を知ってたな」
プロ意識の高い生徒などは部品から銃弾を作成する者もいるが、それはごく少数派なので、部品そのものを取り扱っている装備科の生徒も少数である。
「
「平賀に?」
透と同じ装備科に所属する平賀
ランクは『A』なのだが、それは違法改造や相場無視の吹っ掛け価格の改造の為であり、本来はSランクの実力を持っている。
「はい。普段は平賀さんから購入しているのですが、あいにく在庫切れだったようで。透さんなら恐らく持っていると教えていただきました」
「そうなのか」
透は棚に置いてある薬莢の入った箱や火薬の入った紙袋を取り、一度デスクの上に置いた。
そして、その引き出しから『ピアス』と油性マジックで書かれた不透明なプラスチックケースを取り出す。中身を確認すると10発分残っていた。
「これでいいか?」
透は手招きでレキを呼び寄せて、デスクの上に並べた注文の品を確認させる。
すると、レキは薬莢の箱を手に取り、
「こちらの箱、開封されているようですが」
と目ざとく指摘し箱を開けた。
「ああ、これは検品するために開けた。ただ安く仕入れて横流しするだけじゃ意味ないからな」
透は本来20発入りだが、19発しか入っていない箱の中身を見ながら説明する。
「それは1発だけ僅かなへこみがあったから一応取り除いた。もし必要なら元に戻すが」
透は武器や部品類を仕入れる際、毎回一つ残らず検品を行う。
今回の場合、薬莢に小さなヘコみがあり、さして問題ないレベルだったのだが、
購入者が欲しいという事もありえたので、破棄はせずに一応残してはいる。
「いえ、そういう事でしたら構いません」
レキは無表情に平坦な声でそう言った。
「それなら、要件はこれで終わりだな。さっさと帰ろう」
「まだお支払いを済ませていません」
スクールバッグを持ち、改めて帰宅しようとする透をレキが引き留める。
「払わなくていい。長いこと待たせたお詫びだ」
『時は金なり』とも言う。自分が寝ていたばかりに、レキの時間を拘束してしまったのだ。その上、急な注文だったので大した量も用意出来なかった。
別段、金銭面に苦労している訳でもないのでこれくらいのサービスは安いものだ。むしろ、これで新しい顧客とのパイプが出来るのなら御の字である。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
レキは余計な詮索をしてこないで、素直に受け取ってくれた。
「部屋閉めるぞ」
荷物を持ったまま部屋の中に佇むレキに一言そう投げ掛けると、レキは、こくり、と頷きゆっくりとした足取りで部屋から出るのだった。
レキとは特に会話する事もなく装備科棟から出てきた透は白雪のボディーガードをする為に第3男子寮方面に足を向ける。
「透さん」
その抑揚のない声に呼び止められて振り返る。
「ここ数日は、風の流れが良くありません。気を付けてください」
「風?」
「はい」
「・・・よく分からないが、常に注意は払っておく」
白雪に続いて、レキからも不穏な事を言われてしまった。
言っている内容は不明瞭だが、警戒しておくに越した事はないだろう。
透は少し気に止めつつ、レキと別れるのだった。
○
キンジの部屋の前に着いた頃には10時を回っていた。
ボディーガードの任務中だと言うのに、少し遅くなり過ぎてしまった事に反省しつつドアを開けると、床に着いた真新しい弾痕が目に映る。
それは廊下から奥へと続いており、透も追うようにしてリビングまで進むと、ソファーに座りご立腹な様子でももまんを食べるアリアと窓ガラスが割れたベランダで慌てながら何か叫ぶ白雪の姿があった。
キンジの姿はない。
「・・・何があった?」
「エロ武偵を処分したのよ」
何をしでかしたのか、キンジはどうやら処分されたらしい。
「処分ってどこに」
「知らないわよ!下に落ちてったわ!」
矛盾した答えが返ってくる辺り、相当荒れているのがよく分かる。
「キンちゃーん! ご無事ですかー!」
よく聞けば、白雪は下方に向けて、声を出していた。東京湾に落ちたであろうキンジに声をかけているのだろう。
救出に行くべきだろうか。そう思いもしたが、アリアが落ち着くまでは会わせない方が良いだろう。その間に自力で戻れるはずだ。
という考えで、透はその場に留まる事にした。
翌日、キンジは見事に風邪を引いてしまうのだった。
今回はレキ初登場回となりました。
本当ならバスジャックで登場するはずだったのに、オリジナル展開をぶちこんだせいで、登場させることができず今回無理やりぶちこむことになりました。
次回は、年始ぐらいに投稿できるように努力します。