緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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サブタイトルのやっつけ感・・・ひどいですね(笑)



このお話から3~4話くらいはGW期間中のお話でも書こうかな、と。



今回は透とあの人のお話です。
と言っても中身はほとんど原作です。
その上、いつも以上にボリュームが増えてしまった。


第39弾です。






第39弾~5月2日~

GW(ゴールデンウィーク)が始まり武偵高も今日から4連休となった。

 

一時的にボディーガードを抜けたとはいえ、最低限の仕事はするということで、アリアは朝早くにキンジの部屋が覗ける位置にあるというレキの部屋へと向かっていた。

 

そこからレキと共に見張りを行うのだろう。

 

かくいう透も昨夜は立地上、部屋の中は見れないので、寮の屋上からせめてキンジの部屋のドアを夜通しで見張っていた。

 

4月に理子の指示で設置した盗聴器をそのまま活用し、キンジと白雪の会話を聞いたところ、5月5日に花火大会に出かけるようだが、それ以外の日は部屋にこもるそうだ。

 

5月4日までは魔剣(デュランダル)も下手に手出ししてこないだろう、と暫定(ざんてい)的に気持ちの余裕を作り、日中寝ようとしたのだが、()()()()から連絡が入り、透は武偵病院まで足を運んでいた。

 

階段を上がっていき、指示された病室の前まで来るとノックもせずにその扉を開けた。

 

「こんなところで何してる」

 

ベッドの上にいる人物を見て透は顔を引きつらせる。メールを見て来たのだから知ってはいたのだが、それでもそうならずにはいられなかった。

 

()()()・・・!」

 

先日、あかりに逮捕されたはずの夾竹桃。尋問科(ダキュラ)に取り調べられて、ののかの符丁毒の解毒方法も吐いた彼女が何故、ここにいるのか。

 

「何って・・・見ての通り作業よ」

 

上体を起こし、ベッドに設置されたテーブルの上でペンを走らせる夾竹桃はマンガを描いていた。

 

「そういうことを訊いてるんじゃない」

 

透は手に持っていたビニール袋を夾竹桃のベッドの上に投げた。

 

「あなたも律儀ね」

 

夾竹桃はクスリと笑うと、透に見せつけるようにビニール袋からマンガ原稿用紙を取り出す。

 

「俺が聞きたいのは捕まったはずのお前が何でここに入院しているのかってことだ」

 

()()()()は済ませてるわよ」

 

───司法取引。

 

アメリカでは当たり前のこの制度は、犯罪者が犯罪捜査に協力したり共犯者を告発することで、罪を軽減、もしくは無かったことにできる制度である。

 

これは法の公正さを損ない、偽証や冤罪を生み易いなどのリスクを(ともな)う危険な制度なのだが、増加する犯罪に司法が対応しきれなくなった日本でも、近年導入された。

 

「ならなおさらだ。なんで入院してる」

 

「そうね・・・まずは()()()あったことから話そうかしら」

 

 

 

 

 

符丁毒によってののかが入院してから4日目の夜。

 

夾竹桃の携帯にあかりから『話がしたいの』とメールが入ったのですぐに返信をした。

 

『メールうれしいわ。ホテルLAST DANCE 403号室に泊まってるから、いつでもいらっしゃい』

 

この4日間であかりがどのような結論を出したのかは分からない。

 

大人しく自分の言うことを聞く気になったのか、それとも仲間と共に抵抗してくるのか。

 

間宮の秘毒『鷹捲(たかまくり)』を手に入れられるなら、どちらでも構わない。

 

もう間もなく来るであろうお客様を迎えるため、シャワールームで身体を洗い流していると誰かが入ってくる気配を感じた。

 

あかりがやって来たのだろう。

 

長い黒髪の一部をまとめる白いリボンを手にして、裸のままシャワールームを出ていく。

 

「あら」

 

リビングルームでUZIを手に、警戒していたあかりと目が合う。

 

「・・・!」

 

裸の夾竹桃と鉢合うことになると思わなかったあかりは、わたわた、とUZIを落としかけた。

 

「えっち」

 

そのあかりのオーバーな反応がちょっと可愛いと感じた夾竹桃は無表情のままからかうように、そんなことを言う。

 

「ふ、服着て! 話があって来たの!」

 

あかりは取り急ぎ、夾竹桃の裸から視線を逸らしてそう告げてくる。

 

「・・・・・・」

 

夾竹桃は黙ってクローゼットを開き、服を取り出していく。

 

「取引はシンプルよ」

 

あかりに背を向けたまま、髪の白リボンを結んだ夾竹桃が不意に話し始める。

 

「ののかの『符丁毒』の解毒剤と、間宮の秘毒『鷹捲』を交換。あなたの身柄も、オマケで頂戴」

 

条件ー提示する夾竹桃が下着をつけていく、(なま)めかしい衣擦(きぬず)れの音が(かす)かにする中、

 

「鷹捲は毒じゃない」

 

あかりは夾竹桃の発言を一部、否定する。

 

「トボケちゃって」

 

と、夾竹桃はあかりの足元に、和綴(わと)じの本を放った。

 

バサリと床に落ちたその本の表紙には『間宮奥伝其之伍』の文字が記されている。

 

これは、2年前の襲撃時に間宮町から奪い取った秘伝書の1つである。

 

この書物には夾竹桃が欲する『鷹捲』とその派生技が載っていた。

 

しかし、その中身は効果や使い方のヒントしか書かれておらず、夾竹桃はどんな技なのかまでは分からなかった。

 

私服にしている黒い長袖のセーラー服を着ながら、夾竹桃は、

 

「それには『千本の矢をスリ抜け』『一触れで死を打ち込む』『死体に傷が残らない技』とあったわ───そんなもの、経皮(けいひ)毒しかあり得ないでしょ」

 

鷹捲について語り続ける。

 

「鷹捲は・・・難しいの。あたしも3回に1回しか成功しない。実戦じゃ使えないよ」

 

あかりは、あくまで鷹捲については教えない態度を貫く。

 

「・・・無味無臭で水溶性の砒素(ひそ)。1kgあれば人類を絶滅させられる、ボツリヌス菌。野に咲く経口毒───夾竹桃───」

 

夾竹桃は1つ、また1つと、毒について語っていく。

 

そして、着替え中の敵を気遣い、時々にしか警戒の視線を向けて来ないあかりをまだまだ甘いと感じながら、一気に距離を詰める。

 

「私ね、自分の知らない毒がこの世にある事が許せないの」

 

セーラー服に着替え終わった夾竹桃は、あかりに甘えるように身体を密着させる。

 

「・・・ねえ、頂戴? 鷹捲・・・欲しいの。欲しくて欲しくてたまらないの」

 

あかりの両肩に、そっと手を置いた夾竹桃は耳元で、甘く、色っぽく(ささや)いた。

 

「───渡せないよ! あなたみたいな人には!」

 

あかりは怒りながら距離を取りつつ振り返る。

 

「このホテルは、もうあたしの仲間が包囲してる」

 

UZIを向けて、あかりは警告してきた。

 

「まあ、ビックリだわ」

 

この4日間で出したあかりの答えを知った夾竹桃は小馬鹿にしたような感じで、わざとらしく少し驚く仕草をしてみた。

 

武偵高(うち)じゃ包囲陣は1年で習うもん」

 

あかりは何を勘違いしているのだろうか。

 

「違うわよ」

 

仲間と一緒に攻めてくることは想定内。

 

「雨蛙が毒蛇に刃向かう事に、驚いてるの」

 

あかりはもう少し利口だと思っていた。

 

なのでどちらかと言えば自己犠牲の精神で1人だけで来る可能性の方が高いと考えていた。

 

しかし、蓋を開けてみれば仲間を巻き込んでの戦闘。夾竹桃の驚きとは可能性が低いと思っていた方がきたことの驚き。

 

問題ないことには変わりないのだ。

 

「最後のチャンスをあげる」

 

夾竹桃は、あかりに向けて、スッと右手を差し出した。

 

「イ・ウーにおいで、あかり。()()()()()()()()

 

「・・・アリア先輩に聞いたよ。イ・ウーっていうのは、人に話しちゃいけないほど危険な、秘密結社。無法者の、国際組織・・・!」

 

「私が可愛がって、育ててあげる。強くなれるわよ───あの神崎・H・アリアよりも」

 

「あなたの物になんか、なるもんか!」

 

あかりはパッ、と身を(ひね)って後ろに跳び、ブラウスの中に隠し持っていた小型の閃光手榴弾(スタングレネード)を投げつけてきた。

 

スプレー缶のような形の本体から、ピンとレバーが外れ、激しい閃光と爆発音が弾けた。

 

もちろんこの程度の攻撃でやられる夾竹桃ではない。

 

それはあかりも分かっているはずだ。なのでこの攻撃はホテルの周囲にいるという仲間への合図。そう考えるのが妥当だろう。

 

「キョウチクトウの花言葉は───『危険な愛』───」

 

自らの名の由来となった花について語る夾竹桃の声は、風に乗って()()()()へと流れていく。

 

「!!」

 

煙が晴れ、夾竹桃の声に気付いたあかりは驚愕の顔をしていた。

 

夾竹桃は、ベランダの、さらに外側。()()に避難していたのだ。

 

別に浮遊術が使えるわけではない。目に見えないほど細いワイヤーを空中に張って、その上に立っているだけ。

 

───TNK(ツイステッドナノケブラー)ワイヤー。

 

武偵高の防弾制服にも織り込まれてる極細のワイヤーは、ベランダの手すり、外の車道脇の街灯、さらに周囲の雑居ビルに、クモの巣のごとく張り巡らされている。

 

夾竹桃が事前に準備しておいた脱出経路である。

 

「遊びましょ」

 

満月を背に、あかりを見下ろした。

 

「あなたの投降が先か、お友達の全滅が先か・・・今夜は、2年前よりやりやすいの」

 

にぃっ・・・と、夾竹桃は笑みを浮かべる。

 

「皆殺しにしてもいいルールだから」

 

そう言って夾竹桃はヒラリと別のワイヤーへと飛び移った。長めのスカートを跳ねさせて。

 

パッ、パッ、と夾竹桃はワイヤーからワイヤーへ、空中を飛ぶように渡っていく。

 

あっという間にホテルから離れていき、夾竹桃はビルの向こうへと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

「・・・それじゃあ、その時の戦闘で負ったダメージがまだ()えてないということか?」

 

話に区切りが着いたタイミングで透は簡潔に結論を出した。

 

「結論を急ぎ過ぎよ。話はまだ続くわ」

 

そう言った夾竹桃はベッドから降り、立ち上がった。

 

「どこへ行くんだ」

 

患者服を着用した夾竹桃は透の横を通り、病室を出て行こうとする。

 

これまではセーラー服姿しか見たことがなかったので少し新鮮だった。

 

「薬の時間よ。あなたもついてきてちょうだい」

 

と言われたので、後を追っていくと着いた所は屋上であった。

 

「薬って、それか・・・」

 

呆れたように呟く透の目に映るのは煙管(キセル)(くわ)えて、フーッ、と煙を吹く夾竹桃の姿。

 

「・・・その後、私は風魔陽菜、火野ライカに襲われたけど返り討ちにしてあげたわ」

 

「唐突に話を再開させるな」

 

 

 

 

 

風魔とライカを撃退した夾竹桃はレインボーブリッジまで来ていた。

 

径間(けいかん)570mもある長大な吊り橋部の、ど真ん中。通常は作業員などが歩いて渡る、鋼材を格子状に組んだグレーチング床の通路上。

 

そこで、夾竹桃は大型トランクをベンチ代わりにして腰掛け、煙管を吸いながら海を眺めていた。

 

「・・・夾竹桃!」

 

15m程離れた地点から、あかりが力いっぱいその名を叫んできた。両手で握ったマイクロUZIを、しっかりとこちらへ向けて。

 

「お礼を頂戴。こんな所に、決戦の舞台を作ってあげたんだから」

 

夾竹桃は知っていた。この場所があかりがアリアと戦姉妹契約試験(アミカチャンスマッチ)を行った場所であることを。

 

「ふざけないで!」

 

そして、その試験に合格し、アリアの戦妹(アミカ)になった大切な場所であることを。

 

「ここは、あたしの思い出の場所なの。犯罪者にいてほしくない!」

 

怒りがこもった声であかりは叫んだ。

 

一方、夾竹桃は静かに笑いながら、あかりの方を向き、見えないワイングラスを持つように開いた左手の毒爪を見せつける。

 

「私は猛毒───あなたごときじゃ消毒できないわよ?」

 

「・・・・・・」

 

その左手を見たあかりの表情には明らかな緊張が走っていた。

 

「そのトランク・・・どこか高跳びするつもり?」

 

「これ?」

 

夾竹桃は、煙管でお尻の下のトランクを指し示した。

 

「イ・ウーで、ココに押し売りされたのよ。私は非力だから、いらないって言ったのに・・・『無反動だから』って・・・」

 

夾竹桃は話しながらトランクの留め金2つを同時に外した。

 

「でも、持ってきて良かったかもね」

 

するとトランクが開き、がしゃがしゃがしゃ、と強力なスプリング音を上げて、中に折りたたまれていた黒い機械が、ものの3秒で自動的に組み上がる。

 

6本の銃身をハチの巣のように束ねた、マットブラックの、武骨で凶悪な機関砲。

 

それを夾竹桃は悠々と持ち上げる。

 

「あからさまに距離を置くなんて、失敬よ」

 

毒手を警戒するにしても不自然なほどの間合いに夾竹桃はある確信を持っていた。

 

あかりのマイクロUZIの推奨交戦距離──10m以内よりも離れた立ち位置。そして、未だに姿を見せていない佐々木志乃の存在。

 

志乃がどこからか自分を狙っていることは明白だった。

 

居場所は分からない。だが、分からないなら()()()()()()()()

 

夾竹桃はガトリングガンの銃口をあかりに向け、あっさりと、トリガーを引いた。

 

キュウイイインと音を立てて、銃身が回転を始める。軽量化のためなやモーター駆動のバッテリーやコンデンサーは弱いものに換装されている。その為、連射に至るまでのスピンアップの時間が若干長い。

 

だが、それでもこのような機関砲を、細腕の夾竹桃が単身保持射撃できるワケがない。

 

そうあかりは思い込んでいるだろう。その思いを蹴散らすように、ココッ! ココココッ! と、銃身後端に増設された同軸同期ノズルが吠え声を上げ始めた。

 

この機関砲には、発砲の反動を電気的に検知して打ち消す、バランサー・ブースターが搭載されている。

 

夾竹桃は初めに言っていた。『無反動』だと。それに気付いていたところで今さら逃げる(すべ)は残されてはないのだが。

 

───バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

無数の弾丸が無抵抗なあかり目掛けて襲いかかる。

 

無反動といっても多少のブレから閑散気味にはなるが、それでもあかりの全身にくまなく飛びかかる。

 

頭部への被弾を防ごうと、マイクロUZIを盾にすべく顔の前に掲げた時、夾竹桃の予想通り、一つの影が間に割って入ってきた。

 

「───あかりちゃんッ!」

 

グレーチング下から飛び出してきた()()巌流(がんりゅう)の太刀・物干し竿をのわずかな面積を盾にして、弾から、背後のあかりを守る為に自らの身体もまた、盾にした。

 

機関砲の弾は物干し竿をチーズのように貫通し、志乃は全身にに何発も被弾した。

 

腕、胸、腰、脚に当たり、(かす)め、こめかみにも弾が掠め、血飛沫(ちしぶき)が散る。

 

銃弾の嵐に吹き飛ばされた志乃は、のけぞって驚愕した顔のあかり目掛けて、背中からぶつかっていった。

 

「志乃ちゃん・・・?」

 

その体を受け止めたあかりは、目の前で起きた出来事をすぐには受け入れられないといった感じだった。

 

しかし、動かない志乃や全身から溢れ出る出血を見ているうちに、現実を受け入れざるを得なくなる。

 

オロオロと涙を(にじ)ませるあかりの目はやがて、夾竹桃に向けられた。

 

新しい銃弾ベルトを装填している夾竹桃の顔を、あかりは唇を噛みつつ、睨みつける。

 

「・・・あかり、ちゃん・・・」

 

「志乃ちゃん!?」

 

朦朧(もうろう)としつつも、志乃は(かす)かに意識が残っていたようだ。

 

「ぶ、武偵憲章10条・・・諦めるな、武偵は決して、諦めるな・・・」

 

志乃はうわ言のように、最後の力を振り絞るように───

 

「あかりちゃんは、武偵高での、あかりちゃんのまま・・・武偵であることを・・・あきらめないで・・・」

 

───その言葉の直後、がくっ、と志乃の体から一気に力が抜けた。

 

「志乃ちゃん・・・志乃ちゃん・・・?」

 

それを最後に、動かなくなった志乃を抱きしめて───

 

「───志乃ちゃあああん!!」

 

あかりの絶叫が、レインボーブリッジにこだまする。

 

「本当は、毒に苦しむ姿を見たかったんだけど」

 

夾竹桃にとって、志乃を機関砲で倒してしまったのは()()()()()結末である。

 

しかし、その言葉が引き金になったのか、あかりは泣き止んだ。

 

志乃を、歩道にそっと寝かせて立ち上がると、夾竹桃の方へ数歩歩み寄ってきた。

 

「投降する気になった・・・っていう目じゃないわね?」

 

あかりの目からは強い闘志が感じられる。

 

夾竹桃は、がちゃっ、とガトリングガンを射撃モードに戻した。

 

あかりは、応えなかった。

 

返事の代わりに、足を踏みしめた。

 

古流空手の構えのように、膝を曲げて腰を下ろし、開手の右手は前に突き出し、同じく開いた左手は引いて首筋の辺りに置く。

 

この時、両方の腕と手首は可動域の限界まで(ねじ)れていた。

 

捻った2つの掌が、天を向く。

 

上下は逆さまだが、その十指は獲物を捕らえる鷹の足先のように曲げてある。

 

明らかに通常の武道技とは異なる、その異様な構えを前に、

 

「なに、それ」

 

夾竹桃は、少し眼を見開いて尋ねた。

 

ガトリングガンを相手に、あかりがマイクロUZIを拾うでもなく、素手で構えたからだ。

 

「──鷹捲──」

 

あかりが、その技名を告げる。

 

間宮流の奥義。その1つ。

 

『千本の矢をスリ抜け』『一触れで死を打ち込む』『死体に傷が残らない技』。

 

間宮の必殺技を向けられた夾竹桃は、一瞬の驚きに続けて───

 

「そう。そうだったの」

 

やったわ、と、喜びに目を細める。

 

「あなたも私と同じ()()使()()だったのね。灯台下暗しだったわ。その手に、塗っていたのね」

 

夾竹桃は興奮気味にその言葉を発する。

 

「・・・中距離で使える毒手・・・あなたの、その手に塗っているのね・・・!」

 

普段はクールな夾竹桃だが、今は高揚を隠そうともしていない。

 

その細い体をワクワク、ゾクゾク、と震えさせている。

 

「『約束練習』みたいだけど──」

 

夾竹桃がトリガーを引く指に力を入れた瞬間に、あかりは地面を強く蹴って前に出た。

 

スピンアップした銃身の束が、

 

「───『千本の矢』は、私がやってあげるわ!」

 

歓喜の色に満ちた夾竹桃の叫びと共に、バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!

 

と、猛スピードで回転しながら、数えきれないほどの弾をバラ()く。駆け寄ってくるあかりへと。

 

襲い来る銃弾の方へと全力疾走し、その場でスピンさせ、頭から真っ直ぐ、地面と平行に飛ぶ。

 

伸ばした全身をネジのように回転させつつ、夾竹桃の方へ。この時、両腕も、ねじれを解くように回転させ、回転運動をさらに強めていく。

 

あかりは、右手を前方へ突き出す。この状態でガトリングガンに突っ込む事で、弾幕に向かう面積は最小限となった。

 

ガトリングガンが放った無数の弾の隙間を、あかりがスリ抜けてくる。

 

「───!」

 

その様子に、夾竹桃は眼を見開いた。

 

銃撃の止んだ瞬間、地面と平行に飛翔(ひしょう)したあかりが、夾竹桃へと無傷で到達する。

 

「──っ──!」

 

あかりの指先がガトリングガンの先端に触れた、その瞬間。

 

バチィィイィィィイイィィッ!!

 

電気が弾けるような音が鳴り響く。

 

それと同時に、ガトリングガンが先端の中心から・・・バリッ・・・バリバリバリッ・・・バリッ!

 

()()、していく。

 

チタン合金の銃身が。タングステン合金のパーツが。鉛と真鍮(しんちゅう)の銃弾さえも。そのガンパウダーの1粒子さえも。

 

文字通り、粉々に破壊していく。

 

非現実的なその光景は、ガトリングガンの先端から中程へと進んでいく。

 

進むほどに砕け方は大味になっていくが、まだガトリングガンの本体はバリバリと引き裂かれるように割れていく。

 

そして、ついに破滅の振動は銃を持つ夾竹桃の手元へ───

 

「───!?」

 

──バッ!──

 

感電するように腕から全身へと、その振動が伝わってくる。

 

悲鳴すら上げられず、夾竹桃の黒セーラー服とスカートが四散していく。

 

その勢いは凄まじく、夾竹桃は、純白の木綿下着姿で、のけ反ったまま、柵の無いレインボーブリッジの縁から海へと落ちていく。

 

短い意識の途絶(とぜつ)から、落下する感覚で夾竹桃は目を覚ました。

 

(毒じゃ・・・なかった)

 

ホテルであかりが言っていた、『鷹捲は毒じゃない』───

 

自分は、毒であって欲しいと思うあまり、それを出まかせと決めつけていた。

 

しかし、あかりのあの発言は事実だったのだ。あの時それを少しでも考慮していれば、このような結果にならなかったかもしれない。

 

だが、時すでに遅しだ。勝敗は決した。

 

鷹捲の影響で、体はピクリとも動かない。痛みとも痺れともつかないダメージで、力が入らない。筋肉という筋肉が痺れきっているのだ。

 

だが、動けたところで、どうなるものでもない。

 

下は、海なのだから。

 

はじめ背を下に、次第に頭を下にしながら───

 

夾竹桃は、真っ逆さまに暗い海面へと近付いていく。

 

(どうしよう)

 

少し涙ぐむが、もはやどうする事もできない。何も、できない。

 

(・・・私、泳げない)

 

夾竹桃は海に落ちた。

 

(・・・?)

 

水面にぶつかった衝撃で意識が朦朧とする中、泳げないはずの自分の体が誰かの手によって浮上していく。

 

「ぷはあぁ!」

 

「・・・?」

 

夾竹桃はうっすらと眼を開く。

 

自分を抱きかかえ、海面まで浮かび上がらせてくれたのは、あかりだった。

 

なぜ、どうして自分を助けたのだろうか。

 

「逮捕!」

 

夾竹桃の左手首に、あかりがスカートの中に隠し持っていた手錠がかかるのだった。

 

 

 

 

 

「───唯一、符丁毒の解毒方法を知っている私を死なせる訳にはいかないものね」

 

今、改めて考えればあかりの行動は理解できる。

 

夾竹桃はそう言った感じに、煙と一緒に言葉を吐く。

 

「それだけじゃない」

 

しかし、透は夾竹桃の解釈を一部否定した。

 

「武偵法9条『武偵は如何(いか)なる状況に()いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』───あかりは最後まで武偵としてお前と戦い、お前を逮捕した」

 

「・・・なにそれ」

 

綺麗事を守り通したあかりを馬鹿にするような目つきになる夾竹桃。

 

無法の世界で生きてきた夾竹桃にとって法とは(わずら)わしい(かせ)のようなもの。

 

あかりの事を理解できるのはまだまだ先になるのかもしれない。

 

「その、お前を仕留めた『鷹捲』ってどんな技だったんだ」

 

「物体の内側から破壊していく()()()よ」

 

夾竹桃は簡潔に答えた。

 

「じゃあ、その振動技が手痛く、未だに引きずっていて入院しているのか」

 

「せっかちね。まだ話は終わってないわ」

 

「まだ続くのか・・・」

 

 

 

 

手錠をかけられた夾竹桃は、あかりに連れられるようにして近くの橋脚(きょうきゃく)に上陸していた。

 

あかりは上陸してすぐ、どこかへ連絡を取っていた。

 

恐らく、武偵高へ自分たちを拾う船の手配をしているのだろう。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

電話を終えたあかりは座り込み、しばらく無言状態が続く。

 

先ほどまで敵対していたもの同士、戦いも終わりただ船を待つだけの時間。会話が生まれないのも無理はない。

 

その静寂を破ったのは、夾竹桃からだった。

 

「・・・ねえ、なんで私を助けたの?」

 

死にかけの敵を救う。夾竹桃には理解できないあかりの行動。

 

その真意を夾竹桃はあかりに尋ねる。

 

「・・・・・・」

 

あかりは夾竹桃の言葉を無視するように顔も動かさず、黙っていたが、

 

「・・・アリア先輩と志乃ちゃんと約束したから」

 

と一言だけ返すのだった。

 

それ以降は再び沈黙が続き、5分程経った頃だろうか、1台の小型ボートがライトを照らして近付いて来るのが見えた。

 

武偵高の仲間なのだろうか。あかりが立ち上がり、手を振ってここにいることをアピールしている。

 

しかし、少ししてあかりは手を振るのを止めて再び座り込んだ。

 

どうやら、たまたま近くを通りかかっていたボートらしい。

 

2人の目の前を通り過ぎようとするボートをなんとなく眺めていると、突如として左肩に衝撃が走った。

 

「───っ!?」

 

「夾竹桃!?」

 

余りにも一瞬の出来事すぎて何が起きたのか全然理解できなかった。

 

ただ分かるのは、鷹捲の影響であまり満足に動かせない体の状態で、左肩にダメージを負ったこと。そして、その衝撃で体勢が崩れたということ。

 

あかりの驚きに満ちた顔と()()()()()()()()()()()()()()()の姿を目に映し、再び海へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

「───その後は、また間宮あかりに助けられて、彼女の呼んだボートに乗って武偵高に連れてかれたわ」

 

煙を吹きようやく回想話を終えた夾竹桃は本来の要件を持ち出す。

 

「私があなたを呼んだのは、この狐の面をつけた人物のことを伝えたかったからよ」

 

「いったい、その狐の面をつけた奴は何者なんだ」

 

「『イ・ウー執行部隊』って知ってる?」

 

「いや、聞いたことない」

 

イ・ウー在籍期間1年の透には聞き覚えのない部隊名であった。

 

「活動目的や執行内容は不明。イ・ウーに所属する人間がメンバー同士以外の戦闘───つまり、外部の人間と戦い、敗北した場合、『執行』されるそうよ」

 

「つまり、狐面はその『執行部隊』の人間で、お前はあかりに捕まったから『執行』されたってことか?」

 

「ええ、理子もその狐の面に襲われたそうよ」

 

「理子と連絡を取ったのか! 理子は無事なのか!?」

 

音信不通となっており所在が掴めなかった理子。

 

その名前を意外なところで聞き、思わず透は取り乱してしまう。

 

「彼女のことになると本当に必死ね。少しは落ち着きなさい」

 

夾竹桃は、その透の過剰な反応が面白かったのか嘲笑(ちょうしょう)するように口角を上げる。

 

「理子は無事よ。ただし、本人の希望であなたに居場所は教えられないわ」

 

「そうか・・・無事だったのか」

 

無事・・・その一言が聞けただけでも一安心だ。

 

居場所も気になりはするが、理子なりの考えがあるのだろう。余計な詮索はしないでおくことにする。

 

「理子の話によると、狐の面は女で武器は弓矢だったそうよ。その腕前は薄暗くて台風の日だったのにも関わらず、二丁拳銃の銃口を正確に射ぬくほど。威力は私たちの肩を()()()()()ほどよ」

 

夾竹桃は煙管を口に咥えたまま、患者服のボタンを外していき、包帯が巻かれた左肩を露出させる。

 

「医者には骨も血管もほとんど傷がついてないって。運が良かったと言われたわ」

 

でも、と夾竹桃は不気味な笑みを浮かべる。

 

「本当に()()()()()()のかしら?」

 

「・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って言うのか?」

 

理子を襲った時は周りは薄暗く、強風が吹き荒れていた。

 

夾竹桃の時は、光があまり当たらない東京湾の上。波で揺れる不安定なボートの上。

 

どちらも弓使いには不利な環境で、()()()致命傷を与えない腕前。

 

いくらなんでも化け物じみている。

 

「あなたたち今度はジャンヌを捕まえるつもりでしょう? もし、万が一にも逮捕したら守ってほしいのよ」

 

夾竹桃は患者服を着直して、再び煙管を吸い始める。

 

「意外だな。お前の口から誰かを守れなんて聞くとは思わなかったぞ」

 

「彼女たちのことは結構気に入ってるのよ」

 

透もイ・ウーにいた時、3人が一緒にいるところを何度か見かけた事がある。

 

夾竹桃の描くマンガの手伝いをしたりもしていたし、仲が良いのだろう。

 

「報酬は?」

 

だが、当然タダで引き受ける透ではない。

 

「報酬?」

 

「こっちも慈善事業じゃない。俺がジャンヌを守るメリットを提示しろ」

 

「ただのお人好しだと思ってたけど、意外と抜け目がないのね」

 

夾竹桃は煙管を口に当てたまま長考を始めた。

 

「そうね・・・」

 

何か案が浮かんだのか、ボソッと一言呟き、

 

「あなたの知らない『平正義(たいらまさよし)』について話してあげるわ」

 

煙を一気に吐き出した。

 

「な・・・」

 

透は自分の父親の名前が挙がった事に驚き、戸惑い、一瞬言葉を失う。

 

「お前・・・親父のこと知ってるのか? なんでお前が・・・?」

 

「話は以上よ。知りたければ私の依頼をこなしてちょうだい」

 

話を切り上げた夾竹桃は、透を置いて屋上から去っていってしまう。

 

狐面の女。

 

夾竹桃だけが知っているという父親のこと。

 

様々な謎と共に透はその場に取り残されるのだった。

 




~病室に戻ってから~


透「・・・それで、結局お前が入院していた理由はその肩のケガが原因だったのか」

夾竹桃「違うわよ。言ったでしょ。骨も血管もほとんど傷がついてないって。わざわざ病院で治療する程のものでもないわ」

透「じゃあ、どうしているんだ」

夾竹桃「ここにはベッドもテーブルもある。出歩けば医者や看護師、患者の会話も聞こえてくる。意外なネタが転がっていて作業できる場所なんて、他にそうそうないわ」

透「は?」

夾竹桃「そうでなければ自分に毒を盛って、医者に治療させてまで、こんなところに居座らないわ」

透「・・・はた迷惑な患者だな」

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