緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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キンジのピンチに颯爽と駆けつけた透ですが、果たしてどうなることやら。


第44弾です。




第44弾~救出~

「平透・・・夾竹桃と密会していたから、イ・ウーに戻ってくる話でもしていると思っていたのだがな・・・」

 

どこからともなく聞こえる姿なき女の声。

 

「俺はイ・ウーに戻るつもりはない。それは抜ける時にも言ったはずだ」

 

透はその声を聞きながら、キンジに張り付いている氷を『鎌鼬』で刺して砕いていく。

 

「離反は許されない。ついでだ。今日ここでお前も殺していく」

 

「俺の記憶が確かなら、お前が俺に()()()()()()()()()()()()()()

 

ふんっ、と鼻で笑う声がしてから。

 

シャシャッ! と、火薬棚の隙間から、透めがけて銃剣が2本飛来した。

 

透は、ぎぎんっ!と、『鎌鼬』で軽く弾く。

 

「何本でも投げて来い。それで俺を殺せると思うならな」

 

透が『鎌鼬』を肩に当て、余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で敵を(あお)ってみると───

 

がちゃん・・・と、どこかの扉が閉まる音がした。

 

「・・・まあ、さすがに乗ってこないか」

 

透はクルッと振り返り、キンジのそばに突き立っていた銃剣を抜き投げ捨てると、ざくざく、と氷剥がしの続きを始める。

 

「お、おい。さっきの・・・魔剣(デュランダル)の事をジャンヌ・ダルクって言ったり、お前に一度も勝てたことはないって言ったり、どういう事なんだ? それにこの氷も───」

 

「会話を聞いていたならそのままの意味として受け取ってくれ。後、その氷は()()()だ」

 

矢継ぎ早に飛んでくる質問を遮り、透は簡潔に答える。

 

「ありえねえ・・・」

 

「ありえなくない。武偵高にだって超能力捜査研究科(SSR)があるだろ」

 

「そりゃあ・・・知ってるけど・・・」

 

頭では理解しているつもりでも、本物の超能力を目の当たりにしてしまい、実際には理解が追いついていないのだろう。

 

ようやく身動きが取れるようになったキンジは、不満そうな顔をしながら立ち上がる。

 

「・・・ていうか、お前、途中でいなくなってから、今まで何やってたんだ」

 

「それも話すと長くなるから簡単に言うが、わざとお前だけにボディーガードを任せて、ジャンヌが姿を見せるのを待っていたというところだ」

 

「俺達を(おとり)にしたってことか!?」

 

「文句を言うなら作戦発案者のアリアに言ってくれ。まあ、お前が文句を言える立場だったらの話だがな」

 

透のその言葉に、キンジは何も言わなかった。

 

2人が離れた原因はそもそも自分にあるわけだし、危険なやり口ではあったものの、結果だけ見れば、透に助けられたからだろう。

 

「透! キンジ!」

 

新宿にいて遅れていたアリアが、2人の元へと駆け寄って来る。

 

「白雪と魔剣(デュランダル)は?」

 

「これから確認しに行くところだ。ジャンヌは一旦、逃げた」

 

「距離を置いて、あたしたちの戦力を分断させるつもりね」

 

「恐らくな。だが、まずは会長の解放が優先だ」

 

透は白雪の様子を見に行こうと歩き出し、すぐにその足を止めた。

 

そして、『鎌鼬』を突き出し、()()()()()

 

「・・・どうした」

 

「ピアノ線・・・正確には、TNK(ツイストナノケブラー)ワイヤー。俺の首の高さにあった」

 

周囲を確認した透は、もう一度、『鎌鼬』でぷつんと切る。

 

「これはお前の首の高さだ。真っ直ぐ走れば頸動脈を切れるように、斜線に張ってある。投げナイフで仕留められなければこれで()るつもりだったんだろ」

 

「よ、用心深いヤツだ・・・白雪を(さら)おうとしつつ、トラップを仕掛けるなんて・・・!」

 

「とりあえずは大丈夫だが、この先ワイヤー以外にもあるかもしれない。注意して進もう」

 

 

 

倉庫の壁際にいた白雪は、立ったまま鎖で縛られていた。

 

口を布で縛られ、んーんー! とノドで鳴らしている。

 

キンジが布を外してやると、

 

「キンちゃん大丈夫!? ケガしなかった!?」

 

自分の事はさておきキンジの心配をしてくる。

 

「俺は大丈夫だ。お前こそ・・・」

 

と言いながらキンジは、白雪の胸の下に巻き付いた鎖を手に取る。

 

鎖は1つ1つの()が巨大で分厚く、壁際を伝う鋼鉄のパイプに繋がれていた。

 

錠前は置時計のように巨大な『ドラム錠』と呼ばれるシロモノで、3箇所もロックされている難物である。

 

「キンちゃん・・・ごめんなさい・・・私、ここにこの服で、誰にも内緒で来ないと・・・学園島を爆破して、キンちゃんの事も殺すって言われて・・・」

 

「いつから言われてたんだ」

 

「昨日・・・キンちゃんが線香花火を買いにいってくれた時に、脅迫メールが来て・・・私、キンちゃんが傷つけられるのが怖くて・・・従うしか、なくて・・・ふぇ・・・ぇ・・・っ」

 

「いいから、今は。泣くな」

 

見落としてしまっていた。

 

昨日も問題なく1日が終わった。そう思っていたが、裏でジャンヌは白雪と接触していたのだ。

 

「アリアも・・・ごめんね。私、アリアにあんなヒドイことばっかりしてたのに・・・助けにきてくれたんだね・・・」

 

白雪に言われたアリアは、「え」と少し赤くなる。

 

「あっ、あたしは・・・依頼を引き受けたからあんたを守ってるだけ。あたしの本当の目的は魔剣(デュランダル)を捕まえることだけなのっ。だから感謝なんてしなくていい」

 

と言いつつも、鎖を引っ張り白雪を解放しようとするアリア。

 

「平川君も・・・ごめんなさい。私、あの後もずっと平川君の事疑ってた。キンちゃんを傷付けるんじゃないかって・・・」

 

あの後・・・とは、『妖気』の誤解を解いた時の事だろう。

 

あの時、白雪の表情は納得していなかった。

 

「・・・いや、謝るのは俺の方だ。さっきの会話を聞いてたならもう分かっていると思うが、俺は元々()()()()()()()だ。だから魔剣(デュランダル)がいる事も、会長が狙われている事も分かっていたのに黙っていた」

 

「元々はそうでも、平川君はキンちゃんを助けてくれた。今は・・・キンちゃんの味方なんだよね?」

 

「ああ、そうだ」

 

どこまでも気にしているのはキンジの事ばかり。

 

透がイ・ウーにいたこともキンジに害がなければ白雪にとってはどうでも良い事なのだろう。

 

そんな白雪の性格に助けられた透は、武偵手帳から解錠(バンプ)キーを取り出し解錠にかかる。

 

しかし、かなり複雑に出来ておりなかなか開ける事ができない。

 

「透、お前の刀でこの鎖かパイプを斬れないか?」

 

錠が開けられないなら、とキンジが白雪を縛る鎖とパイプをどうにかできないか訊いてくるが、

 

「・・・いや、無意味に刀を傷付けるだけだ」

 

透の答えはNOである。

 

鋼鉄製でかなりの太さである鎖とパイプ。直接斬ろうものならば、『鎌鼬』の刀身を傷《いた》めるだけの結果になるのは目に見えている。

 

それならば、遠距離で『鎌鼬』を飛ばせばとも考えられるが、鎖を狙えば密着する白雪も一緒に傷付けてしまい、パイプを切断しようとするならば同じ箇所を正確に、何連発しなければならないのかも分からない。

 

そうなっては透の『精気』が吸われてまともに動けなくなる可能性が高い。背に腹はかえられない状態になったらやるしかないのだろうが。

 

「そうか」

 

どこか鎖の継ぎ目の弱そうな所はないかと調べ始めたキンジの邪魔をするように、

 

ズズン!───

 

と、くぐもった音が地下倉庫に響き渡った。

 

周囲を見回すと排水穴から、ごぽごぽと水が溢れ出ていた。

 

水量はみるみるうちに勢いを増し、1分も経たずにまるで噴水のようになった。

 

透たちの足元に、その水が広がっていく。

 

「・・・海水だわ」

 

「ああ。どこかの排水系を壊しやがったな」

 

靴から足首へ。足首から脛へ。

 

水位はどんどん増していく。

 

この勢いでは、いくら体育館のように広い大倉庫と言えども、水没まで10分、といったところだろう。

 

「考えている暇はないな・・・」

 

呟いた透は、急いで解錠の続きに取りかかる。

 

「アリア、キンジ。お前たちは先に上へ行け」

 

「お前はどうする気なんだよ」

 

「そうよ。あんたたちを置いて逃げるなんてできない!」

 

「アリア、お前泳げないだろ。水没するまでに余裕を持って会長を解放できるのか?」

 

「そ、それは・・・」

 

自らの弱点を白雪の前でカミングアウトされてしまったアリアは赤面しながらたじろぐ。

 

だが、言い放った透自身も10分足らずの時間で複雑な構造の3つの鍵を開ける事ができる確証はなかった。

 

万が一の場合、『鎌鼬』を使用すると判断した結果、3人の中で白雪を助けられる可能性が高いのが透だと言うだけの話なのである。

 

「待ってくれ。それならここは俺が残る」

 

「他に良い案でもあるのか?」

 

その状況の中、名乗りを上げたキンジの話に透は、手は止めずに耳を傾ける。

 

「透、お前は魔剣(デュランダル)と戦って負けた事がないんだろ。それならアリアと一緒に上へ行って鍵を奪ってきてくれ」

 

「もし、鍵がなかったり捨てられていたら? 鍵があったとしても、俺達が間に合わなかったらどうするつもりだ」

 

「それでも、ここで無闇に鎖を取ろうとするよりは可能性が高い。戦闘力の高いお前達が魔剣(デュランダル)から奪ってきてくれるのが一番最善なんだ」

 

一番の最善策は白雪を見捨てて、3人が助かること。

 

だが、そんな事は口が裂けても言えないし行動に移したくもない。

 

そう考えると、確かに現状ではキンジの案が一番良く思える。

 

「・・・分かった。アリア、俺達で上へ行こう」

 

もう他に案もない。考えている余裕もない。

 

そう感じた透は作業の手を止め、解錠キーをキンジに手渡した。

 

「で、でもっ」

 

「水位を見ろ。今は時間が惜しい」

 

アリアは白雪を心配そうに見つめていたが、透に言われ視線を下に移すと、水は膝まで上がってきていた。

 

「・・・分かったわ。でも、ダメだと思ったら絶対、あたしたちを呼ぶのよ!?」

 

アリアはキンジに解錠キーを手渡すと素早くハシゴを伝って上階へと上がっていった。

 

(・・・いざとなったら『HSS』になるよな?)

 

不安は残るものの、キンジには『HSS』という奥の手がある。

 

本当にどうしようもない場合は、『HSS』になってでも白雪を助けるはずだ。

 

そうなれば、きっと鎖の錠もどうにかなる。

 

透はその可能性を信じて、アリアの後を追いかけるのであった。

 





序盤でジャンヌにマウントを取っていた透君ですが、まさかの水責めのピンチに陥りましたね。

まあ、あくまで同じ土俵で正面戦闘の場合での発言でしょうから、ジャンヌのフィールドに持ち込まれたら、結構ヤバいと思います。


次回は最近のペースだとまた2週間前後でしょうか?
あまりアテにしないでお待ち頂けると幸いです。
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