緋弾のアリア~灰色の武偵~   作:ソニ

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今回は頑張ってちょっと早めの更新。
文字量も平均より多くなってしまいました。


第45弾です。




第45弾~決戦~

「かくれんぼはそろそろ終わりにしてくれると助かるんだがな」

 

大型コンピューターが衝立(ついたて)のように並ぶこの階は、まるで迷路だった。

 

火薬棚と違い隙間から飛び道具で狙われる危険性はないが、どこに誰がいるのか分からない。

 

なので、透もジャンヌを誘き寄せるようにあえて声を出しながら移動しているのだが、当然反応はない。

 

(そろそろ下も限界のはずだ・・・)

 

携帯で時間を確認し、透は来た道を引き返す。

 

その直後だった。

 

「──ぁっ──!」

 

「・・・おおおっ───!」

 

2人の男女の声が聞こえた。

 

恐らく白雪とキンジだろう。

 

早く確認するためにも、足音を殺しつつ駆ける。

 

2つ、3つ───警戒しながら曲がった電脳の壁の脇で。

 

「アリア、キンジ」

 

別れてジャンヌを捜索していたアリアと階下から上がってきたキンジと鉢合わせした。

 

「よかった、無事だったのね・・・」

 

2人を残して、先に上がっていたアリアは本当に心配していたようで、キンジの姿を見て胸を撫で下ろしていた。

 

「可愛いアリアを残して、先に死ぬ訳にはいかないよ」

 

「な、なによそれっ」

 

そのキンジの言動で透は確信した。

 

キンジは『HSS』になって白雪を救出している。

 

「それより───魔剣(デュランダル)は?」

 

「すまない。まだ見つかっていない」

 

「あの臆病者、あたしたちと戦うつもりがないみたいだわ」

 

「そうか」

 

「でも、この部屋のどこかにいるのは確かよ。上に続く扉の鍵はみんな壊されてたし、エレベーターの扉も鉄板で塞がれてた。ぜんぶ内側から、ね」

 

と、アリアは気を取り直して説明をする。

 

「ねえ、さっき声が聞こえたけど・・・白雪は救出できたのね? ケガとか、しなかったのね?」

 

「ああ。だが、ここで見失ってしまったんだ。戦力を分散させたまま各個撃破されては、敵の策通りになる。まずは白雪と合流───」

 

とキンジが言った時、

 

───けほっ、けほっ

 

という、(かす)かな咳の音が聞こえた。

 

「白雪だわ。あっちにいる」

 

その小さな音にいち早く反応したアリアが、くるっ、と振り向いた。

 

「行こう。だが、どこから魔剣(デュランダル)が襲ってくるか分からない。アリア、盾にならせてくれ」

 

と、キンジはアリアとすれ違うように一歩先へ出てから、通路を進み始めた。

 

「ねえ、透。()()()()()って・・・」

 

アリアの言わんとする事は分かる。

 

「ああ。()()()()な」

 

ヒステリアモード・・・とは、勝手に言う訳にもいかないので、透はアリアの言葉を借りて、キンジの状態に同意した。

 

 

 

 

 

白雪はすぐに見つかった。

 

この階の奥にある唯一の広い空間であるエレベーターホール。

 

そのそばの通路まで迷い込み、3m近い高さのコンピューターの陰にへたり込んでいた。

 

「・・・けほっ、けほっ・・・て、敵、は・・・?」

 

「姿が見えないわ。白雪、私たちから離れないで」

 

背中をさすってあげながら(かが)んだアリアに、白雪はこくりと頷く。

 

「キンちゃん・・・」

 

白雪は弱々しく半べそをかきつつ、甘えるような視線でキンジを見上げる。

 

「・・・唇、大丈夫か。さっきの」

 

「うん、大丈夫」

 

()()()()()()()。見せてみろ」

 

そのキンジの言葉に透は違和感を感じた。

 

今、キンジは目の前の白雪に対して『嘘』を言ったのだ。

 

「ううん。大したことなかったよ。()()()()()()()()()

 

そして、そのキンジの『嘘』に白雪も『嘘』で返してきた。

 

「アリア逃げろ!」

 

「ちっ」

 

キンジは叫び、透は舌打ちをしたのと同時に2人は白雪目掛けて()()した。

 

しかし、白雪もそれは予想済みだったらしく、小袖(こそで)で銃弾を()らした。

 

「キンジ!? 透!?」

 

驚くアリアの側面に、白雪が目にも止まらぬ速さで回り込む。

 

キンジはベレッタを瞬時にフルオートに切り替えて応射し、それをいなした白雪に透は飛び出し、距離を詰めようとする。

 

しかし、後一歩の所でその足は止まる。

 

白雪はアリアの背後に回り込み、コンピューターラックの下に隠してあった刀を取ると、アリアの体を盾にしてきたのだ。

 

アリアは状況を頭では理解できないまま、しかし動物的な本能で危険を察したらしく、反射的に両手で銃を抜き、白雪に振り返ろうとした。

 

「うっ!?」

 

アリアの首を白雪が背後から左腕で締め上げ、日本刀を首筋───頸動脈に当てている。

 

「しら・・・ゆき! 何よ! どう、したの!」

 

(わめ)くアリアの、拳銃を握ったままの右拳に、白雪は、フッ、と息を吹きかけた。

 

「うあっ!」

 

アリアは焼きごてでもあてられたかのようにのけ反り、ガバメントから手を放し、落としてしまった。

 

落ちた銀色の拳銃の周囲が、ぱき・・・ぱきっ、と氷に包まれていく。

 

「ま、まさか・・・あ、んた・・・!」

 

アリアがその白雪の正体を口に出そうとすると、今度は左手にも息を吹きかけられてしまう。

 

「きゃあっ!?」

 

再びのけ反ったアリアは漆黒のガバメントも放し、両手を胸の前に寄せた。

 

(ただ)の人間ごときが」

 

もう白雪のものではない、声。

 

超能力(ステルス)に抗おうとはな。愚かしいものよ」

 

先ほどのキンジと白雪との応答。

 

()()()()()ならキンジの『嘘』を否定するように『真実』を答えられたはずだ。

 

しかし、この白雪は『嘘』に対して『嘘』で返した。

 

それは、つまり『真実』を知らない()()だという意味。

 

「・・・魔剣(デュランダル)・・・!」

 

アリアは、凍らされた手の痛みに震えながら、偽白雪の正体を口にする。

 

「私をその名で呼ぶな。人に付けられた名前は好きではない」

 

「あんた・・・あたしの名前に、覚えがあるでしょう! あたしは神崎・ホームズ・アリア! ママに着せた冤罪、107年分はあんたの罪よ! あんたが、償うのよ!」

 

「この状況で言うことか?」

 

フンッ、とジャンヌが囚われのアリアを嘲笑う。

 

「それに、お前の名───たかだか150年ほどの歴史で名前を誇るのは無様だぞ。私の名はお前より(はる)かに長い───600年にも及ぶ、光の歴史を誇るのだしな」

 

「透から聞いたわよ! あんたジャンヌ・ダルク30世なんでしょ!」

 

「そうだ。私は30代目───ジャンヌ・ダルク。お前たちも知っての通り、我が始祖は危うく火に処せられるところだったものでな。その後、()()()を代々探究してきたのだ」

 

ジャンヌの手がアリアの太ももに伸びると、またアリアが激痛に体をねじった。

 

「きゃうっ!」

 

見れば、その小さな膝小僧に氷が張り付いている。

 

「透。お前は武器を全て床に置いて、少しずつ距離を取れ」

 

「・・・わかった」

 

透は『鎌鼬』とマグナムを床に置くと一歩一歩ゆっくりと後ろへ下がっていく。

 

「そこで止まれ。透、遠山。それ以上動けばアリアが凍る。アリアも動くな。動けば、動いた場所を凍らせる」

 

「キンジ・・・撃ち、なさい・・・!」

 

「喋ったな、アリア? 口を動かした。悪い舌はいらないな」

 

ぐい、と刀を持つ手でアリアの顎を強引に押さえたジャンヌは、アリアの口に、自らの唇を寄せていく。

 

「やめろっ!」

 

キンジは叫ぶが手も足も出ない。

 

『HSS』のキンジは女性の身の安全を最優先にしてしまう。

 

アリアを人質に取られている以上、絶対に動けない。

 

「ちっ」

 

もう、自分が動いても動かなくても凍らされてしまう。そう考え、透が駆け出そうとした瞬間────

 

「───アリア!」

 

室内に響いた勇敢で、力強い声。

 

ジャンヌの背後、3mはあるコンピューターの上から分銅つきの鎖が伸び───アリアの顎を押さえる際に緩められた右手───その、刀の(つば)に巻き付いていた。

 

アリアの首筋に突きつけられていた刃は、ぐいっ、と引っ張られて離される。

 

「───!?」

 

白雪の顔のまま眉を寄せたジャンヌが見上げたコンピューターの上には───

 

「キンちゃん、アリアを助けて!」

 

()()()、白雪がいた。

 

白雪は鎖を引き上げ、ジャンヌの手から刀を取り上げた。

 

白雪はそのまま飛び降り、アリアとジャンヌの間に割り込むようにしながら刀を斬り下ろす。

 

ジャンヌはそれに対応した。防刃巫女服を(ひるがえ)し、刃を小袖でつかみ取ろうとする。

 

その動作を、放されたアリアが妨害した。

 

離れ際に、まだ無事だった片脚でジャンヌの膝へカンガルーキックを叩き込んだ。

 

ジャンヌは大きくバランスを崩し、後退せざるを得ない。

 

アリアは蹴りの反動を利用し、転がりながらキンジの前まで戻り、片膝立ちの姿勢になる。

 

そのアリアを守るように、白雪が立つ。

 

遅れて武器を回収した透も合流する。

 

「白雪───貴様が、命を捨ててまでアリアを助けるとはな」

 

ジャンヌは緋袴(ひはかま)の裾から、筒のような何かを落とした。

 

筒から、白い煙がみるみるうちに広がっていく。

 

発煙筒の煙を感知した天井のスプリンクラーが、次々に水を()き始める。

 

「ごめんねキンちゃん。いま、やっつけられると思ったんだけど・・・逃がしちゃったよ」

 

「上出来だよ、さすが白雪だ。アリア大丈夫か」

 

「や・・・やられたわ。魔剣(デュランダル)は他人に変装できるって知ってたのに・・・」

 

屈んだままのアリアは、ぐっ、ぱっ、ぐっ、ぱっ、と手をむすんでひらいてしている。

 

その握力は見るからに弱まっていた。戦闘は、もうできないだろう。

 

「白雪───2つ、思い出してくれないか」

 

「はい」

 

「アリアのロッカーにピアノ線を仕掛けた覚えはあるか?」

 

「ロッカー・・・? そんなこと誓ってしてないよ」

 

「あともう1つ。白雪はこの間、花占いしてるところを不知火に見られたか?」

 

「え、あ、うん・・・」

 

白雪は少し恥ずかしそうに答える。

 

「・・・透、すまない。全部お前の言ってた通りだ」

 

先日、屋上で透が話した事全てが合っていたとあり、キンジはばつが悪そうに謝罪をした。

 

「・・・謝る相手は他にいるんじゃないのか?」

 

「そう・・・だな。アリア、この間はすまなかった。アリアの事を信じていれば白雪が(さら)われる事もアリアがこうやって傷付く事もなかったかもしれない」

 

透が怒った理由は、パートナーであるアリアを信じなかったから。

 

それに気付いたであろうキンジは、本当に謝罪すべき相手に頭を下げる。

 

「あ、謝るならあたしじゃなくて透に謝りなさい!」

 

キンジに面と向かって謝られたのが恥ずかしかったのか、アリアはお得意の赤面を発動させて犬歯を剥き出しにする。

 

魔剣(デュランダル)! この卑怯者! いつまでも隠れてないで出てきなさい!」

 

そして、それを誤魔化す為か、ジャンヌを挑発するように叫んだ。

 

「その名で呼ぶなと言ったはずだ」

 

煙の向こう、だいぶ離れた所───エレベーターホールの辺りから声が返ってきた。

 

透たちはそちらに向き直りつつ気付く。

 

スプリンクラーから撒かれる水が空中で氷の結晶となり、雪のように舞っている。

 

ダイヤモンドダストという現象である。

 

「キンちゃん、平川君・・・アリアを守ってあげて。アリアは、しばらく戦えない」

 

刀を右手に持ったまま、白雪が退()がってきて、アリアの右手を左手でそっと包んだ。

 

「魔女の氷は、毒のようなもの。それをキレイにできるのは修道女(シスター)か巫女だけ。でもこの氷はG(グレード)6からG(グレード)8ぐらいの強い氷。私の力で治癒しても、元に戻るまで・・・5分はかかると思う。だからその間、2人が守ってあげて。敵は、私が1人で倒すよ」

 

「何を言うんだ白雪。お前を1人で戦わせるなんてできない」

 

「アリアを守るのは1人でも十分だ。敵は2人がかりで仕留めるべきだ」

 

「キンちゃん・・・そう言ってくれるの、うれしいよ。平川君もありがとう。でも今だけ、ここは超偵(ちょうてい)の私に任せて。アリア、これ、すごく・・・しみると思う。でもそれで良くなるから。我慢して」

 

言うと白雪は、小さく、何か呪文のようなものを呟いた。

 

「・・・・・・あっ・・・・・・! んくっ・・・!」

 

白雪の治療に痛みが伴うらしく、しかしアリアは敵に見つからないように声を殺した。

 

アリアの治療を終えると、白雪は小袖からロウ紙のようなものを出した。

 

それを壁のようなコンピューターに貼り付けると周囲が今度は暖かくなってくる。

 

「白雪・・・」

 

キンジは少しアリアに寄って退()がった。

 

それを見た透も一歩後ろへ退いた。

 

ここはひとまず白雪に任せる。

 

キンジはそう決めたのだろう。

 

「ジャンヌ」

 

2人の動きを見て、白雪は入れ替わりに敵の方へ一歩出て、透たちに背を向けた。

 

「もう・・・やめよう。私は誰も傷付けたくないの。たとえそれが、あなたであっても」

 

ハッキリと伝えた白雪に、フン、という笑い声が煙の向こうから聞こえてくる。

 

「笑わせるな。原石に過ぎぬお前が、イ・ウーで研磨された私を傷付けることはできん」

 

「私はG17の超能力者(ステルス)なんだよ」

 

という白雪の言葉に、今度は笑い声が返ってこない。

 

「───ブラフだ。G17など、この世に数人しかいない」

 

「あなたも感じるはずだよ。星伽には禁じられてるけど・・・この封じ布を、(ほど)いた時に」

 

「・・・仮に、真実であったとしてもだ。お前は星伽を裏切れない。それがどういうことを意味するか、分かっているならな」

 

「ジャンヌ────策士、策に溺れたね」

 

白雪の声が強まる

 

「それは今までの普段の私。でも今の私は、私に星伽のどんな制約(おきて)だって破らせる───たった1つの存在のそばにいる。その気持ちの強さまでは、あなたは見抜けなかった」

 

白雪の言葉に、ジャンヌは黙った。

 

策を(ろう)するタイプは、予想外の展開に弱い。

 

そして今、ジャンヌの計画には誤算が生じているのだ。

 

室温は既に常温にまで戻っている。

 

発煙筒の煙も消え、スプリンクラーが1つ、また1つと止まっていく。

 

「───やってみろ。直接対決の可能性も想定済みだ。Gの高い超偵はその分、精神力を早く失う。持ちこたえれば私の勝ちだ」

 

意を決したように言ったジャンヌの姿が、晴れていく煙の向こうから姿を現す。

 

緋袴と白小袖を脱ぎ捨てた下には、部分的に身体を(おお)う西洋の甲冑(かっちゅう)

 

「リュパン4世による動きにくい変装も、終わりだ」

 

べりべりっ、と、被っていた薄いマスクを剥いだその顔────

 

刃のような切れ長の眼は、サファイアの色。

 

2本の三つ編みをつむじの辺りに上げて結った髪は、氷のような銀色。

 

まさに西洋の歴史映画に出てきそうな美しい白人である。

 

「キンちゃん、ここからは・・・私を、見ないで」

 

白雪は、キンジに背を向けたまま震える声で言った。

 

「・・・白雪・・・?」

 

「これから───私、星伽に禁じられてる技を使う。でも、それを見たらキンちゃんは私のこと・・・怖くなる。()()()()()って思う。キライに・・・なっちゃう」

 

言いながら、白雪は頭にいつもかけていた白いリボンに手をかける。

 

「白雪───安心しろ。ありえない事は1つしかない」

 

キンジは半歩だけ退き、アリアを守る位置に立った。

 

「俺がお前の事をキライになる。()()()()()()()()()()

 

キンジの声に押されるようにして。

 

白雪は無理に微笑んだ顔を半分だけ振り返らせながら、その髪に留めていた白いリボンを解いた。

 

「すぐ、戻ってくるからね」

 

そして、刀を構え直す。

 

柄頭(つかがしら)のギリギリ先端を右手だけで握り、刀の腹を見せるように横倒しにして、頭上に構えている。

 

その奇怪な構えは、透も見たことのないものだった。

 

「ジャンヌ。もう、あなたを逃がすことはできなくなった」

 

「───?」

 

「星伽の巫女がその身に秘める、禁制鬼道(きんせいきどう)を見るからだよ。私たちも、あなたたちと同じように始祖の力と名をずっと継いできた。アリアは150年。あなたは600年。そして私たちは・・・およそ2000年もの、永い時を・・・」

 

くッ──と、白雪がその手に力を込めると、刀の先端に、ゆらっ───と、緋色の光が(とも)る。

 

それがみるみるうちに、刀身全体へと広がった。

 

室内を明るく照らしあげたそれは、(ほのお)

 

これこそが白雪の超能力。

 

「『白雪』っていうのは、真の名前を隠す伏せ名。私の(いみな)、本当の名前は緋色の巫女────『緋巫女(ひみこ)』」

 

白雪は床を蹴って、火矢のようにジャンヌに迫った。

 

白雪の術に一瞬目を奪われていたジャンヌはその場に低く屈むと、背後に隠していた華麗な洋剣で、その渾身の一撃を受け止めた。

 

2本の刀剣が(しのぎ)を削り、さっ、といなされた白雪の刀が、(かたわ)らのコンピューターを音も立てずに切断した。

 

ざっ、と、ジャンヌは白雪から距離を取る。

 

「炎・・・!」

 

その表情には僅かな怯えの色があった。

 

そう、ジャンヌは炎が怖いのだ。

 

ジャンヌの一族は、初代が火炙りになりかけてから超能力を開発し始めた。

 

その時の恐怖心から氷の秘術を研究してきたのだろう。

 

「いまのは星伽候天流(ほとぎそうてんりゅう)の初弾、緋炫毘(ヒノカガビ)。次は緋火虞鎚(ヒノカグツチ)────その剣を、斬ります」

 

白雪は再び、緋色に燃え盛る刀を頭上に(かか)げる。

 

「それで、おしまい。このイロカネアヤメに斬れないものはないもの」

 

「それはこっちのセリフだ。聖剣デュランダルに、斬れぬものはない」

 

対峙するジャンヌが、勇気を振り絞るように胸の前に掲げた幅広の剣は、古めかしい、しかし、手入れの行き届いた壮麗な洋風の大剣(クレイモア)

 

ギンッ! ギギンッ!

 

2人の刀剣は何度かぶつかり合って、激しい音を上げる。

 

白雪の刀、ジャンヌの剣が(かす)めた室内の物は全てが冗談のように切断されていく。

 

しかし、斬れないものがないと(うた)ったお互いの刀剣だけは、何度斬り結んでも傷1つつかずにいる。

 

「これが一流の超偵の戦い・・・なのね・・・!」

 

「アリア」

 

キンジは屈んで、(ささや)いた。

 

「動けそうか」

 

「もう・・・大丈夫そう。でも銃が床に凍り付いてるし、剥がしても使えない。あたしの銃は寒冷地仕様じゃないの。完全分解して整備しないと多分生き返らないわ」

 

アリアは悔しそうに氷漬けのガバメントを見下ろす。

 

「作戦を立てよう」

 

キンジがそう言ったので、透も屈み作戦会議に参加する。

 

「───どこかで白雪に加勢したいが、タイミングを間違えれば白雪の足を引っ張ることになる。透、魔剣(デュランダル)に何か弱点や付け入る隙とかはないか」

 

「ジャンヌに限らず超能力者全般的に言える事だが、力を使えば使うほど、精神力を削られていく。超能力は無限じゃない。ましてや、相手は超偵の会長だ。見たところ常に全力を出し続けているから・・・いずれガス欠を起こす」

 

「その瞬間がチャンスって事か。そのタイミングは分かるか」

 

「それに関しては俺よりもアリアの方が得意だと思う」

 

アリアはこれまでに何人も超能力者を逮捕してきている。

 

その経験と天性のカンを持つアリアの方がタイミングを測るのは最適の人物である。

 

「アリア、いけるか」

 

「・・・経験則で、多分ね。半分はカンだけど───信じてくれる?」

 

アリアの声は、ほんの少し不安そうだった。

 

キンジが先日、『信じられるか!』と言ってしまったことが心の傷になっているのだろう。

 

「この間の俺は本当にバカだった。許してほしい。俺はアリアを───生涯、信じると誓うよ」

 

キンジは膝を伸ばし、アリアの頭を優しく撫でた。

 

「しょ、しょーがい?」

 

「たとえ世界中の誰もがアリアを信じなくなったって、俺だけは一生、アリアに味方する」

 

「・・・バ、バカキンジ・・・! あ、あんた・・・スーパーモードでもバカ・・・バカ・・・!」

 

「嬉しいのかい?」

 

「・・・・・・ちょ、ちょっと・・・ちょっと嬉しい。で、でもちょっとだからねっ!」

 

「アリアが嬉しいと、俺も嬉しいよ。じゃあ───アリアも、俺を信じてくれるか?」

 

「・・・う、うん」

 

こくり、とアリアは子供が大人を見るかのような視線でキンジに頷いた。

 

「俺たちは、信じあっている。だから自信を持って、攻撃のタイミングを教えて欲しい。魔剣(デュランダル)を逮捕するぞ」

 





~いらない豆知識~

アリアは150年
ジャンヌは600年
透は800年 ←
白雪は2000年


透は地味にジャンヌよりも永い歴史を継いでいます。
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